時間通り30分後、調査協力ということで対面する形で座った俺達は各々睨みあっていた。
ちなみに此方の面子は俺、束さん、トゥーレ、数馬の四人だ。弾は別向きの要件に向かってもらい、簪には悪いが、彼女の姉にへんな風に思われたくないので呼んでいない。
そして管理局側だが、どうやらクロノ、ユーノ、楯無、そしてディアーチェの四人のようだ。
「さて、改めて自己紹介させてもらう。俺は時空管理局提督、クロノ・ハラオウンだ。いきなりの事で申し訳ない」
「そりゃどうも……俺は織斑一夏です、それでいったいなんの捜査で遥々俺達の休日を潰したのか、はっきりと言ってもらえますか?」
ジトリと睨みながらそう言うが、慣れてるのかクロノ及びユーノの二人は表情を全く変えない。
「そうだな……それを話す前に聖王教会というものを知ってるか?」
「……ミッド関連の事は全くといって良いほどに無知なんですがねこっちは。魔法だってつい最近たまたま手にした程度ですし」
嘘は言ってない。ミッド関連の事柄はまだまだ覚えきれておらず、魔法についても知って一~二年程度、素人とは言わないが習熟してるとも言い難いレベルだ。
「なるほど……話を戻そう。その聖王教会の騎士の一人、カリム・グラシアのレアスキルによって、今回君達に話を聞くことにした」
「レアスキル?」
「
そう言えば前にセインが聖王の聖遺物を盗みに行ったという話をしていたことを思いだし、その中で確かにカリムとシャッハという言葉が出てたような気がする。
「それで、その予言にはなんて?」
「……遥か遠き地にて
白銀の歌響くとき
闇に落ちた白き雷鳴は
緋の撃鉄 凍風の守護者
怨念の復讐者 清純なる闇と共に
いつの日か訪れる戦乱を待ちて羽ばたかん
……だそうだ」
……なるほど、確かに一部は俺達の事を示してるかもしれない。が、ここは
「……これのどこが自分達と?」
何もわからない体で押し通させてもらおう。
「俺も最初は違うと思ったんだが、協力者である彼女……更識楯無から得られた情報を元に、もしかしたら君達かもしれないということで、あのような暴挙をさせて貰った」
そうクロノは言うと、当てられた楯無は此方を向いて話し始めた。
「私の一族は水を操る魔法が得意でね、入学式の日にちょっとだけ水蒸気に変換してサーチさせて貰ったの。魔力を持ってる新入生は居ないかって。そしたら案の定、君達が引っ掛かったの」
「……勝手に魔法を使うのは違法なんじゃないですか?」
「私は生徒会長よ、学園生徒最強であり、この学校の最終防衛戦力の一人として、学内の不穏分子は知っておくべきと思ったのよ」
「…………」
俺は無言で睨むが、それじゃ何も変わらないと悟ってため息をついた。
「まぁそれについては分かりました。けど、俺らは普通の学生生活が送りたいんですよ。魔法だって必要最低限でしか使うつもりはないですし、何よりそんな予言が必ずしも当たるとは限らないでしょ」
「悪いが彼女の予言は絶対だ。寧ろ外した場面を見たことすら無いくらいにな」
「ふーん?で、どこが俺らだと?ぶっちゃけ言うと思い当たるのは『白き雷鳴』、『緋の撃鉄』ぐらいですが?」
「そうね。けど、ユーノ先生にお願いして魔力変換資質で電気系当、しかも魔力光が白よりの物を探して貰ったけど、現在貴方以外に記録されてるものは無かったわ」
……やっぱり魔法を使った時点で無限書庫に自動的に記録されているものらしい。
「それでね、その予言が行われた日なんだけど、偶然か必然か、貴方が魔法を初めて使った……というより暴走したに近いのかしら?その日の二日後だった」
「……つまり、日付が近いし条件にも合ってるから俺をマークしていた、と?」
「マークしてたのは入学式からだけどね。幾ら暗部とはいえ、ブリュンヒルデの弟を尾行するなんてできないし、何より尾行させてた部下が数名、貴方と同居していた人達に鯖折りされてたからね」
……多分それはオータムさんだな。
「そんなわけで、下手に追跡とかしたら此方が危うくなるから、IS学園に来たときはホッとしたわけなんだけど……一緒に他の三人も魔力適正持ってるわ日本の方から保護しろと五月蝿いわで中々大変だったのよね」
「そうですか……」
「……なんか冷たくない?お姉さん悲しいんだけど」
「家族関係拗れてるうえに妹を要らない扱いしたって話の人に同情するつもりはないんで」
「カハッ」グサグサ!!
