第49話
ーようこそ!待ちくたびれたよ!ー
リゼが扉を開けると同時に渋く、ダンディな声が飛んできた。聞き間違えることは無い。声の主こそ、今夜正一をこの場に呼んだ張本人なのだから。
「こんばんは!手々座さん!」
「こんばんは。今日は私達も御一緒させて頂き、有難うございます」
ココアが挨拶し、続く様にチノも挨拶をする。
「....」
正一は2人とは違って、頭を深く下げ「敬礼」を行う。普通は挨拶と言えば、チノやココアが行った様に声を発してするモノで有るが、正一はあえて、自分の為に時間を作ってくれた手々座に声を出さず、敬礼の形を取った。
「そう硬くならないでくれ。私としても もう一度君達と食卓を囲みたかった所だ。君達が来てくれて、私も嬉しいよ」
「お嬢様方、お荷物をお預かり致します」
手々座が言い終わると同時に左右に居たメイドが正一達の荷物を取りに来て《いた》
「.....」
「さぁ、着いてきてくれ。」
手々座に連れられ、正一達は以前も通った道を歩く。
さっきの荷物を取りに来たメイド...全くと言ってもいい程気配を感じなかった...奴らは一体...。
「ですよね?正一さん」
「へ?」
手々座は歩きながらココア達と談笑をして笑って居たのだが正一は先程のメイドの事が気になり談笑に入って居なかった。その為突然のチノから投げ掛けられた言葉を返す事が出来なかった。
「あぁっと…すいません、もう一度お願いします。」
「リゼさんは私達の良い先輩ですよね?って言う話です」
「あぁ、成程...。確かにリゼさんは私達の面倒を良く見てくれて、色々なことに対して分からない事があったら優し教えてくれますね」
「正一さんの言う通りリゼさんには何時も助けられています。...自称姉の誰かさんとは違って」
そう言い自称姉名乗っているココアの方を見てチノは小さく溜息を付く。
「え?何で残念なモノを見るような目で私を見るの!?」
何で自分を見られて居るのかわからない様子のココア。そんなココアの様子を見て更に溜息を吐くチノ…。
「ハハハ!そうか、リゼはちゃんと仕事をしているのか!」
そんな一連の様子を見ていた手々座は、楽しそうな笑い声を上げた後、手々座はリゼの方を見る。
「家の娘...リゼは、余り家の外での出来事を余り話してくれなくてね。君達の話を聞いてリゼがちゃんと仕事をしているのか不安だったのだよ。そうか...頑張ってるんだな、リゼ。」
手々座はリゼを見たまま、渋いが、優しい声のトーンで話す。
「なっ!? 何を言ってるんだ!お前達?!わ、私は唯...当たり前の事をしているだけで....うぅ...」
普段余り自分の事を話していないリゼは、父親の前で自分の事を言われて恥ずかしかったのと、友達であるココア達の前で父親に褒められたことが原因で耳まで真っ赤に染めて照れて居た。
「そ、それよりも!今日のメニューは何なんだ?」
「フフフ...露骨に話題を変えたね。チノちゃん。」
「はい、こんなリゼさんは中々見ることが有りません。レアです。」
露骨に話題を変えたリゼの、普段は余りお目にかかれないリゼの反応を此処ぞとばかりに揶揄うココアとチノ。それに対し、何も言わず顔を真っ赤にして震えているリゼ。
「チョット化粧室に行ってくる!!」
とうとう、恥ずかしさが限界に達したのかリゼは、通路少し先に有る曲がり角に早足で向かう。
「あっ!待ってリゼちゃん。私も!」
「待って下さいリゼさん、ココアさん。私もです」
そう言いリゼの後を追うココアとチノ。
「...本題はディナーの後で構わないか?」
最後尾であったチノが通路から見えなくなると同時に、手々座は今まで話していた声のトーンよりも低い声を出し、正一に確認する。
「えぇ、問題ないです。...時間を気にしない方がじっくりと話が出来ます。」
「わかった...。」
そう言い手々座は頷き今夜の予定が決まったと同時にリゼ達が曲がり角から出てくる。
「悪い、待たせたな。」
リゼ達が謝罪の言葉を言い再び歩く事を再開する...。
今夜は少し長いかもしれないな...。
続く