スコールさん達が別の仕事で離れてから数ヵ月、既に街は銀世界のように毎日雪が降っていた。
「……もうすぐクリスマス……か」
自宅でやることもなく珈琲を飲んでいた俺は、感慨深くそう呟く。 本来なら隣に居たであろう鈴が眠ってからだいぶ月日が経った。
あれから弾と数馬もジェイルさんに頼んでデバイスを作ってもらって、三人で練習したりしていたのだが、今日は生憎の大雪で、昼間だというのに地吹雪込みで集まるなんて不可能だった。
『マスター、千冬さんから通信です』
「千冬姉から?」
突然のデバイスの言葉に驚きながらも、サウンドオンリーのスピーカーモードで出る。
「もしもし」
『すまない一夏、今大丈夫だったか?』
「今日はこの大雪だからずっと家に居たから大丈夫だけど、それがどうかしたの?」
『なんでも束がお前に会わせろと電話を掛けてきてな、あのバカ、うちにハッキングなり盗撮しようとしていたらしい』
その言葉に、そういえば妙な隠しカメラがうちに隠されていた事を思い出した。もっとも、俺の魔力の副作用というか、そのカメラの磁場はすぐに感じ取れてしまうので、魔力を使って尽くぶっ壊しておいたが、
「あのカメラ群はあの人のだったわけか」
『そういうことだ、それでどうする?』
「どうするって言われてもな、俺、あの人というか姉妹揃って嫌いだし」
姉のほうはただ単純に考えが読めないのと、ISを産み出したという意味で個人的にいい感情はない。まぁ、ISが無ければジェイルさんと出会うことも無かっただろうし、魔法に触れることも無かったという意味では、まぁ恩人なのだろうが、それはそれとして、刃物恐怖症の原因の一つであるISの産みの親という人間と積極的に会いたいとは思わないだろう。
そして妹のほうだが、姉はそれを抜きにすれば昔竹刀の振り方を教えてもらった事もあってまだなんとかなるのだが、こっちは絶対に会いたくない。寧ろ話しかけられたくもない。
『はぁ、お前の箒嫌いも度が過ぎてると思うがな』
「小学校低学年で、すぐに暴力と癇癪起こしたうえに、俺の事を束縛してこようとするんだ、嫌いと言わないほうがおかしいよ」
何せムカついたらすぐに頭に血が登って手を出すうえに、常に自分を正しいと思ってる自己中心的な態度、一度だけクラスの連中から助けてやれば、それで惚れたのかは分からないが、毎日のように付きまとってきて、思い出すだけでうんざりだった。
「それで、なんで束さんが会いたがってるわけ?」
『それなんだがな、なんでも内容は一夏、もしくはその友人二人以外には教えられないとの一点張りでな』
「友人?弾と数馬のことか?」
『そうだ。赤い髪のパイナップルみたいなやつと、茶髪の三つ編みと言っていたから間違いない』
それに俺は余計訝しむ。束さんはかなりの人見知り兼コミュ障で、気に入ってる人以外は他人と石ころを判別できない程の他人嫌いだ。その本人が、しかも会ったことがない弾と数馬含めて呼ぶとはどういうことなのだろうか?
「……分かった、二人と話し合ってから決めるからしばらく待って欲しい」
『そうだな、あのバカのことだ、何をしでかすか分かったものではないしな、よく相談してから連絡を頼む』
それだけ言うと千冬姉は電話を切った。それからすぐに二人とモニター通信して訳を話したのだが
『『『『『絶対に怪しいな(ですね)』』』』』
と、二人だけでなくそれぞれのデバイス三機からそれぞれそう言われた。
「まぁ、そうだよな……」
『そもそもの話、なんで俺たち三人を指定したことが分からねぇよな』
『そうですな、トリガーハッピーなマスターがまともにこう言う位ですからな』
『おいこらヴェルク!!こんなときにボケてるな!!』
普段バカな弾の冷静な対応に、愛機の『ベルス・ヴェルク』が毒を吐きながら肯定する。
『第一、僕ら三人の共通点なんて、魔法と同じクラスってだけだしね、流石にかの天才でも魔法を知ってるとは思えないし』
『はい、マイスター達に興味を持つにしても、何を根拠にするのか、理解できません』
『そうだね、クルム』
こちらも此方で数馬と、その愛機の『クリンゲルムーン』が淡々と分析してる状況で苦笑いを浮かべる。
「実際に会ってみれば……ってのも考えたけど」
『それで何かあったら……というのが怖いよな~』
俺の意見に弾が同調するように頭を抱えてる。
『まぁ最悪、デバイス使えばその博士がISを使ってきても少なからずは太刀打ちできるでしょ』
『だな、俺が射撃でサポートして、数馬が得物で武器を抑えて、一夏が体術でスラスターなりを破壊すれば、少なくとも対等には持ち込めるだろうな』
「対等で済めば良いんだけどな……」
そんな予感がしながらも、俺達はとりあえず会うことを了承し、俺は千冬姉にその旨をメールで伝えると、すぐに場所と時間らしきものが打ち込まれた文面がやって来た。
「明日の昼過ぎ……篠ノ之神社奥の洞窟の先……洞窟なんかあったか?イモータル?」
『マップ検索、どうやら本殿の裏にそれらしきものが存在するのを確認できますね』
なんとも怪しさ満載といった感じだが、個人的に、指名手配されてるあの人からしたら、灯台もと暗し的な考えで居るんだろうな……。
「やれやれ、俺の幸運はランサークラスかな?」
『寧ろ歩く度に何かしら因縁つけられてるので、それ以上の悪運かと』
「違いないな……」
