「何やってるの、千冬姉?」
目の前に突然現れた実姉にそう言わずにはいられなかった。と、すぐに危険を察知し素早く頭を避けるが、次の瞬間には一瞬で頭を掴まれてしまう。
「イダダダダ!?」
「学校では織斑先生だ、今回は一割で許してやるが、次からは本気でいくぞ?」
「はい、すみません、織斑先生……」
そうだった。千冬姉は公私混同を極端に避ける事をすっかり忘れてた……。
「まぁいい。それよりすまないな山田先生」
「いえいえ、それより織斑先生の方は?」
「まぁ色々と喧しい連中も居たが問題なしだ。……さて、私がこのクラスの担任の織斑千冬だ。別段何を思おうと自由だが、この中では私がルールだ、私が返事をしろと言えばすぐにはいかイエスで答えろ」
いやそれどこのスパルタな軍隊だよ。そんなんで皆が納得するわけ……
『キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
ありましたね。そうだった、最近私生活のずぼらがある程度消えたから忘れてたけど、千冬姉、ことISに関してはEXはランクあるんじゃないかというカリスマ持ちだった。
「本物よ!!本物の千冬様よ!!」
「私、千冬様に憧れて遥々北九州からやって来ました!!」
「噂の男子三人と千冬様……あぁ、脳が震えるぅ!!」
なんともはや、教室が割れるほどの歓声が溢れでてくる。二番目はとりあえずご苦労なことだと思うが、最後のはどこの大罪司教怠惰担当だ?ここはいつからルグ○カ王国になった?
「まったく、毎回毎回私の受け持つ生徒はこうもネジの緩いやつばかりなのだ……」
「キャァァ!!お願いします、もっと罵って!!」
「それでいてたまに微笑んで!!」
「愛を愛を愛をあいあいあいあいあいィィィ!!」
だから最後のはどこの怠惰担当だ!!俺らのなかでそれと関係あるやつなんて……あ、束さんの中の人出てたな。
「とりあえず最後のやつは放っておいて、ともかく、この一年でまともに動かせるようにはしてやる!!覚悟しておけ!!」
『はい(あい)!!』
……こんなんで大丈夫なのか、このクラス?そう思わずにはいられなかった。
IS学園は入学当日から授業がある。それは俺らが入っても同じことで、今現在IS基礎の授業を受けていた。こう言ってはなんだが、束さん直伝の知識により、素直に受けてはいるもののそこまで面白いと思うものではなかった。それよりも
(なあ数馬、俺の気のせいじゃなけりゃさっきから左からすげえ睨んでる奴が居るよな?)
(あぁ間違いないね。多分だけど、一夏が言ってた掃除道具の視線だね、あれは)
(掃除道具に目なんてあるかよw)
俺達は念話で安心して会話を楽しんでいた。口に出さないうえに、マルチタスクはそれなりに鍛えているため、書いて聞いて念話しての三つ程度のことは、それこそ幼児がはいはいするぐらい普通のことだった。
(ありゃ多分一夏にだいぶお熱だぜ?大丈夫なのか?)
(放っておけばいいさ。そもそも
(そもそも一夏は無刀流だからね。素手の手刀と拳術が主体だしね)
実際一夏のスタイルは中国武術、太極拳、古武術、空手に柔術と合気の複合オリジナルであり、そこに魔法戦のシューターが加わった近・中距離戦闘を得意としてる。おそらく一対一の近距離限定戦闘ならば、よっぽどのイレギュラーがない限りは負けることは少ない。
「……くん、織斑くん?」
「はい、どうしました山田先生?」
っと、話に夢中になってマルチタスクを忘れてたな。危ない危ない。
「えっと、今までのところで分からないところはありますか?」
「あぁ、いえ大丈夫です。俺ら三人とも千冬姉やプロのIS乗りの知り合いに基礎は教えてもらったんで」
「そうなんですか!?でしたら授業に集中してたのにすみません」
そう言うと山田先生は再び教壇に立って授業を再開する。
(なぁ、せっかくだし放課後に面倒だけど、ISの練習できるか千冬姉に聞いてみるか?)
