無限の欲望と呼ばれる夏   作:ドロイデン

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04 模擬戦

「……死ぬ、か」

 

 クアットロのその言葉を聞いても、一切何も感じなかった。

 

「あ、あら?意外に驚かないのね?」

 

「俺はある意味死んだも同然の人間だ、血反吐なら毎日吐いた、痛みもただ()()()()()()()()だけであれぐらい堪えられる」

 

「た、堪えられるだ!?」

 

 ノーヴェがあり得ないとでも言うように叫ぶ。他の面々も声にこそ出してないが同じ心境なのだろう。

 

「……心配でもしてるのか?お前が使()()()()って思ってる一般市民の、高々14年生きてるだけの俺に、犯罪者のお前が」

 

「ンのやろ!?」

 

 キレたのか拳を振り上げようとする彼女をセインとトゥーレが宥める。

 

「一夏、貴様の経歴等はドクターから聞いてはいる、だが、何をお前をそこまで駆り立てる?戦闘機人の我々が言うのもなんだが、命とは尊いものだろ」

 

「チンクさん、俺の命なんて尊くも価値も無いですよ。ただ何も悪くない少女の命を消し掛けて永らえてるだけの、生きてるだけで他人から邪魔だと思われてる、蚤と同程度の価値もないんですから」

 

 そう、俺は本来ならここに居るはずがなく、そもそも死んでいておかしくないのだ。それが鈴という大事な彼女が身代わりになって生きてるだけの、ただ単にそれだけなのだ。

 

「……ドクターが気に入るって言ってたけど、これは行き過ぎね」

 

「ほう、クアットロ姉様がそこまで言うほどか」

 

「あのねチンクちゃん、いくら私がドSでマッドだとしても、物の分別ぐらいはできるのよ?彼の場合、自分に対する評価値がプラスでもマイナスでもない、無よ、無。自己主張そのものが無いんじゃ私だって困るわよ」

 

 ……よく分からないが、何となくだが暴言を言われてるのは良くわかった。

 

「……そんなことより、それに対抗するようなものは?ドクターとまでは行かずとも優秀な貴女なら何かしら手段は考えてるはずですよね?」

 

「それはまぁ当然よ。ただし、言っておくけどこれは半分以上が博打に近い、成功率は2~4割程度、それでもやるかしら?」

 

 試すように聞いてくるが、そんなことは言われるまでもない

 

「当然、それで何をすればいい?」

 

「分かったわ。方法としては二つ、まず一つ目、魔力と神経の結合を手術なりで剥がす。メリットとしては、成功すればAMFの影響を全くとは言えないけど、最悪の事態は逃れることができる。けどデメリットとして、今までのような無茶苦茶な行動は取れなくなるし、動きも普段より悪くなる、手術の成功率もドクターの腕込みでもリスクが高いわ」

 

 それはそれで困る。自分で言うのもなんだが、この体質のおかげで今生きてるようなものだ。それがなくなったら多分地球じゃすぐにおっちぬ事になりかねない。

 

「そして、二つ目、はっきり言ってこっちは博打のレベルを越えて絶対にお薦めしたくないのよね……というか、成功率なんて分からないし」

 

「……その方法ってのは?」

 

「それは――――」

 

 

 

 

『さて、じゃあ模擬戦だけど、ルールを説明するわよ』

 

 あれから模擬戦用のフィールドに移動した俺は、目の前で無骨なナックルとローラースケートのようなものを装備してるノーヴェと対峙する。

 

『時間は基本的に無制限、地上戦闘オンリーの戦闘方法は魔法及び物理のどちらでも可能、どちらかの意識が完全に飛ぶまでの、大まかに三つよ。ただしハンデとして、ノーヴェはISの使用を禁止、使っていい魔法も身体強化系オンリーよ。』

 

「わかったよ……ッチ」

 

「おねがいします……」

 

 そう言って俺はイモータルをベーシックに戻し、魔力手刀……イモータル曰く魔法名は『ヴァイス・ネヒター(白夜)』らしい……を掌の長さにまで縮める。

 

