「いきなりの出番で相手が一夏、これ結構厳しい戦いね」
私は手に持った薙刀を構えながら、隣に立つ掃除用具……もとい篠ノ之箒に声をかける。
「だがやらなければ活路は開けん……それに、我々はあくまでやるのは時間稼ぎだ」
「ふーん、猪武者じゃないことだけは認めてあげる……なら、足を引っ張らないでね!!」
そう言いつつ、私は駆け抜けるように低空飛行で接近をかける。
「五月蝿いって言ってるだろうが!!」
一夏の皮を被った何かは、魔力の糸らしい電撃を降り下ろしてくるが、
「悪いが、その手の武器は貴様の専売特許ではないぞ!!」
まるで理解してたかのように銀の短剣が数本飛び出し、魔力の糸を切断した。
「はぁ!!」
その隙を逃さず、薙刀を下から振り上げるが、奴は手甲で防ぎ、返すように雷撃の拳を振ってきた。
「……流石に一夏と零距離戦闘は無理、だから」
そこを狙っていたかのように掃除用具が短剣を連結したような蛇腹剣……というよりはガリアンソード?で腕を巻き付け引き寄せる。
「あまり使いたくは無いんだが!!」
そう言うと右手を後ろへ溜めると、
「ロケットパンチのストレートだ!!」
奴の顔面にロケットパンチを、それもプロボクサーも真っ青なストレートの加速と共に繰り出した。
「……あとで分解させて」
「妙に怖いこと言うな!?」
だって技術者からしたらロケットパンチできる義手なんて、それこそ伝説の傭兵の義手みたいだから。分解して解析したくなるのは、技術者の性だから。
「まぁ、それはあくまであとでだけどね……ッ!?」
意識を戻した途端、正しく痛みを感じてないという一瞬で近づいてきた奴の拳が此方にきた。
何とか薙刀で受け反らすが、それでもやはり捌ききるのは難しい。
「此方を無視するのは困るぞ!!」
掃除用具は左手の短剣を籠手に戻したかと思えば、突然それが大剣程の刃に展開され、勢い良く突撃してきた。
「邪魔なんだよ!!てめぇら!!」
しかし、獣の本能か何かまでは分からないが、それを奴は剣を手掴みで防ぎ、それを軸にして足蹴を掃除用具の顔面に食らわした。
「箒!?カハッ!?」
溜まらず本名で呼んでしまうが、次の瞬間私も首を奴に掴まれてしまう。
「グッ……しまっ……」
「邪魔するなよ!!うざってぇ音を消したらすぐに後を追わせてやるから!!」
まさしく絶体絶命、そんなときだった
――Gatrandis babel ziggurat edenal
その悲しげだが、どうしてか力強い歌声が聞こえたのは
「な!?これはまさか!?」
掃除用具が慌てて向いたその方向、そこにいたのは
「……賭けは、成功したみたい」
ここで時間を少しだけ巻き戻す。
「ぐ……い……ちか」
鈴は意識を失ってはいなかった。いや、正確には出血のために意識は朦朧としていて、愛する彼を止める事は不可能だった。
「……ねぇ」
と、その時誰かが私に声をかけてきた。その声はどこか間延びするような、この戦場には似つかわしくない
「無理に喋らなくてもいいよ。いっちーは君が助けたいんだよね」
「……」
鈴は何とか首をコクリと動かす。その答えに彼女はニヤリと嗤った。
「無理矢理だけど、今の君を治す方法が一つだけある」
「ッ!?……あ……」
「でも、はっきり言ってこれは分が悪すぎる賭け。もし失敗したら、君も体の持ち主も無事じゃすまない。それでもやれる?」
その言葉に鈴は迷った。ただでさえこの現状だ、体の持ち主である平行世界の自分をこれ以上無理させる訳にはいかない。だが、
(ちゃんとやりなさいよ)
私は言われたのだ、あの一瞬だけ交わした彼女とのその言葉を、平行世界の自分に。
「……やって、やろうじゃない」
彼女は強気に笑った。失敗がなんだというんだ、大好きな彼がここまでの無茶をしたのに、自分だけ守られていいわけがない、と。
「なら……後悔しないでよ!!」
その言葉と、首もとに複数の針が刺されたかと思うと、次の瞬間そこから何かが流れ込んできた。
