イサリビの中を一人で歩いていると後ろをタカキとライドが後をつけていると、さらにその後ろから昭弘と昌弘が怪しみながら現れた。
「なにをしてるんだお前ら」
唐突に声をかけられたことに驚きながら後ろを振り向くと、昭弘たちに安心する。
「いや~、なんかサブレさんって声をかけにくくて………。それに、なんか初めて会った時の三日月さんに似てるなって」
「初めて会った時の?」
「はい。初めて会った時の三日月さんってなんか考えていることが分からないっていうか、表情が怖かったっていうか……」
「だからなんか話しかけづらくて………」
「特にこだわる必要はないだろ。気楽に声をかけたらいいと思うが」
そういうと昭弘はサブレに話しかけた。
「サブレ少しいいか?」
「?さっきから俺の後をつけていたのって昭弘?」
「それはタカキ達だ」
そう言われるとタカキとライドが物陰から出てくる。
「す、すいません。なんかこそこそと……」
「別にいいさ。で、何?」
「ああ、昌弘がどうしてもお礼を言いたいそうでな」
昭弘が昌弘の背中を押してやると、昌弘はサブレの前に立った。
「あの時は助けてもらってありがとうございました」
「ああ、あの時のMSのパイロットか………。気にしないでくれ、あれこそ単に偶然が重なっただけだ」
「それで、聞きたいんですけど。サブレさんは宇宙海賊だったころにある商船団を襲撃したことがありますか?」
「昌弘!」
昭弘がたしなめようとすると、サブレは即座に否定した。
「いや、無いな。フォートレスはそういう仕事はあまりしないんだ。基本的にうちの商売の方法はMSの売却だからな。民間軍事会社やギャラルホルンや宇宙海賊を襲撃して、手に入ったMSを売却する。それが主な仕事だ」
「そうですか………。だったら襲った奴らに心当たりはありませんか?」
「ないわけじゃないけど………核心は無いが、多分『夜明けの地平線団』じゃないかな?地球火星間で最大規模を誇るのは多分あそこしかないし、民間の商船団を襲うような奴はあそこぐらいだ。フォートレスも何度かあそこと絡んだことがある。結構やりあった仲だよ。あそこは嫌いだ」
「夜明けの地平線団………」
「まあ、あそこは戦力が半端じゃないからな、フォートレスとは違う意味で厄介だ。すべての戦力を数えたら大体アリアンロッド艦隊の四分の一はあるんじゃないかな?」
タカキとライドが「うへぇ」と小さな声をあげ、昌弘はそのまま歩いて通路の奥へと消えていった。
「すまねぇ………昌弘はあの日襲ってきた海賊がどうしても知りたいらしくてな」
「いいよ。そういう気持ちなんとなくわかるし……」
二人は昌弘が消えていった方を黙って見つめる。
サブレたちが話しているころオルガたちは今後の予定を話し合っていた。
「予定では地球軌道上にある二つの共同宇宙港のどちらかで降下船を借りて降りる手筈だったんだが………。お前たちの動きはギャラルホルンにきっちりマークされちまった。もうこの手は使えねぇ」
「どうすれば……」
全員が悩んでいると、イサリビのセンサーに反応が出る。
「エイハブ・ウェーブの反応。船が近づいてきます」
すると、前方の画面に仮面の男が現れた。
「あの時の………」
クーデリアとフミタンがともに反応を示すと、そんな事など知る由もなく話始める。
「突然申し訳ない。モンターク紹介と申します。代表者とお話しがしたいのですが……」
「タービンズの名瀬・タービンだ。その貿易商とやらが一体何の用だ?」
「ええ、実は一つ商談がありまして」
モンターク商会との話し合いが決定した。
サブレは雪之丞に呼び出されてMSデッキに顔を出していた。
「来たかサブレ。お前に言われた通りにアガレスのシステム周りのチェック一通りのチェックが終わったぞ」
「で、結果は?」
「ああ、それがな。もともとお前が使っていた一人用のシステムと今回起動した二人用のシステムが変に絡み合っていてな、操縦できないわけじゃないんだが、変な負荷がかかっちまってる。お前が感じた負荷の正体はこれだな」
「すぐに変えられますか?」
「それがな………これが複雑になっててな、他のガンダムフレームと違ってアガレスだけシステム周りが全くの別物で調整するのにかなり時間がかかりそうなんだ。少なくとも今度の降下作戦には間に合いそうもねぇな。下手にいじると動かなくなる恐れがある。地球に降りた際に変更したほうがいいかもしれねぇ」
「ってことは、今度の作戦は兄さんを後ろに乗せておいたほうがいいってこと?」
「そうなるな」
アガレスを黙って見上げると、サブレは小さくため息をついた。
