無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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AM 06:30

 

 機動六課の部隊長室、本来ならまだ早い時間にも関わらずその場には主である八神はやてと八神リインフォースツヴァイの二名以外に二人の人物がそこにいた。

 

「こんな早い時間にも関わらず済まなかったな、八神はやて二等陸佐」

 

「いえ、こちらも突然の事でちゃんとした対応ができず申し訳ありません、レジアス・ゲイズ中将」

 

 そう、彼女の対面に座るは陸の首魁の一人にして、どちらかと言えば彼女たちとは別の派閥に属するレジアスと、その護衛であり伝説のストライカー、ゼスト・グランガイツその人だった。

 

「しかし、こな早い時間に来るなんてどないしたんでしょうか? 確かに視察日は今日でしたが」

 

 はやての疑問にレジアスは苦笑いを浮かべ隣に座る男に視線を向ける。

 

「ゼストの元部下にそちらの部隊の関係者が居てな。訓練の視察と共に話をしたいそうだ」

 

「なるほど……ちなみにどちらの隊員で?」

 

「……ナカジマ陸曹だ」

 

 珈琲を軽く飲みながらそう呟く彼にはやてはなるほど、と呟く。

 

「なら私達もそちらへ向かうということでよろしいやろな」

 

「ほう、それは私に戦場の空気を吸え、と?」

 

「レジアス中将……」

 

 厳かに聞いてくるその言葉に彼女は身構えるが、それはすぐに杞憂に終わる。

 

「冗談だ、だが、ただ見るだけと言うのも味気ない。ここはゼストにも訓練に参加してもらうとしようか」

 

「……はい?」

 

 まさかの言葉に驚くしかなかった。いったいこの男は何を言ってるのだ、と。

 

「といってもこいつに何かを教えるなどといった芸当はまず無理だから、高町隊長とゼストによる模擬戦ということになるが」

 

「それは……まぁ構いませんけど、ゼスト隊長は?」

 

「案ずる事はない。かのエース・オブ・エースと八神部隊長の縁者との試合……あれは血戦か?……は見ている、アレならば我が槍に不相ない」

 

 何てものを見てるんだと思ったが、だが確かに、自分達のエースとレジアス中将のエース、そのカードを希望する人間は少なくないが存在するだろう。

 

 

 

AM 07:00

 

「というわけで、なのはちゃん頼むわな」

 

「いや何が『というわけで~』なの!?」

 

 毎度の友人の無茶ぶりに高町なのはは思わず突っ込んだ。いや話は聞いたから分かるが、それでもリミッターついてる状態で戦うのは結構きつい。

 

「安心したまえ、ゼストにもリミッターが掛けられておるから、能力差はそこまで酷くはならない筈だ」

 

「具体的には?」

 

「そうだな……AA+程度だな。元はS+級魔導師だが」

 

 なるほど、それなら自分とほぼ同じ魔力量だと考えれば良いだろう。もっとも、スタイルが違いすぎるが。

 

「……」

 

 そしてそのゼストさんはというと、近くで見学させている六課フォワードメンバーを見ながら、どこか感慨深げに何かを考えていた。

 

「……いきなりすまんな」

 

「あ、いえ……私も上司に振り回される事はしょっちゅうありますので」

 

「そうか……」

 

 それだけ言うとゼストは茶色いコートの形をしたバリアジャケットを纏い、その手に武骨な、しかし使いなれたであろう長槍を構えた。

 

 なのはも少しだけ距離を取りつつ、しかし離れすぎない距離でデバイスを展開、何時ものバリアジャケットに身を包む。

 

「……空は飛ばんのか?」

 

「ゼストさんが飛行魔導師ならば喜んで飛びますけど、どちらかと言えばできるけどそうじゃない……でしょ?」

 

「なるほど、これは確かにエースと呼ばれるだけはある。見事な観察眼だ」

 

 これはなのはは知らないことだが、ゼスト・グランガイツは飛行魔導師ではあるが、そのランクは意外と低い。これは実践で使えなくはないが、槍を扱う上で必要な踏み込みの関係上、どちらかと言えば空中より地上の方が戦いやすいのだ。

 

 よって飛行魔導師をやるより地上戦魔導師やってる方が強いという、割と珍しい部類の魔導師ゆえにエースではなく、それに準じるストライカーと呼ばれるのだ。

 

「では此方も真剣にやらせてもらおう……悪いが模擬戦とはいえ妥協も手加減も無いものと思え」

 

「それじゃあ、こちらも胸を借りるつもりでやらせてもらいます‼」

 

 

 

AM 07:05

 

「ねぇティア、あの二人の対決ってどっちが勝つと思う?」

 

