鉄華団がエドモントン侵入を阻むギャラルホルンと会敵しすでに三日が経過していた。オルガ達モビルワーカー隊が一進一退の攻防を続け、その間ビスケット率いるモビルスーツ隊はモビルスーツをオルガたちに近づけまいと防衛線を張っていた。あと少しという壁がいまだ越えられず、地道に死傷者を出しつつあった。
「まだ突破できんのか?」
「彼らを疑うような言葉をここで口にしないでください。あなたの心ない言葉が背後からの攻撃にもなる」
「もちろんわしは信じておるよ。奴らならきっとたどり着くと。わしが案じているのはそれまでに流れる血の量の話だ。あの二人の采配のおかげか、そこまで目立った死傷者を出しておらんが、これでは埒が明くまい」
モビルスーツ隊もモビルワーカー隊も疲弊の色が隠せずにいた。
「昭弘!シノのカバー!」
「了解!」
「ごめん!三日月アガレスにまた一機!」
「分かった。こっちは何とかする」
「くそ!アガレスばっかり狙いやがって!」
「分かってきたんだね。アガレスが指揮をしてるって……」
アガレスに襲い掛かろうとしたモビルスーツを三日月のレンチメイスが引き飛ばす。しかし、すべてのモビルスーツをさばけるわけじゃなく、一機のモビルスーツがアガレスのもとにたどり着く。アガレスはモビルスーツの攻撃を受け止め、メンチメイスで叩き潰す。
しかし、その間オルガたちは一時的に撤退を始めていた。
「一度引くぞ!」
そしてギャラルホルンのモビルスーツ隊も陣形を崩されたことにより引こうとしていた。
「すみません隊長!陣形が崩されました!」
「退却して立て直す!」
「ああっもう!また逃げた!」
「乱戦になったら不利だって学習したんだね。向こうもよくやってる」
「敵を褒めんな!」
「私たちもよくやってるよ。もう三日もここで耐えてるんだ」
「こっちも一度引きましょう。オルガたちも引いたみたいだし」
「「「了解!」」」
「やっと飯が食える」
「はぁ!?マジかよ。食える気がしねぇ……」
「どうなってんだお前は……」
「サブレも食べる?」
「断る。俺も無理……胃に通らない。兄さんが食べるよきっと」
「え!?俺も無理!」
一度拠点まで引くと補給を行うものとけが人の処置を行うもので拠点がごった返していた。
「ほらほら急げ!補給にメンテやることはいっぱいだよ!」
「大分減っちまったな」
大量に用意していたモビルワーカーも数えるほどに数を減らしていた。
「オルガ!」
「ビスケットか?そっちはどうだ?」
「似たようなもんだよ。よくてあと二回……」
「三日月さんたちがいれば防衛線の突破も簡単なのに……」
「その三日月さんやビスケットさんが後ろを押さえてくれるから俺たちが戦えてるんだろ。それに……」
「エイハブリアクターを街に持ち込むだけで都市機能がやられちまう」
「うん。それを理由に蒔苗さんが世論を敵に回したんじゃ意味がない」
「時間の方は?」
「市街地に入っても議事堂までは距離があります。もう時間がありません」
「オルガ。川の水が引き始めてる。今なら……」
「もう手段を選んでる場合じゃないってことか」
二人が悩んでいると、ライドが走ってくる。
「次は俺にも一緒に行かせてください。モビルワーカーは空きがあるんでしょ?」
「それがどういう意味か分かってんのか?」
ライドは黙ってうなずくと、オルガとビスケットは互いに目で確認する。
「分かった。ライドの覚悟は受け取ったよ。オルガ」
「ああ、準備しろ」
「はい!」
オルガとビスケットは通信機の前にたどり着く。
「ミカ、サブレ聞こえるか?今から最後の攻撃に出る。かなり危険な賭けになる。どうしたってそれなりの被害は避けられねぇ。あいつらにそれを押し付けなきゃならねぇんだ」
「俺も背負うよ、オルガ……」
「俺はもうオルガに賭けてるよ。ううんオルガだけじゃない、ビスケットにだって賭けてる。俺だけじゃない、サブレやみんなだって二人に賭けてる。だからオルガとビスケットも賭けてみなよ俺たちに。鉄華団のみんなに」
「………ビスケット」
「賭けてみよう。みんなに」
オルガとビスケットはみんなを広場に集めた。
「聞いてくれ。もう時間がねぇ。うまくいこうがいくまいが次が最後の作戦だ」
「メリビットさんは負傷者を連れてここから離脱してください」
「………わかりました」
「悪いがお前らには囮になってもらう」
「みんなが囮になっている間にオルガのモビルワーカーと蒔苗さんを載せた車が一気に川を渡る。これ以外に今回の作戦を成功させる手がない」
