機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 別   作:グランクラン

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最新話です。


嫉心の渦中で

 バルバトスがビスケットの前に降り立つと、バルバトスはビスケットを狙っていた二機のモビルスーツをあっという間に叩き潰した。

「大丈夫?ビスケット」

「助かったよ三日月。悪いけどサブレの援護に入ってあげてくれない?」

「……必要なさそうだけど」

 ビスケットは「えっ?」という声を上げサブレの方を見ると、四機のモビルスーツのうち二機はすでに倒しており、他の二機に対しても善戦していた。

「手助けいる?」

「いらないからシノの援護に行ってくれ」

「了解」

 バルバトスがそのままシノの援護へと足を運び、ビスケットはサブレの援護射撃を開始した。

「な……なんなんだよ……」

 ハッシュは目の前に降り立ったバルバトスに唖然としていた。

「バルバトス……形は少し変わってるけど間違いない。帰ってきたんだ……三日月さんが」

「はぁ?三日月ってあの使えない……」

「そうか。お前が入団した時にはもうバルバトスは修理にだしてたから……」

「だからなんだよ!たったひと月先に入っただけで先輩面か!」

「『鉄華団の悪魔』。常に最前線で戦う三日月さんに敵が付けた二つ名だ。バルバトスに阿頼耶識でつながった三日月さんは特別なんだよ。ちなみにサブレさんは『死神』って恐れられてる凄腕のパイロットだ。あの二人が今の鉄華団の最強のパイロットだ」

 次々とモビルスーツが倒されていく状況に敵のパイロットたちに動揺が走る。

「一瞬でモビルスーツを三つも!どうすんだよ!?」

「くそっ……化け物め……」

「な~によそ見してんだおらぁ!」

 流星号がすかさず攻撃を仕掛けそれを何とか受け止める。

「こいつすばしっこい!」

「ったりめぇだ!こいつにゃ先代流星号から戦闘データと阿頼耶識を受け継いでんだからな!」

「ここまでか!」

 敵は撤退信号をあげると、そのまま素早く去っていく。

「逃がすか!」

 ダンテがすかさず追おうとするのを三日月が止めた。

「あっ待って。なんかバルバトス動かなくなった」

「はぁ!?」

 サブレがため息を吐き、ビスケットがあきれたような表情を浮かべる。

「そりゃああの高さから落ちてきたらね……」

「どこか壊すか……」

「っていうか!さっさと降りろ!三日月!」

 ハッシュがバルバトスを見上げる。

「あれがバルバトス……」

 

夜明けの地平線団の主力艦隊に一人の人物からの連絡が入った。

「なんてザマだ!子供相手にいいように遊ばれて。これではますますあの小娘をつけあがらせるだけじゃないか!」

「鉄華団との件はすでに貴様とは関係がない。夜明けの地平線団の名誉と誇りに懸けて奴らは必ず始末する」

「こちらは大金を払ってるわけだし、もう少し情報を共有しあっても……」

「活動家風情が誰に物ぬかしてやがる!」

 通信を切ると、今度は違う人物がモニターに現れた。

「久しいな。鉄華団にいっぱい食わされたらしいな」

「ふん。マーズ・マセ……何の用だ?お前が俺たちに連絡を取るとは珍しいことがあるもんだ」

「せっかく人が教えてやった情報を無にした男の顔を拝んでおこうかと思ってな」

「貴様がバルバトスは間に合わないといったからあの戦力をよこしたんだ」

「間に合わないとは言ってないさ。それに鉄華団を侮ったのは貴様の落ち度だ」

 そういうとマーズ・マセは再び通信を切る。

「気に入らん男だ。まあいい。相手が鉄華団だろうが誰であろうと俺たち海賊がやるべきことは変わらない。倒して、剥いで、奪う!」

 

「ノブリス様。テラ・リベリオニスのアリウム・ギョウジャンから連絡がありました。至急の要件だと……」

「またか。クーデリアのように使い勝手もあるかと思ったが、あれにはもう利用価値はないな」

「では……」

「ほっとけ。それよりおかわりだ」

 