 毎度のことながらマイペースに聞いてくる長年の相方に、ティアナは苛立ちを隠しながらも答えてやることにした。

 

「なのはさん……って簡単に言えれば簡単なんだけどね。相手があのゼスト・グランガイツだって考えると微妙よね」

 

「あの?」

 

「ティアナさんは相手の方の事知ってるんですか?」

 

 キャロの質問に、ティアナは勿論と答える。

 

「私が知ったのは偶々だけど、スバルに関しては直接会ったこともあるはずよ」

 

「へ?アタシあんな男の人と会ったこと無いよ?」

 

「アンタは……ゼスト隊のメンバーは三人、ゼスト本人とそのうち一人はスバル、アンタの母親よ」

 

 ティアナがそう言ってやるとスバルは目を見開いて驚く。

 

「お母さんの……」

 

「そう考えると、アンタはどっちが勝っても得よねホント」

 

 皮肉気味に言ったティアナの言葉にスバルはそんなことないと騒ぐも、それはすぐに収まった。なぜなら、

 

「……凄い」

 

 二人の激戦が始まり、喋ってる余裕など全くなかったから。

 

 

AM 07:10

 

 最初に仕掛けたのはなのは、お得意のディバインシューターを四発精製したかと思うと、それぞれを一発ずつ発射する。

 

「ぬん‼」

 

 が、その程度の攻撃を陸のストライカー……否、エースと呼ばれたゼスト・グランガイツが捌けない訳がなく、槍を軽く振るって弾丸を弾き、切り飛ばし、その全てを最小の動きでいなしてしまった。

 

「さすが……なら弾幕を増やします‼」

 

 続いて産み出した数は倍を超えてさらに倍の16発、この程度なら対処できると信じての数だ。その信頼された相手は、

 

「……来い」

 

 ただその一言、全てを捌くとでも言いたげなそれをなのはは笑って答えることにした。

 

 半分を正面から突っ込ませると同時に、残り半分も空中に弧を描くように様々な方向から相手に向かって叩きつける。

 

 本来のなのはのスタイルは砲撃とシューター、そして杖を槍に見立てた中距離格闘戦の三つ。この内砲撃は地上戦で放つには余程の有利的状況が生まれなければまず無理だ。

 

 かといって、砲戦魔導師とはいえ何も魔砲撃ばかりを使うわけじゃなく、シューターやバインドを織り混ぜて相手の動きを封じるのが主戦。

 

「ッ……!?」

 

 故にシューターにチェーンバインドを組み込む何てものも何時もの事。それを射たれてからとはいえ、すぐに立て直しバインドブレイクしたゼストはやはり強者だった。

 

「(やはりアギトがいない分決め手に欠ける……)だが‼」

 

 ゼストは魔力で脚力をブーストしつつ、壁を利用した三次元的な跳躍でなのはに接近すると、大上段から降り下ろすように愛槍を斬りつける。

 

「!?プロテクション‼」

 

 これには流石のなのはも防御へ魔力を全振りさせ、振り下ろされる刃を防ぐ。避けれたかもしれないが、一歩間違えば負けかねない……その判断故に回避ではなく防御を選んだなのはの直感はまさしく鋭かった。

 

 比較的なのはやはやてといった地球出身の魔導師と比べて、ミッド系の魔導師は技より力を主体とする傾向が強く、ゼストもまた剛槍と呼ばれるほどの力強いそれだった。

 

 それを防ぐためにプロテクションの技術が進化していき、最前線たるFA等が用いるプロテクションはそれ故に堅い。

 

「なるほど、大分堅いな」

 

 流石の剛槍のゼストといえども、エース・オブ・エースとまで呼ばれるほどのなのはのプロテクションを貫くだけの威力は持ってない。

 

 かといっても、なのはからしてもシューターは決め手にならず、バインドも直ぐ様ブレイクされるのだから決め手に欠ける。

 

 どちらも千日手、堂々巡りとでも呼ぶべき停滞が起こったその時

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クラスターミサイル……フルファイア」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?ディバイン・バスター‼」

 

「ッ‼紫電……一掃‼」

 

 突然上空から降られてきた数多くのミサイルに、二人は驚きながらも魔力による攻撃でそれを防ぎ、直ぐ様広域プロテクションをなのはは展開する。

 

「く‼」

 

 破壊しきれなかったミサイルが魔力防壁へ直撃、そして爆発していき、あまりの衝撃に背中の古傷が痛んだ。

 

 やがて爆発が止み、プロテクションを解除して射ってきた相手を見て……いや、その戦いを見てなのはは驚いた。

 

「刀奈さん……!?」

 

 そこには長刀を構えた黒い装いの知り合いと、そして白い薙刀を振るい嗤う少女の姿がそこにあったから。


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