「……手刀主体か」

 

「まぁそんなところです。一応貫手も狙っていきますがね」

 

「抜かせ……!!」

 

 それだけ言うとノーヴェは一気に間合いを詰めて右下から蹴りを振り抜く。それを俺は魔力の電撃を左腕に集中させて耐える。

 

「!!」

 

「せい、らぁぁ!!」

 

 驚いて怯んだ瞬間にその左足を掴んで、一本背負いよろしく投げるが、流石に落とす直前で手を逆足で払われてしまい距離を取られる。

 

「……手刀主体じゃなかったのか?」

 

「掴みと投げ技ができないとは言ってませんよ?これでも合気と柔術も少しだけかじったことがありますから」

 

 もっともどちらも小学校低学年の時ですが、と言うとノーヴェは興奮したのか少しステップしてる。

 

「は、前言撤回だ、てめぇは一般人じゃなくて逸般人だわ」

 

「魔法を使える時点で既に逸般人ですか……ら!!」

 

『ソニックムーブ!!』

 

 イモータルに魔法処理を任せて、俺は一気にノーヴェに突っ込む。右手を四本手刀の型にし、狙うは彼女の喉元……

 

「ち!!」

 

 ノーヴェは慌ててバックステップで避けようとするが、その瞬間に俺は、彼女の視界から姿を消す。

 

「消えた……!?」

 

「ぜいらぁぁぁ!!」

 

 いきなりのことに分からなくなっていたノーヴェの背後から、魔力手刀ではなく、掌に電撃の魔力を纏わせた手刀で、無防備な後首を叩きつける。

 

「がっ!?」

 

 不意打ちの衝撃に悲鳴をあげるが、流石の耐久力で気を保たせて再び距離をとる。

 

「てめぇ、いったい何をやった!!」

 

「高速移動魔法と抜き足、それからフェイントを組み合わせただけですよ」

 

 簡単にいうと、高速移動魔法(ソニックムーブ)をして、相手に近づいた瞬間、攻撃のモーションを見せることで相手の体勢を崩したところで、剣道などでいう歩法、抜き足を魔法維持したまま使って背後に回ってズドンという、ただそれだけの、武道をある程度かじったことがあれば簡単にできる技の組み合わせだ。

 

『いやそれだけっていうレベルじゃないから!!普通に肉体的に耐えきれないから!!』

 

「けど千冬姉はこれを魔力なしで普通にできるからな~、まぁ千冬姉の場合はISのスピードの低速と高速を使い分けてだったらしいし……というか生身でやってた人外だし」

 

『あなたのお姉さんが人外なら、魔力込みでやってのける貴方も人外よ!!』

 

 なぜかクアットロに怒られた。ただ真似しただけなのに……(後にノーヴェが覇王少女に似たようなことをされて俺やセインに弄られたのはまた別の話だ)

 

『ある意味私の立つ瀬が無いですよマスター』

 

「いやデバイスのお前まで言うか……ッ!!」

 

「余所見してんじゃ……ねぇ!!」

 

 再びの重たい蹴りに、今度は耐えきれずに後ろへぶっ飛ぶ。一発目は軽くだったのか、先程よりかなり速く鋭くなっていた。

 

「くそが!!さっさと墜ちろよ!!」

 

「そう言われて、はいそうですかなんて言うわけないでしょ!!イモータル!!」

 

『イグニッション・ネクス!!』

 

 俺は魔力手刀を消して、体全体に魔力を纏わせる。若干だが電撃の痺れる感覚はあるが、そんなのは全然気にもならなかった。

 

「掌突術・穿(うがち)!!」

 

 指を中指に集め突きの形をとり、それをノーヴェの身体にぶつける。すると纏っていた電撃の膜が流れるように消えて、

 

 バゴォォォン!!

