無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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sts第一章 始まり
sts01 機動六課


 古代遺物管理部 機動六課、ロストロギアと呼ばれる危険なオーパーツを専門に回収することを目的とされた新設の試験運用部隊。部隊長の八神はやてを筆頭にエリートクラスの空戦魔導師の隊長陣を要する。

 

 そしてその中で後方支援を目的とするロングアーチにて、戦闘力だけで見れば前線の隊長である高町なのは、フェイト・T・ハラオウンとも互角に戦える実力を持つ修道騎士が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やってられるかぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の名前はシスター・刀奈(カタナ)。現在訳あって出向中の身の上であり、それでいて山のように詰まれている書類を精査していたりする。

 

「……シスター・カタナ、あまりそういった暴言は……」

 

「だったら何よこの山のような書類は!!私が幾ら副部隊長だからってこれは無いわよ!!虚ちゃんだってそう思うでしょ!!」

 

「それは……まぁ言われる通りですね」

 

 その量は少なくとも一人で回すには余りにも多すぎ、彼女の親友である虚が居なければ精神的に死んでるのは間違いないだろう。

 

「あの腹黒狸……面倒だからって此方に押し付けてるんじゃないでしょうね」

 

『なわけないやろ、此方だってスケジュールパンパンなんやで』

 

 と、まるで聞いていたように通信で彼女に突っ込むのは、部隊長であり彼女が言った腹黒狸こと、八神はやてだった。

 

『本来なら私だってやれるものならやりたいけど、部隊のお偉いさんや色々なところの挨拶回りや説明は私がしないとあかんし、何より刀奈ちゃん車の免許持っとらんやろ?』

 

「ぐぬぬ……フェイトちゃんの車に乗ってるのはそういうことか……」

 

『せや、それに部隊長兼ロングアーチ隊長の私と、ロングアーチの副隊長の両方が抜けるんは、有事の際に指揮が取れんことになるしな』

 

「……指揮ならグリフィスに任せれば」

 

『勿論それは両方がどうしても手を放さなあかん時はそうする。けど、そんな事が毎回になったらあかんやろ』

 

 毎度の事ながら、理路整然と正論をぶつけてくる彼女に刀奈は舌を巻く。刀奈も舌戦はそれなりに強い方だが、やはり管理局で若手で部隊長に上り詰める彼女と比べるのは酷というものだ。

 

『それで、教会のほうは何か言っとるの?』

 

「今のところは何も。一応古代ベルカ系列の家系だったけど、肝心の宗家伝承のロストロギアデバイスは妹の方に持ってかれたしね」

 

『持ってかれた言うより強奪された……やろ?』

 

 部隊長の言い分にムッとしながらも、刀奈はそれを顔に出さないように勤めた。

 

「まぁ家が後ろ暗い一族だったし、壊滅したのもある意味因果応報、寧ろ私と虚ちゃんが生き延びられてるだけマシよ」

 

『そんなもん?』

 

「そんなもんよ……それに、表立って妹や彼を指名手配するなんて無理だしね」

 

 刀奈の妹は元より、彼女と消えた三人の少年はあくまで闇の書の闇を破壊しただけ、その仲間内も局員には神経ガスは使ったもののそれは彼らの妨害をさせない為だったことと、神経ガス自体も短時間で痺れが取れる物だったし、家の人間の壊滅もやってきたことが事だけに訴える訳にもいかない。

 

 精々やれるとしても公務執行妨害と危険物取締違反ぐらいだが、管理外世界だった事もあり、行動事態も毒ガスを除けば、客観的に見れば善意によるもの……ないし自作自演であるため微妙なラインである。

 

「……けどはやて、幾らなんでもBランク成り立てレベルの新人を部隊の前線メンバーにするのはどういうつもり?」

 

 それも四人でFA(フロントアタッカー)GW(ガードウィング)CG(センターガード)、そしてFB(フルバック)が一人ずつだ。特にFBなんて教導するほうが難しい類いのポジションだ。幾ら武装隊の戦技教導官である刀奈とはやての友人でも難しいだろう。

 

『あー、そっちはなのはちゃんを此方に引っ張る条件みたいなもんもあったんよ』

 

「……まぁ、管理局のエース・オブ・エースを借り入れるのは簡単じゃないわよね」

 

『それもあるんやけどな、武装隊の皆さんが『高町は休日返上で働きすぎだから、連れていって少しは余裕を作れ』……って』

 

「な、なるほど……」

 

