戦いが漸く終わり、左脇にアホの娘を抱えながらモールの屋上へとやって来る。
「お疲れ~いっくん」
そこには既にどうやって入ったのか、いつもの衣装の束さんと、金髪と黒髪の二人の……多分同い年ぐらいの男が二人並んでいた。
「束さん、そっちの二人は?」
俺がそう聞くと、黒髪の方の男がこちらに寄ってくる。
「時空管理局提督、クロノ・ハラオウンだ。そこのフェレット擬きの護衛だ」
「だから僕はフェレット擬きじゃないって言ってるだろ!!……コホン、僕はユーノ・スクライア、一応無限書庫の司書長をしてる」
うん、つまり……
「……死神の義兄と魔王の師匠?」
「ほう?フェイトやなのはのことも知ってるか……何者だ?君は?」
「……まぁそれはあとで、ところでそのフェイトというやつに似てるこいつらはいったい?」
どこからどう見てもそっくりすぎる。ドクターが言ってたプロジェクトFの成果なのか?
「彼女らはマテリアルといってだな……まぁ簡単に言えばなのはやフェイト達の能力や姿を模して疑似人格と肉体を持ったプログラムのようなものだ」
「それ、なんていうロストロギア……」
「まぁ元が……闇の書の一部だからな」
「はい?」
闇の書って、確かドクターとかナンバーズの皆が言ってた、管理局の腹黒狸、八神はやての持ってる魔導書のオリジナルの暴走版だったはず……
「……道理で死神のことをオリジナルとか言ってたわけだ」
「レヴィか……アレはなんというか……普通にアホの娘だからな。そのせいで昔どんな目にあったか……」
頭を抱えてるところから見るに、だいぶ色々とされたのが良く分かる。多分模擬戦やらなんやらで大変なことになったんだろうな。
「で、数馬と弾は?」
「だっくんはあのシュテルって娘を海から引き上げてこっちに向かってる最中、かーくんは……」
束さんがそう言って指差す方向を見ると、そこには両肩に王様と見慣れぬ少女を担いで飛んできた数馬の姿があった。どういうわけか二人とも濡れてるうえでだ。
「「「……何がどうなった?」」」
男三人でハモった言葉に束さんがかなり苦笑をしていた。
「なんでもかーくんが戦ってた二人が大技連発して魔力すっからかんからの水中に叩き落としたら、どっちも金づちで沈没しちゃったみたいだよ」
「なるほど……確かまだエルトリアは海水浴ができるほど復興が進んでないという話だから、当然と言えば当然か」
「いや、どんな生活してるんだよ……」
クロノさんの解説に若干引きながらそう呟く。いくらなんでも地球でそんな場所、中東の戦争地域でもないかぎり無いだろおい。
「まぁそれについてはどうでもいい、こちらとしては事情確認をしたいだけだからな」
「……それならなんであの魔王に似た奴を俺達に仕向けた?」
「元々彼女達は局員じゃないからね、シュテル達が数年ぶりにこちらに遊びに来ていたところを無理に此方が頼んだんだ」
詰まるところ、俺達と鉢合わせしたのはほぼ偶然だったということらしい。
「……まぁ良いですけど、そっちは二人だけじゃないんでしょ?」
「……どうしてそう思う?」
「ここが
俺が短く端的に言うと、彼方もやれやれと言うように肩を竦める。
「バレてるならば仕方ない、悪いが僕の船に同行して貰「断る」なに?」
「断るっていったんだよ。管理局の船に乗ってそのまま捕まえて牢屋なんてなったら絶対に嫌だし、何よりこっちからしたら敵地にノコノコと付いてくわけが無いだろ」
それにこっちは一応管理外世界の住人だしな、よっぽどの事がなければ同行する義務なんてあるわけがない。……それこそロストロギア関連でもなければ。
「……ならば互いに代表を四人、船外のどこかの個室でならばどうだ?こちらとしても色々と捜査しなければならないことがあるからな」
「捜査ねぇ、一方的に話を聞いてこっちには何も情報を渡さないんだろ?そんなの受ける道理があるか?」
日本の警察でも、捜査の際に、信頼を得るためにどんな事件かを最低限教える事はする。だが管理局はそういったことを……特に管理外世界の自分達にするつもりは無いに決まってる。
「……だが、君達は此方から接触したとはいえ魔法を行使している。少なくともどこで魔法を覚えたのか聴取するぐらいはできるが?」
「あの手この手を……しょうがない、そっちの代表を……学園にいるそっちのスパイ込みで四人、こっちが指定した場所でなら構わないが?」
「……良いだろう」
だいぶ苦虫を噛み締めてるようだが、こちらとしてはそれ以上に内心、腸が煮えくり返りそうな程にイライラしてるのだ。十二分にストレスで禿げやがれ。
「場所は……そうだな、30分後に学園の会議室でどうだ、当然うちの天災に結界をはったうえでだが」
「良いだろう……それと、スパイとはなんだ?」
「あ?知らないわけないだろ、二年生の更識楯無、こっちの事を嗅ぎ回ってるぐらいは知ってる」
黒服の執務官はそう言われて、途端にピクピクと頬をひきつらせ、司書長は視線を泳がせる。
「あのサボリ魔め……報告までサボるなんて」
「一応僕は彼女と面識があるけど……まったくロッサは」
……どうやらこの真っ黒黒すけはホントに知らなかったらしい。大丈夫なのかそれで。
「ディアーチェ大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけあるか!!ハ……ハックション!!」
びしょ濡れで毛布に包まっている王様と、同じく包まっているユーリを見ながら、僕は苦笑いをしていた。ちなみに現在、二人とも私服状態だ。
「バリアジャケット使えば寒くないと思うんだけど」
「それを展開する魔力すら使わせた奴の言葉か下郎め!!」
「というより私もディアーチェも、大技使いすぎただけですよね」
「さっさとこの下郎が叩き潰されてお縄につけば問題なかったのだ!!それをネチネチ弾くわ跳ね返すわ……」
理不尽極まりないが、逆に言えばそうしなければ勝てないほどに追い込まれていたということでもあるのが分かってないのだろうか。
「しかし……貴様本当にこの世界で育った人間か?魔法含め動きに……特に槍さばきがキレすぎている」
「まぁ槍は有段者だからね、少なくとも一朝一夕の技じゃないよ」
「そうだとしてもだ、踏み込みにしろ動きにしろ、
なんとも抽象的で、しかし確信に迫りそうなほどの鋭い言葉に、内心寒くなる思いで笑みを浮かべた。
「まぁ、僕と弾はともかく、その言葉はアイツが一番に相応しいんだろうな」
「アイツ?もしやレヴィを倒したあの男か?」
「そ、詳しくは話せないけどさ、どこぞの四人の騎士の話じゃないけどさ、アイツは大切なものの為に戦ってる……」
僕や弾だってその気持ちは同じだけど、一夏に比べたら天と地どころじゃない差がある。目の前で、相思相愛だった彼女を刺され、さらには意識が戻るかも怪しい状況……ただでさえ蜘蛛の糸並に脆く切れやすくなってた心を、一時的に絶望のどん底にまで突き落とされたのだ。
今でこそドクターのお陰で目処はたっていても、たった一人の愛するもののために、全てを捨てる覚悟ができるかと言われて躊躇わずにできるアイツの心は多分……。
「……儘ならないな」
次回『23 黒の楯と夏兎』