機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別   作:グランクラン

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ラフタ回です!ラフタと昭弘がどうなっていくのか楽しみにしていてください。


それぞれの愛

「すまねぇ。名瀬の兄貴の遺体はハンマーヘッドごとギャラルホルンに押収されちまった。姐さんの百錬も……」

 シノからその後の状況を説明されたオルガはただ歯噛みすることしかできなかった。

 マクマードの部屋にジャスレイが姿を現すと名瀬の葬式を歳星でするマクマードに強く意見を出す。

「正気ですかい?おやじ。名瀬の葬式をこの歳星でやるなんて」

「ここは俺の持ち物だ。何やったって勝手だろうが」

「名瀬はギャラルホルンから指名手配された犯罪者だ。その葬式をおやじが出すって意味を……」

「死ねばみんな仏様よ。それに今回の件はいろいろと納得いかねぇことがあってなぁ。いろいろとな」

 ジャスレイを軽く睨みつけるような視線をマクマードは向ける。ジャスレイは怯んでしまいそのまま部屋を出ていく。

 ジャスレイは自分の事務所に戻ると苛立ちを周囲に向ける。

「おやじももう終わりだな。死んだのは名瀬、生きてんのは俺。テイワズの頭として損得を考えりゃ俺の側に付くのが当然じゃないの……イオク・クジャンは?」

 ジャスレイの隣に座っていた部下の一人が答える。

「今時直筆の感謝状が届きましたよ。例の件も喜んで力を貸すと」

 ジャスレイはあくどい笑顔になる。

「あの耄碌爺に引導を渡してやる頃合いかもしれねぇな。しかし、それにはちょいとした下ごしらえがいる」

 

 名瀬とアミダの葬式の場にジャスレイが姿を現す。

「おお~!ちゃんと届いているじゃないの。結構結構」

「さすが叔父貴」

「叔父貴の名前かっこいいっすね」

 ジャスレイ一行は鉄華団のメンバーを発見すると挑発する。

「おお~?どうも臭ぇと思ったら宇宙ネズミご一行様か」

「尊敬する兄貴の最後だ。しっかり見届けてやれよ。まっあの汚ぇ長髪の一本も残っちゃいねぇみたいだがな。ははははっ!」

 挑発にユージンが乗ろうとするのをオルガが止める。ユージンが振り向きざまに怒鳴る。

「なんで止めるんだよ!あいつら……」

「今はよせ……チャンスは必ず来る」

 ユージンはオルガからの言葉を受け渋々引き下がる。シノがオルガに尋ねる。

「なあ……ビスケットとサブレはどうしたんだ?」

「あいつらならおやじに呼び出されて今仕事の最中だ」

 

 葬式が始まる前にビスケットとサブレはマクマードに呼び出されて部屋にやってくる。マクマードは豪快に笑いながら二人をソファへと導く。二人は恐る恐るソファに座るとマクマードはそのまま本題に入る。

「おめぇらに頼みたいことがある。ある人物の護衛を願いてぇ。頼めるか?」

「ある人物というのは?」

 ビスケットが訪ねると、マクマードは二人の写真を取り出し二人に見せる。そこに移っていたのはアジーとラフタが映し出されていた。

「アジーさんとラフタさんですか?」

「マーズ・マセの読みではお前たちと最もかかわりの深いこの二人とエーコの三人が危ねぇって話だ。エーコって嬢ちゃんはこちらで護衛する。おめぇらはこの二人を頼む」

 サブレとビスケットは黙ってうなずき、そのまま部屋を後にする。二人は歳星のマクマード邸を出ていくと、そのまま葬式が外から眺められる場所へと移動する。ビスケットは隣でイライラしているサブレに尋ねる。

「なんか……最近イライラしていることが多いよね。名瀬さんが死んだから?」

「さぁね……昔はそうでもなかったんだよね」

 サブレの言葉にビスケットは昔を思い出しクスクスと笑い出す。サブレはどこかムッと表情を変え、ビスケットは笑いながら謝る。

「ごめんごめん。サブレは昔人を殺すことにすらためらいがなかったでしょ?俺はね……正直に言えば怖かった。何考えているのか分からなかったし……」

 サブレはぶすーっとした表情になるとビスケットは苦笑いになる。

「分かってたよ……でもそういうことを本人に言う?」

「サブレ……何かあった?なんか落ち着きがないけど……」

 サブレは正直に答える。

「……アミダさんに俺の今の気持ちは恋だって指摘された」

「そっか……で?どうするの?」

 少し考えると答える。

「まだ自分の気持ちを整理してないんだよ……なにかが足りないんだよな」

 