愛機の軽口を苦笑いで返しながら、降り積もる雪の行方を見守るのだった。
さてさて翌日、昨日の大雪が嘘のように晴天となったが、集合した俺たち三人の内心は曇りどころか大嵐一歩手前だった。
「……これは」
「……さすがにちょっと……」
「……なぁ?」
というのも、集合して指定された場所に行ってみたら、神社だというのに何とも場違いなイルミネーションのデコレーションが近くの木々に置かれてるのだ。どう考えても異常極まりないことこの上ないとはこの事だろう。
しかもご丁寧に洞窟の入り口と前には、ペンキだろうに何とも達筆で『らびっとはうす』と書かれている……とりあえず全国のごち○さファンに謝れと嘆きたくなる。
「……イモータル、シューター展開。
「「待て待て」」
まさかの最大弾幕シフトを敢行する事に驚いたのか、二人が慌てて止めにかかる。
「落ち着け一夏!!こんなところで魔法使ったら管理局にバレるだろうが!!」
「ドクターの話だとこの時期はあっちで有名な『管理局の白い魔王』含めた『管理局三人娘』とやらが帰省してる可能性だってあるんだから!!落ち着こ、な、な?」
『そうですよマスター』
「おぉ!!イモータルも何か言って――」
『ちゃんと封時結界と魔力遮断結界を張ってあげますから、それから殺りましょう』
「まさかの焚き付けた!?」
数馬が珍しく驚きながらイモータルを睨み付ける。それと同時に結界が展開されたようで、空には歪みらしきものが現れる。
「さて、と……そんじゃあ蹂躙するか!!」
「お前はモーさんじゃねぇだろ!?」
何やらツッコミしてるがそんなことはどうでもいい、俺は自分の魔力光総勢18弾を空中展開し……
「ファイア!!」
何の躊躇いもなく撃ち込んだ。それが洞窟内に入って数十秒して、ドッカンドッカンと大爆発の雨霰が聞こえてきた。
「……相変わらずえげつねぇな」
「言っとくけどお前の弾丸と同じ設定だからな弾。シューターの周囲に人があれば爆発、魔力攻撃が拡散するんだし」
ついでに俺の場合は弾や数馬と違って魔力変換資質『放電』の影響で、対魔力防護加工してない電子機器は軒並み逝かれてお陀仏、ただの鉄屑に早変わりというわけだ。勿論ISだろうが関係ない。
一応二人にも特殊技能もあるにはあるが、とりあえず今は割愛しておく。
「それをなんの躊躇もなしに撃ち込む一夏も大概だからね」
そう数馬が冷や汗と共に言うが、あれくらいで死ぬようなら天災とは言われないと思うな。
と、その予想通りというか、洞窟の中から足音が聞こえてきた。揃って距離を取り伺うと、
「…………」ムスゥ
「「「ブファ!?」」」
揃って吹き出してしまった。というのも服が色々と破け燃えて、たわわに実った西瓜の片方が諸に見えてしまっていたからだ。
「ねぇいっくん、流石に挨拶も抜きにこの仕打ちは酷くないかな~?いくら束さんでも拡散弾の大群を狭い範囲内で全部避ける芸当は不可能なんだけど?」
「国際指名手配されてる人から突然、こんな洞窟に呼び出されたらたまったもんじゃないので……」
「にゃはは~まぁそこは仕方ないから置いておこう~って、なんで三人とも後ろ向いてるの?」
「「「こっちのせいとはいえ、自分の姿を見てから言ってください!!」」」
「にゃはは~流石に思春期の男子三人には堪えるか~仕方ないから三十秒だけ待ってね~」
と、束さんはそういうと何やら布の擦れる音が……って生着替えしてるの!?こんな真冬の雪の中で!?
「はーい、三人とも大丈夫だよ~」
「まった……く?」「……はい?」「……what?」
呼ばれて振り返って見たその瞬間、今度は全くの産まれたまま……下着どころか特徴的なうさみみまで外した
うん、ナニヤッテルノコノヒト?と思って瞬きした瞬間には何時ものアリスにうさみみのテンプレの格好になっていた。
「にゃはは~裸だと思った~?残念!!実は私のこの服はバリアジャケットなのだぁ!!」
「「「な、ナニィィィ!?」」」
まさかのカミングアウトに既に脳の処理能力が追い付かなくなってきた……。
「えっと……束さん?いったいいつからデバイスを?」
「うーんと、確かISを発表する二年前かな?私の肉体のオーバースペックは基本的に身体強化をずっと使ってるからだしね」
「え?じゃあ篠ノ之束の肉体は普通の人間なのかよ!?」
「嘘だろ!?」
「ちょっとそこのパイナップル頭と三編み!?二人はこの束さんの事をなんだと思ってるのかな!?」
「自分以外の人間を他人の石ころと分別がつかない、友達が少ないコミュ障だと思ってました!!」←弾
「千冬さんのIS使わないアイアンクローをまともに受け止められる人害だと思ってました」←数馬
「国一つ指先一つで滅亡できる、自己中心的なうえに他人のことにほとんど興味のない腐れ外道かと」←一夏
「さ、三人揃って酷すぎるよ!?確かにどれも側面としては当たってるけど!?」
ここまで言われてショックなのか、束さんはおろおろと崩れてしまうが、この人の評価なんてこんなものだから関係ない。
「っと、そんなことはさておいて……いっくんと……二人とも名前は?」
「五反田弾です」「御手洗数馬です」
「なるほど、じゃあだーくんとかーくんでいいかな。とりあえず三人とも中に入ってよ。色々と呼んだわけも話したいしね」
次回「09 リバイバル」
束&なのは「リリカルマジカルがんばります!!って同じ声!?」