 

 突然の大爆音と共にノーヴェが壁の方まで勢いよく突っ込んでいった。

 

「……はい?」

 

 さすがのこれには集中が解けてしまい、彼女の方を確認すると目を回しながら上下逆さまに壁にのめりこんでいた。

 

『……イチカくん?いったい今度は何をやったの?』

 

「い、いや……突き技に発剄を組み合わせたら……こうなりまして……」

 

『発剄って……あぁ、掌底技の、確か打ち込みと同時に体内の気を相手の身体にぶつける技よね?』

 

「はい……多分ですけど、気の代わりに腕に纏わせてた魔力をぶつけたのかと……」

 

 そう考えるとあの大爆音も吹っ飛んだ事も納得できるしな……

 

『あー……そういえばルーフェン系の武術にもそんな感じの体系はあったわね……てことはイチカくんのデバイスはルーフェン系の術式組み込むべきだったかしら……』

 

「それはどうでもいいですけど、とりあえず彼女は?」

 

『あぁ、ノーヴェなら心配いらないわよ。あの娘、打たれ強さだけは私達のなかでトゥーレに並ぶから』

 

 そういわれたすぐに壁から再び酷い音が聞こえてきたかと思うと、かなり肩で息をしてるノーヴェがふらふらと寄ってきた。

 

「まだ……終わってねぇぞ!!」

 

『はーい、ストップよノーヴェ。今のままじゃいくら私達の中でも頑丈なのは分かるけど、これ以上やったら後々に響くからダメよ』

 

「けど!!……」

 

 まだ何か言いたそうだったが、突然気を失ったように倒れたのを見て、俺は慌ててノーヴェを押さえる。確認してみると、どうやら気絶しただけのようだったらしく、ゆっくりとだが呼吸も確認できた。

 

『あらら……いくら頑丈とはいえ身体が追い付いてないのかしらね?』

 

「身体が?」

 

『ノーヴェは一応イチカくんと同じぐらいの肉体年齢だからね。貴方みたいな特異体質でも無いかぎり、幾ら頑丈とはいえ限度があるのよ』

 

「そうですか……」

 

 なんとも言いがたいが、まぁそう言うならそうなんだろうな。

 

「じゃあとりあえずノーヴェを運ぶんで、部屋みたいな場所あります?」

 

『まぁ一応ノーヴェの部屋はあるにはあるけど……とりあえずイモータルに情報送っておくから、それの通り進みなさい』

 

 そう言うとクアットロは通信を切った。最後にどこか嗤ってたような気がするが……まぁ気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ

 

「む?クアットロ姉様、何を笑ってるんですか?」

 

「あぁチンクちゃん。いやね、イチカくんがノーヴェの部屋を見たら何て言うかと思ってね……」

 

「む?……あぁそういえばノーヴェの部屋は……」

 

「それを考えたらちょっと想像力が働いてね~?悪いけど一人にしてくれないかしら?」

 

 分かった、それだけ言うとチンクちゃんはなんの疑いもなく出ていってくれた。……さて、

 

(ふふふ……イチ×ノヴェは久々の大作の予感しかしないわ!!ここはイチカくんに受けに回ってもらって…………ククク、今回の冬コミは貰ったわよ!!風の癒し手(我がライバル)!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケのオマケ

 

「む!?」

 

「どうしたシャマル?いきなり」

 

「いやねシグナム、なんか私の第六感が危機感を訴えてきてね」

 

「どうせまたシャマルの腐った仲間関係だろ?気にするだけ無駄だよシグナム」

 

「ひ、酷い!!今回はかなりの大作なんだから!!」

 

「へ~?いったい誰と誰をベースなんや?」

 

「今回はアリサちゃんとすずかちゃんとなのはちゃんでなのはちゃんが受け……は!?はやてちゃん!?」

 

「去年まではまだ許してたけど、今回はリインも居るんやからな~……少しO★HA★NA★SHI死に逝こうや?」

 

「いや~!?」

 

「ザフィーラ、受けってなんです~?」

 

「……お前は、まだ知らなくても良いことだ」




次回『05 ノーヴェ』
はやて「リリカルマジカルかんばるで~……ラグナロク!!」
シャマル「いや~!?」

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