sts-Ex01 翳り咲く
アグスタの一件から数日が経ち、俺はドクターと束さんによる定期検診を受けていた。
「うーん、今のところ異常なし。神経と魔力の結合具合もだいぶ剥がれてきたね」
「……どれくらいです?」
「32%」
つまりまだ全体の三割近くが結合してるということらしい。
「もっとも、今の治療法じゃこれ以上は難しいし、完全に引き剥がすんならそれこそアレを受けなきゃ無理だろうね」
「そうですか」
束さんはふざけてる部分はあるが、こういった場面ではしっかり真面目にやってるため、その言葉にまず嘘は無いだろう。
「現状、管理局とアレがどう動いてくるか分からない以上、この状況はキープするしか無いだろうね」
「そうですね師匠、それに俺の場合、結合してた方が今はありがたいですし」
「けど無理したらダメだよいっくん。魔力結合症の末期段階からここまで回復できたのは……」
束さんの忠告に分かってます、と告げて俺は立ち上がり部屋を出る。
「分かってる……分かってるさ、けど」
俺は拳を握りしめ、与えられている自室へと向かおうと歩き出したその時だった。
『一夏くん、今いいかしら?』
「クアットロ?」
突如としてクアットロから通信が入り、俺は何事かと問いかける。
『すぐ近くに謎の転移反応、それとアレが集団で展開してるわ』
「転移反応だと!?しかもアレってことは」
『ええ、あの自爆クローン供よ』
それを聞いて俺はすぐにデバイスを展開し、高速移動でアジトから出る。そしてすぐに広域レーダーを展開し、あの自爆クローン供をサーチし、そちらへ空からバレないようにジャミングしながら向かう。
「クアットロ、状況はどうなってる」
『魔力確認、どうやら転移してきたのは三人みたいね。不意を撃たれたのにクローン供としっかり戦えてるけど……』
「非殺傷設定か……」
クローン兵は一応デバイスの基礎OSからは人間扱いされてしまうため、たとえどんな高性能なインテリジェントデバイスだろうが、非殺傷設定では倒すことができない。
「急ぐしか無いか……!!クアットロ、支援頼む」
『分かったわ。けど油断しないで、転移してきたのが味方とは限らないわ』
当然だとだけ話し、俺はさらにスピードを上げて目標へ向かう。そこにいたのは白、ピンク、緑のバリアジャケットを纏った三人の少女。
「お前ら、すぐにその場から退け!!」
「「「!?」」」
俺は魔方陣を展開し、大型のシューターを準備すると、
「零落の咆光!!」
上空から相手を破壊でき、尚且つ三人の少女に被害が当たらない程度の威力で直射砲撃を叩き込む。
場所が廃墟の近くだった事もあり、爆風と瓦礫が吹き飛ぶが、今の一撃で大体の相手は消し飛ばすことができたようだ。
「さて、いったい誰が転移し……て…………!?」
上空から降りて、先程の少女達を確認した俺は、そのうちの一人を見て愕然とした。見忘れる筈がない、見忘れるなど出来るはずのない、その顔を
「鈴…………なのか?」
転移して最初に私が思ったのは、どういうわけか謎の安堵感があったことだった。
「ふむ……ギャラルホルンとやらで転移してきたのは良いが、ここまで廃墟ではなんの手掛かりも無いな」
「しかも回りが森林じゃこの世界の異変なんて分からないし」
今回一緒に着いてきたメンバーである箒とマドカは今いる場所に疑問に思ってるようだった。
「アンタらね……。それより二人とも、今の日付を確認しておいた方が良いわよ」
「む?それはどういうことだ鈴?」
「何となくだけど、ここ多分地球じゃなくてミッドチルダだろうし」
私がそう言って二人とともにデバイスを確認すると、マップ情報には確かにミッドチルダと書かれており、日付は大体四年ぐらい前のミッドの日付になっていた。
「ふむ、ということはしっかりと平行世界とやらに来ることは出来たというわけか」
最近何故か仕切り役となっている箒に、以前までの威風堂々とした武士娘姿はどこへ消えたと今更ながら突っ込みたかったが、回りがそれを許さなかった。
「!?二人とも、どうやら団体様に囲まれてるみたい」
マドカの言葉に周りをすぐに確認すると、異常に白い肌をした、歩き方がまるでバイオハ○ードに出てくるアレみたいな奴等がぞろぞろと現れてきた。
「……どうやら、歓迎の挨拶に来たわけじゃ無さそうだな」
「ならさっさとコイツらぶっ飛ばしてやるわよ!!」
そう言って私はデバイスを構える。
その言葉とともに姿が代わり、ピンクと白のバリアジャケットを纏い、
「早速で悪いけど!!」
「Mast Dyeデェス!!」
頭部に付属してるパーツから丸鋸を複数投擲し、さらに奴等の体を狙って同じく緑と白のバリアジャケットを纏ったマドカが、その手に持った鎌を降り下ろす。
が、その瞬間不思議な現象が起こった。当たった筈の丸鋸は相手の肌を殆ど傷つけず、マドカの鎌も斬られる事なく吹っ飛んだだけ。
「どういうことよ!!」
『マスター、恐らくアレはデバイスからは人間と判断されるみたい。実際、デバイスの非殺傷設定が発動してる』
「あんな気色悪い人間が居るか!!」
思わず突っ込みしていると、途端真横から爆発音が鳴り響く。慌てて振り向くと、体勢を崩しながら箒がすぐ近くまで吹き飛んできた。
「ちょ、どうしたのよ箒!!」
「……鈴達の攻撃が効かないと柄で気絶させようと攻撃したら、途端にアレが爆発してきた」
「爆発!?」
「ちょ、どんな生体兵器デスか!!」
マドカの言う通りだった。デバイスの設定のせいでダメージを与える事も出来ず、かといって気絶させようとしたら自爆、そんなのどう攻略すれば良いってのよ!!
しかも考えてるうちにわらわらと連中は集まってくるし、どういうわけかこの世界の管理局に助けを求めようとしても繋がらないし!!
「――お前ら、すぐにその場から退け!!」
「「「!?」」」
その時だった、聞き覚えのある声が上空から聞こえ、空を仰いでみれば少し大きな魔方陣と、その中心にレモンイエローのような光の球が――って
「二人とも!!」
いち速く状況に気付いた箒が私とマドカの首根っこをつかんで後方へ飛び退き、その直後轟音と共に白い光が奴等に直撃した。
「なんて威力……」
明らかに非殺傷設定の影響を受けていないとでもいうような威力に私は呆然と呟く。事実あのゾンビ擬きが破壊されてるのか、吹き飛ばされたのだろう腕の一部が私達のさらに後へ飛んでいく。
漸く砲撃が終わり立ち上がると、さっきの声の正体も空から降りてくる。が、何故か私は彼が此方を向かずと気付いた。
白いマントを羽織った黒髪の青年、先程聞いた聞き覚えのある声に、どうしてか見覚えのある後ろ姿。
「――鈴……なのか?」
そしてその特徴的な顔立ち、忘れる筈がない、いや忘れるわけがない。
「……一夏?」
次は多分1週間ぐらいで投稿できる……はず