 ジュリエッタは通路をまっすぐ進んでいくとマーズ・マセの部下が部屋の中に案内する。目の前の通信機の画面にマーズ・マセが映る。ジュリエッタはイオクの言動と証拠の映像のすべてをマーズ・マセに送ると、愚痴を漏らす。

「めんどくさい仕事をよこしますね」

「まあそういうな……サブレと会いたかったろ?俺はお前たちに何もしてやれなかった」

 ジュリエッタは少しだけ悩むとマーズ・マセにお願いをする。

「お願いします。ラスタル様と戦う前に一回でいいのであの人と戦わせてください。私たちの気持ちを伝え合うために必要なことなんです」

「分かった……考えておこう………あいつが怒りそうだが」

 

 マクマードはラフタ達を呼び出すと名瀬の遺志をそのまま受け継ぐ。

「あいつの遺志通りお前らの今後は俺がきっちり面倒を見る。まっそもそもお前らがいなくっちゃテイワズの流通は回らねぇんだ。これからも頼むぞ」

 ラフタ達はそのままマクマード邸を出ていくと、三人で話していた。

「マクマードさんマジでいい人だったね。うちらはあんましゃべったことなかったけど」

 エーコがそういうとラフタが同意する。

「うん。ダーリンが慕ってたわけだ」

 アジーはラフタに尋ねる。

「ラフタ。あんたは行ってもいいんだよ」

「え?どこに?」

「鉄華団に……さっき聞いた通りうちにはモビルスーツの乗り手は必要なくなる。だけど鉄華団は戦力を常に欲してるからね。自分の気持ちに素直になっていいんだ。姐さんもそれを望んでた」

『あんた達はろくに恋も知らないまんまここに来た。名瀬は私らを平等に愛してくれる。だけど女なら誰だって欲してるはずさ。自分だけの男をね』

 かつてアミダがそうアジーに告げると、アジーは不思議そうな顔になる。

『姐さんもそんなふうに思うんですか?』

『前にアトラにも言ったことがあるんだけど。いい男の愛ってのはみんなでどんだけ分けても満足できる。そこらの並の男の愛なんかよりよっぽどね。ただラフタが惹かれるぐらいなら並の男じゃないだろう。そのでっかい愛を受け止められるんなら女としてそれ以上の幸せはないさ』

 アジーはアミダの言葉をそのままラフタに告げると、ラフタは少しだけ悩む。

「まあ考えてみなよラフタ」

 

 ラスタルはイオクを呼び出す。

「先日のタービンズとかいう組織への調査の件だが情報提供者は例のジャスレイ・ドノミコルスか?」

 イオクはイキイキした表情をする。

「ご明察の通りです!ラスタル様に無断での出撃申し訳ありませんでした!しかし、これでマクギリスの火星での活動に楔を打ち込むことができ……」

「マクギリスがお前が本部から持ち出した装備について嗅ぎ回っている。我々に必要なのは秩序と節度。その言葉の意味もう一度よく考えてみろ」

 イオクは唖然とした表情をしていた。

 

「タービンズは内側から刺された。裏で糸引いてんのはあのジャスレイってのに決まってんだろ!」

 ユージンの感情のこもった言葉にシノも同意する。

「お前がやるってんなら俺達は乗るぜオルガ」

「少しだけ待て……おやじとマーズ・マセがジャスレイを孤立させるための作戦を立ててるそれを待て」

 三日月がそのままジーっとオルガを見ているとき、ラフタは昭弘と話をしていた。

「その……あんた達さ明日には帰っちゃうんだよね?」

「ああ。バルバトスの修理も終わったからな。アガレスは後で合流するって話だけど……」

「よかったらさ。今から少しだけ飲みにいかない?」

 二人の話を立ち聞きしているユージンとシノなど知る由もなく二人は話を続ける。

「分かった」

「じゃあ……」

「待ってろ。みんなを呼んでくるから」

 ラフタの気持ちなど知る由もない昭弘は通路を曲がったところでユージンとシノは招弘の首根っこをつかむ。

「聞いてたのか。お前らも……」

「バカじゃねぇのか!?お前二人っきりで行って来いよ!女心が分かってねぇな!」

 シノの言葉を全く理解できてない昭弘は理由が分からないという表情になる。

「なぜ二人で?」

「そこにはよぉ……金で買えない愛があるかもしれねぇだろうが」

「兄貴だけで行って来いよ……鈍感兄貴」

「昌弘?」

 突然後ろから話しかけてきた昌弘に驚きつつ、昌弘はまっすぐ昭弘を見つめ、その視線に昭弘は軽く怯む。

「わ……分かった」

 

