無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

34 / 80
長くなったので前後編に分けます。


27 白と黒(ヴァイス・シュバルツ) 前編

 ~ダリル視点~

 

「しっかし、見物人が殆ど居ない模擬戦とは珍しいよな」

 

 管制室にてそう言ってのけるアタシの言葉に、相方のフォルテ含めて数少ない観客たちは確かにと呟いていた。

 

 今ここに居るのはアタシ達二人に弾、数馬、簪、ヒルダ、マドカ、セシリアとそして何故か簪の連れの着ぐるみだった。

 

「今回の模擬戦は専用機における格闘攻撃の有用性を調べる為の物だからな。代表候補生や企業代表生等の専用機持ち以外には見せる必要はない」

 

「なるほどな~……ところで、織斑先生よ、山っちゃんはどした?」

 

「……幼馴染みを傘に見学しようとする馬鹿者を蹴散らしている」

 

 ……つまり一夏曰く掃除用具の相手をしているわけか。ってあれ?

 

「しかし、だとしたらそこの着ぐるみはなんで居やがる?」

 

「布仏も専用機を持ってるからだ、といっても使用には制限が掛けられてるがな」

 

「制限?」

 

「……色々と問題がありすぎてね」

 

 なんとも歯切れの悪い言葉を返す織斑先生と更識の妹(こういうとすげぇ不機嫌になるけどな)に首を傾げながら改めて模擬戦のフィールドを見る。

 

「ていうか織斑先生としてはどう思うよ、二人の対決は?」

 

「……それは勝敗という意味でか?」

 

「それもあるけどよ、単純な実力もだ。一夏のやつはほぼ毎日訓練を一緒にやってるから言わずもがなだか、あのドイツ娘の方は知らねえからな」

 

 そう言うと織斑先生は微妙な顔になりながらふむ、と呟く。

 

「ISでの立体的な動きは操作時間も相まってボーデヴィッヒに軍配が上がるだろうな。だが、単純な格闘戦では織斑の方が圧倒的に上手だ」

 

「あぁ確かに、ちょいちょい練習の時の格闘戦を見てたが、あそこまで中華系体術をベースとした我流体術を極めてる奴はそうそう居ないしな」

 

「さらに一夏は柔剛併せ持つ戦い方をしてくる。相手がパワーファイターなら投げや関節、逆にカウンターヒッターならば一撃の重い蹴りや掌底を急所に突いてくる」

 

 ……なんか聞いただけで戦いたくないな、ホント。

 

「さらに特異なのはアイツの専用機だ」

 

「あぁ、確か武器無し格闘戦を得意とする機体だったな」

 

「元々IS競技でも格闘戦をする選手は少なくない。武器を破壊ないし手元に無い状況でできる手だからな。だが、ISへの格闘でのSE減少は意外と軽微……少ないんだ」

 

「まぁそれも当然なんだけどね~!!」

 

 突然変な声が聞こえて驚いていると、なんと織斑先生の隣に雑誌などで見たことのある顔の女性が……

 

「し、篠ノ之束!?なんでここに!?」

 

「にゃはは~いっくんたちの機体を造ったのは私だよ?性能テストするなら開発者もデータが欲しいというわけよ!!」

 

 い、意外とフレンドリーな対応だった。世間一般では超絶的にコミュ障だって聞いたことが多々あるんだが。

 

「……束、どうやってここに侵入した?」

 

「フッフッフ~、この束さんに掛かれば一事が万事どうなってようとも簡単に入れるんだな~」

 

「答えになってないぞ。……まぁいい、入ってきたついでにどういうことか説明してやれ」

 

 しょうがないな~、と呟くと途端にどこから取り出したのか分からない眼鏡を掛けて此方を向く。

 

「今でこそスポーツ競技とかに使用されてるけど、元々この束さんが考案したこのISは宇宙開拓のために製作したマルチアームドスーツなんだよ。隕石の直撃とかで搭乗者が危険にならないように、物理的なダメージ……この場合パンチとか物がぶつかるとかそういう意味で……ではSEの消費はかなり低くなってるのさ」

 

「ちなみに同じ物理的な意味でも武器を使った場合は話が別でね、殴るの場合はぶつかるという一工程だけなんだけど、例えばブレードなら触れる→切断するの二工程、ミサイルなら着弾する→爆発(熱)→爆発(衝撃波)と三工程になる。ミサイルとかの中~大型の武器でSEが大きく減るのはそういうこと」

 

 なんとも大雑把だが納得のできるだけの理論ではある。

 

「まぁいっくんの機体にはある調整がされてるんだけど……それは試合を見ながらにしようかな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~一夏視点~

 

「……」

 

 フィールドに立ち、軽くジャンプしながら相手の出てくるのを待つ。

 

(マスター、どこまで本気でやるつもりですか?)

