無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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書き終えて思ったこと……今回何気に長くね!?


35 それぞれの前夜

かぽ~ん

 

「はぁ~露天風呂最高」

 

 弾の間延びした声に、俺は苦笑しながらも、頭に乗せたタオルで顔を拭きながら空の月を眺める。

 

「いつにもなくだれてるな弾」

 

「そりゃ久しぶりの温泉だぜ、しかも源泉露天風呂、こんな中でだれるなって奴の方がどうかしてるって」

 

「そりゃ同感」

 

 数馬は数馬で滝湯に打たれながらまったりとしてる。何というか、俺ら以上にその姿が絵になるのはご愛敬だろう。

 

「しかし……明日か」

 

「あぁ、明日だな」

 

 二人が言う明日……それは、俺達にとって漸くの始まりとなる一日、そして、

 

「……弾は蘭に話をしたのか?」

 

「まさか、下手に話したところで信じるわけねぇだろ。だから両親と爺達と一緒に()()()()()()()()()

 

「……それでいいのか?」

 

「どっちにしろ戻るつもりは無いし、だったら忘れてくれた方が楽だからな」

 

 事情を知ってる千冬姉と違って、弾の家族は魔法のことは一切話していない。だからこそ、弾は危険が及ばないようにするための苦肉の策だったのだろう。

 

「ただ、最後にもう一度だけ、爺の野菜炒めを食いたかったな」

 

「……そうだね」

 

「……だな」

 

 暗い雰囲気になってしまうが、家族と別れると言うのはそれだけ辛いものなのだ。

 

「……一夏の方はどうなの?」

 

「荷物はトゥーレとクアットロに頼んで基地に送った。鈴も転移させてドクターに頼んで処置を始めて貰ってる」

 

「鈴の親父さんには?」

 

「……全部話したよ、俺に任せるってさ。意識が戻ったら揃って会いに来いって殴られたけどな」

 

「そらそうだ。俺が同じ立場でもそうするわな」

 

 弾が笑いながら言い、数馬は数馬でフ、と笑っている。

 

「そういや数馬はフォルテ先輩に話したの?」

 

「いや、話してない。話したら……多分僕自身の決心が鈍るから」

 

 ……此方は此方でかなりナーバスというか、かなり悟っている状況だった。

 

「……話しとけよ」

 

「でも」

 

「もし言わなかったら、多分フォルテ先輩ショックで寝込むって、一目惚れでかなりべた惚れなんだ、ちゃんと話さえすれば分かってくれるって」

 

「……そんなものかな」

 

 そんなもんだよ、と俺と弾で言うと少し数馬は悩み

 

「……ならあとでそうしてみるよ」

 

「おう、それにもし話さなかったらフォルテ先輩誰かに奪われるぞ」

 

「……フォルテヲ奪ウ奴ハ、漏レナクミナゴロシダヨ」

 

「「怖っ!?」」

 

 

 

 簪視点

 

「……」

 

 私、更識簪は天才ではない。秀才でもなく、ただただ凡庸、普通、平凡的、特徴の無い事が特徴とまでは言わないが、それでも全体的に見れば平均だ。

 

 別段それ事態はもう諦めた事だし、何よりやりようによっては平凡が天才を喰らうことができる事ぐらいは分かる。だが、それでも

 

「あ~、温泉に入ると体が解れるってのは良く言ったものだよね~」

 

「しゃるるん、なんだか言ってることが年寄りみたいだよ」

 

「……」

 

 目の前に存在する理不尽な才能に嫉妬するなというのは無理な話だ。まな板とか断崖絶壁とまではいかないけど、それでも育ってない肉体で、友人が目の前でだいぶ育ってるそれを見せつけられるというのはだいぶ来るものがある。

 

「かんちゃんはこれからちゃんと育つと思うよ~」

 

「本音、あとでお仕置き」

 

「酷いよかんちゃん」

 

 ヨヨヨ、と泣き崩れる真似をしてるが、その程度の事で睨みを止めるわけがない。

 

「……胸なんておっきくてもそのうち垂れるだけ……そう、だったら小さくても問題ない……巨乳ナンテ滅ベバイイノニ……」

 