「まあ、俺の知らないところで戦われるよりましか……。俺が守らないと」
「お前さんも苦労するな」
苦笑いを浮かべるサブレは、そっとアガレスに近づくと肩に乗り手を顔につける。優しくなでながら、小さく「これからもよろしくな」と誰にも聞こえないようにつぶやいた。
タービンズの一室ではモンターク商会とタービンズ、鉄華団が商談を始めようとしていた。
「改めましてモンターク商会と申します。またお会いしましたねクーデリアさん」
「で?商談ってのは?」
「私どもには地球降下船を手配する用意があります。あなたの革命をお手伝いさせていただきたいのです。クーデリア・藍那・バーンスタイン」
「パトロンの申し込みか?こいつは商談じゃなかったのか?」
「もちろん商談です。革命成功の暁にノブリス・ゴルドン氏とマクマード・バリストン氏が得るであろうハーフメタル利権、その中に私どもも加えていただきたい」
「まだ始まっていない交渉が成功すると?」
「少なくともドルトコロニーではその兆しが見えました」
「返事はいつまでに?」
「あまり時間はありません。なるべく早いご決断を」
話は予想以上に早く終わり、それぞれの場所に戻る中オルガとビスケットは廊下で話し合っていた。
「マクマードさんとノブリス・ゴルドンがつながってたなんて………名瀬さんは知ってたみたいだね。だったら話してくれればよかったのに……」
「俺たちはまだその場所に立ってねぇってことだろ?あの人らは化かし合いの世界で商売をしてる。俺たちはその足元でうろちょろしてるだけだ。あの人らと対等に商売していくなら今のままじゃだめなんだ」
オルガのそんな発言の中、ビスケットは少しずつではあるがオルガへの不安を募らせていた。このままでいいのだろうかという不安とサヴァランとサブレの言葉が胸に突き刺さる。
そんな中、イサリビではモンターク商会からのあいさつ代わりの品が大量に届いており、その報告を三日月とサブレがオルガたちにしていた。
「荷物の方はどうだ?」
「おやっさんたちが中身を確認してるとこ。っていうかなんでチョコの人がいんの?」
「「えっ!?」」
モンタークと名乗っていた仮面の男は自らその正体を明かした。
「双子のお嬢さんは元気かな?」
「って!あの時のギャラルホルンの!?」
ビスケットが驚いているとサブレだけがその場の状況についてきておらず終始ポカーンとして表情をしていた。
「ギャラルホルンだと?まさかあんた俺たちを罠に掛けるつもりで……」
「君たちなどに罠を掛けて私になんの得があると?」
「まあ、確かに……罠をかけるならもっと前に掛けるだろうし……」
「じゃあ何が狙いだ?」
「そうだな……君たちに小細工をしても見破られるだろう。私は腐敗したギャラルホルンを変革したいと考えている。より自由な新しい組織にね。君たちには外側から働きかけその手伝いをしてもらいたい」
「そんなこと俺たちにできるはずが……」
「現にクーデリア嬢と君たちはフォートレスの協力があったとしてもやってのけた。だからこそ君たちに力を貸す利害関係の一致というやつだ。まだ罠だと思うか?」
「そんなの分かんないよ」
仮面の男はあえて態度は変えずまっすぐ見つめてくる。
「まっよく考えてくれたまえ。ああ、私の事は内密に………。もし他言したならば……この件はなかったことにしよう」
そういうとその場から去っていく。
サブレは完全にいなくなったタイミングを見計らって、雪之丞からの伝言を伝える。
「オルガ、兄さん。雪之丞さんからの伝言なんだけど、アガレスのシステムは今すぐってわけにはいかないってさ。地球に降りてからのほうがいいだろって。変にいじくると動かなくなる可能性があるから、歳星だっけ?そこで見てもらったほうがいいんじゃないかって。まあ、最悪地球に降りればある程度の調整ができるって」
「そうか、最悪の場合はビスケットに乗り込んでもらう必要があるか……」
「またあいつら?よくやるねぇ。ガチムチの方?」
「うん。ピアスのアホに付き合ってる。ほんと面倒見いいよね~」
「なんかさ……もやもやする」
ラフタとアジーが話している前で昭弘とシノはMSのシュミレーションで訓練をしていた。
「悪ぃな。つきあわせちまった」
「意外だな。お前がこんなに責任感のある奴だと思わなかった」
「責任?だったらどっちかっつうと楽になったんだそういうのからよ。俺は他の奴に指示を出したり命令したり性に合わねぇんだよな。それで死なれたりしたらな……。モビルスーツに乗って先陣切れりゃあよそういうの考えないで済むし、他のヤツらも守ってやれるしな!」
