機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別   作:グランクラン

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今回の短編集2の時期は最終決戦~エピローグ回までに起きたことです。


短編集2

【新しい家族】

 ビスケットとサブレが鉄華団と感動的な別れを告げた後の事、地球圏に降りた直後に新設ヴィーンゴールヴに辿り着いた。二人してヴィーンゴールヴを歩いて家まで行こうと言い出したのはビスケットだった。サブレは強く反対するとビスケットは渋々ながら車で移動することにした。マハラジャが用意した送迎車に乗り込んで家に辿り着いたときには既に昼が過ぎてしまっていた。

「「…………」」

 二人は唖然としながらグリフォン家と書かれた大きな家を見た。門とゲート、芝生が広がった庭、三階建ての横に長い洋館、明らかに自分たちが過ごす家にしては大きすぎるような気がしていた。

「……あのクソオッサン」

 つぶやくように悪態をつくサブレにビスケットは苦笑いを浮かべる。この家の設計段階からマハラジャが随分口を出したと聞いていた二人はマハラジャが意図してこんな大きな洋館にしたのだと理解した。

 二人はゲートを開けて家まで伸びる真っ白な道を進んで行く。門から洋館に辿り着くのにざっと一分ほどかかってしまう。ビスケットやサブレより大きな玄関ドアのカギを開け、二人で同時にドアを開ける。

 静かにドアが開き二人の目の前に広がった玄関は何十人が入るのか分からないような大きさで、正面にある木造の両手開きのドアを開けると、玄関より大きく広いリビングが広がっていた。

 しかし、そんな広さが全く気にならないくらいにリビングの大きなソファに座り、一面ガラス張りの窓から海を眺める一人の男がいた。

 男というか―――――マハラジャがいた。

「な、な、なんであんたが俺たちの家にいるんだよ!?」

 サブレが叫ぶ。

 サブレとビスケットも正式に結婚し、ジュリエッタとアトラの二人共がグリフォン家に入籍したので二人がいることを想定していたが、マハラジャはグラスに氷を大量に入れ酒を飲んでいた。

 サブレの声が聞こえてくるとマハラジャそっと後ろを向き、そのまま再び視線を戻す。

「俺の家でもあるからだが?」

「ふざけんな!一から十まできっちり説明しろ!ここはグリフォン家の家だぞ!」

「ふう、全く騒がしい奴だ。なんでかと言えば俺もグリフォン家に入ったからだ。当然だろう?というかお前の兄から聞いていないのか?」

 サブレはキッと睨みつけるとビスケットは軽く怯んでしまう。ビスケットは小さな声で「だって……」と反論を述べようとすると、玄関口からアトラとジュリエッタの声が聞こえてきた。二人は揃って後ろを振り向くと、お腹が大きくなっている二人の姿があった。

 アトラとジュリエッタが二人そろってサブレを説得するとサブレは渋々納得した後に、あえてマハラジャから離れるところに座り込む。アトラが買い物袋から冷蔵庫に食材を入れていく中、ジュリエッタは不慣れな手さばきで洗濯物を畳んでいた。見てられなかったサブレがジュリエッタを手伝っている。ビスケットはその間にマハラジャにふと尋ねる。

「いいんですか?こんなところで休んでいて……」

「ああ、今ギャラルホルンの組織を経済圏と共に経済連合軍として防衛軍と統一化する計画を進めているんだがな、アルベルトの奴が代わりにやっているからな。正直めんどくさい作業は全部押し付けてきた」

 平然と告げるマハラジャの言葉をどこか引きつりながら苦笑いを浮かべた。玄関からさらに大きな怒号が聞こえてきた。

「マハラジャ!!??貴様書類整理の最中に逃げるな!!」

 アルベルトがリビングに入ってくると、マハラジャの首根っこを掴んでそのまま家から出ていく。出ていく際にビスケットに軽く会釈をしていく。酒を飲みながら出ていくマハラジャを唖然としながら見ていたのはビスケットだった。ビスケットはふと周囲を見回す。

 新しい家は新しい家族を受け入れていた。

 

【火星鉄道】

 ビスケットやサブレ、昭弘達が火星を去ってからオルガ率いるファミリアは火星中に鉄道を敷いていく。二年が経った頃桜の家周辺に大きな建物が経っていく。桜は三日月に農場を預けると小旅行で火星を出ていった。農場の名前はオーガス農場と変え、トウモロコシ畑を町開拓に与え、別のところに畑を広げていく。そして施設の地下に別の畑を作っていく。二年が経った後、三日月はある作物の栽培を行おうとしていた。

 三日月は畑を少し高いところから眺めると、そこに一面広がる小麦畑。

『きれいだな』

 三日月はかつてサブレから小麦の事を聞いていた。様々に加工に使える作物、そして一面広がるその光景はとてもきれいだと、そう聞いていた。

 一面に広がる黄金色の光景に目を細める。

 振り返ると広がる様々な建物に網目のような道、さらに遠くにうっすらと見えるのは鉄華団の犠牲者が書かれた慰霊碑のある丘だった。そして、街の外へ広がるトウモロコシ畑と小麦畑。これが今三日月が住む新しい街でありファミリア本部が置かれた『フリージア市』街の端には鉄華団本部。

