「あの………握手を……しましょう」
クーデリアは三日月に対して右手を差し出す。
「俺の手また汚れているよ」
「……私の手ももう汚れています。みんなの血とみんなの思いと………この手に私は誇りを持っています」
三日月は一瞬握手を戸惑うと、しかし最後にはクーデリアの手を握りしめる。クーデリアは小さくしかし、大きい手をしっかりと握りしめた。
オルガ達がブリッジでモンターク商会と話していた。
「………ところでモンターク商会さんよ。あんたの本当の名前はなんていうんだったか」
「モンタークで結構。それが真実の名ですので」
「は?」
「ではご武運を」
そういうとそのまま一方的に通信が切られてしまう。
ブリッジのドアが開く音が聞こえるとクーデリアが中に入ってきた。
「これまでの道のり、鉄華団でなければ到底たどり着けませんでした。本当にありがとうございました」
クーデリアは深々と頭を下げる。
「おいおい、まだここからが正念場だぜ」
(大きな手だった。あんなに小さな体なのにあんなに大きな手)
クーデリアは自らの手に残る三日月の感触を確かに確かめていた。
「今まで以上の苦難が待ち受けていると思いますが、どうか地球に私を送り届けてください。そこから先は私が皆さんを幸せにして見せます。約束します」
「ああ、そんときゃ頼むぜ、お嬢さん」
三日月たちの出撃準備が進んでいく中、アガレスの前で待機していたサブレの前にビスケットがパイロットスーツ姿で現れた。
サブレはそんなビスケットをジーっと見つめる。
「………何?何か変?」
「いや……兄さんの体に合うパイロットスーツがあるんだなって思って……」
「あるよ!」
サブレとビスケットがそんなやり取りをしていると、さらに通路の奥から昭弘とシノがやってきた。
「早いな二人とも」
「そうでもないよ。俺より早い奴がすぐ前に……」
指さす先には三日月がバルバトスの前で待機しているのを昭弘とシノが見つけると、肩をすくめる。
「さすが三日月だな」
「そういやぁ、ビスケットが次の戦闘では指揮をしてくれるんだろ?」
「え?俺?」
「ああ、俺たちが指揮をするより、そういうことが得意な奴がするべきだと思うしな。そういうの、俺たちよりビスケットの方が得意だろ?」
「まあ、みんながそういうなら……、やってみるよ」
「頼む、ビスケット。その代り、俺たちも全力でお前を守るさ」
「兄さんを守るのは俺の役目だよ」
サブレたちがそんなやり取りをしているとアトラが弁当をもってやってきた。
「みんなお弁当だよ。三日月の分もあるから!」
三日月はアトラの声を聴くとサブレたちのところまでやってくる。
「サンキュ!アトラ」
「ありがと、アトラ」
みんながお弁当を食べていると、アトラが話を切り出した。
「やっと地球だね。私も一緒に降りるからね」
「まあね。ビスケットとサブレのアガレスはシャトルの中に入れて出るんだっけ?」
「ああ、アガレスが鉄華団にあることはギャラルホルンはまだ知らないはずだし、緊急の場合はシャトルの護衛につけるから」
艦内にフミタンの放送が響く。
「シャトルの準備が整いました。シャトルで地球に降りる者は直ちに準備してください。アガレスはシャトルへの移動を開始してください」
「あ……時間だ。私行くね。三日月、地球で」
そういうとアトラはそのまま奥へと移動していく。
「俺たちもそろそろ行くね」
アガレスが出撃体制に入り、カタパルトに移動していく。
「発進どうぞ」
「ガンダムアガレス、サブレ・グリフォン、ビスケット・グリフォン出る!」
アガレスはそのまま外に出ると、イサリビの横で荷物の移送を行っているシャトルの中に先に入っていく。
「予定通り、アリアドネに補足されたぞ」
「順調順調」
「おう!お前ら準備はいいな!」
ユージンはブリッジの操縦席で立ち上がる。
「なんだよユージン」
「張り切ってんな」
「当たりめぇよ」
ユージンは少し前のシノとの会話を思い出していた。
MSデッキでユージンがシノの前で漂いため息をつく。
「こんな所でため息とか辛気くせぇんだよ!」
「だってよぉ。俺がしくじったら鉄華団全員お陀仏になんだぞ」
「お前時々抜けてっからよ。最悪失敗したって「ああ~ユージンじゃしゃねぇ」ってこっちも納得して死んでやんよ」
「ざけんじゃねぇぞ!」