「簪、それ言ってて悲しくないの?」

 

「持つものに持たざるものの苦悩は分からないの!!」

 

 どうしてこう私の周りは……あの駄姉と虚さんは年上だし仕方ないと割りきれる。けど同世代……同じ日本人のあの掃除用具こと篠ノ之箒や、それには劣るがやはり大きい本音……どう考えても喧嘩売ってるのかともの申したくなる。

 

 え?セシリアとヒルダは含めないのかって?欧州人やアメリカ人は大抵巨乳が多いいから当然除外に決まってる。

 

「けど意外だよね~、簪さんのレアスキルって、端から見ても強力なのに」

 

「……ただ私は相手の本心と、念話の内容が聞けるだけ。魔力量だって多分トゥーレと同じくらい」

 

「いやいや私の魔法って、言っても一夏の治療とか索敵ぐらいにしか使えないし、何より実戦だと銃を使った射撃魔法の援護くらいだよ」

 

 というのも、トゥーレの場合戦闘機人としてのポテンシャルは高くないが、こと索敵とかソナーとかそっちに限って言えばエース級にも引けを取らないと。

 

「それに簪の能力を使えば、遠くからでも相手の思考とか読めるでしょ?指揮官からすればたまったものじゃないし」

 

「……そんなことない、レアスキルにも欠点はある。発動してる最中は『聞き分けと遮断』を使わないと最悪情報圧に負けて失神するから、戦闘中には滅多に使えない」

 

「『聞き分けと遮断』?」

 

「私のレアスキル『透心』は一定範囲内の人間の思考ないし念話をすべて聞くことができる。けど、『範囲内の全ての人間』の考えを全部聞いてたら情報量が多すぎて頭がパンクする。だから必要なものだけ聞いて、あとは全て遮断するの」

 

 しかも有効半径はたった100メートル、さらに『透心』で集中して同時に聞ける数も二人が限界。はっきり言えば現状、使い道の少ないレアスキルということになる。

 

「へぇ、でも鍛えれば同時に読める人間の数や、効果範囲も増えるんでしょ?」

 

「……当然、最低でも500メートル範囲の声は余裕で聞き分けできるようになる」

 

「かんちゃん、ファイト~!!」

 

 ……全テハ明日カラ始マルンダヨ、オ姉チャン。

 

 

 

 

千冬視点

 

「……やれやれ、こんなところに呼び出すとはな、案外暇ではないんだぞ」

 

 私は近くのコンビニで買ってきた缶ビールの入った袋を片手に、昼間一夏達が居た崖のところへやって来ていた。

 

 そこには束とリイスの二人が、月を見ながら崖に座っていた。

 

「にゃはは~いいじゃないのちーちゃん」

 

「……お前のマイペースぶりには呆れるよ、まったく」

 

「確かに、私もほんの数日の付き合いだが、この人の自分勝手さには頭が下がる」

 

 リイスもやれやれと首を振りながら、袋から缶ビールを一つ取り出し、プルタブを開けて一口飲む。

 

「……ねぇ、ちーちゃん。この世界は楽しい?」

 

「楽しくはない、が、つまらなくもないと言ったところだな」

 

「どうして?いっくんをあんな目にあわせたんだよ?」

 

「だがアイツは自分の道を決めた、だとすればアイツを言い訳にするのは姉としても人としても道理が通らない」

 

 私も缶ビールを開けて一口飲む。束はそれを見て少し目を細める。

 

「……一応お前の分のビールもあるぞ」

 

「いや~飲んでも良いけど、私は最終調整があるからね、今度もらうよ」

 

「そうか」

 

 まぁ確かに、明日は束が一夏達の企みの正否を決めるに等しいからな。

 

「……殴らないんだね、ちーちゃん」

 

「何故だ?」

 

「明日のアレ、私にもう少し考える時間があれば、いっくん達に無茶をさせずに済んだ、そういう意味ではちーちゃんに殴られても文句は言えないんだよ」

 

 ……何というか、ここまで束が殊勝になると逆に気持ち悪く感じるのは気のせいか?

