無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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37 白銀の歌 後編

~PM10:20~

 

「三人とも、そろそろリイスさんとの合流のポイントにつくぞ」

 

 銀の福音を追い、高速で移動しながら俺は通信を入れる。

 

「特に簪、束さんがデバイスを渡したからって言っても殆ど素人に近いんだ、後方支援の弾から付かず離れずを保てよ」

 

「……一応相手もIS使ってるんだから、魔法戦と対した差は無いと思うけど」

 

「寧ろ大有りだよ、機体の概要ぐらいは読んでるだろ?」

 

 何せ『銀の福音』は高速戦闘とほぼ無制限に飛ばしてくるエネルギービットを飛ばしてくるスタイルだ。単純に『金色の死神』の機動性と、『管理局の魔王』の弾幕を有してると考えて良いくらいだ。

 

「一応目的地で転移してくる束さんとリイスさんが結界を張ってくれるから、少しずつ成らすようにはするけどな」

 

「……了解」

 

 簪から了承を貰った瞬間、福音がその動きを止め、周辺が結界による異界と化した。作戦開始の合図だ。

 

「La―」

 

「いきなりかよ!!シューター展開、アヴァランチシフト!!シュート!!」

 

 福音はビットを召喚し、こちらへ向けて弾幕を仕掛けてきた。こちらもすぐさまシューターを展開させ相殺、さらに後続のビットも破壊する。

 

「弾幕は俺の仕事だろうが一夏!!スナイプシューターバレット!!」

 

 仕事を取られて文句を言う弾も、狙撃銃を構えて高速の弾丸を叩き込むが、やはり高い機動性故に簡単に避けられる。

 

 さらに展開したビットの大群が弾を襲い、慌ててラウンドシールドを発動させ直撃を回避するも、その隙に接近され蹴りの一撃を貰ってしまう。

 

「野郎!!」

 

 頭に血が上ったのか、弾は狙撃銃ではなく二丁拳銃に得物を交換すると、先程の俺よりも大多数のシューター……計24基を発射する。

 

 いつもならシューター一発一発をマニュアルコントロールして正確に当てるそれは、福音の放つビットに相殺され、決定打にならなかった。

 

「くそ!!」

 

「落ち着け弾、一夏挟撃行くよ」

 

「分かってる数馬」

 

 俺は雪片を展開し、シューターを展開しつつレーザーブレードで接近する。数馬も自前の槍で反対側から切りかかる。

 

「La―」

 

 福音のAIもこれは回避を選択し、さらにビットを放って邪魔してくる。しかし、

 

「俺を止めたかったら、その三倍は持ってこいや!!」

 

 レーザーを最大展開し、超高速の斬撃で弾き飛ばす。数馬も槍を高速で回転させて防御する。AI操縦程度ならこの程度は余裕だった。

 

「雷雪ノ片撃!!」

 

 かの死神擬きと引き分けるほどの一撃は、降ってくるビットを諸とも吹き飛ばし、その銀翼の一枚を切り落とす。

 

 高速移動を可能にしていた翼を切り落とされたことでその体は錐揉みに落下していき、

 

「――そこは山嵐の通過点だよ」

 

 それを読んでいたかの如く、ミサイルによる弾幕が背後に激突、高度を落とす。

 

 さらに落ちていく福音を、まるで予測しているかのように次々とミサイルをぶつけていく簪に、俺は少し頬が引き攣ってた。

 

「なんつー荒業を」

 

「……この程度、マルチタスク全部とISの演算を組み込めば容易い」

 

「……」

 

 それちょっとした未来視じゃないかと思ってると、福音が海面に激突し、機体が海中へと潜る。

 

「さて、ここからだよな……」

 

 束さんの計画では、機体が沈黙して動きが止まった瞬間にアレを使う予定なのだが……。

 

「はいはーい!!お待たせいっくん」

 

「って、え!?」

 

 どういうわけか一瞬で束さんが隣に現れ、俺は驚いて少しその場から離れる。

 

「ちょ、どうして束さんがここに!?本音とトゥーレは!?」

 

「あの二人ならもう一つの作戦を開始してるから大丈夫だよ。私はこっちで結界の維持とアレを起動させるの」

 

 そう言って束さんは懐からデバイスを取り出すと、

 

「……リリース、()()()()()

 

 次の瞬間、周囲をとてつもない闇が覆った。

 

 

 

~PM10:40 アースラ~

 

 それは、地球へ漸く到着してすぐの事やった。

 

 仕事とはいえ生まれ故郷に戻ってきてどないしよと、ヴィータと話をしていたその時、私の中の何かが何とも言えない不快感、悪寒が走ったのだ。あのクリスマスの日と似た感覚が。

 

「……ヴィータ」

 

「……ありえねぇ、アレは封印されたはずだ」

 

 ヴィータも否定してる……つまり同じような直感を感じてることに私達はすぐに宛がわれた部屋を飛び出してブリッジへと向かう。

 

「はやて……」

 

「フェイトちゃんかそれに……」

 

 今回の仕事で一緒になった親友と、同じく私の家族のシグナムがやって来てる。つまり、

 

「やはり主も感じましたか」

 

「てことはやっぱり……」

 

 ここまで直感が重なるなんて事は幾らなんでもあり得ない、つまり直感は確かな必然だという事の証やった。

 

「兎も角ブリッジへ向かうで、クロノ君やったら何か分かるかもしれへん」

 

