無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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皆さん、お元気ですか?作者はつい最近まで風邪にダウンしてましたw(インフルじゃないのがもっけの幸いでしたが)

まぁそんなことは置いておいて、久しぶりの更新です。ぶっちゃけFGOを周回しながら頑張って書き上げましたので、よろしくお願いいたします。(おかげで呼符込み四十連で美遊ちゃん二枚、メディアリリィ、アナと星5は来ないけど当たりな感じでした)


sts-13 もう私は……

「へぇ……流石はエース・オブ・エースってところ」

 

 ISから打ち出したクラスターミサイルを完全に防ぎきった事に内心称賛しつつ、私はISからバリアジャケット姿に変わった。

 

「そうは思わない、お姉ちゃん」

 

 そしてそのまま右手で薙刀の刃を、憎悪すべき相手に向ける。

 

「……まさか、私を出させるためだけにISを……それもクラスターミサイルなんて大それたものを使ってくるとは思っても見なかったわ」

 

 そう言うお姉ちゃんは左手に鞘入りの大太刀を握って、その真紅の瞳で睨んでくる。

 

「なら逆に聞くけど、あれ以外でお姉ちゃんを呼ぶ方法があった?」

 

「そうね……言っちゃ悪いけど無いでしょうね、悲しいけど」

 

 そう言ってお姉ちゃんは少しだけ目を瞑り、そして再び私を睨む。

 

「最初で最後の警告よ、簪ちゃん。今やめるなら見逃してもいいわ」

 

「……それは、情けのつもり?更識当主の証したるその大太刀を持ち出しておいて?」

 

「そうじゃない。これは姉として、妹を手に掛けたくないから……‼」

 

 私はその言葉を待たずに魔力を乗せた斬撃をお姉ちゃん……否、憎き相手にぶつけた。

 

「いつもいつも……私を見下して、無能と罵って、挙げ句の果てにこの見下しよう……ふざけるのも大概にして‼」

 

 正直言えば、更識から持ち出した水天の書を使うつもりは無かったが、ここまでこけにされては黙ってられる訳がない。

 

「来なさい、黒天王‼」

 

 その言葉に応じるように契約されし竜が姿を現す。

 

「簪ちゃん……それが貴女の答えなのね」

 

 奴はその一言だけを呟くと、手に持っていた大太刀の柄を右手に掴み、そして鞘から抜き放った。

 

 途端、その姿は黒いコートのような姿へ転じ、あの軽薄な笑みが能面のように消え去った。

 

「ならここからは、現更識当主、楯無として貴女を処断するわ」

 

「殺れるものなら、殺ってみろ‼」

 

 その叫びと共に私は薙刀を上段から降り下ろすように斬りかかる。奴はそれに眉一つ動かさず両手下段からの一撃で防いでこようとしてきた。

 

「アァァァァァ‼」

 

「……‼」

 

 しかし、私は刃同士がぶつかる直前に薙刀をバトンのように一回転させ刀の内側へとその刃を回し込むと、奴は後ろに飛び退くようにそれを避け、そして次の瞬間右下から逆袈裟の形で斬りかかってくる。

 

「黒天王‼」

 

 が、その程度の行動を読めない訳がなく竜による火炎弾が邪魔をする。そして私は火炎弾が避けられ通り過ぎた瞬間の奴の顔面目掛けてその刃を真横に振るう。

 

「ッ!?」

 

 流石にこれには驚いたのか、一瞬表情がピクリと動くが、すぐに刀で受け止め間合いを取ってきた。

 

「流石『透心』なんてチートみたいなレアスキルを持ってるだけあって、私の行動は予測済みってところかしら?」

 

「冗談、魔力変換資質を全く使わない奴が何を偉そうに」

 

「……私がどんな風に戦おうと私の自由よ。それができる技量も訓練も積んできたから」

 

「のぼせ上がるのも大概にして‼」

 

