「えっ!?本当ですか?」
「ええ、確かに見ました」
「でもよ、どうしてビスケットの弟がそんなところに?」
「分かりませんが、お嬢様を助けようとしているように見えましたが……」
「ますます意味がわからねぇ」
フミタンが見たサブレ・グリフォンはビスケットに衝撃を与えた。
「もしお嬢さんを助けたのだとしたら、助けることに理由があるはずだが」
「もしかしてだけどよ、ビスケットに申し訳ないっていう気持ちがあるんじゃ……」
シノがそう切り出すと、ビスケットがそれを即座に否定した。
「多分ないと思う。本人が仕事で動いているって言っている以上は……」
「だとしたら、助けることにフォートレスとしてのメリットがあるってことか?だとしたら最悪の展開だな」
「どういうことだ?」
「たとえこの状況を切り抜け、イサリビと合流してギャラルホルンの艦隊を切り抜けたとしても……」
オルガが言いよどんでいることをビスケットがはっきりと告げる。
「フォートレスが待ち構えている可能性がある」
「まじかよ」
「多分だが、ギャラルホルンで捕まえられなかったお嬢さんだ。もしコロニーから逃げられたとしたら、ギャラルホルンからすれば喉から手が出るほど欲するはず。多額のお金を用意してでも……」
「うまく立ち回れば他の商会なんかからもお金がもらえるだろうね……。フォートレスの狙いはそこだ。ピンチを切り抜け革命を成功させたクーデリアさん。そういうキャッチコピーが必要なんだ。功績が大きければ大きいほど手に入る金は増えていく。だから……」
「ああ、お嬢さんを助けた」
全員の脳裏にあの巨兵と呼ばれた男のMS『パイモン』の姿が浮かんだ。
「たしかに、なんかそういうあくどい事を考えそうな奴だったよな?」
「ああ、でもよ逆を言えばチャンスなんじゃねぇか?」
「えっ?」
ビスケットだけが分からないというような顔をしていると、オルガはうなずく。
「ああ、うまくすればビスケットの弟をこっちに引き込めるかもしれねぇ」
「でも、オルガそんなことうまくいくかどうか……」
「失敗するかもな」
「だったら!」
「でもよ、かもしれねぇっていう見えない可能性の為に諦めるぐらいなら、成功するかもしれねぇっていう可能性に欠けたほうが何倍もいいだろ?それともよ、お前は弟の説得をあきらめたのか?」
「……あきらめきれない」
「だろ?だったらやろうぜ?鉄華団のみんなはそのつもりでいる」
オルガはビスケットの肩を軽く叩くと、ビスケットは顔をあげた。
「やるだけやってみようぜ、どうせ戦わなきゃいけないんだ。どうせ戦うならそのほうがいいだろ?それに正面から戦っても俺たちに勝ち目はない。だけど、お前の弟がいてくれたら勝ち目は出る!」
「うん!」
全滅するかもしれない、でも彼らの目は次の大きな戦いへと向かっていた。
外ではギャラルホルンによる組合への一方的な虐殺が行われていた。
オルガ率いる鉄華団はその間宇宙港までなんとかたどり着いていたが、宇宙港はいまだ封鎖状態だった。
「やっぱり無理か、アドモスさんから聞いてはいたが……」
「この調子ですと当分は無理そうですね」
「どうするオルガ。これじゃイサリビと連絡がとれたとしても……」
どうするか考えていると近くのテレビではいままさに外で行われている虐殺の映像が流れていた。
「交戦っていうかなぶり殺しだね」
「なぁオルガなんかできることねぇのか?俺たちに……」
「ダメだ。何度も言わせんな」
あくまでも今回の事態に巻き込まれることを嫌がるオルガに対し、ユージン達は何かをしたいと申し出た。
「あのおっさんたちの仲間なんだよな?おっさん達言ってたじゃねぇか、俺たちの事騎士団ってさ。英雄で希望の星なんだぜ!?」
「ダメだ!俺たちの仕事は依頼主を無事地球に送り届けることだ」
「そうだよ、ここまで来て目的を果たせなかったら……」
オルガとビスケットが反対していると、後ろから先ほどまで黙っていたクーデリアが口を開いた。
「私は……私はこのまま地球へはいけません。私が地球を目指したのは火星の人々が幸せに暮らせる世界を作るため。でも火星だけじゃなかった。ここの人たちも同じように虐げられ踏みつけられ命さえも……それを守れないなら………立ち上がれないならそんな私の言葉など誰も聞くはずがない。私も戦います」
みんながクーデリアの言葉に黙っていると、フミタンがそっとクーデリアの手を握った。
「お嬢様、戦うには大きな責任が伴います。それでもいいのですか?」