 クーデリアとオルガ、ビスケットとユージンは団長室で話し合っていた。

「しばらくあんたには桜農場に避難してもらう」

「でどうすんだよ?夜明けの地平線団相手にやらかすか?」

「可能だと思うか?」

「無理だろうね。夜明けの地平線団っていえば艦隊十隻の巨大集団だよ。無謀にもほどがある」

「だよな。けどどうすんだ?」

「だがそいつらに鉄華団が目を付けられた事実は変わらねぇ。遠くない未来に一戦交えるのは避けられねぇだろう」

「それまでになんとかしないと……」

 もはや他人事では済まされないところにまで問題は差し掛かっていた。

 

「死んだっていいから戦ってみてぇって思ってたけど、まさか本当に死んじまうなんて……」

「辞めるんなら今のうちだぞ。鉄華団は辞めるのも辞めないのも自由だ。生きるも死ぬも自分で選んでいいんだ」

 昭弘がそう言っているころダンテはエーコに頼みごとをしていた。

「なあなあいいだろ?こいつでプシューっとスプレーするだけ!」

「はぁ?何それ?」

「撃墜マークだよ!俺の獅電にさ……」

 ダンテが星形のマークを付けてもらおうとすると、後ろからラフタとアジーの声が聞こえてくる。

「ダンテ!あんた一人で倒してないでしょ!?」

「ちゃんとレコーダーに残ってんだよ」

「ったく何を言い出すのかと思えば……」

「いやでも……」

 ダンテがつけてほしそうにしていると、上の方からライドの声が聞こえてくる。

「そうだぞ!調子乗ってんじゃねぇよダンテ!大体三日月さんがバルバトスと一緒に持ってきた追加の獅電が来るまではお前の専用ってわけじゃねぇんだからな」

「そりゃもう昭弘のグシオンとサブレのアガレスと一緒に衛星軌道上に来てんだろ?地球支部に送る分と一緒に!」

「あーあ。もう一日早く着いてりゃ俺ら二番隊も実戦に出れたのに」

「んじゃあいつ実戦に出てもいいようにまたしごいてあげるよ。ダンテあんたもね」

「お……俺もう実戦やったんすけど!」

「うるさい」

「いいから手ぇ動かして!」

 バルバトスがその間修理が行われており、雪之丞はさっそく壊したバルバトスをため息を吐きながら見上げた。

「下ろしたてのバルバトスルプスが早速このザマかよ……乱暴に扱うにも程があんだろったく……でどうだった?ルプスの具合は」

「ルプス?バルバトスはバルバトスでしょ?ちゃんと直ってたよ」

 三日月と雪之丞が話していると奥からクーデリアが姿を現した。

「お久しぶりです皆さん。三日月もお久しぶりです」

「うん。久しぶり」

「三日月おめぇちょっと出て来いよ。積もる話があるんだろう」

「なんで?」

「いいからほれ!」

 そういって雪之丞が三日月とクーデリアを二人っきりにさせると、二人はそのままエレベーターで上へと上がっていった。

「何度かここにも足を運びましたが三日月はいつもいないので」

「ああ~……うん」

 エレベーターから外に出る。

「団長が言っていました。戦闘の必要があるときはいつもバルバトスとアガレスが一番前にいると」

「まあ他の奴と違って俺にできる仕事はそれくらいだから」

 すると、奥の施設からアトラが駆け足で駆け寄ってきた。

「クーデリアさん!来てたの?ちょうどよかった!」

 そういってアトラはクーデリアにミサンガを手渡す。

「あのね。クーデリアさんに渡したいものあったの!これ!それと……ビスケット知らない?」

「いいえ見てませんが……三日月は見ましたか?」

「ううん……でも、確かオルガと話してるんじゃなかったかな?」

「そっか……渡したいものがあったんだけどな」

 アトラがポケットから緑色のミサンガを取り出しため息を吐くと、後ろからビスケットの声が聞こえてきた。

「何してるの?アトラ」

「きゃ!ビスケット?」

「アトラさんがビスケットさんを探していましたよ?」

 ビスケットはアトラの方を見ると、アトラは照れながらミサンガを差し出す。

「これ……ビスケットへのプレゼント。前に渡すって約束したでしょ?」

「あ……ありがと」

 ビスケットは照れながらミサンガを左手につけると、アトラと二人で顔を赤くさせる。クーデリアはわけがわからず首をかしげていると、さらに後ろからサブレとクッキー、クラッカがやってきた。

