――うわ、やっぱり平行世界だけあって私そっくりね
……アンタ、もしかして
――うん、そういうこと。流石は頭の回転早いわね~、なんか自画自賛臭いけど
……いいわよ、アンタの好きにしなさい
――言うわね。言っちゃ悪いけど体への負担とか、ダメージとかは全部アンタに行くって事、分かってるわよね?
……そんなもの百も承知よ。けど、アイツを止められるのは私じゃなくてアンタしかいない。
――。
……それに、アンタも……、ってそれを分かってて言ってるのよね。はぁ、今回正しく貧乏クジ引いたわね、私。
――ごめんなさい
……謝るなっての、てかそこでいうのは寧ろ違うでしょ
――?
……そこで言うべきは「ありがとう」でしょ?好きにする分、ちゃんとやりなさい。
――ええ、分かってるわ、
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「……っと、言うわけで、向こうの私に頼んで、少しの間……一夏を助ける間だけこの体を借りたってわけ」
私は質問責めしてくる旧友や、一夏の仲間達、そしてこの体の持ち主のほうの知人にそう話した。
「うーん、まぁ平行世界の同一人物なら精神の同調とか出来て不思議じゃないか」
そう言うウサ耳アリス……束さんの言葉に私はそんな単純なものでもないと否定する。
「多分私の体が本当に目覚めたらこんなことは出来ないし、多分今回は例外中の例外だから」
「けど良いのか鈴?下手したら一夏の心が今度こそ壊れるぞ?」
弾の忠告にフッと笑う。
「大丈夫よ、今の私にしかできないやり方だけど、絶対に成功できる自信があるから」
「……ちなみにどんな?」
「アイツの懐に飛び込んじゃうだけよ」
私の言葉に驚きすぎてあっけらかんになってる一同だが、唯一弾と数馬、そしてリイスさんだけがなるほどと納得した。
「確かに今の鈴にしかできねぇな」
「オイオイ待てよ弾!!幾らなんでも突拍子と無鉄砲が過ぎるぞ」
紅い髪の……確かノーヴェとかいう娘が無理だというふうに決めつけている。まぁ良く一夏と模擬戦してるらしいし、一夏の実力を一番知ってるとも言えるから仕方ないと言えばそうなんだけど。
「まぁ大丈夫だよ。一夏を止めるなら鈴が一番最適なのは間違いないし」
「そりゃ恋人なんだから止められるかもしれねぇけどよ、一夏の攻撃を受けて気を失ったりしたら」
「それについても無問題、寧ろだからこその鈴なんだよ」
親友二人の言葉に彼女一同……ナンバーズ組と箒とマドカの全員が首を傾げる。
「アイツ、私には攻撃することできないのよ。絶対に」
「は?」
「いや何て言うか、一夏って妙に堅物というか、武術の組手もアイツは弾とか数馬とか、それこそ千冬さんとかには攻撃できる癖に、私に対してだけは絶対攻撃しないのよ」
「あぁ、そう言えば確かにオータムやスコールが深酒して酔っ払ったのを手刀で気絶させてたのに、一夏君はパーティゲームですら鈴を狙ったことはない」
確か本人曰く、男は女を守るもの、特に好きな女に手を出すのは最低だとか言ってたっけ。時代劇の見すぎではと聞いた当時は呆れ半分照れ半分だったが、まさかこんなところで生きるとは思っても見なかったが。
「まぁそんなわけで、もし一夏の自我が少しでも残ってるなら攻撃してこない……ないし攻撃してくるにしても若干遅れるのは違いないと思うわ」
「……そうでなかった場合はどうする?」
「そんときは援護してもらいつつよ、私が懐に潜るのは確定事項。それに」
アイツが自分自身の陽だまりを求めてるのは分かってるから。
「ッ!?……どうやら長いこと話し合うのは無理そうだよ。いっくんとあの魔導生物、それにクローン共がこっちに向かってきてる」
「なんだと!?」
チンクさんはその言葉に驚きつつ、慌てて基地の近くに配置してあるのだろうカメラの映像を映す。
そこにはこの体の持ち主の記憶にあったそれらと、禍々しい黒の獣となった一夏が、基地に張られている結界にヒビを入れる映像だった。
「あの馬鹿、敵をぞろぞろ連れてきやがって」
「どうします束さん?防衛するにしても、全員で行ったら混戦で被害が出ますよ」
弾と数馬は指示を仰ぎながら、何時でも動けるようにデバイスを展開している。
「ちょっと待ってて……うん、とりあえずナンバーズ組は鈴ちゃんの本体があるカプセルの防衛に回って!!いっくんが居る前線は弾くん、数くん、リイス、そして鈴ちゃんとマドちゃんの五人で対処お願い。クアットロは前線メンバーの指揮を!!」
『了解』
「姉さん、私は?」
「箒ちゃんは私が大至急、天災的な速度で義手をメンテナンスするからそれまで待機!!不完全な状態で戦場になんて出すわけないからね!!」
そう指示を出された全員が、自分達の持ち場に向かって走り出す。
(待ってて、一夏)
絶対に助けるから、その一言を胸のうちに呟き、借り物の体を走らせた。
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……暗い、暗い、ただただ暗いその中で、自分が何者かも分からなくなってきた。
忘れてはいけないあの日を、あの誓いを、あの光景さえも、燃えてそれを膨れ上がらせる。
怒り、憎しみ、負の感情だと分かっているのに、それが当たり前なのだと、
何処へ向かっていたのか、何処を目指していたのかも分からない。
ただ、耳の奥にかすかに聞こえてくるそれだけが、自分が存在しているという事実を残す。
守る?誰にも必要とされなかった自分がなぜ他人を守る?
愛?愛されて産まれた存在ではない、そもそも人でない自分を誰が愛する?
希望?絶望しか見てこなかった自分にとって何が希望なのだろう?
孤独に鳴り響く
それを自分は
その鈴の音という希望を