無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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28 白と黒(ヴァイス・シュバルツ) 後編

 慣性無効結界(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)……通称AIC、ドイツが研究、開発しようとしてる特殊な技術。

 

 その名の示す通り、動く対象を完全停止させることができる代物で、今はまだ理論が先行してるだけの技術だったはず。

 

「それを、お前の機体には搭載してる……だからこそ俺の攻撃が当たる直前で一瞬動きを止めることで回避し、さっきみたいに空中戦で有利にすることができた……違うか?」

 

「まぁどのみち調べれば分かることだが……その通りだ、最も、私では長時間相手を止めるにはかなりの負担があるのだがな」

 

 あっさりと白状しながらも、表情はどこかギラついてるラウラに頬がひきつる。

 

「だが、回避のために一瞬だけ止めるなんて技術、並大抵の人間じゃ不可能だろ」

 

「言っておくが、これはドイツの頃から練習していたものでもある。接近戦主体の敵を相手にするとき、インパクトを乗せるタイミングで一瞬停止されるだけで、貴様のように体勢を崩したり、一撃を軽くするくらいはできるからな」

 

「そんな高等テクニックを軽々と明かしていいのか?見てる連中に対策とられるかもしれねぇぞ」

 

「その程度のこと、寧ろそれを越えたうえで勝つ方が面白いだろ?」

 

「フ、違いないな!!」

 

 お互いに強いものと戦うことを少なからず是とするからか、言葉を終わらせて再び拳打の応酬を開始する。互いに一撃を当てようと動き、それを相手は躱したり避けたりと、まるで一流同士の武闘家の接戦のような駆け引きに心のどこかで沸き立つような感覚に包まれる。

 

煉呀・蟒蛇(れんが・うわばみ)!!」

 

 掌底回し打ちをAICでラウラは封じ、そこへのレーザー手刀による突きを此方は腕そのものを掴んで投げ飛ばす。

 

 互いに一進一退、一瞬の気の緩みが敗北へと繋がる激戦に、互いのボルテージは最高潮を迎えた。

 

「これで決めてやる、ラウラ!!」

 

「来い、織斑一夏!!」

 

 一瞬距離を取り、手刀籠手を解除し魔力のリミッターをもう一段階……二段階目を外す。さらに俺自身の右手で何かを掴むイメージをすると、まるで最初からそこにあったとでも言うかのように、()()()()()()()()()()()()()が現れた。

 

「……来い、零落!!」

 

 その言葉に呼応するかのように、鍔の先から白い光の刀身が、スパークと共に出現する。

 

「それは……教官と同じ唯一無二の特殊能力(ワンオフアビリティ)!?」

 

「ちょっと違うぜ、こいつは千冬姉のみたいにSEを貫通することはできないし、どちらかと言えばお前のレーザー手刀と同じだ。つか二次以降なんてしてるわけ無いだろ」

 

 もっとも、と俺は続ける。

 

「剣の銘は『光式・雪片弐型(こうしき・ゆきひらにがた)』、千冬姉と同じ剣の名前を関する剣だ……千冬姉の知り合いと戦うなら、これを使わない道理はないだろ?」

 

 大太刀程まで刀身が伸びた剣を上段に構え、()()()()()()()()()()と魔力の一部を刃に注ぎ込む。

 

「フ、フハハハハハ!!刃物恐怖症の人間が剣術を使うとは……ここまで滑稽で愉快なのも初めて見たぞ!!」

 

「は、日本には木刀や竹刀っていう刃物じゃない剣もあるんだ、練習しようと思えば出来るんだよ」

 

「フ、良いだろう……どちらにしろ互いにエネルギーは限界近い、一撃で決めるというならばそれも結構!!」

 

 ラウラもレーザー手刀を右手だけ抜き、後ろ下段の構えで相対する。

 

「……」

 

「……」

 

 互いのプレッシャーだけではない、相手の一撃をどう捌き、どう当てるか……その事をお互いに短い時間で何通りもの数をシミュレートし、そして

 

「ッ!!」

 

 先に動いたのはラウラ……横から振り抜こうとする桃色の光の刃を此方へと向けて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷雪ノ光迅(らいせつのこうじん)!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たった一度の振り下ろし、その一撃だけでフィールドを土煙が覆い尽くし、そしてそれが晴れたときには、ラウラの機体は地に手を付けて蹲っていた。

 

「……なんだ、今のは……」

 

「……俺の剣の一つさ」

 