「はい。フミタンがかつて言っていたように私はあの本の少女のように希望になりたい」
「……わかりました。でも、これだけはわかってください。それはお嬢様が自ら考えた言葉でなければ届きません。それだけは私でも助けてあげられない」
「分かっています。それでも………」
クーデリアのまっすぐな目にフミタンはオルガの方を向く。
「団長さんどうかお嬢様の願いを聞いてはもらえませんか?」
「そうだぜオルガ。お嬢さんだってこう言ってんだよ」
「ここでやんなきゃかっこ悪いだろ?」
「ちょ……ちょっと待った。そんな簡単に……」
オルガは三日月の方をまっすぐ見つめた。
「ミカ。お前はどう思う?」
「俺はオルガが決めたことをやる。けどこのままやられっぱなしってのは面白くないな」
オルガやビスケットはどこかあきらめたような表情をする。
「ったくお前ら……まあどのみちこのままじゃ埒が明かねぇしな。やるか!」
「まあ、待ってても捕まるだけだしね」
テレビ局の報道が上から規制がかかると同時に近くを鉄華団が通りかかる、彼らを追いかけていくと何とか話ができる状況になった。
「おい!君たち!君あの時デモ隊の中にいた子だよね?よかったらちょっと話をきかせてくれないか?」
「悪いけど急いでいるんだ」
「いや少しだけでもいいんだ。個人的には今回の報道は一方的過ぎると思っている。君たち労働者側の声もできるだけ伝えたいんだよ」
「だから急いでるって……」
オルガが断っていると後ろかクーデリアが出てきた。
「待ってください。私の声を届けてくださるというなら望むところです。そのために火星から来たのですから」
「あんたは?」
「クーデリア・藍那・バーンスタインと申します」
「クーデリア……あっバーンスタイン!あの独立運動の!」
オルガが間に入って止めようとしていると、後ろからビスケットがオルガに話しかける。
「報道スタッフなら専用ランチを持ってるはずだよ。報道用の専用回線もね」
「本気なんだな?」
「ええ。すんません兄貴、依頼主の希望で俺たちは一番派手なやり方で地球を目指すことになっちまった」
「ここまで事が大きくなっちまった以上テイワズとして名の売れてる俺たちは出ていけねぇぞ。親父にまで迷惑がかかるからな」
「分かってます」
「そうか。まっ腹くくったんなら根性見せろや」
「はい!」
オルガと名瀬が通信している傍らユージン達はランチの近くで待機していた。
すると、ビスケットは通路の角で何かの物音を聞いてしまいそっちのほうに歩いていき、角から顔をのぞかせるがそこには何もいなかった。一歩一歩と少しずつ体を乗り出していくと、突然体を壁にたたきつけられてしまう。ビスケットの正面にはサブレの姿が有った。
「さ、サブ……!」
「しっ!静かに」
ビスケットが声をあげそうになるのを片手で押さえて止めるとサブレはビスケットの手にお金を渡した。
「火星までの片道代。それで火星まで帰ってくれ。そして鉄華団にはもうかかわらないでくれ。頭のいい兄貴なら俺たちの目的ぐらいわかるだろ?兄貴を殺したくない。だから帰ってくれ」
ビスケットは強引に手を引きはがす。
「む、無理だよ!俺には鉄華団を裏切れない。それにクッキーやクラッカーやおばあちゃんの事だって鉄華団がないと……」
「だったらこれからは俺が定期的にお金を入れるようにするよ、兄貴はそれで何とかしのいでくれ。ゆっくり探せば何とか仕事は見つかるだろ?」
「俺にとって………俺にとって鉄華団は家族だ!」
「俺にとっては兄貴たちが家族だ。わがままを言わないでくれ、これは最後の警告だ。二度目はない」
サブレがその場を去ろうとするのをビスケットは止めた。
「待って!どうしてサヴァラン兄さんを殺したの?仕事の依頼以外にあるのなら教えてほしい」
「………サヴァラン兄貴が俺をフォートレスに売りさばいたからだ」
そういうとサブレは通路の奥に消えていき、ビスケットは大きな声をあげる。
「う、嘘だ!!!」
オルガはビスケットを連れてランチに入ってきた。明らかにビスケットの状態が変わっており、どこか死にそうなほど表情を暗くさせていた。
「ビスケット、何かあったのか?」
「ああ、いろいろとな」
「それよりも彼は一人で大丈夫なのか?」
三日月は単身ランチからバルバトスのもとに向かっていた。
「心配いらねぇよ。丸腰のランチだけで飛び出すわけにはいかねぇだろ」
クーデリアは「あの……」と切り出した。
「このコロニーで働く人々の事を出来るだけ教えてくれませんか?知りたいのですもっと……もっともっとたくさんの事を」