そういうシノの顔はどこか割り切っているような顔だった。
イサリビのMSデッキでは雪之丞とヤマギがMSの調整をおこなっていた。雪之丞は下からバルバトスを見上げていた。
「随分男前になったじゃねぇか。これで少しは機動力があがってくれりゃあな。そっちももう上がれよヤマギ」
「いやもうちょっと。みんなが戦ってくれてんのに俺らはサポートしかできないからできるだけやりたくて……」
「逆だよヤマギ」
ヤマギが振り返るとそこにはサブレがゆっくりヤマギの方に飛んできた。
「サブレさん」
「ヤマギたちが整備してくれてるからみんな安心して戦えるんじゃないかな?」
「………はい」
サブレはヤマギたちとの話を終えると、一人窓の向こうにジッと視線を向けていると、後ろからビスケットが話かけてきた。
「サブレ何してるの?」
「別に、どうやってクッキーとクラッカに謝ったものかなって」
「多分、二人ともそこまで気にしないんじゃないかな?」
「それでも、俺が悪いことをしてるわけだし……謝罪するのは当たり前だよ」
「そうだね」
「でもな。謝るって本当はすごく難しいことだと思うんだよ。でも、それでも謝ることができたら、きっと何かが変わると思う。喧嘩して、そして別れて……そして二度と会えないなんて嫌だから。仲直りすれば何かが変わるはずだし……。俺はサヴァラン兄さんと仲直りできなかった。だから……」
「謝れば……。うん、そうだね」
「ごめんなさいフミタン。あなたを追い込んだあの男と組むしか方法がないの」
「いいえお嬢様の思うと通りに進んでください。それしか方法がないのでしょ?」
「ええ、私が立ち止まることは鉄華団の人にとっても、ドルトの人々にとっても……そして、フミタンにとっても失礼なことになる。たとえ、私の手が血にまみれていこうとも……」
「……お嬢様。飲み物をとってきますね」
「ありがとう。フミタン」
フミタンが廊下の方に姿を消すと、入れ違うようにアトラがやってきた。
「クーデリアさん!よかった。こんな所にいたんだ。やっぱりなんにも食べないのはよくないと思ってお夜食を………あれ?やだ、私持ってくるの忘れた」
クーデリアはアトラの手当された頬を見ると尋ねた。
「痛みますか?」
「あっ……これは………」
「本当にごめんなさい……私のせいで………」
クーデリアは本当に申し訳ないような表情になるのをアトラが見ると、アトラはそんなクーデリアに頼ってほしそうに迫る。
「……あのねクーデリアさん。その……もっとお話ししよう。ごめんよくわからないこと言っちゃった。でもね、ちょっと「疲れたな~」とか「ちょっと辛いな~」とか言ってほしくて……頼ってほしくて……。あっ……私なんかじゃ頼りないと思うんだけど……」
「頼りないのは私です。ほんとに情けないくらい無力で……。私はこのままじゃいけないんです。人々を希望へ導きたいと願うなら変わらなければ……」
「あんたはすごいよ」
そういいながら現れたのは三日月だった。三日月はアトラが忘れた弁当を届けに現れた。
「あっお弁当ありがとう」
「ギャラルホルンの奴らを声だけで止めた。あんなのオルガにだってできない」
「そうだよ!ほんとすっごくかっこよかった。あのね私もクーデリアさんと一緒にその……かか革命?革命するから!」
「俺も手伝う。そうでしょ?それがあんたの言ってた責任ってやつなんでしょ?」
そういうとフミタンが飲み物をもって現れる。
「ええ、ですからお嬢様だけが抱える必要はないのですよ?ここにはこんなにもお嬢様を思ってくださる方がいるのですから。お嬢様が皆さんを家族だと言うように、皆さんもお嬢様を家族だと思っています。もちろん、わたくしも……」
「フミタン……アトラさん………三日月…………私」
クーデリアは目から大粒の涙をこぼしてしまう。
「な……泣かないで。ああっ三日月、ほらなんとかして!早く!」
「えっ俺?」
「当たり前でしょ!女の子が泣いていたら男の子は慰めたりとか……そう!抱きしめてあげたりとかほら!」
三日月はそっと抱きしめる。
「クーデリアさん……偉いね。ずっと……我慢してたんだね……。えっ!?み……三日月!?私はいいよぉ」
三日月は泣き始めたアトラもそっと抱きしめる。
「でも、アトラも泣いてる」
「そうだけど……でも」
しかし、泣き止むこともできず、三日月の胸の中で二人は大粒の涙をこぼした。
(あなたがお嬢様のそばにいてくれて本当に良かった)
一行は地球への足を強めていった。
どうだってでしょうか?次回は大気圏突破のお話になります。
次回は『願いの重力』です!