「私はクーデリア・藍那・バーンスタイン。私の声が届いていますか?皆さんにお伝えします。宇宙の片隅………ドルトコロニーで起きていることを……そこに生きる人々の真実を……。私はドルトコロニーで自分たちの状況に立ち向かおうとする人々に出会いました。彼らはデモという手段をとりました。しかし、それはあくまでも経営陣………しかし、彼らが行動を起こした際、まるで示し合わせたかのように付近で謎の爆発が起きたのです。ギャラルホルンは労働者たちに攻撃を開始しました。そしてその戦闘………虐殺は今も続いているのです!今私の舟はギャラルホルンの艦隊に包囲されています。ギャラルホルンに私は問いたい。あなた方は正義を守る存在ではないのですか?これがあなた方の言う正義なのですか?ならば私はそんな正義は認められない。私の発言が間違っているというのならば………かまいません。今すぐ私の舟を打ち落としなさい!!」
クーデリアがそう宣言するその時攻撃が始まるかと思われた三日月たちの前でギャラルホルンのMSは完全に勢いを失った。
「おいおい……どういうこった?奴ら動かねぇぞ?」
「すごいなあいつ。俺たちが必死になって一匹一匹プチプチ潰してきたやつらを声だけで……止めた」
イサリビがギャラルホルンの艦隊を突破するとようやく彼らは安堵の息を吐いた。
「ありがとうございます。いい画が取れましたよ!」
「いや~これぞ報道だよ。素晴らしかった!」
「とんだ博打だったな。だが、アンタはそれに勝った」
「フミタンのおかげです。ありがとうフミタン」
「いいえ、お嬢様が自らの真の言葉で彼らをうごかしたのでしょう」
彼らの戦いはいまだ終わってはいなかった。
「ハハハハハハ!これは傑作だ!ギャラルホルンめ、これは相当悔しいはずだ」
マーズ・マセは大きく高笑いを浮かべると、目の前の映像では今まさにイサリビが艦隊を突破するところだった。
すべてはマーズの予想通りの展開に進んでいた。
「まあ、これくらいの艦隊は突破してもらわなければこちらも困る。せめてこちらの掌で踊っていてもらわなければ……」
後ろでサブレもまた面白くなさそうな顔で映像を見ていた。
「さて、こちらも進めようか………革命の乙女狩りを」
「間違いないんだな?本当にフォートレスがお前らを狙っているっていうのは」
「はい。おそらくですが……」
「そうなってくるとかなりやっかいだね……」
ハンマーヘッドの一室で話し合いをおこなっているなか、オルガ達が手に入れた情報と推測を名瀬がそこで聞いていた。
オルガ達はこれから襲ってくるフォートレスとの闘いに備えていた。
「で?お前たちとしてはこれからどうするんだ?」
「前に言った時と変わらねぇ、ビスケットの弟を取り戻して先に進む。どのみちフォートレスに目をつけられた以上後には引けねぇんだ。」
名瀬は仕方がないという顔をすると、顔を引き締めオルガの目をまっすぐに見つめた。
「フォートレスと戦うとなると今の戦力でも厳しい」
どうするかと悩んでいるとオルガの後ろからビスケットが声を出した。
「俺に説得する時間を……そのためのMSを貸してください!俺に……どうか!」
ビスケットが深く頭を下げるとオルガも同じように頭を下げる。
「俺も同じ意見です!だから!」
「………力を貸さねぇとはいってねぇだろ?どのみち俺たちに道はないか……。まあ、力を貸すと言った以上戦うさ……」
「だったらせめて少しぐらい操縦できるようにならないとね、今からあたしと特訓だよ。フォートレスが来るまでの間にどこまで鍛えることができるかわからないけどね」
「すいません。アミダさん」
ビスケットとアミダはともに部屋を出ていく。
「イサリビとハンマーヘッドが予想ポイントを通過したと連絡が入りました」
フォートレスの旗艦では今まさに戦闘の準備が着実に進んでいた。
彼らは小惑星帯で隠れるように潜んでいた。
「しかし、本当に現れるのだろうな?ボス」