 

「別段、明日の作戦は結局私が人選するんだ、そういう意味では弟を死地に追いやってるんだから関係ないだろ」

 

「けどちーちゃん、もしかしたら明日の事でクビになってもおかしくは……」

 

「そのときはオータムやスコールに頼んである。それにブリュンヒルデその人が暗部にいるなんて、皮肉が効いてて面白いだろ?」

 

 まぁ、最悪家を売ったそれなりの金で質素倹約に過ごすのもいい気がするがな。

 

「そういうお前は……聞くまでもないか、リイスはどうだ?」

 

「そうですね……私の主の生まれ故郷であるこの世界は嫌いではありません、むしろ、出来ることならもう少し、この世界の色々を見てみたいと思ったくらいです」

 

 リイスとしても、どうやら嫌いではないようで安心した。

 

「……それじゃ二人とも、私は少し準備をするから先に行くよ」

 

「あぁ、事を仕損じるなよ、束」

 

「ちーちゃんこそ、私が一から完全修理した暮桜があるからって、突撃してこないでよ」

 

 そう言って束は一瞬で消えた。恐らく魔法で瞬間移動したのだろう。リイスもまた同様だった。

 

「……どうせなら、一夏の子種でも奪っておこうか」

 

『ちーちゃん何言ってるの!?馬鹿なの!!ゼロるの!?』

 

「寧ろどこから聞いてるこの馬鹿者!!というかお前関係ないだろその台詞!!」

 

 

 

 

 かたなし視点

 

「地の文こら!!」

 

「お嬢様、はしたないですよ」

 

 何となく突っ込んでしまった私に、虚ちゃんが持ってきてくれた紅茶を一口飲む。しかし――

 

「白銀の歌なんて……何処にも関連してないわね」

 

「そうですね……」

 

 この地球で魔法として有名なのは、私達更識とその関係する一族、イギリスにいる元管理局提督のグレアム、既に没落したブリュンヒルデこと織斑先生の一族、他にも細々としたものは少なからずあるが、そのどれとも『白銀の歌』という言葉との関連はなかった。

 

「闇の獣に堕ちし白銀の歌……いったいなんのことなのよ」

 

「……一応八神さんとは連絡がついたんですよね?」

 

「ええ、明日の昼にはなのはちゃん、フェイトちゃん、はやてちゃん、ヴォルケンリッターとクロノ提督、ユーノ司書長、あとフェイトちゃんの使い魔のアルフが合流するってなったけど」

 

 正直言えば本来なら過剰戦力……だが、過去の戦いではこれにプラスして衛星軌道上に配置した『アースラ』があって何とかだったという。

 

「多分私が加わってもそこまでの戦力になる気がしないのよね」

 

「ならばISを使えばよろしいのでは?一応管理局の上層部には許可を得ている訳ですし」

 

「それでもよ、『ミストルティンの槍』を使って漸くブレイカー手前なんだもの、ホント、肝心なときに役に立たないわよね、私の魔力変換資質『水流』って」

 

 変換資質としては稀少な部類であるのは分かってるのだが、いかんせん器用貧乏という感じが否めない。

 

「……そういえば、IS関連で何か『白銀の歌』らしきものがありませんでしたか?」

 

「へ?……そういえば」

 

 虚ちゃんの指摘に、確かに最近聞いた覚えがあるような…………あ、

 

「…………あった」

 

「お嬢様?」

 

「あったあった!!そうよ、確かに意味は少し違うけど確かにアレは『白銀の歌』に間違いないわ!!」

 

 そう言って私はすぐさまパソコンを開き、とある数週間前のネット記事を展開する。

 

――アメリカとイスラエルの共同開発された新型軍事用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が、ISの開発者である天才『篠ノ之束』博士の目に留まり、篠ノ之束博士は機体を借用する代わりに、高度な稼働データを収集する事を正式にアメリカ大統領と契約した。期間は一ヶ月であり――

 

 シルバリオ・ゴスペル……少し粗っぽい解釈になるが、『白銀の歌』がこれだと考えれば納得できる。

 

「ですが、篠ノ之束博士は確かに人としては自由な方ですが、自分が正式に契約したものを改造するなんてことはしないはずです」

 