 鉄華団の現団長はユージンだった。オルガはファミリアのトップに立つにあたってユージンに鉄華団の団長を任せた。新しいメンバーを大量に入れる中各隊長も変わり、部隊も増えていった。

 まず一番隊の隊長を務めたのは二番隊所属だったライドだった。シノは第二次厄祭戦の後一年後にヤマギと共にヤマギファクトリーを一緒に作ってシノが鉄華団を去ったためライドが代わりに隊長になった。

 二番隊隊長になったのは昭弘の弟の昌弘だった。

 三番隊の隊長はサブレの一存でハッシュになった。

 それ以外にも他に二つ部隊が増設された。鉄道防衛隊である四番隊。アーレスなどの宇宙防衛を目的とした五番隊が作られた。

 三日月が鉄華団本部を見ているとフリージア駅にクリュセ市に名前を変えた市から来た列車が停車していた。

『そろそろクッキーとクラッカが学校から帰ってくる頃だと思うけど……』

 そう思うと二人を迎えに行くためにトラックに乗り込み駅に向けて走り出す。フリージア市の中心にまっすぐ伸びている大通りを走っていくと人が最も集まっている駅とその周辺にある中心街に辿り着いた。駅の中に入っていくと、駅からオーガス農場へと帰ろうと足を進めているクッキーとクラッカを見付けて側に付ける。クッキーとクラッカもそれを見付けると駆け寄って車に乗り込む。

「三日月はどこに行ってたの?」

「……別に、農場を見てただけ」

 二人は「ふーん」と興味をなくしてギュウギュウになりながら流れる景色をどこか寂しそうな表情になる。その気持ちはよく分かる。いくら農場の場所を移したと言っても、農場が大きくなったと言っても、自分達の過ごしたこの場所に人があつまってきても、それでも寂しいと思ってしまう。それだけは三日月にもよく分かる。今通っているこの道も元々は桜の家から鉄華団へとつながる何もない道だったのに、今では高い建物や整備された道ばかりが見える。そんな中クッキーが三日月に頼んだ。

「ねえ、三日月。慰霊碑のあるあの公園に行きたい」

 三日月は「分かった」と答え、そのままオーガス農場へと帰らずまっすぐ慰霊碑の元に進む。

 今では慰霊碑のあったあの広場は大きな公園になっていた。フリージア市を眺められる高台に三つの慰霊碑が建てられていた。一つは鉄華団の犠牲者が書かれており、もう一つはオルガの意向で先の戦いの中で歴史に乗せられない者の名前が書かれていた。

『ラスタル・エリオン。イオク・クジャン』

 そんな鉄華団にとって忌まわしい者の名前も書かれていた。ユージンやシノは反対したが、マクマードがオルガに告げた言葉から、オルガは彼らがしてしまったことを忘れないために名前を載せた。

 そして、最後の慰霊碑には一つの言葉が乗っていた。

『彼らがしてしまった行いを忘れてはいけない。その中に我々が犠牲を払ったことを忘れてはいけない。この世界が彼らの犠牲の元にできた世界だということを忘れてはいけない』

 その下には鉄華団以外の第二次厄祭戦により犠牲を払ってしまった者達の名前を書かれていた。クッキーとクラッカは慰霊碑に祈る。

 三日月も同時に祈ってしまう。

 ―――――この世界がいつまでも幸せでありますように。

 

【新たな力】

 カゲロウはデブリ帯へと近づくとカゲロウの格納庫では新たな機体がテストを行おうとしていた。

 ラスタル・エリオン事件から、第二次厄祭戦からすでに7年が経過していた。ギャラルホルンや各経済圏は一つの組織として再編成を余儀なくされ、二年後には経済連合が作られ、ギャラルホルンは経済連合軍に変わっていった。その後3年後にはビスケット・グリフォンが経済連合軍のトップにたった。

 そんな経緯があったのちに、サブレは新たなサブレ専用機のモビルスーツが新型のシステムを載せて実戦を想定したテストを行おうとしていた。

 サブレはノーマルスーツを着込んで格納庫に急ぐ。格納庫に辿り着くとサブレの目の前に新たなガンダムフレームであるネオガンダムフレームである『ガンダムエデン』と名付けられた機体を視界に入れる。ガンダムエデンの体は基本はガンダムフレームに似ているが、カラーリングは白を基本としボディなどに青や赤がカラーリングしている。エイハブ・リアクター以外に両肩に別のエンジンのような物がくっついている。

 正式名『パーティクルドライブ』と呼ばれているエンジンであり、エイハブ・リアクターと連結することでエイハブ粒子の性質を変えさせ、パーティクルドライブの力を最大限引き出すことができる。