ユージンはそんなシノの言葉に激しく怒鳴りつけた。
「怒んなよ。やたら気負ってるみてぇだからよ」
「あっ……こっちこそ悪ぃ。俺ずっと思ってたからよ。チャラついた自分捨ててガツッと男になりてぇって。それが今なんだよ。鉄華団全員の命を預かる……俺そういう存在に憧れていたからよぉ。失敗は絶対にできねぇんだ。だから……」
シノはそんなユージンの言葉を聞くと笑ってしまう。
「なんで笑う!?」
「悪ぃ……オルガにそんなに憧れていたとはつゆ知らず……」
「はあ!?今のがどうしてそこに結びつくんだよ!ったくてめぇは……」
シノはユージンの背中を強くけりつける。
「何済んだよ!」
「いいんじゃねぇの?かっこつけようぜお互いによ」
そんなシノの言葉にユージンはようやくブリッジで届かない声を張る。
「んなもん言われるまでもねぇ。いっちょかましてやろうぜ!」
「来ました。奴らです」
カルタ・イシューの乗る艦隊の眼前に鉄華団のイサリビが見えてきた。イサリビは停船信号に答えることなく進んでくる。
「停船信号に応答ありません」
「鉄槌を下してやりなさい。全艦隊に通達。砲撃用意!撃てぇい!」
艦隊の砲撃で目の前が見えなくなると、カルタはイサリビの撃沈を信じて疑わなかった。
「んん……手ごたえのない………」
余裕たっぷりと構えていると、オペレーターが焦りの声をあげる。
「エイハブ・ウェーブ増大!近づいてきます!エイハブ・ウェーブの反応が二つに!?」
「そんな!あいつら正気の沙汰か!?」
カルタはひたすら突っ込んでくる鉄華団に対し、驚きを隠せなかった。
イサリビはブルワーズから強奪した船を盾にして、イサリビをまっすぐ進んでいた。
「船を盾にだと!?なんと野蛮な。両翼の艦隊を前に出しなさい!鶴翼に構え撃沈する!撃てぇい!」
イサリビのブリッジではユージン達が必死になって操縦していた。
「このままじゃブルワーズの船だってもたねぇぞ」
「そしたら次は俺たちだ!もう仕掛けるしかねぇ!」
「まだだ!もっと突っ込ませんだよ!あいつに頼まれた仕事だぞ!チャド!前の船のコントロールもよこせ!」
「バカいうなって。阿頼耶識で船を二隻も制御するなんてできるわけが……」
「ここでカッコつけねぇでどうすんだよ!」
「どうなっても知らねぇぞ!」
チャドはユージンの阿頼耶識にイサリビとは別にブルワーズの船も接続する。ユージンは阿頼耶識の衝撃にのけぞり、鼻から大量の血を吹き出す。
「見とけよ……お前ら!」
ユージンは二隻の船を操縦し、そのまま走っていく。
カルタは必要以上に焦っていた。
「くっ!砲撃を集中!集中!我ら地球外縁軌道制統合……」
「後方の船が進路変更!」
イサリビが進路を変更していく。
「どちらへ砲撃を!?」
「ああ……撃沈なさい……とにかく撃沈!撃沈撃沈撃沈~!」
ブルワーズの船が沈む中、ブルワーズの船はナノミラーチャフと呼ばれているチャフを周囲に散布する。
「ええい!何をぼさっとしているの?撃ちなさい!」
「光学照準が目標を完全にロスト!」
「LCS途絶。通信できません!」
「これは……ナノミラーチャフです!」
「あれは実戦で使えるような代物ではなかったはずでは?」
「うろたえるな。全艦に光信号で通達、LCSを最大出力で全周囲に照射。同時に時限信管でミサイル発射、古臭いチャフなど焼き払いなさい!」
ミサイルで周囲のチャフを焼き払いようやくイサリビを探せるようになる。
「LCS回復しました」
「まったく……さっさと位置の再特定急げ!」
「光学照準が目標を再補足!」
「よし。素早いのが取り柄のネズミでもこの短時間では何もできまい。どこだ?」
イサリビはグラズヘイムへと思いっきり突っ込む。
「グラズヘイム1より救難信号を受信!軌道マイナス2。このままでは地球に落下します」
「モビルスーツ隊の出撃後救援に向かいなさい!」
イサリビが大きく進路を外れる中、ブリッジは歓喜に満ちていた。
「後は任せるぞお前ら……」
「ユージンやったな!」
「なあ……一つだけ………俺かっこいいか?」
ユージンは尋常ではない鼻血を吹き出しそのまま気を失った。
「最高にイカしてたぜユージン。ありがとな」
しかし、地球へ降りようとする鉄華団の前にキマリスとシュヴァルベが攻撃を仕掛けてきた。
「よく見つけたアイン!」