 昭弘はかつて鉄華団が訪れたバーへとラフタを連れて行った。

「こんなお店知ってるんだ。昭弘すごいじゃん」

「いや前に歳星に来た時に鉄華団のみんなと来てな」

 ラフタは自分の胸に手を置き語る。

「なんか変な感じなんだ。いろんなものがごっそりここから持っていかれた感じ。私ね、ガキの頃から違法船で働いて仲間は女ばっかだったけど雇い主がひどいおっさんでさ。みんないっつも暗い表情でおしゃべりもなくて……それが当たり前だと思ってた。でもダーリンと姐さんが助けてくれて……私ね。それまでほんとに何も知らなかった。読み書きだけじゃなくて楽しいとか嬉しいとかあったかいとか、人として当たり前のこと。誰かを好きだって思う気持ち。守りたいって願うもの。全部タービンズに入ってから教えてもらった」

「それは俺も同じだ。鉄華団に入って初めて自分が本当はどんな奴だったか分かったような気がする」

「優しいよ昭弘は。ただの筋肉バカだと思ってたけど誰より周りを見てる。人のことを自分の事みたいに考えられて……不器用だけどそっと……言葉なんてなくても気持ちで隣に寄り添ってあげられる。そんな奴。そ~んでもってさ。隣により添われてもどうにも暑苦しいからこっちも無理やり元気だして立ち上がるしかなくなるの」

「バカにしてるだろ?」

「やだな。褒めてるんだよ。だって私はあんたのそういうところが……」

 ラフタは喉元まで出かかった言葉をグッと飲み込み、まっすぐ招弘の方を向く。

「私ねここに残るよ。マクマードさんはうちらを守ってくれるって言うけど頼ってばかりもいられないし、それにダーリンと姐さんが教えてくれたことちゃんと伝えていきたいから」

 昭弘もまっすぐラフタを見つめ、自分の気持ちを伝える。

「俺はお前を尊敬する。筋を通さねばならないことを大事にせねばならないものをきちんと見つめ、まっすぐに生きる……俺もお前のようにありたいと思う」

 二人はバーを離れてそのまま外に出ると別れの挨拶をしている。

「これでほんとうにさよならだね」

「また仕事で会うこともあるだろう。その時はよろしく頼む」

 鈍感な昭弘はラフタの気持ちに気が付かない。

「そうだよね……あっ!忘れてた!ぎゅ~!!」

 ラフタは招弘に抱き着き、昭弘は固まってしまう。

「ハグくらい挨拶みたいなもんでしょ?な~に赤くなってんの?じゃあね」

 昭弘は表情を赤くする。

(私はタービンズが好き。ダーリンが、姐さんが大好き。でもそれとは違う。こんな気持ちになったのは初めてだよ昭弘)

 しかし、そんな会話を聞いていた昌弘は歯切りする。

「なにやってんだよ……兄貴」

 

 ジャスレイが酒を飲んでいる中、葬式の一件の愚痴を漏らす。

「期待外れだぜあのガキども。あれだけ煽ってやったのによぉ。敵討ちだなんだと突っかかってきてくれりゃあでっけぇケンカができるのによぉ。おやじも巻き込んででっけぇのが。しかたねぇ。こうなったら嫌が応でも男を見せてもらうほかねぇなぁ」

 ジャスレイは自身の行動が常に監視されているとも知らずに。

 

 昭弘がイサリビの廊下を歩いていると後ろから昌弘が姿を見せる。

「昌弘か……どうかしたのか?」

「何遣ってるんだよ……兄貴」

 昌弘が何を言っているのかが理解できず、首をかしげる。イライラする昌弘は睨みつけながら怒鳴る。

「分かんねぇのかよ!!ラフタさんは兄貴のことが好きなんだよ!!!本当は兄貴に好きだって言いたいのに……なんで気が付かないんだよ!!この鈍感兄貴!」

 昌弘の言葉にラフタのセリフを思い出す。

『だって私はあんたのそんなところが……』

 動揺する昭弘に昌弘はさらに怒鳴りつける。

「男なら自分の気持ちを伝えて来いよ!」

 昭弘は昌弘に手を置き、そのまままっすぐ走り出す。

「すまねぇ……昌弘」

 

「ちょっと買い過ぎちゃったかなぁ?でも仕事が始まったら当分こういう買い物はできないだろうしね」

 ラフタとアジーが二人で買い物しながら歩いているとアジーは振り返る。

「買い忘れ。さっきの店が。ちょっと待ってて」

 ラフタは近くにあるぬいぐるみショップに入ると昭弘に似ているぬいぐるみを見付けた。

「へぇ~かわいいじゃん。何?この子、目つき悪っ。なんか似てるかも」

 昭弘はラフタを探してぬいぐるみショップの近くに寄ると、ビスケットが後ろから声を出す。

「昭弘!ぬいぐるみショップにラフタさんが!狙われてる!」

 昭弘はぬいぐるみショップに入る。

「え?昭弘!?」

「ラフタ!!」

 昭弘はラフタに抱き着くとそのまま押し倒す。先ほどまでラフタがいた場所に銃撃で窓ガラスが割れる。後ろからビスケットが追いかける。男は追いかけられることに驚き銃を捨てて走り去る。男がいなくなったことを昭弘は確認するとラフタを立ち上がらせる。