「現れるだろ。奴らが地球に向かうにはこのコースが一番安全だ。この小惑星帯は厄災祭の頃の基地の名残で、いまだにエイハブリアクターが一部機能している。その為に不安定な重力と視界の悪さでギャラルホルンの巡回ルートからはずれている裏ルートだ。奴らに見つかりたくない奴らからすればここはちょうどいい場所だ」
「作戦は?」
「なんだお前にしてはまじめに聞いてくるな……サブレ」
「別に、仕事なら早めに済ませたい」
「………まあいい。いつもと変わらん、MSで攻撃を仕掛け奴らのMSをつぶしたのちに、艦隊をやる」
「……了解」
(乗ってないよな兄さん)
三日月はハンマーヘッドでビスケットの訓練の付き添いをしていると、通路の奥からオルガが姿を現した。
「どうだ?訓練は」
「う~んいいんじゃない?多分」
「多分ってお前な……」
「ビスケットは本気みたいだよ。結構くらいついてきてるって」
「そうか……あいつを頼むなミカ」
「うん」
話をしていると百錬のコックピットが開きビスケットが中から出てきた。
「よくなったよ。少し休憩しようか」
肩で息をしているとオルガと視線が合うと、そちらに向かって飛んでいく。
「オルガ話は終ったの?」
「ああ、そっちはどうだ?少しはうまくいきそうか?おまえ、MWの訓練だってまともにしてないだろ?」
「うん。だから覚えることが多くて大変だよ。でも……話をしたいんだ。そのためには俺が頑張らないと」
ビスケットの覚悟を決めた顔を見るとオルガはビスケットの肩を軽く叩く。
「気負いすぎんなよ?俺たちが付いてる」
「………ありがとうオルガ」
オルガには夢に出てくるビスケットの姿が少しだけ重なるが、しかしオルガはそれを振り払う。
(そんなことあるわけねぇ)
オルガはいまだに話せずにいた。そして、ビスケットはオルガが時折する表情に気が付いていた。
「正面にフォートレスの船を捉えました」
ハンマーヘッドとイサリビが小惑星帯を通ろうとしていると、それは不自然なほどあっさりと姿を現した。
静かに、しかし明らかに邪魔になるように配置されたその姿は明らかな挑発行為だった。
「お久しぶりだな。名瀬・タービンとオルガ・イツカ。おそらくはこちらの要件が分かっているとは思う。だから単刀直入に聞くぞ。クーデリア・藍那・バーンスタインの身柄を引き渡してもらおうか」
「「断る!」」
「そういうと思っていた。ということはうちらとやりあうっていう意味でいいんだな?」
「ああ、俺たちはあんたたちと戦わせてもらう」
「その言葉、後悔するなよ」
そういうと一方的に通信は切られた。
双方の船があわただしくなると、イサリビは相手のMSの信号を捉えた。
「フォートレス機体を出撃させました」
「こちらも準備が済んだ機体から出撃させろ!」
バルバトス、グシオン、流星号と立て続けに出撃していく中、ビスケットはパイロットスーツに着替えると、そのままハンガーに向かった。
ハンガーでは今ビスケットが搭乗する予定のマン・ロディの調整が終わったところだった。するとマン・ロディの方からタカキがビスケットの方に向かってきた。
「ビスケットさん!マン・ロディの調整終わりました。いつでも行けます」
「ありがとうタカキ」
そういうとビスケットはマン・ロディの座席に手を付けると、通路の方から昌弘が姿を現した。
「あの………いいですか?」
「うん、いいけど」
「弟さんを助けに行くんですよね?だったら一言お礼を言いたくて……。あの時俺を助けてくれたのはあの黒い機体だったから……。だから……その………」
「うん。必ず連れて帰ってくるよ」
「………気を付けて」
昌弘が離れるとビスケットは阿頼耶識で機体と自分を接続する。すると、MW以上の情報量にビスケットは一瞬声をあげる。
「大丈夫か?ビスケット」
「大丈夫です………出してください」
マン・ロディのコックピットが閉まると、そのまま機体が出撃体制に移る。機体がカタパルトに固定されると、正面にアガレスが遠くに見えた。
(サブレ。今行くよ!)