 確かにワーカーホリック的な部分が良く見える友人に頬が引き攣るのを感じながら、そういう意図かと頭を重くする。

 

「けど……寧ろ少数になったらなったで、個人のトレーニングメニューを一人遅くまで考えてるのは如何なものかと」

 

『……それに関しては私も想定外や。寧ろ仕事を生き甲斐にしとるんやないのかな、なのはちゃんは』

 

『ホント、なのはは昔から無茶ばっかりするんだから』

 

 と、運転に集中していたのだろう刀奈のもう一人の友人、フェイト・T・ハラオウンがため息混じりに呟いた。

 

「フェイトちゃん的には、なのはちゃんと夜をお供できないのが寂しいのかな?」

 

『……刀奈、明日私予定無いからフォワードメンバーの前で模擬戦しようか?私もデスクワークばかりで体が鈍りそうだし』

 

「か、勘弁してください……」

 

 水使いの刀奈にとって、電撃使いのフェイトは相性が最悪どころか天敵だ。しかも普段でこそ大人しいが若干戦闘狂(バトルジャンキー)の嫌いがあるため、フェイトにスイッチを入れさせてはならないという暗黙の了解ができるほどだった。

 

『でもなのはが頼ってくれないっていうのはちょっと寂しいかな?勿論教導に関しては私が口出す事じゃないけど、同じ前線部隊の隊長で親友なんだし……』

 

「と、仰ってますがはやてさん?」

 

『まぁなのはちゃんはある意味頑固やしな。最悪部隊長の権限を使うことも辞さないつもりや』

 

「そうですか……それじゃ、二人はそっちのお仕事頑張ってくださいな」

 

 そう言って通信を切った刀奈はチラリと今までの通信の間で増えた書類を見る。

 

「……半分ツヴァイちゃんに頼もうかしら」

 

「……その方がよろしいですね」

 

 

 

 

 時は早朝へと遡り、訓練場、高町なのはは現在そこで新人達の育成を行っていた。

 

「はい、それじゃあ最後にシュートイノベーション始めるよ」

 

「「「「は、はい!!」」」」

 

 なのはの声に疲れながらも元気良く返事をする新人メンバーに彼女は己がデバイスを構える。

 

 ちなみにこのシュートイノベーション、新人四人でなのはの攻撃を五分間逃げ延びる、または逆に有効打を一発でも当てれればクリアなのだが、

 

「この疲労困憊の中、なのはさんの攻撃を避け続けるなんてできると思う?」

 

 新人メンバー司令塔、ガンシューターで幻術を得意とするティアナ・ランスターの言葉に、他の三人は無理だと首を横に振る。

 

「だったらなのはさんに攻撃を当てるっきゃないですよね」

 

 新人メンバーで唯一の男子で、槍と電撃使いのエリオ・モンディアルの提案にこれまた全員が首を縦に振る。

 

「けど、攻撃を仕掛けようにもなのはさんの攻撃を受けたらリセット……なんですよね?」

 

「キュルァ!!」

 

 新人メンバーの後方支援担当、召喚魔法と強化魔法の使い手である少女キャロ=ル=ルシエの確認に、ティアナがそこよね……と頭を抱える。が、

 

「大丈夫だって、足りなくなれば補えば良いだけなんだし」

 

 この新人メンバーの最前衛を担う少女……スバル・ナカジマの一言に年少二人に笑顔が溢れる。

 

「言っとくけどスバル、被弾率が一番高いのアンタなんだけど?」

 

「う……それは……その……さ、最前衛な訳だし……」

 

「まったく、アンタの無鉄砲さを込みで戦術を立てなきゃならない私の気苦労を考えなさいよ」

 

 放っておいたらお説教になりそうな雰囲気を、なのはは面白そうに眺める。

 

(うん、スバルが高めた士気をティアナが立てた戦術で生かす……あの二人は何だかんだでいいコンビしてるな~)

 

 本人達は無自覚なのかもしれないが、戦場で士気を高揚させる人間は何においても重要だ。特に危険な任務の多いロストロギア関連のこの部隊で考えると、スバルはそれを自然と出来てるのだから。

 

(あとはエリオとキャロか……)

 

 二人の場合歳がまだ10と幼い事もあって、歳上のティアナとスバルに意見できてないのが問題だった。エリオは男の子故か何とかなってるものの……キャロはまだチームに馴染めていないのかもしれない。

 

「(まぁ、今すぐは流石に無理か)それじゃあスタートするよ」

 

「「「「はい、お願いします!!」」」」

 

