原作:戦姫絶唱シンフォギアGX
牛丼を餌にチラつかせられた風鳴翼が、今、熱湯風呂の脅威を越える!
ある年の年度末。
クリスは響や未来、後輩達と自宅にて年越しを迎えることになっていた。
未来は台所、エルフナインと切歌&調はコンビニに買い出し。
マリアと翼は年末の生放送紅白に出演。
今は響と並んで大型のテレビをぼんやりと眺めている。
「やっぱり年末はお笑いだよね~」
「まあ、一番気楽に見れるもんではあるな」
『お前らシンフォギア装者なんだから紅白見ろよ』という正論は通用しない。コメディと笑いも彼女らの本質の一面だ。
翼とマリアは年末の紅白にも出ているが、事前に録画していたお笑いにも出ているようだ。
どうやら彼女らは、翼とマリアが出て来るところでだけチャンネルを戻す予定でいるらしい。
「第一お笑いなんて近年体張ったもんは数えるほどしかない、日和った……」
『では! 今日のメインイベント!
風鳴翼さんによる、熱湯風呂綱渡りの開始です!』
「ぶっ」
「あっ」
そしてお笑い番組が新たな展開を初め、画面いっぱいにドヤ顔の風鳴翼が現れたのを見て、雪音クリスは盛大に飲んでいたものを吹き出した。
「日本のトップアーティストに何やらせてんだああああああああああ!!」
「クリスちゃん落ち着いて! この放送は時間的に考えて録画だよ! 止められないよ!」
「落ち着けるかぁッ!」
風鳴翼の現在の扱いは、『若い小林幸子』である。
だがその性格が斯くテレビ番組で露出していった結果、翼は『一人ダウンタウン(天然タイプ)』というポジションも獲得していた。
正統派も行ける。バラドル路線も行ける。
ゆえに翼は強い。装者的にも、お笑い的にも強い。
『お湯の張った透明なケース!
その上に張られた一本の荒縄!
本来ならばガードパイプが設置される予定でしたが、本人の要望で撤去されました!
風鳴さんは女性ということで、三回までのリトライが許されます!
そして見事渡りきれれば、吉野家の牛丼一年分が無料になるパスが貰えます!』
「しかも番組作りが! 落ちること前提! ドリフでやってろッ!」
「クリスちゃん落ち着いて!」
威風堂々、自信満々。翼は軽やかなステップで綱の上に立ち、微動だにしない。
だがスタート地点から何故か一歩も踏み出すことなく、チラッチラッと後方に控えるマリアの方を振り返っていた。
『マリア! 押すなよ! 絶対に押すなよ!』
『押さないわよ!』
『莫迦者! 押せという意味だ! このお約束が分からんのかこの欧米人が!』
『お願いだから防人語より訳の分からない言葉を使わないで!』
マリアは駆け出し、「まさか翼を海に落とすならともかく熱湯に落とす日が来るなんて」と思いながら、ドーンと翼の背を押した。
テレビの向こうの皆が、十代の翼のお約束をあまりにも分かっているムーブに驚愕する。
日本全国の皆が、目を見開いた。
海外からそれを見ていたインド人が、感動のあまりにむせび泣いた。
小さな子供達は、一秒後の光景を想像して思わず目を逸らした。
『これでいいんでしょ!』
「あっこのバカマリア!」
(熱中してるクリスちゃん、ナチュラルにバカマリアって言ってる……)
あわや落下か、と思われたその瞬間。
翼はバランスを崩した体勢を立て直すこと無く、縄の上に片手で逆立った。
『逆羅刹』
翼が呟いたその一言が、全国ネットに、世界に広がる。
翼はそのまま縄の上を回転しながら逆羅刹で滑り越え、熱湯の上を通り過ぎて行った。
『逆羅刹……!』
マリアが呟いたその一言が、全国ネットに、世界に広がる。
今年ももう終わろうかというタイミングで、来年の流行語大賞が決定した瞬間だった。
「バラエティで体を張って笑いを提供するとか、王道を行くんじゃあないッ!!」
「わー翼さん凄い」
「やめろバカ! あの先輩の顔を見ろ! スタジオで周りから上がってる歓声を
『これがバラエティでやるべきことで正しかったのだな』と勘違いしてるドヤ顔だ!」
会場は大盛り上がり。
視聴率も瞬間的に急上昇。
全国で話を聞きつけた人達がリプレイ映像を食い入るように見て、実況掲示板のサーバーは一斉に重くなった。一部は落ちた。
「二課はあの人をどういう風に売り込みたいんだ……」
「クリスちゃんが緒川さんに聞いてみれば?」
「来年聞くわ……ちくしょう……」
『おめでとうございます、風鳴さん!
この年間無料パスは同行者にも適用できると聞きますが、一緒に行きたい人は居ますか?』
『ええ、今のところは一人』
「ん?」
「雪音、見ているか! 雪音クリス!
お前が"腹いっぱい牛丼食いたい気分だ"と先月言っていたのを憶えているか!
私は憶えていたぞ! 先輩は頑張ったぞ! さあ、一緒に食べに行こう!」
「全国ネットで! この流れで! あたしの名前を出すなあああああああああ!!」
かくして、雪音クリスは生き恥を晒す羽目になったのであった。
この後は別の景品を用意し、"流石に自分はこれやらないだろう"と油断しきっていたマリアがドッキリで参加確定。絶望顔で熱湯風呂の前に立たされる。
しかも「翼さんがあんだけ余裕だったんですからマリアさんはもっと余裕ですよね?」という謎の期待から、お湯で溶ける特殊素材で上半身をみっちり縛られた状態で縄の前に立たされていた。
おっぱいが強調されて非常にエロい。
もし順番が逆で、翼の方が縛られていたら、全くエロくなかっただろう。
そして、翼ならば縛られていても渡れるだろうが、マリアでは渡れない。現実は非情である。
ただのお
約束の
マリア。
たやマさんが全国にいいお笑いを提供し、直後の紅白が翼とマリアパートだけ妙に視聴率よかったという結果を残しながら、この年は終わりを告げるのであった。
『剣』→参加者
『緊縛』→追加ルール
『牛丼』→景品
服の生地が厚かったので縛られて濡れ透けのマリア! にはなりませんでした