「ガッ……アアァァ!?」
次の瞬間、まるで自分自身に意識が何かが流れ込んでくるような激流と、血を吐きそうなほどの痛みが全身を襲った。
「これはある魔法生物の細胞をベースに、ある成分を組み込んだ、魔導師専用の回復薬。けど強すぎる反動で、最悪死にかけてもおかしくない代物」
そんな説明をされたが、そんなことを理解できるほど痛みは柔じゃない。全身が痙攣し、意識が今度こそ無くなりそうだったその時、
『私は……私は一夏が傷つくのが嫌だよ』
『好きだからに決まってるじゃない!!一夏の事が大好きだから、好きな人が傷つくのが嫌なのよ!!』
あの時言ったあの言葉が、
『だからさ……また辛くなったときは、その時は鈴にまた隣にいてほしい』
あの時言われたあの言葉が、私の中の何かに火をいれた。
「誓ったよね、一夏。私は――」
正直言えば体から痛みは抜けない、けど、耐えられない訳じゃない。だから
「――私は一夏を支えるって!!」
私は立ち上がった。彼が助けを求めるのなら、私は世界だって敵に回してもいい。ただ、彼の側に居たいから。
「……成功したね」
「当然よ、私はちょっとやそっとじゃ根をあげてやらないんだから」
「だったら」
声をかけてきた少女は、懐からそれを私に渡してきた。見覚えのある真紅の薬莢を
「これは」
「束さんが緊急で調合した鈴ちゃん専用のカートリッジL。これを使っていっちーを止めてあげて」
カートリッジL、ロストロギアと呼ばれる古代の力を組み込んだそれ。正直言えば怖くないわけがない。でも、
「ありがと、なら……ここからは徹底的にやるわ」
すぐにデバイスを展開、そしてカートリッジのスロットにそれを装填し発動する。まるで激流のように増える魔力に驚いたが、同時に私は決断する。
「――Gatrandis babel ziggurat edenal
――Emustolronzen fine el baral zizzl」
このからだの持ち主の記憶にあった最大の大技であり、禁じ手を……絶唱使うと。
「――Gatrandis babel ziggurat edenal」
「やめろ鈴!!そんなことをすればお前の体が!!」
絶唱を知ってる箒からは非難されるけど、それでも止まるわけにはいかない。止まれない。だって
「――Emustolronzen fine el zizzl」
大好きなやつが体張ってるなら、私だって体張って助けてやるのが当然なのだから。
その歌声が止んだ瞬間、その一体に竜巻のような突風が吹き荒れた。荒々しく、だが優しさを感じるその風が止んだその先に居たのは。
白い翼が取りついた球体ユニットに、純白の鎧。手にはこれまた白く輝く刀身を持つ光の大剣を両手に担ぐその少女、
「さぁ、いくわよ!!一夏!!」
XDモードと呼ばれる力を解放した凰鈴音の、本当の戦いの火蓋が切って下ろされた。
オマケ 少し前の兎ラボにて
束「ねぇ、箒ちゃん」
箒「なんですか姉さん」
束「この際だから修理ついでに義手をパワーアップさせよっか」
箒「パワーアップ……ですか」
束「そうそう、流石平行世界の私が作っただけあって結構面白いけど、これだけじゃそのうち手数が足りなくなってもおかしくないでしょ?」
箒「はぁ(寧ろ今のですら扱うのが手一杯なんですが)」
束「そこで中身を修理ついでに可能な限り性能をチューンアップするだけじゃなくて、魔改造……ゲフンゲフン、パワーアップしてあげようと思うのだ~」
箒「今魔改造って言葉が聞こえたんですが!?」
束「大丈夫大丈夫、ショットガンを切り替えるだけでビームを射てるようにしただけだよ!!」
箒「ビームですか……それなら無人機などを相手する際にも使えそうですね……ちなみに威力は?」
束「最大出力でツングースカ級ぐらいの威力は出せるよ?」
箒「却下で!!」
???「平行世界の妹に核兵器クラスの武器を渡すんじゃないバカ者」
束「こ、この声は!?」
次回へ続く?