一同、セインの運転する車に乗って移動する僕達は車内で、疲れたのかチンクとトゥーレは軽く寝ており、クアットロはクアットロで僕のデバイスをどんなのにしようかと考え込んでいる。
「にしても、セインさん運転上手すぎじゃないですか?」
幾らなんでも無免許とは思えないくらいに安全かつ丁寧なそれに、さっきまでの悪戯好きの少女のそれとはまるで真逆だと感じ取った。
「あー、うちらって人数がそれなりに多いんだけどさ、その中で私が丁度真ん中で、下の皆と上の姉様方のクッション役をこなしてたら、自然とああいう感じになったんだ」
「……ちょっと待って?その中に男は?」
「勿論ドクターオンリーだよ?どういうわけか、魔導師とか魔法関係の実力って、例外を除いて女性の方がどうしてか高いんだ」
その説明には確かに納得できる。地球、取り分け日本では魔法=少女ないし女性という方程式がある意味確定してる部分もあるが、それ以上に野郎が魔法得意で誰得?というアレは分からなくもない。が、
「……ちなみにですが、何人所帯で」
「最近トゥーレが加わって13人、そこにドクターと君を含めた計15人かな」
「……そうですか」
一年ぐらい前に弾が『一度でいいからIS学園に行きたい』と言っていたが、規模が違うとはいえ僕がそんな状況に、しかも数年間なるとはね……。
「お、そろそろ着くよ。クアットロ姉様、横の二人を起こしてもらえないかな?」
そう言って来たのは意外や意外、なんと街中の大きなビルの地下駐車場だった。
「ん?もう着いたのかしら。仕方無いわね、アンモニアでも使おうかしら」
「言っとくけど、そんなもの使ったら今度からクアットロ姉様にはディープダイバーを使ってあげないし、車にも乗せないよ?」
「む?それは困るわね……」
しょうがないとため息を着きながら、クアットロは眠る二人を軽く揺らして起こす。
「ドクター、今第8ゲートに到着した。移動ゲート開放よろしくね」
セインがそう言うと、どういうわけか非常口の鍵が開くような音が聞こえる。
「さて、それじゃあ行こうか!!」
「ここが、研究所……」
入った僕が真っ先に出た言葉は、そんなありきたりな言葉だった。中は液体の入った大型カプセルや、どう繋がってるのかすら疑問な配線、さらに別のカプセルでは液体のなかで眠っている裸の少女達の姿がいくつか存在していた。
と、そこに歩いてくるのは、僕の恩人であり、これからは上司であるドクター、ジェイル・スカリエッティと、似たような紫のロングヘアーをした女性だった。
「やぁいらっしゃい、一夏君」
「ドクター……」
「既に君の大事な少女、鈴くんは私の知り合いのいる無人世界へと運んでいる。彼に任せれば大抵の事はなんとかなろう」
そういうとドクターは証拠のように鈴が眠る部屋を映像に出す。確かに鈴の容態は安定しているらしい。
「それでだ、早速だが今ここにいるメンバーを紹介しようと思うんだが、大丈夫かね?」
「ええ、荷物も然程ありませんし」
「結構、ならば行こうか」
そう言って彼に付いていき、来たのは少し大きめの部屋だった。中には背が高い筋肉質の女性と少し離れてボーイッシュ系な少女、そのそばにいるまるで無感情を張り付けたような少女にだいぶ機嫌の悪そうな赤い髪の少女がそこにいた。
「クアットロ、チンク、セイン、トゥーレは一緒に来ているから分かってるだろうから割愛するが、背の高いのがトーレ、ボーイッシュなのがオットー、彼女に寄り添ってるのがディード、最後のもう一人がノーヴェだ」
「……イタリア語の数番なんですね、名前」
「ほう、そこに気がつくとは流石だ。そして最後に私の隣にいるのがこの中で一番最初期に造られた戦闘機人、ウーノだ」
そう説明すると、ウーノさんはニコリと笑って此方を見る。
「さて、とりあえず紹介は終わったんだが、一夏、まず君の特性を調べたい。少し様々な実験をしたいんだが、良いかね?」
「……僕は、いや、俺はドクターの駒になったんだ、目的が達せられるのなら、馬車馬のように使われるのだって構わない」