 そう言って軽く走りながら目的地……アースラブリッジへ到着すると、中はかなりてんやわんやという状態だった。

 

「フェイトにはやて!!」

 

「クロノ君、今の状況は」

 

「……カリムの予知が現実になった。まだ規模は小さいが、それでも闇の書の闇とほぼ同一のエネルギーが観測された」

 

 やはりだった。つまりさっきのは、闇の書……ないし夜天の書と繋がりのある私たちだからこそ分かった直感のようなものだったのだ。

 

 と、ブリッジから映し出されてる映像に私は少し驚いた。何故なら

 

「……なんでなのはちゃんとザフィーラが先行してるんや!!」

 

「あとアルフまで……いったい」

 

「三人は偶々君たちよりも先にブリッジに居たからな。それに少し厄介なことになってる」

 

 厄介なこと?そう思ってるとクロノ君はとある映像を此方へ示した。

 

「闇の書の闇が現れる暫く前から、付近にIS学園の生徒が『銀の福音』と呼ばれる敵性ISを追跡、戦闘をしていたらしい。しかも、闇の書の闇が現れた途端、超大型の複層結界が展開されてる」

 

「つまり、そのIS学園の生徒が取り込まれた言うことか?」

 

「……もしくは、追跡してるIS学園の生徒が黒幕、ないし黒幕に荷担してる可能性がある」

 

 後者だとすれば、IS学園に魔法技能を持つ生徒が居ることに……って

 

「そうか、そういやゴールデンウィークにクロノ君達は接触してたんやっけ」

 

「……あぁ、名前は織斑一夏、IS学園の一年生だそうだ」

 

「……ねぇお兄ちゃん、確かISは女性にしか動かせない筈だよ?なんで男子が?」

 

 あぁ、そういやフェイトちゃんは事件があって知らんかったんやな。

 

「フェイトちゃん、その彼はISの開発者の篠ノ之束いう人が、男性でも動かせる為のデータ取りいう目的で入学してたみたいやで、あと彼の友人二人も」

 

「けど、だからってなんで彼が闇の書と?被害者ってことじゃないんでしょ」

 

「それは間違いねぇよ。アタシもシグナムも、フェイトとなのは以外の子供からは魔力を蒐集してねぇからな」

 

 となると、余計に闇の書と繋がりがない。いったい……

 

「……その事なんだが、もしかしたらややこしい関係があるかもしれない」

 

「ややこしい関係?」

 

「織斑一夏は過去にとある事件である人物に応急処置をされて生き延びた。そして、その篠ノ之束の技術者としての師匠が居るんだが……その人物が見事に同一なんだ」

 

 つまり医療知識があって、尚且つ機械工学の知識を持つ人間ってこと……そんな人物居たかどうか……。

 

「…………まさか」

 

「フェイトちゃん?」

 

「恐らく想像の通りだ。その人物の名前は『ジェイル・スカリエッティ』、フェイトが今独自に追ってる犯罪者だ」

 

 その言葉に私は思わず驚きフェイトちゃんを覗き見る。

 

「しかもややこしい事というのがだ……ユーノに頼んで確認して貰ったが、ジェイル・スカリエッティは結婚していた。今は死別となってるが、相手はプレシア女史だ」

 

「!!母さんが!!」

 

「なんやと!?」

 

 まさかの展開過ぎて驚きを隠せない。いや、驚きのレベルで済めば尚良しなんやけど。

 

「ジェイル・スカリエッティが何を目的にしてるか、そこはまだ不明だが、もしかすると今回の事件、裏でそいつが暗躍してる可能性も考えられなくはない」

 

「そう……だよね……」

 

 フェイトちゃんは落ち込んでるが、これに関しては私もクロノ君も何も言えない。まさか自分が追ってた犯罪者が、実はDNA的に父親だったなんて、どんな警察ドラマの事件やと言いたくなる。

 

「け、けどなのはちゃんが向かってるんや、その一夏いう人捕まえれば何かしら情報が……」

 

『ごめんクロノ君、ちょっとピンチなの』

 

 と、タイミング良くなのはちゃんから映像通信が入りそれを見ると、何やらガシャコンとカートリッジ二つを鳴らして、見覚えのある桜色が……

 

「ちょ!!なのはちゃん何やっとんの!?」

 

『結界が固すぎてザフィーラのパンチでも壊れないから……ディバイン……バスタァァァ!!』

 

 なのはちゃんの砲撃は何時にも増して巨大なわけなのだが、それがぶつかっても目の前に映る結界は傷一つ付いていなかった。

 

「馬鹿な!!ブレイカーじゃないにしろ、カートリッジ二つ使ったなのはのバスターを受けて無傷だと!!」

 

「というか、ザフィーラとアルフは?一緒やないの?」

 

『二人とも今戦闘中!!私も隙を見てバスター射ってるんだからね』

 

 三人がかりで、なのはちゃんが隙を見ないと結界に攻撃できへんやと?

 

 そう思ってモニターの映像を確認して、私は思わず目を見開いた。今日何度目の驚きか……いや、それでも一番に位置するくらいのそれは目の前にあった。

 

「なんで……なんでや……」

 

 ザフィーラとアルフの二人を圧倒する人物……それは見覚えのある銀髪と高い身長、服装こそ知ってるそれとはだいぶ違うが、その紅い瞳は……

 

「なんで……なんでや……リインフォース!!」




次回「38 リインフォース」

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