 サブレはコックピットの中に入っていくと、機体を起動させる。

『ネオ・ガンダム・フレーム起動。エイハブ・リアクターとパーティクルドライブを連結させています。連結完了。ガンダムエデン起動します』

 サブレはハッチを閉じ、ガンダムエデンがカタパルトデッキに移動していくと、ガンダムエデンがセットされると、そのまま出撃していく。

 エデンはデブリ帯をそのままを走り出し、デブリを蹴りデブリを回避しながら移動速度を確かめていく。今までのガンダムフレームを圧倒的に超えるような速度が出ていく。しかし、それでもサブレにかかるGはパーティクルドライブによって強化されたエイハブ・リアクターによってGはほとんどかからない。さらに速度を増していくと、サブレの機体を動かす腕が止まる。ブリッジはサブレに疑問を放つ。

「どうした?」

「妙な動きをしている機体がある」

 ブリッジは周囲の索敵に入ると、未確認の固有周波数が10機以上ガンダムエデンに近づいてくる。ブリッジはサブレに撤退を促すがサブレはそれを拒否した。

「いや、実践テストにはちょうどいい相手かもしれない」

 見た目はロディ・フレームが五機、ゲイレールが五機近づいてくる。

「見たか?動きはすげぇけど、武器を持っていないぜ!見た感じライフルらしきものを腰につけているだけだ!」

 そういって三機のロディが斧を振り回してガンダムエデンを襲おうとするが、サブレはガンダムエデンを敵に向けて走らせ、ロディの斧を何かで切り裂く。ゲイレールのパイロットはガンダムエデンの武器を驚愕の表情でつぶやく。

「なんで、なんでビームサーベルでモビルスーツを斬ることができるんだよ!」

 そしてライフルを取り出すと、ビームをゲイレールに当てる。ゲイレールのコックピットはビームで焼かれてしまう。別のパイロットは恐怖に表情がゆがむ。

「なんで……どうして……だってビームは効かないはずじゃ……」

「教えてやろうか?」

 いつの間にかガンダムエデンはほかの機体を倒し、最後のゲイレールをつかむ。

「エイハブ・リアクターによってパーティクルドライブが作るビーム兵器はただの熱線兵器ではなく、貫通力や切断能力を底上げされたビーム兵器だということだ。それ以外にもエイハブ・スラスターを全身のスラスターへと回しているんだよ。簡単に言えば、推進材などを必要とせずに半永久に戦えるモビルスーツがこのガンダムエデンなんだよ」

 ゲイレールのパイロットはゾッとしながらその話を聞いていた。パイロットが大丈夫な限り永遠に戦えることができる機体。もし、そんな機体が完成したのだとしたら、時代は大きく変わる。

 ―――――男は黙って投降した。

 

 ガンダムエデンはそのまま経済連合軍の本部であるヴィーンゴールヴの格納庫の一つである0と書かれた格納庫の中に入れられていた。

 代表になったビスケットがヴィーンゴールヴにある記念館に飾られているガンダムアガレスフルアーマーの元を訪れていた。そんなところにサブレがそっと話しかける。

「代表がこんなところにいていいのか?」

「……ちょうど暇になったんだ」

 優しく微笑むビスケットは自分より少し背が高くなったサブレを迎える。一緒にガンダムアガレス見たさにこの記念館は人気になっていた。

 ガンダムアガレスは厄祭戦を潜り抜けた英雄機として人気があり、地球圏内外からこの記念館見たさに人が集まってるが、今はこの記念館はリニューアルの為に人がいなくなっていた。

「懐かしいね、これに乗って戦っていたのが……」

「今じゃ代表は経済連合軍の代表で俺は副司令官だ。変わるもんだ」

 ビスケットはどこか複雑な表情に変わるとはっきり告げた。

「ねえ、二人っきりの時ぐらいさ俺のことを代表って呼ばなくていいんじゃない?」

「アルベルト司令官から言われたろ?互いに制服を着ている間は互いに役職でって。今はまだ仕事の最中だ。俺たちは今や司令官や代表という組織のトップだ。公私を分ける必要がある。それに仕事以外だと『兄さん』っと呼んでるだろ」

 ビスケットは渋々納得すると、再び視界を上に向ける。ビスケットとサブレは一緒に記念館を後にすると、一つの車から運転手が姿を現す。

「ビスケット・グリフォン代表。サブレ・グリフォン副総司令官。先ほどアルベルト・シュキュナー総司令官が話があるそうです」

「行こうか?サブレ副総司令官」

「そうだな、ビスケット代表」

 二人はともに歩き出す。

 この道を―――――この世界を。




どうだってでしょうか?三話目に出てきたガンダムエデンは次回作である機動戦士ガンダムEの中盤から最終決戦までの主人公機になります。
次回はいよいよエピローグ回になります。同時にエピローグ時点での設定集を書くつもりです。では、次回のタイトルは『エピローグ設定集』と『フリージア』です!最後までよろしくお願いします。

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