 レヴィ戦で使った『雷雪ノ片撃』が一撃で全てを切り裂く技とすれば、『雷雪ノ光迅』は一振りで旋風を起こし相手を連続で切り裂く技だ。

 

 そしてこの技は本来魔法による技……下手すればかたなしが飛んでくる可能性もあるが、この機体を使ってる限りそれはない。

 

 何故ならこの機体及び弾と数馬の機体には……()()()()()()()()()()()()()という特殊な技術を乗せているからだ。

 

 俺の機体が格闘でラウラのISにダメージを与えられるのも、拳を肉体強化の魔力で覆うことで、擬似的なパイルバンカーのようにしているだけなのだ。

 

「もっとも、今のでエネルギー全消費しちまったけどな」

 

 その分デメリットはある。魔力を物理法則へと変換するのはそれなりにエネルギーを消費する。殴る蹴るの格闘ならそれなりで済むが、今みたいな大技はエネルギーの大半を使いきるほどだ。

 

 まぁそれも、ドクターから改善方法を聞いてないわけでは無いんだけどな……。

 

「さて、動けるかラウラ?」

 

「問題ない……と言いたいところだが、どういうことか機体がショートしてるのか全く動かん」

 

「あ……そうか……」

 

 そして俺の場合、魔力変換資質である電撃も一緒に物理法則へと変換されてしまうのだ。

 

 故に、大抵ISに大技を当てると、プログラムとかの電子制御部分にかなりの負荷を与えてしまい、今回のように機体をショートさせてしまうのだ。

 

 こればかりは束さんもドクターもお手上げというべきか、弾と数馬の機体には対抗するために対電プログラムを使うことで事なきを得ているのだ。

 

「まぁどっちにしろ今回の戦いで暫くは修理しなければならんからな。丁度いいと考えれば良いか」

 

「なら良いけどさ……取り敢えずIS解除した方が……ッ!!」

 

 俺がそう言おうとした次の瞬間、まるで狙ったかのように何かが此方に向かって飛んできた。

 

「クッ!!」

 

 慌ててそれを弾き飛ばし、何かと思って見てみる。

 

 そして、それを見たとき、俺の心臓が濁流のように早く脈打つ事になった。

 

「ぁ……あぁ……」

 

 そこに居たのは気味悪い程に黒い鎧に、黒く塗られた大振りのブレード……そしてのっぺらぼうだが見間違うなどあり得ないその姿……

 

「『暮桜』……いやVTシステムか!?」

 

 ラウラの言葉が聞こえてくるのに、何処か遠くのように小さく、さらに身体中を嫌な寒気が襲う。

 

「……あ、あぁ……」

 

 吐き気なんてそんな生易しい物ではない、これは……肉体そのものが恐怖して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 そして、そこからの意識は無くなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 束視点

 

「おい、束!!どういう事だ!!」

 

 ちーちゃんが訳が分からないという風に私に詰め寄ってきた。既にだっくんとかっくんにはいっくんを助けに向かって貰ってるが、私にだってこの状況には動揺しかしてない。

 

「わ、私に聞かれても分かんないよちーちゃん!!どうしてこんなところに禁止されてるVTシステムがあるのさ!!」

 

「く、誰だ、誰があれに乗っている!!」

 

『……すみません、織斑先生』

 

 その時、まるで狙ったかのようにちーちゃんの部下の巨乳から連絡が入った。

 

「山田先生か、いったい何があった!!」

 

『……篠ノ之さんが、打鉄を無断で使用して……私がそれを足止めしようとしたんですが……いきなり黒い泥みたいなのに覆われて……気が付いたら……』

 

「「な!?」」

 

 つまり……犯人は箒ちゃん?でも、

 

「ど、どうして訓練機にVTシステムが組み込まれてるのさ!!」

 

 そう、訓練機は基本的に外部に出すことは無い。盗難防止もあるが、何より訓練機の修理は基本的にIS学園の整備科の実習科目の一つのため、そういうことは全くといって良いほどない。

 

『……回線に割り込み失礼するぜ、千冬』

 

「な!?オータムか!!」

 

 オータム?……確かいっくんを誘拐したけど罪悪感から助けて、そのあとちーちゃんがいっくんのボディーガードに雇った女だっけ?