すると突然舌打ちするような音が中に響く。確認すると、赤い髪の少女……ノーヴェがまるでこっちを邪魔者のような鋭い視線で見ていた。
「おやおや、どうやらノーヴェは不満タラタラみたいだね」
「ドクター、アタシは認めない。ゼストやルーテシアだけでなく、そんな覇気の無さそうな一般人連れてきて、いったいなんの役に立つって言うんだ」
どうやらそのノーヴェの意見に部屋の中に居た他のナンバーズの全員が賛同するように俺を睨む
「……別に、俺自身が役に立つなんて買い被ってもいませんし」
「あぁ!!アタシはそういう舐めた態度とってるのが気に食わねぇって言ってるんだ!!」
「……なら、実際に戦ってみます?」
その言葉に、誰かが口笛を吹くような音が聞こえる。
「……てめぇ、幾らなんでも調子のんじゃねぇ!!」
「乗ってませんよ、言っておきますけど瞬殺は無理でも勝つことならできますし」
まるで龍と虎、そんな雰囲気と気迫に周りがやれやれという表情だった。
「ふむ、それなら模擬戦をするのはどうかね?幸いにも一夏のパーソナルデータは録らなきゃ成らなかった訳だし、ノーヴェ、君も退屈凌ぎになるだろう?」
「…………チッ」
「……ドクターがそう言うなら」
俺は言葉でそう返すと、何故かクアットロに首根っこを掴まれる。
「それじゃあ、これからデバイスの調整するから来てもらうわよ。あ、オットーも来て手伝いなさい、私一人じゃ時間が掛かりそうだし」
「分かりました……」
「え?ちょ……」
彼女に引きずられ慌てて外そうとするが、その肉体からどう隠されてるのか分からない腕力から逃れることができずひたすらそのままでいる他が無かった。
「さて、とりあえずイチカのデバイスなんだけど、イチカは射撃と格闘だったらどっちが得意かな?」
無理矢理つれてこられたのはテレビで見たような研究室の一角で、何やら機材などが様々に散乱していた。
「えっと、できれば格闘系重視の軽籠手みたいなものができれば」
「あー、それってやっぱりさっき言ってた武術アレンジ用に?」
「そうですね。できるなら空戦用の高速機動形態込みので」
鈴の話だと、俺はどちらかと言うと大きい一発を当てるよりも、細かいステップやスピードで翻弄しながらのヒット・アンド・アウェイの戦法が優れてるらしい。
「なるほどね、なら似たような武術のルーフェンのデバイスデータをベースに……変換資質の電気を組み込んで……こんな感じかしら?」
そう言って渡してきたのは、どういうわけか眼鏡のような物だった。
「これは?」
「一応インテリ型で作ってあるし、こっちと地球の両方で活動するなら、変装道具にも見えるこう言うのが便利でしょ?魔法式はベルカ主体のミッド混合型」
「確かにそうですけど……何て言うか……」
寧ろ眼鏡に向かって喋りかけてる自分を想像するとシュールで笑いそうなんだが
「一応眼鏡を掛けてるとき以外はOFF状態で、着けてるときもデバイス越しの会話は全て念話になるから大丈夫よ」
「……できれば外装は普通の腕時計とか別のにチェンジでお願いします」
またえ~、と言ってるが俺としては眼鏡が似合わない人間だと自覚してるので、そんなことを好き好んでするほどバカじゃないのだ。
そのあとたった数十分で外装の切り替えを終わらせた俺は、なぜか指輪になってしまったデバイスに、若干項垂れながらそれを右手の薬指に差し込む。
「あら?左じゃないの?」
「結婚指輪用に取っておきたいので、アイツ、意外とそういうの気にするんで」
「ふーん、それなら名前の方は自分で決めなさい、自分の武器なんだから、自分で管理できる名前の方が良いしね」
「そうですね……」
そう言われ何となく考えてみる。数秒ほど考え込むと、
「……イモータル・チャイム、ってのはどうですかね?」
「あら、意外に悪くないじゃない。ちなみにその意味は?」
「『無滅の鈴』です。ベルだとちょっと締まらない感じですけど、チャイムならそれなりに……」