「そう……よね、確かにそう」

 

 篠ノ之束博士は前回会ったとき、確かにマイペースな方ではあったが、筋道は通す人だった。しかも織斑君が信用してるとなると、それを裏切るのはあり得ないと思いたい。

 

「それに、篠ノ之博士は『闇の書』との関連性は全くありません、そう考えると……」

 

「判断に厳しくなるってことね……」

 

 まぁどちらにしろ、明日になれば方針も決められる。今すぐ考えても意味がないことだ。

 

「とりあえず、今は少し休みましょ。明日のお昼までには時間もあるしね」

 

「……ですね、お嬢様着替えは?」

 

「大丈夫、拡張領域に何着か替えの持ってるし、とりあえず隣の生徒会専用のシャワーを浴びるわ」

 

 私はそう言って部屋を出る。だが、胸の奥に残るようなもやもやに、私は少し気味が悪くなった。

 

 

 

 束視点

 

「ふぅ、漸く微調整終わった」

 

 私は手元のキーボードを打ち終え、凝り固まった体をゆっくりと伸ばす。私が師匠から貰った特殊潜水艦『名前はまだない』の最後の仕事の為の準備が漸く終わったのだ。

 

「~~!!~!!」

 

「まったく、五月蝿いよ箒ちゃん」

 

 特殊弛緩剤で体の自由を奪い、頭に私自作のヘッドギアを被った実の血の繋がった妹を呆れながら見つつ、私は最後の仕上げに取りかかる。

 

「私ね、箒ちゃんの事は大好きだよ。勿論家族として大事だし、何より守ってあげたいと思ってた。けどね、そんな私が箒ちゃんを歪ませちゃったんだよね」

 

「~~!!~~!!~!!~~!!」

 

「うん、私が言う台詞じゃないし、そんな立場に無いことは知ってる。けど、箒ちゃんを元に戻すことはできない……VTシステムの影響でもう長くは無いんだよ」

 

 恐らく長く見積もっても二十歳を越えられるか否か。それも二十歳を越せたとしてもあとは寝たきりの生活になるのは多分……。

 

「箒ちゃんもそんなの嫌でしょ?私だって嫌だ。そうなるくらいなら私は自殺してるし、何より箒ちゃんもそうするでしょ?」

 

「~~!!」

 

「だからね、私が最後に一つだけ箒ちゃんに()を見せてあげる。箒ちゃんが思ってる一番良い世界を見させてあげる」

 

 そう言って私はヘッドギアに繋がった端末に手を伸ばす。私がキーを押せば、この世から箒ちゃんの意識は消滅して、箒ちゃんは文字通り、()()()()()()()になる。

 

 本当ならこんなことしたくなかった。けど、実の妹が私より先に目の前で逝く位なら、せめて私が逝かせてやりたいと思う心に間違いなどあるだろうか。

 

「ごめんね……箒ちゃん。箒ちゃんの事は、私が死ぬまで忘れないから」

 

 そして、私はその右手で、箒ちゃんの意識を奪うボタンを押した。途端ヘッドギアが光り、箒ちゃんの体ががくがくと震え、そして今まで叫んでいた口から、音がなにもでなくなった。

 

 途端、私は膝から崩れ落ち、溜まっていた涙が絶え間なく落ちていく。罪悪感はある、後悔もある、だがそれ以上に、実の妹が居なくなった事に、私に残っていた人間としての呵責が耐えられなかった。

 

 いつ以来だ、私がこんなにまで嗚咽したのは、多分、いやきっと、生まれて初めてだろう、こんなになったのは。

 

「……ごめんね……ごめんね箒ちゃん」

 

 ヘッドギアを外し、意識だけが無くなった体を運び私はそれをIS『銀の福音』へと組み込む。私が作ったAIプロトコルで動くように設定し、何時でも出られるようにセッティングする。

 

「せめて、最後ぐらいいっくんに介錯してもらっても、バチは当たらないよね」

 

 潜水艦から覗く空の流星は、まるで今の私を表すかのように、儚くどこか寂しさを感じてしまった。




次回「36 白銀の歌」

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