「ビスケットの言うとおりだ。俺たちが火星に帰るためにもこの作戦を成功させなきゃらねぇ!これが俺とビスケットが考えうる唯一の作戦だ。もし、この作戦に乗れねぇんなら負傷者と一緒に引いても構わねぇ。けど乗ってくれるんなら……」
オルガとビスケットの視線が合い同時に声を出す。
「お前らの命を賭けてくれ!」
「みんなの命を賭けてほしい!」
「………」
「何も言わなくていいのか?言うならここしかねぇぞ」
「何も言いません。あの二人が悩んで決めたのならもう、私が何を言っても無駄でしょうし……。今は彼らを信じます」
「あんたは正しいよ。けど、あの二人も正しい」
「はい」
雪之丞とメリビットはもう彼らを信じてあげることしかできなかった。
「たとえおめぇらが死んじまっても俺とビスケットがちゃんと抱えて生きていく。おめぇらの命は消耗品じゃねぇんだ!鉄華団がある限りな!ここまでの道で死んじまった奴らがいる。あいつらの命は無駄になんてなってねぇ。あいつらの命もチップとしてこの戦いに賭ける。いくつもの命を賭けるごとに俺たちが手に入る報酬……未来がでかくなる。けどな……これだけは約束する………一緒に帰るぞ!!!」
「「「おお!!!」」」
それぞれがそれぞれの場所へと向かう。その先はきっと未来につながっていると信じて。
蒔苗とクーデリアは車に乗り込むと、フミタンがそばまでやってきた。
「すみませんお嬢様私はお供できませんがどうかご自分のなすべきことを忘れないように」
「ええ、行ってきます。フミタン」
フミタンがそばを離れると、その場にビスケットが駆け寄ってきた。
「アドモスさん。今いいですか?」
「ええ、かまいませんが?」
「アドモスさんに頼みたいことがあるんです」
二人が少しずつ離れていくと、アトラが車の運転席に座る。
「アトラさん!?なんで……」
「戦う人の手が足りないんで運転は私がします。団長さんとビスケットの許可はもらってきました。三日月の代わりに私がクーデリアさんを守ります。それが私の革命なんです」
(そうだ。これはもう私だけの戦いじゃない)
「残さず賭けるよ。俺の全部」
「行くぞお前ら!」
「俺たちも行くよ!」
それぞれがそれぞれの戦場に向かう。
ギャラルホルンの陣地に大きな爆発音とともに攻撃が仕掛けられる。
「おらぁ行くぜ~!」
「これで最後だからな!」
「混乱している隙に数を減らそう!」
「「「了解!」」」
しかし、三日月の前にキマリスが立ちふさがる。
「カルタ任せてくれ。お前の無念は俺が晴らして見せる。そしてギャラルホルンの未来を俺たちの手に!」
そしてモビルワーカー隊も命がけの作戦に打って出た。正気とは思えないほどの行動にギャラルホルンはたじろいだ。
「ダメです!いくら撃っても突っ込んできます。正気じゃないですよ!」
一人……また一人と次々にやられていくモビルワーカー隊。
「よし!橋に敵が集中してきた!」
「でも火力が違い過ぎて川を渡るまでみんながもちませんよ!」
「でもやるしかねぇ!今しかチャンスがねぇんだ!」
自分に言い聞かせるように叫ぶ。その時ギャラルホルンのモビルワーカーに別方向からの攻撃がやってくる。
「なんだ!?」
「ようオルガ!ヒーローのお出ましだ!」
「その声……ユージン!」
「俺たちもいるぜ!それと……」
「こいつらも一緒だぜ!」
「また居場所がなくなるのは困るんだよ」
「給料もらってないしな」
「兄貴にまだ文句を言い終わってないし!」
「敵はこっちで引き受ける。行けよオルガ!」
「よし……行くぞ!」
勢いよく川を渡るオルガ。しかし、モビルスーツ隊も戦局に変化が出ようとしていた。
「コーリス・ステンジャ。お前たちはモビルワーカー隊の援護に向かえ」
「しかしキマリス一機だけでは……」
「問題ない。行け」
一部のモビルスーツ隊がモビルワーカー隊への編後に向かう中、ビスケットが反応した。
「オルガたちの邪魔はさせない!サブレ!昭弘!俺たちで止めよう」
「おう!」
「了解」
アガレスとグシオンが追いかけていく中、戦場に一機のモビルスーツが現れた。周囲のモビルスーツに比べて巨大なモビルスーツがラフタ達の前に立ちふさがった。
「何?このおっきいモビルスーツ……」
「データにはない機体だけど……行くよ!」
「もらった~!」
ラフタの攻撃をきれいに避けて見せる巨大なモビルスーツ。
「今の反応……阿頼耶識!?」
アインのモビルスーツは瞬く間にアジーのモビルスーツを頭部ごと叩き潰す。
「分かる……考えなくても分かる。これがそうなんだ。これこそが俺の本来あるべき姿」