「ネズミのやり方は火星から見てきましたので。それもここで終わらせる!」
しかし、アインの前にクタンを付けた流星号が突っ込んでくる。アインは攻撃を受け止め、そのまま交戦に入る。
「あいつは任せて」
三日月はキマリスにとりつく。
「こいつには借りがあっからな!」
「昭弘行けるか!?」
「行けるかだと?行くしかねぇだろ!」
しかし、グシオンでも敵の数をさばききれず、いくつかの機体がグシオンを抜けた、そのうちの一機がシャトルを攻撃しようとした瞬間シャトルハッチが開きスモークをあげ、視界をふさぐ。
「無駄なことを……!」
それでもMSはそのまま攻撃を仕掛けようとした瞬間シャトルから砲撃を受け、コックピットが大きくへしゃげる。シャトルからアガレスがそのまま走り出し、MSの相手をする。
「なんだこの機体!?こんな機体情報にはなかったぞ!」
MS隊は事前に情報のないアガレスに戸惑いを隠せなかった。そして、それはアイン達も同じことだった。
「なんだ……あの機体は。あんな機体……奴らはもっていなかった!」
「くっ!奴らが用意した新しい機体か?識別信号は………『ガンダムフレームアガレス』?」
ガエリオが放った一言にMSパイロットの一人が反応した。
「アガレス!?どうして死神が!」
アガレスの容赦のないメンチメイスがコックピットを横から潰す。そして後ろから近づいてくるMSをレールガンで吹き飛ばす。
「こいつ!後ろに目でもついてんのか!?」
「まあ、そんなもんだよ。」
アガレスの後部座席には網膜投影ができない分広範囲の索敵能力が備わっており、それによってMSでは確認できない後方の確認が可能だった。
「昭弘!そっちのMSは任せるよ」
「ああ、わかった」
二人がかりで戦うがそれでもギャラルホルンのMSの数は多くがグシオンとアガレスを囲んでいると、一機のMSがシャトルへ攻撃しようとする。
「しまった!オルガ!」
しかし、その攻撃は別のMSの手によって阻まれる。
「ごっめんごめん装甲の換装に時間がかかってさ」
「遅れたぶんの仕事はするよ」
「ラフタさん!?アジーさん!? どうしてここに?」
ビスケットが驚いていると、ラフタたちはギャラルホルンのMSに攻撃する。
「ダーリンにあんたたちのこと頼まれたの」
「ならその機体は……」
ラフタとアジーは百錬とは少し違うMSに乗っていた。
「百錬を持ち出せばテイワズと名乗ってるようなもの」
「これは百錬改め漏影ってことでよろしく!」
二人の卓越した技術に昭弘が関心していた。
「すっ……すげぇ………」
「関心するなって」
サブレはMSのコックピットをたたきつぶし、昭弘にツッコミを入れる。
バルバトスとキマリスの戦いも白熱していた。キマリスの速度は前よりも上がっており、バルバトスはそれをなんとか追いかけようとしていた。
「前より早いな」
「お前に引導を渡すためにわざわざ用意してやったんだ。ありがたく思いながら逝け!」
「俺もあんたの為に用意したものならあるよ」
そういうと三日月はキマリスの攻撃をあえて受けると、バルバトスの追加の装甲がはがれキマリスに隙が生まれる。
「なっ!リアクティブアーマーだと!?」
「パターンが分かれば対策くらいするよ」
(おやっさんが)
バルバトスはメイスでキマリスのランスを弾く、そしてそのままキマリスに攻撃した。
「ミカとビスケット達がうまくやってるな。このまま降下軌道にのせるぞ」
「まってください!シノさんが!」
タカキの視線の先にはシノがアインのMSにワイヤーで捕まっていた。
「これなら阿頼耶識とやらも関係あるまい。クランク二慰はお前たちに手を差し伸べたはずだ。それを振り払って……」
しかし、サブレがその場に駆け付けシュヴァルベと流星号のワイヤーを引きちぎる。
「邪魔をするな!」
「お前に仲間はやらせない」
メンチメイスでシュヴァルベを吹き飛ばす。
「すまねぇ……サンキュだ………サブレ、ビスケット」
攻撃を受けたガエリオはそれでもあきらめていなかった。
「俺にも誇りがある」
「あっそう」
バルバトスはキマリスの隙を作ると、キマリスに向けてキマリスが装備していた槍を投げつける。キマリスにあたろうとしていた攻撃をアインが代わりに受け、アインのコックピットに直撃した。
「ちっ………ガリガリが」
「三日月!そろそろ時間だ」
「分かったよビスケット」