画面にフミタンが移る。
「出撃どうぞ」
「ビスケット・グリフォン!マン・ロディ!行きます!」
勢いよく出撃するビスケットは急いで三日月たちに追いついた。
何とか後方にたどり着くと、シノがマン・ロディの肩を軽くつかむ。
「ビスケットはなるべく戦闘に参加はすんな。俺たちで何とか隙を作ってみるさ」
「あんたはできた隙で弟のもとに行きな!」
「その間、私たちで何とか時間を稼いであげるから」
「ビスケットは弟を説得することだけを考えて」
みんなが戦場に加速していくとビスケットはみんながいる方に届かない手を伸ばし、機体も同じように手を伸ばした。
(遠いな………)
今の自分は足手まといにしかならない。それがはっきり理解できていた。
フォートレスでも同じように出撃体制が整いつつあった。
サブレがアガレスで待機していると、マーズが奥からパイモンに乗り移る。マーズがパイモンに乗り込んだのをサブレが確認すると、サブレも同じように中に入っていく。
「ボス。敵のMSの出撃を確認。ガンダムフレームが二機、百錬が二機、百里が一機、グレイズタイプが一機とマン・ロディが一機です」
「マン・ロディ?ブルワーズから奪った機体か?面白いすこしでも戦力を増やそうというわけか。うちのロディも出撃させろ。マーズ・マセ、パイモン……出るぞ!」
パイモンが出撃していくと、続いてアガレスがカタパルトデッキに移動する。
「ガンダムアガレス……サブレ・グリフォン行きます」
戦場に兄がいるとは知りもせず。
開戦の一撃をあげたのはフォートレスのMSだった。ロディ機が合計で六機がそれぞれ三機ずつに分かれて三日月たちを襲撃した。
パイモンはアミダとアジーが足止めし、ロディはシノと昭弘、ラフタが交戦し、三日月はアガレスと交戦をはじめた。
「また会えたな、アミダ・アルカ」
「あたしを知っているのかい?」
「お前を知らない奴はそうはいないだろ?お前ほどのいい女を」
アミダの攻撃をハンマーで受け止めている間にアジーが横から剣を振り下ろす。しかし、その攻撃を難なくかわし、アジーを蹴り飛ばす。
急いでアジーを保護するアミダは、大きく相手から距離をとる。
「すいません、姉さん」
「いいよ。それよりも連携でたたくよ」
一方三日月とサブレも互角の勝負をしていた。サブレはメンチメイスを振り下ろし、三日月はメイスでそれを受け止める。膠着状態がしばらく続くと、ロディのうち一機がシノたちから三日月の方にやってくる。三日月の方に攻撃を仕掛けようとすると、三日月はそれをかわし反撃をしようとしたとき、サブレが再び邪魔をする。
「すまねぇ三日月」
「いいよ」
シノがロディをもう一度ひきつける。
三日月はアガレスの腰を蹴り飛ばし、メイスをたたきつけようとするが、アガレスはそれを何とかメンチメイスで受け止める。
「ぐぅ!本当に厄介だな。確か三日月って言ったか?」
忌々しそうな顔をすると、サブレはバックパックの小型レールガンで牽制をして、生じた隙で一気にメイスを突き出す。三日月はそれを何とかメイスで受け止めるが、勢いよく小惑星にぶつかってしまう。サブレが三日月の無防備な体制にとどめを刺そうとすると、後ろで待機していたビスケットが援護射撃をしてきた。
「後ろでこそこそしていた奴が!」
兄が乗っているとも知らず、サブレがマン・ロディにかけていくと、三日月がそれを何とか妨害する。接触通信で話しかける内容にサブレは一瞬だけだが動きを完全に止めた。
「あれに乗ってるのはビスケットだよ」
「はぁ?」
動きが止まったところにビスケットは一気に加速し、アガレスを捕まえてそのまま小惑星基地の中に入っていく。
「何をやっているんだあいつは……」
マーズが少しあきれていると、三日月がそのままパイモンの方に向かって走り出す。
「あとは頼んだよ……ビスケット」
マン・ロディとアガレスは互いに小惑星の中で停止していた。ビスケットは急いでコクピットから出てくるとアガレスの出入り口を必死で探し出した。
「サブレ!ここを開けて!話がしたいんだ!」
少しすると、コックピットが開きビスケットはそのまま中に入ろうとするが、それをサブレは銃を突きつける形で拒絶する。
「マン・ロディに入れ。ここで隠れているなら見逃してやる」
あくまでも話し合おうとしないサブレにビスケットは首を横に振り、一歩中に足を踏み入れた。
「嫌だ!引かないよ俺。みんなと約束したんだ。サブレを説得するって」
「勝手な話だよ。出来もしない約束を一方的にして、他人に無駄な期待を持たせる」
「他人じゃない!家族だ!それに昌弘君やフミタンさんやクーデリアさんだってサブレにお礼を言いたがっていたよ?助けてくれてありがとうって」
「成り行きだ。助けたくて助けたわけじゃない」