 再びお互いの刃をぶつけ、今度は鍔迫り合いの如き膠着状態を生んだ。

 

「努力なら私の方がしてきた‼周りから邪魔だと思われ、何も教えてくれずに独学で学んできた‼ISも魔法も‼けどそんな努力を貴女は才能の一言で全てを奪った‼」

 

「……そうね、その事については否定はしない。こういっちゃなんだけど、周りが私と簪ちゃんを比べていたこともその通り」

 

 だけど、奴はそこで一旦区切り、再び後ろに下がって距離を取った。

 

「貴女は一つだけ、知らずに勘違いしてることがあるわ」

 

「……勘違い?」

 

「ええ、それは――」

 

 

 

「……こんなところに居ましたか」

 

 六課隊舎から少し離れた森林区画、そこで私は目的の人物……この状況だと言うのに呑気にお菓子を食べてる自分の妹に半ば呆れ返っていた。

 

「ふーん、やっぱりお姉ちゃんが来たんだ」

 

「やっぱりではなく当然です。貴女も分かっててこんな人気の少ない場所に居たのでしょ、本音」

 

 本音はそうだね~、と呑気に言っていたかと思うとすぐに立ち上がり、その普段の穏やかな表情からは大分想像できない鋭い視線を此方に向ける。

 

「本音、率直に言って貴女は良い意味で布仏家の恥です」

 

「良い意味で恥って大分矛盾してる気がするんだけどね~」

 

「ええそうですね……貴女のおかげで今の簪様があると言っても過言じゃありません。何せ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のですから」

 

 その言葉に本音は鋭い視線をさらに鋭くさせる。

 

「……それ、どうやって知ったの?更識一族含めて知ってる人間は全員消した筈なんだけど」

 

「壊滅後の更識の本家で見つけた機密書類の中に、それを行った術者の報告書がありました。貴女は、五歳にして簪様にリンカーコアが無いことを知り、自らの魔法の才能を捨てて簪様にその全てを譲り渡した……そうですね?」

 

 その言葉に本音は仕方ないと言わんばかりに何時ものだぼだぼの服のボタンを外し、胸の間にある傷跡を広げて見せた。

 

「そのとおり~、この傷跡が私のかんちゃんへの忠誠の証なのだ~。自分の成長のおかげで隠してこれたから、かんちゃん自身は知らないけどね」

 

「本音……なぜ……」

 

 そんなことを、その言葉に本音は笑った。

 

「だって、かんちゃんの頑張ってる姿が凄く綺麗だったから」

 

「……は?」

 

「最初はリンカーコアもないのに努力して何が楽しいんだろう~、って思ってたんだけど、かんちゃんの心を……本音を聞いたら感じたんだ。かんちゃんの為なら自分のリンカーコアをあげても良い、って」

 

 そこからはトントン拍子に事が進んだらしい。その術者と先代楯無……詰まる所、刀奈様と簪様の父親に自身のリンカーコアを簪様にあげる変わりに、簪様の従者にしろ、と。

 

「我々布仏の一族は更識に使えてきた……ですが貴方ほど忠誠心に溢れ、同時に忠誠のためならば更識当主にすら食いかかる……これほど良い恥はありません」

 

 ですが、そう言いつつ私は懐からクナイを三本取り出し、それを本音に向ける。

 

「ですが、あくまで楯無様に歯向かうと言うのなら容赦はしません……例え貴女が毒ガス兵器を使うとしても、相討ちぐらいには持ち込まさせてもらいます」

 

「相討ち……かぁ、それはどうかな」

 

 そう言って本音は目を瞑ると、

 

「来て、墮姫荷(ダキニ)

 

 自身のISを展開し、その姿に驚愕した。背中の非固定ユニットに紫色と黄色の毒々しいツートンカラーのユニットが浮かびその籠手も紫の爪を生やし、そしてさらに空中には呪術で使うような札が大量に浮かんでいた。

 

「それは……」

 