バルバトスがその場を離れていく中、ガエリオはアインに必死に呼びかけていた。
「アイン!なぜ俺を!」
「あなたは……誇りを失った俺にもう一度立ち上がる足をくれた………見殺しにはできない」
気を失うアインの乗るシュヴァルベを必死に抱きしめ、届かぬ叫びをあげる。
「アイーン!!」
そんな中戦場を遠くから眺めるカルタは一人鉄華団が消えたほうを眺める。
「私をコケにした報いは必ず受けさせる。教えてあげるわ宇宙ネズミ。ここが誰の空か!」
MS隊はいまだ交戦を続けていた。
「長蛇の陣。疾風怒涛!」
しかし駆けるMSを赤いMSが邪魔をする。そのままバルバトスのもとまで駆けてくる。
「俺に合わせてくれるのか。すごいなチョコレートの人は。ん?あれ?あんたチョコレートなの?」
「ははははっ!今ので気が付いたかのか。すさまじいなその感覚」
「別に、普通でしょ?」
そうしている間にMS隊は一気に大気圏を突破しようとしていた。
「どわぁ~!機体が重てぇ~」
「シノたちを回収するぞ!ビスケット!シャトルの上に乗るよう呼びかけろ!」
「分かった」
アガレスが先にシャトルの上にたどり着く。
「みんな!こっちに!」
シノたちがシャトルにたどり着こうとする半面ギャラルホルンのMS隊は撤退し始める。
「これ以上の追撃は危険だ。地球に殺されるぞ」
「手ぶらでは帰れぬ。ここはカルタ様の空。勝手は許さん」
三日月とモンタークと名乗った男と共に戦っていた。
「あんたはもういいよ。まだやってもらいたいことがあるし」
「そうか。ではお言葉通りに甘えさせてもらおう」
そのまま機体が再び宇宙へと離れていく。
アガレスたちは機体をシャトルに固定させていた。
「サブレ!ビスケット!そろそろ機体を固定させろ!放り出されんぞ!」
「でも!三日月が!」
三日月はいまだMSと交戦していた。地球へ落ちていきながらも二機のMSは互いに攻撃の手を緩めない。
「三日月!」
「戻ってこい!ミカ!」
しかし、三日月はそれに答えようとはせず、ひたすら敵のMSを落とそうと必死になる。そしてコックピットをつぶすことに成功した。
「地球に……我らの地球に火星のネズミを入れてたま………ああぁ~!」
三日月はMSから少し離れるが、しかし機体はそのまま重力の中に突き進んでいく。
「見せてくれるのだろう?君たちの可能性を」
モンタークは遠くから落ちていくバルバトスを眺めていた。
「地球の重力ってすごいんだな」
三日月の脳裏には幼いころのオルガとの会話が浮かぶ。
『行くんだよ』
『どこに?』
『ここじゃないどっか……俺たちの本当の居場所に』
『ほんとの?それってどんなとこ?』
『う~ん、分かんねぇけど……すげぇとこだよ。飯はいっぱいあってよ、寝床もちゃんとあってよ、えっとあとは……。行ってみなきゃ分かんねぇ、見てみなきゃ分かんねぇよ』
『そっか……オルガについていったら見たこともないものいっぱい見れるね』
『ああ、だから行くぞ』
かつてオルガが三日月に見せてやると言った場所。
「そうだ……俺はその場所を見たい。お前はどうだ?バルバトス!」
バルバトスの目が光り、三日月の視界に一機のMSが映った。
(三日月……ここで終わりにしないで………あなたの大きな手はきっと大切な何かをつかめるはず)
クーデリアが祈りを捧げ、皆が三日月の無事を祈る中シャトルは無事大気圏を突破した。
「団長!出ました!地球です!」
「三日月は!?」
みんなが三日月を探していると、真っ先にアトラがそれを見つける。泣きながらそれでも笑顔で彼の名を叫ぶ。
「三日月~!」
バルバトスはMSを盾に大気圏を突破した。
クーデリアも同じように涙を流しながらも三日月の無事に安堵する。
「ここが地球。あれが三日月」
「三日月!」
ビスケットの声に三日月は反応する。アガレスが両手を前に出しバルバトスはアガレスに向けて飛び出す。アガレスはがっちりとバルバトスの手を握りしめ、シャトルに誘導した。
しかし、この時オルガだけは皆とは違い、デジャブのような感覚に襲われていた。
どうだったでしょうか?楽しかったと言ってもらえたらうれしいです。次回はいよいよオルガとビスケットの話に入ります。次回はかなり力を入れようと思っています。次から話は大きく変わり始めていきます。
次回は『相棒』です!