 

『おう、千冬…ってそんな事はどうでもいい。今そっちでVTが使われてるってダリルとマドカから聞いた。しかも一夏の目の前でと来たからな、手段選ばずにこうさせてもらった』

 

「その口ぶりからすると、何か知ってるようだな?」

 

『あぁ、つい今しがた日本のとある会社を違法研究っつうことで国の依頼で潰したんだがよ……そのうちの一人がつい最近、IS学園の訓練機の一つにVTを仕掛けたとか宣いやがった』

 

 日本のとある会社?けどそんなことできる人間なんて……

 

「……そうか、タッグマッチトーナメントか!!」

 

「あ!?」

 

 ちーちゃんの言葉に私も気付いた。確かにIS学園の大型イベントの一つであるタッグマッチトーナメントの前に、IS学園の訓練機は1度オーバーホールする事になっていたはず。

 

『そういうこった。もっとも、それをやった奴はドイツ繋がりのアホんだらだったわけだが、そんなことより問題は一夏のほうだ、最悪精神崩壊しかねねぇぞ』

 

「……どういうことだ?なぜ一夏がそうなる」

 

『俺も良くは知らねぇが……アイツの()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 え?

 

『前に一度、刃物恐怖症が分かってから一夏のやつにお前が乗ってる、ブレードを持ってない暮桜を見せたんだが……その時、アイツはまるで恐怖するように体を震わせて、まるで発狂したみたいに叫びまくった』

 

「「!?」」

 

『そんときはリイスが当て身で気絶させて何とか収まったが、恐らく一夏が恐怖してるのは、腹刺したナイフより、暮桜なんだと思うぜ』

 

 つまり、いっくんの刃物恐怖症は……ちーちゃんが駈る暮桜が原因?

 

「……どうして……」

 

『助けたあの時テレビが転がってんだが、それにはモンドグロッソの決勝戦が映ってた。つまり』

 

「……ちーちゃんが助けに来なかったから、その姿を恐怖の象徴になった?」

 

 考えられないことではない。唯一無二の家族が助けに来ず、しかもテレビ画面の先で悠々と戦ってる姿を見れば、少なくとも怨む対象になってもおかしくない。

 

 そこを師匠が助けたおかげでなんとかなってるのだ。ホント、そういうところは師匠には頭が上がらないよ。

 

『今確か一夏は気絶してるんだったな、最悪、刃物恐怖症がぶり返すどころか悪化する可能性も考えとけよ』

 

「……すまない」

 

『メンタルケアするのも姉の勤めだ。長いこと出来てなかったんだ、少しは向き合って話をしろよな』

 

 そう言って回線は切れてしまう。しかし、そうなると大変なことになってくるよ。

 

「……束、アレを動かす」

 

「!?けど、そんなことしたらいっくんに逆効果だよ!?」

 

「なに、一夏が恐怖してるなら、逆の印象を与えてやれば良いだけさ」

 

「確かにそうかもしれないけど……」

 

 今現状、この場にいただっくん達専用機持ちでVT暮桜を足止めしてくれてるものの、それを圧倒してそいつはいっくんを攻撃しようとしている。

 

 あのラウちゃんといっくんを助けようとしても、それをも先読みして攻撃してくるから、助けることすら叶わない。

 

「それにな……私は今燃えているのさ」

 

「?」

 

「あの時救えなかった一夏を、この手で救うことができるかもしれない……あの時の贖罪ができるかもしれないとな」

 

 その言葉は何時もの憮然とした物ではない、たった一人の姉として弟を守る、その決意の表れだった。

 

「……箒ちゃんを殺さないでよ?」

 

「ふん、馬鹿力だけで世界最強になったわけではない。それはお前も知ってるだろ?」

 

「うん、そうだね」

 

 ちーちゃんがここまでの覚悟を決めたなら……

 

「専用機持ち達!!五分だけでいい、時間を稼いで!!」

 

 私はその場にあったマイクで専用機持ち達に回線を繋いでそう命令した。

 

『束さん、なんか策があんのか?』

 

「秘策中の秘策が一つだけね、だけどそれには時間が少し必要なの。だから」

 

『そこまでで充分ですよ、それに、別に倒してしまっても良いんですよね?』

 

 かっくんの珍しい軽口に、私は頬をにやけさせる。

 

「そんな死亡フラグ立てる余裕があるなら、やっちゃっても良いに決まってるよ!!」

 

 そう言って私は回線を切り、自分のデバイスを取り出す。

 

「ちーちゃん、案内よろしく!!」

 

「ふ、任された」

 

 いっくん、もう少しだけ待っていてね……。




次回 『29 桜と雷』




というわけで、VT編も一気に先駆けでやっちゃいましたw

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