 

(そうだな……相手の出方にも依るかな)

 

 鈴に師事して貰った武術を使えば下手な武器持ち相手ならば何とでもできる自信はあるし、そうできるという確信もある。

 

 しかしてISでの実戦はまだ殆どないに等しい状況、IS特有のスラスターを利用した蹴りなどを完全に防げるかと聞かれれば、まずもって現段階では難しいと答えるしかない。

 

(……来ましたよ、マスター)

 

 と、まるで悠然と降りてきた黒塗りのIS……そして搭乗者であるラウラ・ボーデヴィッヒに気づくと、俺は一先ず呼吸を1度整える。

 

「……背中のパーツはどうした?」

 

「ふむ、レールカノンとスラスターが同一になってるからな、整備科の奴に頼んで背中のパーツを外して貰ってきた」

 

「……なんとも騎士道精神があることで」

 

 正直、軍人と言う話だから万が一に備えて射撃武装を装備してくるかと考えたのだが。

 

「貴様とは純粋な近接戦で戦うべきだと思っただけだ、それに、自ら使わないと言った手前でそれを持っていたのなら卑怯極まれりだろ?」

 

「……そうかよ、つかしゃべり方おかしくねぇか?なんか妙に固いんだが」

 

「む?クラリッサから日本語を教えて貰ったんだが、何か変か?」

 

「いや、変じゃないけど……」

 

 幾らISの為日本語が世界共通言語だからとはいえ、明らかに外国人が話す日本語じゃないのは間違いない。鈴みたいに幼少期から日本に住んでるとかなら話は別だが。

 

「さて、時間も限りあるからな……さっさと死合と行こうか」

 

「……来いよ、全力で捩じ伏せてやる!!」

 

 互いに挑発しあい、緊迫した雰囲気が広い空間の中を覆う。一秒……二秒と睨み合い……そして

 

「ッシ!!」

 

「テラァ!!」

 

 黒と白の拳がそれぞれ同時に突き出され、それぞれ突きだされた拳同士がぶつかり合った。互いにインパクトの威力は同じ……その事に嗤ってる自分が居た。

 

「我流……煉呀(れんが)!!」

 

 ぶつかり合った右手とは逆、左掌底から放った高速の突き出しを、ラウラは同じく左腕で防ぐものの、全体重を乗せた衝撃には耐えきれず下がってしまう。

 

双煉呀(そうれんが)!!」

 

 そこを見逃す俺ではなく、踏み出しの一歩で距離を詰めると、両腕の掌底で顔と腹部を狙う。

 

 確実に当たる……そう確信したその時、一瞬だけ肉体の動きが止まったような感覚が生じ、体重を乗せるタイミングがずれて避けられてしまう。

 

「セラァ!!」

 

 そしてその間の隙を、まるで狙ってたかのように伸ばした腕を掴まれ投げ技に持ち込もうとラウラに動かれる。

 

「ッ!!下煉華(おろしれんげ)

 

 慌てて脚のスラスターを使った高速回し踵蹴りを繰り出し組み離し、少しばかり距離をとる。しかし……

 

(なんだ、さっきの感覚は)

 

 明らかに不自然なタイミング……我流体術とはいえ掌底を軸とした『煉呀』系、踵による蹴りを軸とした『煉華』系は、この四年近く練習し培ってきた技の基本だ、体重を乗せるタイミングを失敗するなんてことはあり得ない。つまり、

 

(何か特殊な武器でも詰んでる……けどそれは攻性装備じゃない?)

