無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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ちょっとした番外編です。ダークな方面に進みすぎてるのでちょっとした未来設定で書いてみました。

一応時系列的にはvividの分身イクスの話の直後くらいです。


織斑一夏誕生日番外編

「ねぇ一夏、明日って何か予定ある?」

 

 ミッドチルダ某所、何時ものように自宅の一軒家で鈴の夕食を食べながらそんなことを聞かれた。

 

「どうした急に」

 

「どうしたって、明日が地球で何日だか覚えてる?」

 

「え……あ」

 

 最愛の彼女……というか妻に言われて漸く気付いた。

 

「そっか……そういや明日は俺の誕生日だったな……道理でクアットロとトゥーレが休みを取れって言ってきたわけだ」

 

「それって、もしかしなくても忘れてたでしょ?」

 

「ぐ……どうにも最近研究とヴィヴィオ達のコーチで手一杯でな」

 

 もう、とため息をつきながら顔を膨らませる。正直言うと可愛いんだが。しかも遅くやって来た成長期なのか、はたまたドクターの治療の副産物なのか、身長も10㎝くらい伸びて、若干大人びてるから尚更だ。

 

 最も精神年齢は未だに高校生ぐらいなのだが。

 

「けど誕生日か……懐かしいな」

 

「そうね~私が目覚めてからの去年までは色々とお互いに忙しかったし」

 

 何せ俺はドクターの二代目としての研究や学会など、鈴はリハビリと鈍ってしまった料理の訓練など、互いに忙しく祝ってる暇などなかったくらいだ。

 

 ここ最近ではノーヴェの付き添いで教えてる格闘技のコーチとしても活動してたりしてたし、たまの休みもゆっくりという気分じゃなかったのは否めない。

 

「けど、お互い久しぶりに何もないから、たまには出掛けるのも有りだな」

 

「なら決定ね。それじゃ一夏……」

 

「おいおい、今は食事中だろ……」

 

「終わったら……ね?」

 

「まったく、そういうときだけ甘えるのはズルいよな……」

 

 そう言いながら食事を終えると、俺と鈴は二回の寝室へと向かい、暫くして中から喘ぎ声が聞こえてきたのはご愛嬌と思ってくれ。

 

 

 

 

「しかしデートとは言ったが、まさかこことは思わなかったな」

 

 翌日、二人でやって来たのは少しばかり縁のある海洋施設、マリンガーデンだった。

 

「だって前に一緒に行ったときは化け物騒ぎで大変だったし、一夏も救助に行っちゃうし」

 

「一応嘱託魔導師のライセンスは持ってたからな。尤も今じゃ研究優先のせいで、よっぽどの大事じゃないと殆どお呼びが掛からないんだけどさ」

 

「まぁそういう意味じゃ108の数馬とか、教会勤めの弾よりかは楽と言えばそうよね」

 

「弾の場合はオットーが一緒だからってこともあるだろうしな。そういや数馬のやつフォルテ先輩とはどうなんだ?」

 

 一応国際結婚して、さらにこっちに移住してるとは聞いてるけど、それ以上詳しくは全く聞いてないんだよな。

 

「フォルテさんならときどき一緒に料理の話とかしてるわよ。それでもまだ魔法式IHに馴れてない部分もあるみたいだけれど」

 

「そういう鈴はあんまりそうでもなかったよな」

 

「まぁ家庭のは火力が出ないってのは全世界共通だから、地球のIHのやり方と同じだと思えば楽なものよ」

 

「そうだな……ん?」

 

 とその時、見覚えのある顔ぶれを三つほど見つけた。

 

「ヴィヴィオにコロナ、あとリオか」

 

「あ!!イチカ師匠!!鈴さん!!」

 

 と、俺が声をかけるとこちらに気付いた初等科トリオが近づいてきた。よく見ればヴィヴィオの肩には小さなイクスも乗っている。

 

「珍しいわね、ヴィヴィオたちがマリンガーデンに遊びに来るなんて」

 

「えへへ、今日はイクスと四人でお買い物です!!」

 

「髪止めとか雑貨とか見て回ろうって」

 

「二人はどうしてこちらに?」

 

 コロナの問いに俺は笑顔で返す。

 

「今日、地球では俺の誕生日だから、せっかくの休みだし二人でデートしてたんだよ」

 

「そうなんですか!?」

 

「「おめでとうございます!!」」

 

 何やら一応教え子から祝ってもらえてむず痒い気分になりながらもありがとうと返す。

 

「でも、ここ最近私たちのコーチとかしてて大変なのに休んで大丈夫なんですか?」

 

「寧ろ休んでないからクアットロとかトゥーレに強制的に休まされたという側面も無きにしもあらずというかだな……」

 

 最近ではオカン属性が身に付いてきたクアットロに色々と注意されていて、どっちが上司なのか分からなくなるときがあるとは秘書のトゥーレの談だ。

 

「そのうえ一夏、自分の誕生日のことも忘れてたくらいだからね」

 

 ジト目で睨まれて肩を竦める俺に、初等科三人は苦笑いを浮かべていた。

 

「てか、ホントに三人なのか?保護者でノーヴェとかが居そうなもんだが」

 

「ホントですよ~ねぇクリス」

 

 ヴィヴィオのその言葉に、何時ものようにふわふわと浮いていたぬいぐるみデバイス……クリスがワタワタとジェスチャーで肯定していた。

 

「そっか、ならここで会ったのもなんだ、そろそろお昼だし一緒にどこかで食べるか。いいよな鈴」

 

「そうね……うん、良いんじゃない」

 

「「「わーい!!やった~!!」」」

 

 三人のはしゃぎように笑いながら、鈴に顔を向ける。

 

「悪いな鈴、せっかくのデートなのに」

 

「良いわよ別に、一夏はヴィヴィオ達のコーチだし、それに、夜は二人っきりでしょ?」

 

 いつものことじゃないと笑っていう鈴に、俺は少し呆けながらもすぐに頭を引っ掻く。

 

「……ホント、鈴には敵わないよな、昔から」

 

「それはお互い様でしょ、言いっこなしよ、ホント」

 

 出会った頃から変わらず、互いに一緒に笑いあい、辛いときは支えあい、時には喧嘩もした。

 

 互いに身長や考え方は昔とは違うけれど、それでも俺達の距離感はいっこうに変わらない。

 

 いや……寧ろ昔より近づいてるはずだ。だって、

 

「そんな一夏だから、私は好きになったんだからね」

 

 いつも隣で、こんな笑顔の花を見せてくれる彼女を、ずっと側で、最後の時まで見ていきたいと思うから。

 

「……俺もだよ、鈴」

 

 世界は、こんなにも鮮やかに輝いている。


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