「私のIS『蠱毒』が日本で開発されてた『九尾ノ魂』の機体とコアとが融合して二次移行した機体、世界唯一のデュアルコアIS、それがこの『墮姫荷』だよ」

 

「デュア……!?」

 

 まさかそんなものを持ってるとは思ってもみず、流石に悲鳴をあげそうになったのを寸前で思いとどまる。が、それでも流石にふざけすぎている。

 

 九尾ノ魂とやらは知らないが、蠱毒の性能はデータだけだがいやと言うほど知ってる。それが二次移行したとなればどれ程の被害をもたらすか分からないほど、私の頭は耄碌してるつもりはない。

 

「私は別にかんちゃんみたいにお姉ちゃんを怨んではいないから、別に戦うつもりは無いんだけどね……そっちが相討ちでもやるって言うなら容赦はしないよ?」

 

 本音のその言葉に私は、ただ手持ちの武器をしまう以外の選択肢は存在しなかった。

 

 

 

 

「……嘘、でしょ」

 

 私のその言葉にショックを受けたのか、簪ちゃんは呆然と、しかし震える声でそう呟いた。

 

「嘘じゃない、今しがた本音ちゃんも認めたって虚ちゃんから来たわ」

 

「……」

 

 完全に沈黙。しかしその気持ちは分からないとは言わない。自分の力だと思ってたそれが実は親友とも呼べる本音ちゃんから与えられた……そのショックは如何なるものか。

 

「……そっか、本音も結局()()()()()

 

「……簪ちゃん?」

 

 何を言ってる、そう思った瞬間、簪ちゃんの足下にベルカ式魔方陣が二つ、まるで六芒星のように重なって回転し展開された。

 

「!?」

 

「側に何時も居てくれて、支えてくれてた裏で、私が無様に足掻くのを嘲笑って……あの笑顔はそう言う意味だったんだ‼」

 

「それは違うわ簪ちゃん‼」

 

「違わない‼」

 

 慌てて否定しようとするが、簪ちゃんの耳にはそれは届かず、自らの左手首をその薙刀の刃で切り裂いた。

 

「がぁぁぁ!?」

 

「簪ちゃん!?」

 

 何を、そう思った瞬間に思い出す、簪ちゃんが更識から持ち出した水天の書の正体を。

 

 流れ出る血を構うことなく、簪ちゃんは左手に構えたそれに寧ろ血を大量に落とし込む。するとその魔導書は黒い炎を吹き出し、燃え尽き、漆黒の光を放つ魔力の光へと変換される。

 

 さらに彼女の側で飛んでいた竜も泥々に溶け、同じく漆黒の球体に変換され、その二つは簪ちゃんの胸部……リンカーコアの手前に移動すると、

 

「水天の書‼黒天王‼強制ツインユニゾン‼」

 

 その一言、たったその一文でその二つの魔力の塊は簪ちゃんのリンカーコアと融合し、その身を、姿を変化させていく。

 

 バリアジャケット上部は肩口を残すだけに消し飛び、その腕は竜の鱗のようなものに覆われ、炎と水の翼……比喩ではなくまさしく生物的なそれに魔力の炎と水を纏ったそれが、同じく布地が消し飛び剥き出しの背中から生えた。

 

 耳と犬歯が鋭く伸び、その目は私と同じ真紅のそれから、深い闇に燃える深紅へ、そして深紅の模様が顔にはいる。

 

「簪ちゃん……貴女」

 

 水天の書、それはストレージデバイスであると同時に、使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ロストロギア。

 

 使用者はまさしく爆発的な力を得る反面、その力を使用すれば間違いなく()()()()()()()()()()()、古代ベルカ戦乱時代の遺産。

 

 そんなものを躊躇いなく使った簪ちゃんの目は、何も写さない虚無のようなそれをしていた。

 

「もう私は……誰も信じない」

 

 その抑揚のない言葉は、絶望に染まっていた。


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