 

 確かにラウラは武器は使わないとは言った。しかし、IS自体の特性を使わないとは一言も言ってないし、それが攻撃性の力が一切ないなら嘘を言ってるということにも……かなりグレーだが黒じゃない。

 

 それに俺の機体も直接的な武器ではないが、機体の特性というものを利用して戦ってる実情、それについて文句を言う事はできない。

 

「どうした、この程度で終わりではないだろ?」

 

「は、慌てんなよ……勝負はまだこれからだろ!!」

 

 なんにせよ、とにかくダメージを与えないことには勝つのは不可能、だとしたら、

 

煉呀・白雷(れんが・はくらい)!!」

 

 若干だけ体内の魔力を操作し、肉体の行動速度をブーストした煉呀の連続ラッシュを繰り出し、あの止められるような感覚へさせないようにすればいい。

 

「舐めるな新兵(ニュービー)!!」

 

 しかし流石は特殊部隊に在籍してるだけあってか、高速での掌底突きを弾き、それでも当たりそうなものはステップを使って巧みに避ける。

 

「その程度のコンビネーションで私を倒せるわけがなかろう!!」

 

「ならさらに速度を上げるまで!!」

 

 拳を振るう瞬間だけ腕に取り付けたブースターを使い拳速を上げ、さらに時折脚の蹴りを加える。

 

煉撃・乱呀(れんげき・らんが)!!」

 

 しかし、それをもラウラは弾き、いなし、躱して防ぐ。それでもやはりブースターパンチの威力は耐えきれるものではないらしく、時折ガードしては仰け反りそうになってる。

 

(だったら!!)

 

 右手の煉呀の一撃を敢えて自分から見てラウラの顔の左側を抜けるように振り抜く。そして

 

(肘を使った強襲で!!)

 

 武道において肘打ちは禁じ手にもなることがあるほどに強力な技、それをまともに頭部に当てられれば絶対防御が存在するとしても大ダメージは必死だ。

 

 ラウラ自身、肘打ちは警戒の範囲外だったのか驚愕して動きが止まる。そして既にブースターを使って速度を上げた肘打ちは眼前。

 

「取った!!」

 

 確実に当たった、そう思ったその時、またしても一瞬だけ機体の動きが止まり、今度は体勢を崩してしまい、ラウラも距離を取ってしまう。

 

(またあの感覚!?……いったいなんなんだ、アレは)

 

 憤慨しながらも、今起きたことの確認をしながら再び構えを取り直す。

 

(さっきも今も、確実に直撃するというタイミングで体の動きが一瞬だけ止まった……けど単純に動きを止められる特性なら常に使った方が勝てるのに、そうしない……)

 

 つまり何らかのデメリットが存在する、もしくはそうせざるを得ない何かがあるということ。

 

(落ち着け、確かドイツのIS関連で何か特殊な技術があったはず……それは確か……)

 

「戦いの最中に考え事とは無粋だぞ!!」

 

 思考の海に飲まれそうになった瞬間、狙ったようにレーザー手刀を抜いてきたラウラの一撃を紙一重で回避し、地上戦から空中戦へと戦いの場をシフトする。

 

煉刀呀(れんとうが)!!」

 

 こちらも機体のマニピュレーターに手刀用の籠手を装着し、レーザー手刀と正面から切り合いに持ち込む。

 

「ほう?金属刃はダメではなかったのか?」

 

「生憎、これは保護用の籠手みたいなもんだからな、刃なんて一切ついてねぇよ!!レーザーが熱いけど!!」

 

 そう言って再び『煉華』を叩き込もうとした瞬間、また体が止まったような感覚に陥った。しかも、

 

(今度は一瞬じゃない!?)

 

「隙だらけだぞ!!」

 

 まるで高速の乱舞の如き連続でのレーザー手刀の斬撃からの蹴り落としに、さすがの俺も背中からぶつかり、墜落する。

 

「……く……油断した」

 

「ほう、あれだけの攻撃を受けてまだ立てるか……」

 

 地上に降りてきて、悠々とそう言うラウラに俺はニヤリと嗤った。

 

「……何がおかしい?」

 

「……いや、お前のトリックが分かっちまってな……いや、まさか驚いたぜ……()()にそんな使い方があるなんてな」

 

 なに、とラウラは呟き、俺は立ち上がると首を軽くコキリと鳴らした。

 

慣性停止結界(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)……通称AICを使った瞬間防御……それがお前が今まで使ってきた、俺への不思議な現象への答えだろ?」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。