(そりゃいいな。いくら束さんがISとデバイスの誤差を減らしてくれてるとはいえ、どこまで銃の射ちズレがあるか確認しねぇとな)
(賛成。僕も槍を久しぶりに振りたいしね)
そんなありえない会話をしながら、真面目(?)に授業を聞いていたのだった。
「さて、と……早速行きますかね……」
授業がひとまず終ると、俺は先程話した用件を確かめるために千冬姉のもとへ……
「……少しいいか?」
……行く前に聞きたくない声を聞いた。それはもう、睨み付けて追っ払いたいくらいに嫌悪するやつの。
「なんだ、俺は別用があるんだが、なんのつもりだ」
「な!!その言い方は無いだろ!!私はお前を!!」
「知らん。それに、俺はお前とできるなら会いたくなかったよ」
吐き捨てるようにそういうと、奴は頂点に達したのか、何処から取り出したのか木刀を振りかぶって――
「――おいおい、初日でいきなり暴行とは見過ごせないね」
――脇から振られる鎌槍に木刀は真っ二つに切断された。
「な!?」
「ったく、いきなり槍を振るうんじゃねぇよ。俺まで切られるかと思ったぜ?」
「そんなヘマはしないよ。それに、一夏には見えてただろ?」
「そら当然」
伊達に弾やチンクさんとかと訓練してたわけじゃないからな。特にチンクさんの場合、ナイフを自由自在に飛ばせるから避けきれなきゃ大爆発だし。
「ま、数馬がやらなくても俺が殺ってたと思うし」
「そりゃそうだ」
そんな笑い話をしながら出ていこうとするが、奴はまた違う木刀を……
「」バシュン!!
取り出す前に弾の射った弾丸が手元近くの地面を貫く。
「おいおい、ダチに手をだそうとしやがって……嘗めてんのかテメェ?」
「ぐ……邪魔を……」
「しなかったら大怪我じゃ済まなくなるだろうが?大体人がいる目の前で、ダチ傷つけられそうになって温厚でいられるほど人間できてる訳じゃねぇんだよ」
退屈そうに言ってるが、その手元の銃は揺るがない。それだけ怒り心頭という具合だった。
「……何をしてると思えば、お前ら三人は何をやっている」
と、漸く担任の千冬姉がやって来たようで、状況が分かってるのか頭に手を押さえている。
「とりあえず篠ノ之、お前は暴行の現行犯だ、すぐに生徒指導室に向かえ」
「な!?なぜです!!」
「当たり前だ馬鹿者。御手洗と五反田に感謝しておけ、でなければ織斑だけでなく別の女子にまで怪我をさせていたかもしれないのだぞ!!」
「く……」
未だに何かを言いたげだったが、俺は我関せずという態度で無視を決め込む。
「織斑、御手洗、五反田、悪いがお前たちにも次の休み時間、詳しい事情を聞かせてもらう」
「別にそれは構わないですが、俺達も奴の話を断ったらこうなっただけなんで、そこまで詳しい内容はありませんよ?」
「構わん、処分するにもお前達の証言が必要だからな。それで、私に何か用があるのだろ?」
っと、そうだったそうだった。
「放課後に俺達三人でISの練習をと思って、フィールドって借りれます?」
「そういうことか、済まんが今日はすでに上級生が使うということで埋まってしまっている。早くても二日後になってしまうな」
「構いません、それでお願いします」
分かった、そう言って千冬……織斑先生は教壇に立ち、
「授業を始めるぞ、早く席に着け!!」
その光景に鬼軍曹を思い浮かべた俺ら三人は悪くない。
次回「12 クラス代表」
数馬「リリカルまじかる……頑張ります」