「そうかもしれない、それでもサブレが助けてくれたことに変わりはない。それに聞かせてほしんだ。サヴァラン兄さんとの間に何があったのか!」
「何があったも……あれ以上のことは何もない。あれがすべてだ。それに言っただろ?クッキーとクラッカはどうなる?兄さんが死んだら……あの二人はどうなる?だから鉄華団から引いてほしいって言ったのに……。それにサヴァラン兄さんの事は俺が殺したくて殺したんだ。そうだ、俺はそれを望んでいた」
「それは嘘だよ。サブレは今嘘をついてる」
「……勝手な推測を……」
「推測じゃないよ。だってサブレは嘘をつくとき、手が震えるもんね。俺知ってるよ。だって兄弟だもん。それにクッキーやクラッカの事だってサブレに協力してほしんだ。俺の目標は二人を学校に入れてやることだ。とてもじゃないけど今の俺じゃ二人を学校に入れてやるどころか養ってあげるのが精一杯なんだ。でも……サブレがいてくれたら!だったら俺!きっと!」
サブレはうつむき、表情がビスケットからでは見えなくなる。
「………初めてだね。俺が兄さんに負けたのは」
サブレは銃を離しビスケットの手を握った。そしてそのままアガレスのコックピットの中に引き入れる。
「マン・ロディでウロチョロされたら困る。死んだら一緒に謝れないだろ?」
「そうだね」
サブレがコックピットの中に入ると、サブレの正面の画面に妙な表示が現れた。
『コックピット内にパイロットと類似した生体が搭乗したと確認しました。これより第三第四エイハブリアクターを起動し、第二コックピットを開放します』
すると、サブレの後ろの壁が開きもう一つの座席が姿を現した。
『パイロットは直ちに後方阿頼耶識に接続してください』
「くそ!アガレスが動かない。兄さんが阿頼耶識に接続するまでこのままだ!」
「俺が後ろに乗れば……」
「そうしてくれ」
ビスケットが後ろの座席に乗り込むと、阿頼耶識を接続する。
『阿頼耶識接続開始………完了。阿頼耶識間の強制リンク開始』
ビスケットがうめき声をあげ、鼻血を出すと、サブレの方にも同じような感覚が流れてきた。
「なんだ?これ……兄さんの記憶?」
「これってサブレの記憶?」
互いの記憶の一部が互いに見てしまうとサブレとビスケットはようやくの思いですべてを理解した。
「「………」」
もはや言葉などなくても理解できる。
「行こうか兄さん」
「うん。行こう」
「ガンダムアガレスシステムウァサゴ……出る」
アガレスがまっすぐに小惑星から出てくると、そのまま勢いを増していく。しかし、マン・ロディは出てくる気配がなく、鉄華団とタービンズの面々は説得の失敗を予想した。だが、アガレスの動きの不自然さに気が付いたパイモンが素早く動き、アガレスに近づくとそのままハンマーを振り下ろす。
「やはりお前は裏切るのだな」
「まるで分っていたような言い方だな」
「ああ、薄々気が付いていた。それだけに残念だ」
マーズはパイモンのスラスターの方を見ると、残量が半分をきりそうだった。
「ここらが潮時か………。いいだろうお前の裏切りは見逃してやる。だがな忘れるなよ。お前の死神の名と技術は俺が教えてやったことを………そして、永遠に付きまとってくると。逃げられると思わないことだ」
「忘れない。忘れられるようなものじゃない。あんたの存在だけは」
マーズはにやりと笑うとそのまま距離をとり、信号弾をあげ撤退した。
「ビスケット!」
ハンガーにアガレスで戻ってくると、鉄華団のメンバーはビスケットに手荒い歓迎で出迎えた。
「お前!心配したんだぞ!」
「ほんとうっすよ!」
すると奥からオルガが姿を現し、ビスケットに近づいてくる。
「届いたんだな?」
「うん。みんなのおかげだ」
サブレがアガレスから出てくると、どうしようかと悩むなかビスケットが手を引いてオルガの前に連れてくる。サブレは自分からは言い出しにくそうにしていると、オルガはサブレに手を差し出す。
「ありがとな。おまえのおかげで俺たちは助かったんだ」
「そ、そんな……それこそ成り行きで……」
「よく来たな。俺たち鉄華団はお前を歓迎するぜ」
サブレはそんなオルガの言葉に一瞬固まると視線をビスケットに向けた。ビスケットは笑い小さな声で「俺の言った通りでしょ?」と近くに寄ってくる。みんなも同じようによってくると、サブレは涙を軽く流し、オルガの手を握った。
「これから………よろしく」
ようやく自分の居場所を見つけた。
どうだったでしょうか?これからもマーズ・マセ率いるフォートレスは何度か話にかかわってきます。ですが、とりあえず一期の話のなかではこれが最後です。自分の中でマーズ・マセは結構お気に入りで、話を書いていて面白かったです!
次回は『謝罪』です!