「どうしたのアトラ?顔赤いよ」

「うん!真っ赤だ!」

「な、なんでもない!」

 慌てて後ろに後ずさりすると、クラッカがサブレに思い切って聞いた。

「ねぇ……ビスケットおにいとアトラって付き合ってるの?」

「「!?そ、それは!」」

「あれ?知らなかったっけ?そうだよ」

 サブレのそんな淡白な答えにクーデリアとクッキーとクラッカが驚く。

「本当ですか?」

「そうか、クーデリアも知らなかったんだっけ?一年ぐらい前にビスケットから告白したんだよ」

「そうそう。それでアトラが悩んで付き合うことになったんだよね?」

「そ、それくらいで……」

 ビスケットが三日月とサブレの口をふさごうとしている間に、アトラはクーデリアとクッキーとクラッカから質問攻めにあっていた。

 

「何なんだよこのくそ忙しい時に!」

 ユージンは不機嫌そうな面持ちで団員のそばに行くと、団員が申し訳なさそうな表情をする。

「すみません。なんか変なおっさんが……」

 そういうとユージンの目の前にトドが姿を現した。

「よう!ユージン副団長。こいつら新入りか?取引先の顔と名前ぐらいお前ちゃんと教え込んどかなきゃだめだよチミ」

「偉い人なんですか?」

「あえて言うならえらい面倒な人だな」

「さすが副団長。いうことがウイットに富んでるねぇ。俺が目を掛けてやっただけのことはある」

「ああ~殺してぇ」

「まあまあそうカリカリすんなって。栄養足りねぇんだろう。あっそうだガキ。飴ちゃんあげようか?」

「マジっすか!」

「んなもんで喜ぶな!」

「まあまあ。おめぇにも喜ぶ知らせがちゃ~んとあるんだぜ。うちのボスからな」

 

「仕事をいただけるのはありがたいんですがねぇ、こっちは今立て込んでるんですよ。えぇ~……」

「モンタークで構わないさ。私が君たちの力を借りているのはすでに公然の秘密になっているからな」

「で要件は?」

「夜明けの地平線団の討伐だ」

「なっ!?……こっちの動きは全部お見通しってか」

「夜明けの地平線団は地球圏にまで手を伸ばす神出鬼没の大海賊だ。その補足には我々も手を焼いていてね。できる限りのことはしよう。石動という部下をそちらへ向かわせた。彼は夜明けの地平線団の内情に詳しく腕も確かだ」

「俺らは餌ってわけか」

「信用してもらえないかな?」

「元々あんたを信用なんてしちゃいない。だが引き受けさせてもらいますよ」

「ほう。疑いながらなぜ?」

「別に……俺たちは夜明けの地平線団に目を付けられてる。俺たちが勝つために必要なことだからですよ」

 

 マクマードのところにオルガが話を付けていた。

「お前らが夜明けの地平線団を?」

「テイワズにとっても航路を荒らす奴らは目障りかと」

「まあな。だが……」

「獅電の実力を見せるテイワズの新型フレームを売り込むチャンスでもあります」

「なるほどな。分かった好きにやれ」

「はい。親父に恥はかかせません」

 そういうとオルガとの通信が切れる。途端にジャスレイが食って掛かる。

「親父。何あいつらを好き勝手やらせんのよ。ガキら相手に好々爺気取っても意味ないでしょ!」

「ならお前がいくか?」

「いや~御冗談でしょ。海賊なんてゴリゴリした奴らを相手にすんのは下の奴らで十分です」

「なら文句はねぇだろ。面白い育ち方してるじゃないか名瀬。あの坊主どもは」

 

 エドモントン近郊に位置する鉄華団の地球支部では獅電が月末までに届かない問題が発生していた。

「話が違うでしょ。月末までには獅電を地球支部に送ってくれる手筈になっていたじゃないですか。今あるランドマン・ロディだけじゃ限界だってご存じでしょう?」

「けど本部は夜明けの地平線団を相手にするんだ。頭数が必要なのはわかるだろ?」

「それは本部の問題でしょう?地球支部はその戦闘には関与しないので関係は……」

「本来ならこっちから増援を送るべきところだ。それを団長はこっちの現状を考えてそれは言ってこない」

「現状……ね。備品の不足にアーブラウ正規兵との関係性。こちらの現状は問題が山積みです。しかし本部は改善策を出すどころか足を引っ張るばかり……」

「ラディーチェさん地球支部も本部も同じ鉄華団だ。俺たちはオルガの……団長の言葉を信じてついていく。それが鉄華団だ」

「……話にならない」

 