その時、オルガたちは街へ強引に入り込み、議事堂へ一気に駆け抜けていた。
「本当に囲いを破り街に入りおったか。しかしこいつらへの報酬か……こりゃあ高くつきそうだわい」
「街ん中の警備は薄いな。タカキ!このまま一気に行くぞ!」
アジーがやられたことによりラフタの混乱は一気に高まった。
「アジー!アジー返事して!なんなのよこいつ……!」
ラフタの攻撃を瞬く間に回避し距離を詰めてくるアインにラフタは気持ち悪さを覚えた。
「動きが読めない。気持ち悪い。これ……三日月以上」
「ラフタさんあぶねぇ!」
ラフタへの攻撃をシノが庇う。しかし、そんな行動も意味はなくラフタへの容赦ない攻撃がコックピット付近に当たる。
「どこを見ている!お前たちはここで終わりだ!あれこそが阿頼耶識の本来の姿!モビルスーツとの一体化を果たしたアインの覚悟はまがい物のお前たちを凌駕する!」
そしてシノもまたアインの攻撃の餌食となった。
「クランク二尉やりましたよ!あなたの機体を取り戻しました!きっと見ていてくれますねクランク二尉。俺はあなたの遺志を継ぐ」
「モビルスーツ隊聞こえるか!?オルガとクーデリア達は市街地に入ったぞ!」
「ク……ク…クーデリア・藍那・バーンスタイン!」
そう言うとアインはその場を後にした。
「お前だけは俺が倒す!」
「ビスケット!一機突破した!」
「え?オルガ!」
オルガたちが街を駆けているころ、いよいよアインが駆け付けようとしていた。
「議事堂はまだなのですか!?」
「次の信号を右に……」
しかし、その信号は機能を失っており、明かりはともっていなかった。
「えっ!?信号が!」
「団長!LCSを除くすべての通信が切断、レーダーも消えました!これって……」
「正気か!?奴らこんな街中に……モビルスーツだと!?」
オルガたちの目の前にアインが立ちふさがる。その衝撃で車が横転してしまう。
「そうだ……思い出しました。俺はあなたの命令に従いクーデリア・藍那・バーンスタインを捕獲しなければならなかった!」
「私がクーデリア・藍那・バーンスタインです!私に御用がおありですか!」
クーデリアがアインの前に出る。
「ああこんな所にいたのですね。CGSまでお迎えに上がったのですが……こちらについてきてくださればクランク二尉が死ぬこともなかった!そもそもあなたが独立運動などと……」
「一瞬でいい!お嬢さんが逃げる隙を!」
団員が隙を作ろうとするがまるで相手にされず殺されてしまう。
「ああそうかあなたのせいでクランク二尉は……」
「私の行動のせいで多くの犠牲が生まれました!しかしだからこそ私はもう立ち止まれない!!」
「その思い上がり……この私が正す!」
斧を振り上げ、振り下ろそうとするアイン。アトラが庇うようにクーデリアに抱き着くと、間一髪のところでバルバトスが割って入る。
そして、ガエリオの邪魔をしたのはマクギリスだった。
「なっ……何が起こった?今のは……貴様か……俺の邪魔をしたのは!」
「君の相手は私がしよう」
ついにマクギリスはガエリオの前で仮面を脱いだ。
オルガ達の目の前に降り立ったバルバトスはアインと対峙する。
「そうだよな。お前が俺たちをこんなところで終わらせてくれるはずがねぇ。なあ?ミカ」
「行くぞ!バルバトス!」
その時、アガレスの方にアインと同じモビルスーツが姿を現した。
「あれはラフタさんたちを倒したモビルスーツ!?」
「しかも二機も……」
「昭弘ここは任せる」
「!……ああ任せろ!」
アガレスが二機のモビルスーツの前に立ちふさがる。
「カルタ様の敵!」
「ここで討つ!」
アガレスに同時に攻撃がやってくる、しかし、さばききれるものでもなくアガレスは軽く後ろに吹き飛ぶ。
「なんだこの機体の動かし方。俺や三日月以上なんて………どうやったら」
アガレスが攻略に悩んでいると、二機のモビルスーツの後方からパイモンが姿を現した。
「それは彼らが人間をやめてしまったがうえの力だな」
「パイモン!?」
「マーズ・マセ!?なぜあんたがここに?」
「俺は俺の仕事を果たしに来ただけさ。そのためにはこいつらが邪魔だ。共闘しよう鉄華団」
パイモンとアガレスもまた彼らと対峙するなか未来を賭けた最終決戦が幕を開けた。
どうだったでしょうか?バルバトスとアガレス、パイモンはなんとあのアインと同じモビルスーツとそれぞれが最終決戦になりました。彼らがどうやって勝つのか楽しみにしていてください。
次回は『鉄華団』です!後半戦に続く!