「大丈夫か?」

「うん……でどうしたの?あんた……鉄華団と一緒に帰ったんじゃなかったけ?」

 昭弘は少し恥ずかしそうにする。

「いや……こういう時になんて言えばいいのか……その……お前のことが……その……」

 昭弘が何を言おうとするかわかってしまったラフタはクスクス笑ってしまう。

「なんだよ……」

「なんでもないよ……何?聞きたいな」

 昭弘は珍しく顔を赤くし、そのまま告白する。

「……お前のことがす……好きだラフタ」

「うん……私も好き!」

 二人は少しずつ手を握る。

 ビスケットが走って男を追いかけると男はそのままサブレにぶつかってしまう。サブレは男の首を絞めながら持ち上げる。

「さて……誰に言われてラフタさんを殺そうとした?」

 男は口を噤んでいると、サブレはビスケットに尋ねる。

「ねえ、しゃべれる程度になら痛めつけてもいいんだよな?」

「う、うん」

 サブレはなんの容赦もなく男の手の指を折る。

「ぎゃー!!」

「一回しか言わないぞ。すべての指の骨を折られたくなければさっさとしゃべってしまったほうがいいぞ」

 男はサブレの気迫に気圧されてしまいしゃべってしまう。

「ジャ、ジャスレイで……です」

 

「お、叔父貴!」

 ジャスレイの部下がジャスレイのもとに姿を現す。

「どうした?」

「タービンズ達への刺客が鉄華団に見つかったそうで……おやじにばれたそうです!」

 ジャスレイの顔があっという間に青くなっていく。

 

 ラフタと昭弘はマクマード邸に呼び出される。

「あの~私たちに話があるって」

 マクマードは黙って立ち上がる。

「まず……ラフタといったな、おめぇさんには今後鉄華団とテイワズの間のパイプ役をやってもらう。これはアジー・グルミンからの頼みだ」

「アジー……」

「もちろんそれが終わったら流通に戻ってもらう。そして……昭弘って言ったな」

「は、はい!」

 昭弘は軽くビビりながら背筋を伸ばす。

「お前には個人的にお願いしたいことがある。単刀直入に言うぞ……お前さん名瀬の代わりにこいつらと一緒にタービンズの頭をやってくれないか?もちろんすぐに答えを聞きたいわけじゃない。今回の作戦が終わるまでには答えを聞きたい」

 そういうと二人はマクマード邸を出る。ラフタは恐る恐る昭弘に尋ねる。

「どうするの昭弘」

「……」

 悩んでしまっている昭弘は答えを出せずにいた。

 

 サブレとビスケットは歳星からイサリビに戻る為にアガレスとグシオン、辟邪をシャトルに乗せ、二人は出入り口で昭弘たちを待っていた。

「遅いね……二人とも」

「そうだね……げっ!マーズ・マセ」

 マーズ・マセが二人に近づいてくると、サブレは苦々しそうな顔になる。

「どうかしました?」

「ビスケット・グリフォン……君に話がある」

「何?婿に来いとか?」

 サブレがマーズ・マセを茶化そうとするが、マーズ・マセはサブレの頭を強く殴る。サブレは頭を押さえしゃがみ込む。ビスケットの方へとまっすぐ見つめる。

「ビスケット・グリフォン……今回の作戦が終わったらギャラルホルンに来ないか?出来れば俺の後継者になってほしい。サブレは今回の作戦が終わったら俺のもとで本部のモビルスーツ隊長になることになっている。まあ……今すぐじゃなくていい、そうだな……今回の作戦が終わるまでには答えを聞かせてくれ」

 そういうとマーズ・マセは立ち去っていく。

「……おめでとう」

 

 オルガ達はイサリビのブリッジで集まっている中、マクマードから通信がくる。

「鉄華団……お前らにテイワズとしての最後の仕事の依頼だ。ジャスレイの討伐を依頼する」

 いよいよジャスレイの討伐へ向けて突き進んでいく。




どうだっでしょうか?いよいよクライマックスに向けて進んで行きます。今回から少しずつ鉄華団のその後へ向けてそれぞれの進路が見えてきたと思います。ここからどうなっていくのか楽しみにしてください。
次回は『落とし前』です!楽しみにしてください!

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