俺が聞いてた話をダイレクトに伝えた瞬間、それはもう見事に沈没した。
「な、なんでその事を……」
「簪さんから直接聞きましたよ。前にシャルロットに周辺の魔力探って貰った時に知り合いまして……だいぶ怨んでましたよ」
「グホッ!?」
「更識……いったい君は何をしたんだ」
クロノ提督からの冷たい視線に楯無さんは小さい体をさらに小さくさせてしまっている。
「簡潔に言えば、無能だから邪魔だって言ったそうですよ。しかも読心系レアスキル持ってる本人に本心で」
「そ、そこまでは言ってないわよ……多分」
「……流石に僕もこれは擁護できないかな……」
穏便で有名なユーノさんですらこの始末ということに、俺は改めてこの残念な人に同情すらできなくなった。元々してないが
「まぁそれは別に今はどうでもいいんでほっとくとして。で、俺らにいったい何をしろと?」
「いや、別に今すぐどうこうの話じゃない。ただ君達が何かしようものなら、此方が動く事になるということを忘れないでくれ」
「そうですか……」
その時、不意に束さんが念話を俺達三人に繋げた。
(三人とも、これから私がちょっとアッチに鎌をかけるけど、絶対に知らないふりをしててね。いっくんは名前を言ったら魔力を瞬間的に上げて)
(……えっと、束さん、いったい何を?)
トゥーレが疑問に思い聞いたものの、すぐにわかると返した。
「ねぇ一ついい、黒髪くん」
「黒髪……コホン……なんだ?」
「捜査のとは関係ないんだけどさ、ちょっと私の魔法というか科学者としての師匠と連絡取りたいんだけど、最近どうにも見つからなくて……ちょっと連絡先を調べてほしいんだけど」
その言葉に俺達三人は内心でかなりぎょっとした。まさか束さんは……いやいやまさか
「?ということは篠ノ之束、貴方はミッドに来たことがあると?」
「小学生低学年の頃にね~。たまに師匠の家に泊まったりしてたし」
「なるほど……失礼だがその師匠の名前は……?」
「ジェイル・スカリエッティ」
束さんのその言葉にディアーチェ以外の三人とも目を見開いたように驚き、さらに言われた通りに魔力を上げた事にさらに驚いた。
「す、済まない。もう一度名前を言ってもらえるか?」
「?だからジェイル・スカリエッティだって(いっくん、演技よろしく)」
ちょ、面倒な真似を……しかたない、もう自棄っぱちだ。
「束さんなんでその人を知ってるんですか!?」
「え、ちょ、ちょっと待って一夏くん?なんで貴方も知ってるの?」
「なんでって、俺の命の恩人ですよ、あの人は」
「「「な、なんだって!?」」」
事情を知っているらしいクロノ、ユーノ、楯無さんがさらに驚いている。
「……おい三人、我は全然分からんのだが、そのジェイル某とはなんだ?」
今まで静観してたディアーチェも、流石にこれは聞き始める。どうやらそこまでの情報は持ってないらしい。
「……ジェイル・スカリエッティ、管理局が指名手配してる化学者だ」
「指名手配……その理由は?」
「管理局として公表してるのはプロジェクトFを初めとした人体実験、質量兵器の開発だ。現在、フェイトが執務官として追っている人間でもある」
クロノの説明に嘘はない。確かにドクターの指名手配理由に間違いは無いし、その手の研究はしていた。本当は違うけど
「ちょ、ちょっと待って!?師匠が指名手配されてる!?な、なら奥さんは……プレシアさんは今どうしてるの!?」
「な!?プレシア……それはまさかプレシア・テスタロッサの事か!?」
「そうだけど、そんなことよりプレシアさんとアリシアちゃんは!?ちゃんと保護してるんだよね!?」
さらなる束さんの演技とはいえヒステリックな言葉に、クロノとユーノはさらに驚いている。
そりゃそうだ、クロノに関しては義理の妹のオリジナルの父親が、その義妹が追っている指名手配犯だというのだ。驚かない方が無理がある。
「……残念ながら、アリシアはプレシア女史が開発していたエネルギー装置の実験で亡くなっている。そのプレシア女史も七年前に虚数空間に飲み込まれて……」
「そんな……なんでプレシアさんがアリシアを……あんなに大事に思ってたのに!?」
