~PM9:30 海岸~
それぞれが思い思いを過ごした夜が明け、俺達専用機持ちは海岸の一角にて集合していた。
「これより専用機持ちは、各国から送られてきたパッケージをインストールし、それぞれ性能をテストして貰う」
「はい!!」
「織斑達男子組も……っと来たようだな」
千冬姉がそう言いながら後ろをチラリと確認すると、ものすごい勢いで土煙をあげながら移動してくる、見覚えの凄くあるウサ耳変態が、
「ちーちゃぁぁぁん!!」
「煩い黙れ」
と、飛んできたそれの頭を器用に振り向かずアイアンクローし、そのまま地面へと叩きつける。
「相変わらずのアイアンクローだね~」
「砂に埋まってるのによく喋れる物だな、どんな変態だお前は?」
呆れているが、それでもISを使ってないあたり手加減はしてる千冬姉に、俺は内心冷や汗を掻きながら苦笑する。
「織斑達は機体が束が直接作成、及びインストールするから、この馬鹿を連れてやってもらってこい。あと更識も束が代わりに倉持技研から受け取ってあるから、お前もそっちだ」
そう言いながら投げ渡してきた束さんを俺と数馬が受け取り、とりあえず少し離れて表向き作業を開始した。
「さて、とりあえずそこの水色髪の子へのデバイスからだね」
「……もしかして手作りですか?」
「当然、なんたって束さんは一級デバイスマイスター資格持ってるからね、とりあえず専用機借りるよ」
そう言って簪の専用機……『打鉄弐式』の待機状態であるアクアマリンの指輪を受けとる。
「えっと……機体データとコアをデバイスへ移動……さらに魔力コンバーターをセッティング……コアネットワークから回路遮断……ネットワーク元にダミーコアをセットして……うん、これでオーケー!!」
そうして束さんが渡したデバイスは形こそ今までの指輪と同じだが、アクアマリンの所にレリーフが加えられた物に変わっていた。
「これが君のインテリジェントデバイス、『ルインダーナン』、デバイス形態は君の機体と同じ薙刀をベースで作ってるけど、アッチで微調整するつもりだからよろしくね」
「……『ルインダーナン』」
何とも皮肉が効きすぎてる名前な気がするが、まぁそうならないことを願うとしよう。
「とりあえず四人の機体の追加装備……というよりリミッターの解除はしておくよ。競技用スペックじゃ、アレと戦うには火力不足だからね」
「分かりました……」
既に時間は10時二分前……作戦開始時刻ももうすぐ……
「ん?……ちょっとごめんね四人とも……」
と、束さんは何かに気付いた振りをすると、手元に握っていたボタンをポチっと押した。次の瞬間
ここから見える程の巨大な水柱が爆音と共に鳴り響き、空から巻き上げられた海水が雨のように此方まで降り注ぐ。
「な!?」
「あ、あそこには束さんの移動ラボが……まさか!!」
束さんは慌てて双眼鏡を取り出すと、水柱の方向を確認する。俺達も機体を展開して拡大望遠してみると、そこには
「やっぱり箒ちゃんか!!」
「!?どう言うことだ束」
「しばらく前に私がアメリカから借りてた機体、それを箒ちゃんは勝手に持ち出して、私のラボを壊して脱出したんだよ!!」
たまらず千冬姉が問い質すが、それも含めて二人とも芝居を打っており、表情がかなり無理してるのが良く分かる。
そして束さんが設定したAI通りに、『銀の福音』は沖の方へ移動を始めた。
「く、パッケージのインストールが終わってるのは居るか!!」
千冬姉の叫びに、俺達四人以外は誰も手を挙げない。当然だろう、こっちは元から
「ちぃ、四人は今すぐあの機体を捕縛、ないし破壊しろ。他の専用機持ちは万が一に備えてパッケージインストール後、旅館内で待機だ!!」
「了解千冬姉!!」
そう言って俺は機体を展開する。すると千冬姉からプライベート通信が入る。
『一夏、行ってこい』
「あぁ、……行ってきます」
最後の姉弟挨拶を済ませ、俺は空へと飛翔した。
~PM10:15 IS学園生徒会室~
「どういうこと!!虚ちゃん!!」
少しだけ仮眠してたのを無理矢理叩き起こされ、何事かと聞かされた内容に私は憤慨しながらそう聞いた。
「言葉通りです。つい10分以上前に篠ノ之博士の移動ラボを、同ラボで拘束していた篠ノ之箒さんがIS『銀の福音』を奪って破壊、現在太平洋上にて逃亡してるとのことです」
「そこまではまだ良いわよ、問題はその後、どうして簪ちゃんまでその追跡をしてるわけ!!」
「機体のパッケージインストールを終えてたのが、束博士が対応した織斑君達男子三名と簪お嬢様だけだったのです。仕方ないと言えばそうでしょう」
事務的に、だが確実に冷静じゃない言葉でそう言う虚ちゃんに、私は八つ当たりと分かっていながらも、唇を噛み千切るほどに当たり散らす。
「依りにもよってなんで簪ちゃんなのよ……あの娘にはデバイスどころか、魔法の修練自体してないのに……」
簪ちゃんのレアスキルは確かに強力なものだし、それ自体は認めてる。けど、家のしきたりで魔力変換資質を持たない簪ちゃんと本音は、魔法の修練を殆どしてなかった。
してたのも、私が簪ちゃんを突き放し、同時に姉妹仲が崩れたあの出来事までだ。正直、管理局なら陸の一般魔導師程度の実力だろう。
「……ッ!!」
「どこに行かれるのですかお嬢様!!」
「私も現場に行くわ、予言がある以上、防げる状態の今なら!!」
「いけませんお嬢様!!ここから洋上まで何キロあると思ってるのですか!!」
虚ちゃんの言いたいことも分かる。分かるがそれでも、
「なら虚ちゃんは簪ちゃんを見捨てろって言うの!!幾ら一夏君達がシュテルちゃん達を倒せるって言っても、相手は軍用のISなのよ!!」
「だからこそ、お嬢様は冷静にならなくてはいけません。ここでお嬢様まで亡くなれば、騎士カリムやなのはさん達にまで影響するんですよ!!」
「ッ!!」
それを言われ、私は歯を食い縛る。何時もそうだ、大切な場面で自分の立場が邪魔になる。
「今連絡してクロノ提督達に急いで来て貰ってます。どうか、どうかそれまでは」
「ッ…………分かったわ」
私はそう言いながら専用機の待機状態である扇子を握り締める。
「けど30分だけよ、30分待っても到着しないようなら、私はすぐにでも現場へと向かうわ」
「それでも良いです。とにかく、お嬢様は一度落ち着いてください」
出来る限りの譲歩をしつつ、気晴らしに書類の整理を始める。
「簪ちゃん……無事で居てね」