「そう、よっぽど彼女さん……鈴ちゃんだっけ?その娘のこと大切なのね」
放っておいてくれと呟きたかったが、事実でもあるので何も言えなかった。
「……それよりもさっさと使ってみても?色々と微調整しなきゃですし」
「それもそうね。なら設定登録込みでさっさとヤっちゃいましょうか」
……なんか字が違う気がするが、まぁ別にいいか。
「起動登録……使用者織斑一夏、デバイスネーム……イモータル・チャイム、特異資質……生体電気操作を登録……魔力変換資質……電撃……」
「システムオールグリーン……いつでもいけますよイチカさん」
「サンキューオットー。……イモータル・チャイム、セットアップ!!」
次の瞬間、俺の体の周りから激しい雷鳴が轟き始める。そして次の瞬間、俺の服装は一瞬にして変わっていた。
白いオーバーコートに青いロングTシャツ、掌には魔方陣……ベルカ式のそれが描かれたオープンフィンガーグローブ、靴はスニーカーからスパイクとベージュカラーのロングパンツと、格闘戦仕様と言われて少し微妙だが、まぁ別に構わない。
「それがセットアップ状態、魔法戦闘使用状態よ。その服……バリアジャケットを展開することで肉体を魔力及び物理衝撃から防護してくれる優れものなの」
「へぇ……ん?なんか背中に金属みたいな感触が……」
「あぁそれ?それは高速機動モードの時に展開される魔力転換翼のパーツよ。それを使えば空だって自由自在、空中格闘なんてこともできるんだから」
「なるほど……」
まぁ別段、性能が高いならどうとでもなる気がするが、空中高速格闘なんてどうやればいいんだか……。
『貴方が私のマスターですか?』
「うぉ!?ビックリした!?」
いきなり内側から響くような声が聞こえて何事かと驚くが、すぐにデバイスのそれだと気づく。
『私がこのデバイスの管制人格プログラムです。マスターの動きや癖などを理解、学習しより良い形で運用できるように心がけたいと思います』
「……なんか礼儀正しいな、お前」
まるで紳士のような言い回しに、お前は貴族執事かと突っ込みたくなった。
「まぁいい、どちらかが逝くまでの付き合いだ、よろしく頼むぞイモータル」
『こちらこそ、私を壊せるほどの技能を持つことを楽しみにしてます』
「……なるほど、皮肉も充分こなせるとみた」
グローブに変換された相棒を眺めつつ、俺はやれやれと首をふる。するとクアットロとオットーがこちらに近づいてくる。
「簡単に中身の説明するわ、基本のそれが『ベーシック』、そこからさらに近接格闘戦闘モードの『ドライブ』、高速機動戦闘モードが『ネクス』、あともう一つあるんだけど、それはまだ禁止、まだあなたじゃ使いこなせないだろうし」
やってみなさいというクアットロに軽く頷く。
「イモータル、モード『ネクス』」
『モードネクス!!スタンバイ!!』
するとオーバーコートが無くなって魔力の……白黄の翼のようなものがスパークを弾きながら展開され、肉体には最低限の服装とグローブから電気の魔力を帯びた光輝く刃のようなものが、まるで某錬金術士の錬成剣のように展開されていた。
「……!?」
まさかの剣……刃物に思わずぎょっとしたが、なぜか発作が起こらなかった。
「一夏くん、貴方の刃物恐怖症はどっちかというと金属刃でしょ。ペーパーカッターとかそういうのは大丈夫なんだから安心なさい」
「あ……」
すっかり忘れていたが確かに言われてみればそうだった。見た目が剣のように鋭かったせいか、思わず勘違いしてしまった。
「それに、その魔力剣の使い方は手刀とほぼ同じ要領だから、武術使えるならそっち方面も大丈夫でしょ?」
「……なんか、すみません」
「謝らなくていいわよ。それよりオットー、計測の方は?」
「……クアットロ姉様、これは異常ですよ」
オットーの驚愕……全然そう見えないが……した口調に、彼女は不思議に頭を傾げて覗き見ると、その顔が少しだけ歪んだ。