「おっ今日のスープもうんめぇなぁ」

「へへへ~。頑張る整備班の皆さんに本物の鶏肉入りですから」

「生き物の肉は俺いいや」

「ちょっと!もう~三日月みたいなこと言って」

「俺はあそこまでひどくないよ」

 雪之丞たちが食事をしながら話しているとハッシュが真剣な面持ちで話しかけてきた。

「雪之丞さん。俺をモビルスーツに乗せてもらえませんか?マニュアルなら全部読みました」

「モビルスーツを操縦するにはそれだけじゃ……」

「必要なら阿頼耶識の手術も受けます」

「ダメだよ」

「あっビスケット」

 ハッシュが振り向くとそこには真剣な面持ちでハッシュを見つめるビスケットの姿が有った。

「ダメだよ。阿頼耶識の手術は俺たちはもうしないって決めてるんだ。これは俺が決めたルールだよ」

「失敗なんて恐れません!阿頼耶識の手術を受けることで戦えるようになるんなら何だってします。俺は……」

 ビスケットは思いっきりハッシュのほっぺを叩く。

「阿頼耶識の手術をするとか簡単に言わないで。君が考えていることより数割増しで危険なんだ。俺は君たちにそんな手術を受けてまで戦ってほしいとは思わない。……とにかく、阿頼耶識の手術の話はなしだから」

 そういうとビスケットは食堂から出ていった。ハッシュは唖然とした表情で通路を見つめると、後ろから雪之丞が話しかけてくる。

「おめぇ年はいくつだ?」

「17です」

「その年じゃ阿頼耶識の適合手術はもう受けらんねぇ。おめぇの年じゃもうナノマシンが定着しねぇんだよ」

「とりあえず試してくださいよ。いいっすよ別に失敗したって……」

「ダメだよ!阿頼耶識の手術ってとっても危険なんだよ!?下手したら死んじゃうんだから!」

「分かってますよ……」

「ビスケットはみんなの為を思って手術を禁止したんだから!」

「あんたに何が分かんだよ。いいからどけ……」

 アトラを強引にどかそうとするとそこに三日月が現れた。三日月はハッシュの手首をがっちりつかんだ。

「何これ?これは何?」

 三日月は握る力を強めていく。

「ほんとにただおしゃべりしてただけだから」

「そう?いじめられてなかった?」

「私いじめられっ子じゃないよ!」

「なんで……なんであんたはよくってあいつは……。くっ……!もういいです。すいませんした」

「なんかごめんな」

「いえ」

 ハッシュはそのままそとに出ていくとデインがそばまでやってくる。

「死ぬのは怖くないのか?」

「怖くねぇ奴いんのか?」

「だな」

 ハッシュの近くに座ると、ハッシュは語り始め。

「でももっと怖ぇもんがある。俺はスラムの出でさ。親のいないガキ同士で集まって暮らしてたんだ。ビルスは俺らの兄貴分だった。俺たちの生活を楽にしてやるって兵士になるってスラムを出てった。なのに戻ってきたビルスは腰から下が動かなくなってた。俺達みんな思ってたんだ。ビルスについていきゃあなんとかなるって。なのに……。だから俺が次のビルスにならなきゃなんねぇんだ。俺は絶対にモビルスーツに乗ってみせる。そして三日月・オーガスを超えてみせる。俺についてきゃこんなクソみてぇな世界でもなんとかなるって。お……おい」

 デインは話の途中で去っていった。

「がんばれ」

 

「よう。ここにいたのかミカ」

「オルガどうしたの?」

「なあに。まあ、さっき勝手にモンタークと取引をしちまったことをビスケットに説教されちまってな。反省がてらにな……頼むぜミカ」

「うん」




どうだってでしょうか?ここまではまだ原作と似たような展開になっています。マーズ・マセの動きにはこれからも注目していてください。

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