クーデリアもまた前へ進もうとしていた。
そうしている間に三日月はバルバトスの元にたどり着いた。
「すごいなあいつ。俺は……」
三日月の視線の先にまつバルバトスを見つめると心に一つの感情が生まれた。
(あぁ……イライラする)
バルバトスはメイスを振りかぶりギャラルホルンのMSを薙ぎ払った。そのまま攻撃から回避すると、数機のMSがあっという間に撃墜されていく。
「もらった!この間合いなら!」
一機のMSが斧を振り下ろそうとするが、三日月はそれを片手で受け止めた。
「まさか!マニュピュレーターで受け止めただと!?」
しかし、三日月が攻撃をしようとしたその瞬間コックピット内に一つの警報が鳴った。ガエリオ・ボードウィンが乗るガンダムキマリスがランスを構え突っ込んできた。三日月はそれを紙一重で回避する。
「この出力、この性能、予想以上だ。まっそれでなくては骨董品を我が家の蔵から引っ張り出した甲斐がない!」
再びキマリスはバルバトスに突撃をかけ、バルバトスはそれをメイスで防いだ。さらにアイン・ダルトンもまたシュヴァルべ・グレイズに乗りバルバトスに攻撃を仕掛けてきた。
「ガンダムフレーム……貴様なんぞには過ぎた名だ、身の程をしれ小僧!」
アインの攻撃をあえて受けるバルバトスに、アインの視線がその後ろに移動しているランチに向いた。
「あれは!そういうことか!」
アインが張り出すとバルバトスがそれを止めようとしたがそれをキマリスが妨害する。その隙にアインはたどり着きかけるが、しかしそれをイサリビが妨害した。
オルガたちがブリッジにたどり着くと、自分たちの置かれた状況をいまいち把握できていない報道陣は困惑していた。
「私たちは君らの戦いに加担するつもりは……」
「分かっています。準備が整うまでここで少しお待ちください。私に考えがあります」
そういうとクーデリアはそのままブリッジを出ていく。
その間シノはグレイズで出撃しようとしていた。
「早速来やがった。シノ!出られるか?」
「おう!いつでも行けるぜ!」
「気を付けてね」
「へっ!氷の花咲かせんのは当分先だぜ!ノルバ・シノ。流星号行くぜおらぁ~!」
シノがそのまま出撃するが、MSデッキではライドと雪之丞がなんだそれと言わんばかりの顔で互いを見ていた。
「「流星号?」」
アインとシノが交戦に入ると三日月はキマリスの機動力に翻弄されていった。
「どうした?阿頼耶識とやらでも追いきれないか?」
一気に近づき攻撃を仕掛けようとするが、バルバトスはそれを紙一重で回避する。
「捕まえ……た」
「放せ!この宇宙ネズミが!」
「ん?この声……。あんたチョコの隣の……」
「ガエリオ・ボードウィンだ!」
「ガリガリ?」
「貴様わざとか!?」
「まあなんでもいいや。どうせすぐに消える名前だ」
バルバトスがメイスを振り下ろそうとすると、キマリスはそれをスラッシュディスクで牽制をし、そのままバルバトスを投げつける。
ノブリスはマクマードの考えに疑問を持っていた。
「マクマードめ何を考えている。あの小娘にそこまでの価値が……」
「ノブリス様メールが届いております」
「今度は誰だ?」
「それが……クーデリア・藍那・バーンスタインからです」
そのメールの中身を見た瞬間ノブリスは高笑いを始めた。
キマリスとの戦闘に昭弘が応援に駆け付ける。
「昭弘?それできたんだ?」
「ああ、ガンダムフレームグシオンリベイクだ!」
「助かった。でも早いよあのガリガリ」
「ガリガリ?なんだそりゃ?俺はまだ阿頼耶識になれてねぇ。二人掛でやるぞ!」
キマリスのピンチにアインが駆け付けるが、アインは戦闘の影響で負傷してしまいあえなく撤退する。
三日月たちの目の前にはアリアンロッド艦隊の本隊が待ち構えていた。
「すげぇ数だな」
「逃げてぇ~」
「逃がしてもらえるもんならね」
「私はクーデリア・藍那・バーンスタインです」
そのとたん、クーデリアの声が届いた。
「今テレビの画面を通して世界の皆さんに呼びかけています。私の声が届いていますか?皆さんにお伝えします。宇宙の片隅……ドルトコロニーで起きていることを、そこに生きる人々の真実を」
ギャラルホルンが情報統制を敷いている中、クーデリアはノブリスの援助を受け、世界中に映像を発信していた。
これから流れる映像は彼女の決意の表れだった。
どうだったでしょうか?次回はいよいよコロニー編完結です!いよいよフォートレスとの全面対決の場がやってきました。次回はほとんどオリジナル回です!
次回は『兄弟』です!