「正確に言えば、彼女の実験を横取りした研究者が装置を暴走させ、そのせいで幼いアリシアを急性魔力中毒で亡くなっている。プレシア女史も被害者だ」
……なるほど、フェイト・テスタロッサの生まれる背景を知るためにこんな芝居をしてる訳か束さんは。
「ならプレシアさんは……」
「彼女は亡きアリシアを蘇生させるべく、アリシアのクローンを使い必要なロストロギアを回収していたのだが……訳あって時の庭園が崩壊し、アリシアの亡骸と運命を共にした」
「クローンって……アリシアのクローン!?」
「そうだ、君は彼女と仲が良かったのか?」
「師匠の家に泊まるときは仲良く一緒のベットで寝たり、お風呂に入って洗いっこしてたくらいの仲だよ」
そうか、とクロノは呟くと、ディスプレイに金色の死神の顔が写った画像を展開させた。
「フェイト・
「うん……成長してるけど、なんとなく少しだけアリシアの雰囲気が残ってる。髪と目の色なんかそっくりだね」
「そうか……」
「……ところで織斑一夏、君はジェイル・スカリエッティを恩人と呼んだが?」
暗い雰囲気を消すようにユーノは此方へ聞いてきた。……まぁこれは話しても良いだろうな。
「文字通りの意味ですよ。姉の応援に小5の時にドイツに行ったときに誘拐されてナイフ刺されて、そんときにたまたま通りかかったドクターに応急処置してもらったってことです」
まぁ実際は俺が自殺したところをなんだが、公式にはこう言われてるからな。真実は闇のなかというやつだ。
「なるほど……ジェイル・スカリエッティは生体工学を得意分野としてるからな……本人も医療技術を持っていたと考えて不自然ではないか」
「そういうことです。ちなみに俺も束さんからISのテスターになるのをお願いされてなければ医学の方面に進もうと思ってたので。彼女の事もありますし」
「そうか……しかし、フェイトとジェイル・スカリエッティの繋がりが……」
……こりゃヤバイ方面に向かいそうだな。ここは話題を変えるべきか。
「そう言えば束さん、ジェイル・スカリエッティはどんな研究をしてたんですか?」
「ん?当時は確か記憶転写クローンと救助用マシーンの開発をしてたよ。後者は本人の趣味だったそうだけど」
「救助用マシーンだと?質量兵器じゃなくてか?」
「そうだよ~、ちなみにここにいるシャルロットちゃんは師匠の研究を悪用してた奴等から回収して、五年前に延命措置してもらった娘なんだよね~。それからは会ってないけど」
おい、それはちょっとヤバイんじゃないのか。
「……ということはまさか戦闘機人という事じゃないのか?」
「言っとくけど、私が知ってるなかで、師匠が戦闘機人にした娘は大抵が大怪我とかで、そうしなきゃ生きれなかった娘達の延命措置の技術だからね。偶々そうした娘達が戦闘とかに特化しちゃったからそう呼ばれるようになっただけだし」
「……となると、ジェイル・スカリエッティの罪は半分が偽造なのか……」
なんとも言えない雰囲気をしながらクロノが悩み始める。まぁ俺でも逆の立場ならそうなるかもしれないがな。
「……とりあえず収拾が付きそうにないし、今日のところはお開きとしようか。こっちは戦闘もあって疲れたし」
「そうだね~いっくんやシャルちゃんに、そこの残念はここの生徒だし、連休くらいはちゃんと休ませなきゃね」
「残念!?ちょ、それって私のこと!?」
貴女以外に誰がいるんだよ残念こと楯無……いや、かたなしさん?
「それにこの事を整理するにも時間が必要でしょ。私達としても師匠に会うのは必要なことだし、少なくとも今は敵じゃないよ」
「……そうだな。今のところは、というところだがな」
どうやら頭でっかちというわけでもないクロノ提督は仕方ないというと席をたつ。
「今回の聴取はここで終了にする。時間を撮らせてしまい、申し訳ない」
「いえ、べつに……」
俺は表情を変えずにそう言うと、クロノ提督は三人と共に転移魔法で消えてしまった。
「……しっかし、白銀の歌か~だいぶいい展開かもねいっくん?」
「?どういうことですか束さん?」
「この束さんの記憶通りならいっくん達、もしかしたら早ければ夏休み前には地球から出られるよってこと」
次回「24 黒兎と黙蝶」