 なのはは自らのデバイス【レイジングハート】を構えると、予備動作の一つもなくシューターを10程展開する。

 

「それじゃあアクセルシューター……シュート!!」

 

 放たれた桃色の弾丸を新人達はそれぞれ回避すると、その中で固有魔法『ウィングロード』の足場を展開したスバルが自慢のローラースケートで勢い良く突撃してくる。

 

「てぇりゃぁ!!」

 

「スバル、射撃戦が得意な人間に真っ向から突撃するのは無謀だって前にも教えたよね」

 

 迫り来るナックルをヒラリと躱すと、愛機を槍のように使って、さらに背中に展開していたシューターを使用してスバルを退ける。

 

「スバル!!シフトA-2!!」

 

「了解ティア!!」

 

 ウィングロードをさらに展開させ回避に専念するスバルに疑問を抱くが、すぐさま湧いてきたシューターになるほどと一瞬だけ驚く。

 

(ティアナのシューターを受けないようにするため……けどそれなら声に出さなくても……!?)

 

 避けて弾きながら思考を続けていると、直感的に背中にバリアを張る。その直後狙ったように高速で飛来してきたエリオの槍に若干だが下を巻いた。

 

(声出し指示はわざとティアナのほうに注目させるため……その隙にエリオとキャロを使って背後から強襲……うん、中々に上手い連携だね)

 

 だがこの程度の連携でこの訓練を終わらせる訳にはいかない。幾ら訓練時期の序盤とはいえ、実戦は待ってはくれないのだから。

 

「シューター展開……ドライブシュート」

 

 普段、それこそ戦技教導のうち1vs1の模擬戦の時ぐらいにしか使わない加速コマンドを入れたシューターをエリオとスバルの方に向けて発射する。

 

「ティア!!」

 

「分かってるわよ!!」

 

 チラリとなのはは苛立ってるティアナを確認すると、急いでデバイスのカートリッジを入れ替えてる。多分詰まったのだろう。

 

(……やっぱり問題はそれぞれデバイスかな?)

 

 全員の動きは良くなってる。だがそれに伴ってデバイスが追い付かなくなってきてるのは自明の理……当たり前だった。

 

「シェルバレット……シュート!!」

 

 と、考えてるうちに橙色の弾丸がなのはに迫り、ある程度出力を下げたバリアを張ることで防ぐ。それはバリアと拮抗するとヒビを入れ、爆発と共になのはの肩へと被弾した。

 

「うん……合格!!」

 

 なのはのその宣言を聞いた新人達はホッと一息つくとそれぞれが地面にへたり込んだ。

 

「じゃあ後は軽くストレッチしたら朝の練習はここまでね。午後はそれぞれのデバイスについて話があるから」

 

「「「「は、はい!!」」」」

 

 そう宣言してなのははふと空を見上げる。

 

(何かに見られてた気がするけど……気のせいかな?)

 

 

 

 

「……どうだった、六課の面々は」

 

 とある駅のホーム、隣に座る長年の相棒にそう聞くと、特徴的な金髪をくるくると巻きながら彼女は唸る。

 

「まずまず……かな。サマーが開発してくれたステルスドローンのお陰で大体の実力は見れたし」

 

「……公の場ではコードで呼ぶなよ、あんまり」

 

「ならやっぱり名前で呼ぼうか?()()?」

 

「……それも勘弁してくれ」

 

 この三年間で誰に似たのか分からない悪戯っぽさが残った彼女に辟易としながらも、手にもったケースを確りと握る。

 

「けどいいの?折角簡単に『レリック』を手に入れたのに、アレを仕掛けて」

 

「人的被害は無いからな。それにさっきの新人達を見てて確信した。コイツらなら素のⅠ型とⅡ型程度はクリアできるだろ」

 

「……というより、素じゃないアレは普通に鬼畜だと私は思うんだけど。倒せたのだってトーレ姉様とノーヴェ姉様、あとは弾とか地球組だけじゃん」

 

 そんなものか?と首を傾げると彼女はウンウンと、縦に振る。。

 

「けどどうしてまた……敵に塩を送るようなものだよ?」

 

「なに、今回はちょっとした訳アリなんでな……俺らも出るつもりだ」

 

「……どうせ相手取るのはエース連中でしょ?なら一夏は出るのは無しだよ」

 

「……分かったよ」

 

 そんなことを言ってるうちに目の前で停車していた貨物列車が動きを始める。

 

「さぁ……第一幕の始まりだぜ、管理局」




次回『sts02 初戦』

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