「なにこれ……普通魔力は内側……リンカーコアで作られて魔法を使うときに引き出してるのに……常時フル稼働で引き出しと貯蓄を行ってる……しかも肉体そのものが細胞単位で魔力を微細にコントロールしてる……いったいどういうことをしたら……」
「えっと……つまり?」
「つまり、たとえば普通の人間が魔力を使うときだけ使って、あとは貯めてるだけなのに対して、一夏様は肉体そのものが魔力を常に使ってるうえに、そこからさらに魔力の戦闘使用する分の貯蓄まで行ってるということです。推定ですが、トータル魔力量だけなら、管理局のエースを一瞬で上回るほどかと」
オットーのその説明に、俺は聞きながらも良く分からずクアットロに視線を向ける。
「……つまり、一夏の肉体の細胞そのもの一つ一つが、魔力を微細に、それも正確に神経のようにコントロールしてるの。多分だけど、ドクターが言っていた幼少期からの暴力を受けてた肉体をカバーするためね。普通の人間なら立ち上がれないどころか死ぬような痛みでも普通に歩いてたりしてたのはこれが原因ね……」
「それが転じて、一夏様の肉体には普通の人間ならあり得ない特異な魔力資質……いえ、体質ですか……『生体電気操作』というものが生まれたのでしょう」
つまり、俺は知らぬうちに魔力を常日頃から事細かにコントロールしていて、それが原因で魔力の量が多いと……。
「……別に良いところだらけのような。ていうか、デメリット無くないか?」
「無いどころか大アリよ。すぐにデバイスを解除なさい、あとオットー、部屋にAMFを展開なさい」
「分かりました」
「?どういう……ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!?????」
デバイスを解除したとたん、まるで内側から破裂するような痛みがこれでもかと襲いかかってきた。立っていることすらままならず、体からは脂汗が止めどなくあふれ、口からは血を吐き出す。
数十秒でその症状は無くなったが未だに体は起き上がらせる事ができず、呼吸が荒々しくなっている。
「な、何事!?って一夏が!?」
「おーいクアットロ姉様何をやって……って一夏がぶっ倒れた!?どうしたらこうなるのさ!?」
絶叫が聞こえたのか、トゥーレとセインが慌ててやって来る。さらにその後ろにはドクターとウーノ以外のここに居る全員が集まってきていた。
「おい姉様、いったい何をしやがった?」
「私は何もしてないわよ。ただ数秒だけAMFを最大展開しただけ。ねえ、オットー?」
「はい、クアットロ姉様の言う通りです……」
「ふむ、だがこれは明らかにAMFのせいとは……」
チンクさんが値踏みするようにこちらを確認してるが、俺自身何が何だかさっぱりか分からなかった。
「一夏くん、今のはAMF……アンチ・マギリング・フィールドって言って、魔力の結合を阻害するものよ。はっきり言って、魔法が使いにくくなる以外、本来なら効果はないの」
「な、ならなんで……」
「一夏君の体……というよりも特異資質のせいよ。細胞どころか神経にまで魔力が癒着してるようなものだから、結合がしづらくなったことで魔力同士が解離、その影響で神経細胞まで一瞬途切れるのが体全体で起こるんだから、肉体はさっきのようにとてつもない悲鳴をあげるの」
それを想像したのか、ナンバーズ組のセインとトゥーレ、チンクの三人が顔を気持ち悪くしてダウン、ディードとトーレはダウンこそしないものの、顔色が青くなっている。
「てことは……もし生身でそのAMFが全開のフィールドに突っ込まれたら……」
最悪の想像をしてしまい、俺は彼女に確かめるように聞き返す。彼女はそれにとてもイイ笑顔で
「肉体が痛みに堪えられなくなって、間違いなく死ぬわよ。さっきの数秒ですらそれなんだから、二桁秒でも浴びれば二度と立てなくなるわ」
そう地獄に叩き込んだ。
次回『04 模擬戦』
ドクター「ふむ、リリカルマジカルがんばるか……」
ウーノ「ドクター、そんなことより書類の整理を」