お正月企画三題噺シリーズ   作:ルシエド

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お題:『feat.ワイルドアームズのゼファー君』『マシュマロ』『vivid strike!』
 以下の作品の主人公が意味なくちょっとだけ喋るだけの話です。
https://novel.syosetu.org/37743/
https://novel.syosetu.org/104754/
https://novel.syosetu.org/107058/
 オリ主対談という地雷の中でも最上級にアレな地雷……!


第十回:ゼファー・ウィンチェスター兄貴とライ・ドローン少年

 まあ座れよ、とライ・ドローンはこたつの反対側を勧められた。

 

「パンかミカン食うか?」

 

「ありがとう、ございます」

 

 名を名乗る前に、その男は食べ物を差し出した。

 パンは焼き立てで、ミカンは小さな筋まで丁寧に取ってある。

 そして何より、その笑顔が素敵だった。

 何故か父を思い出す、その笑顔を見ているだけで安心できる笑顔が、そこにあった。

 

「俺はゼファー・ウィンチェスター。お前は?」

 

「ライ・ドローン。……です」

 

「合縁奇縁だ。世界を渡ったりもする俺だが……

 お前の魂の色も覚えたし、何か洒落にならないことがあったら俺を呼べ。

 友達関係から宇宙の危機まで、呼ばれればまるっと解決してやろう、はっはっは」

 

「はぁ」

 

「お前は割と平和な世界に生きてるみたいだから、俺が呼ばれるとしたらヤバい時だろうな」

 

「……」

 

「お前の世界の危機は、お前の世界の人物がきっちり解決してるんだろう? いい世界だな」

 

「……」

 

「……『喋らなくても察してくれる感じが楽だなぁ』って考えてるな?」

 

「!」

 

「お前調より喋るの苦手キャラか。逆に驚くわ」

 

 ゼファーはどこからともなくコンロを出して、その上でマシュマロを焼き始める。

 チョコクリーム、生クリーム、複数種のフルーツソース、ついでに牛乳までポンポン出て来て、そこにぽんぽんマシュマロが投げ込まれていった。

 

「食っていいぞ」

 

 ライは頭を下げて、マシュマロに手を付けていく。

 少年の表情を見る限り、どうやらこういった菓子に小細工をする腕は、ゼファーの方が上であるらしい。

 ライは中学一年生。ゼファーはとっくに成人を過ぎている。

 なので、気のいい親戚の兄ちゃんと内気な少年みたいな雰囲気になっていた。

 

「ライ。お前は余り心配いらないみたいだな」

 

「……心配?」

 

「いやな、本当に心配になるやつってのは結構居るんだよ」

 

 まったり茶を飲み、こたつに体を預けているゼファーが、そう呟く。

 

「力は貸せても、心は貸せねえからなあ……」

 

「……」

 

「その点、お前は十分だ。その心があれば言うこともない。

 足りない力はお前の仲間と友達が貸してくれる。

 外宇宙から全並行世界を一瞬で滅ぼす力を持った敵とかが出て来たら、俺が潰そう」

 

 ロードブレイザーのような規格外が現れて、全てが台無しになる可能性は、全ての宇宙と世界に存在する。だがその可能性も今、ゼファー・ウィンチェスターという希望が潰した。

 

「ならお前の戦いは、心の戦いだ。

 ハッピーエンドと大団円を目指す戦いだ。

 許さず敵の絶滅だけを目指す戦いよりよっぽどキツくて、難しい」

 

「……」

 

「俺はその戦いにまで力を貸せない。それはお前の心で勝たなければならない戦いだからだ」

 

 力では救えないものがあり、心でしか救えないものがあり、許しで至る結末がある。

 

 これは、心の欠片の継承でもあった。

 

「忘れるな。大切なことは、"絶対に絶対"諦めないこと。

 諦めなければ、風向きは変わる。西風はお前の背を押すだろう」

 

「……はい!」

 

「頑張れ。俺の最近の持論だが、笑顔が好きなやつに悪いやつは居ない」

 

 景色が薄れる。

 全てが薄れる。

 世界が薄れる。

 

「―――お前の光も―――誰かを照らし―――」

 

 最後の言葉を聞き取れず、ライは目を覚ました。

 ただの夢だったのか。

 それとも本当に誰かと話していたのか。

 自分の記憶を遺跡のように踏破して、心の中まで来た誰かが居たのだろうか。

 ぼんやりした思考で目を開こうとすると、自分が誰かに抱き起こされていること、誰かにずっと謝られていることに気が付いた。

 

「―――ライ君!」

 

 リンネだった。リンネが彼を抱き起こし、彼に何度も謝っている。

 そうして、ライは何故自分が気絶していたかを思い出した。

 リンネの手加減パンチがライのヘタクソなガードのせいで軌道がズレて、頭にクリーンヒットしたのだ。加減してこれなのだから、本当に女ワンパンマンである。

 最近の公式戦も世界ランカー以外はワンパン、世界ランカーも時々ワンパンというリンネは、まさしくワンパンウーマンであった。

 

 ライを気絶させ、泣きそうな顔で謝っているリンネの頬に手を添えて、ライは微笑む。

 彼女が気にしないように言葉を選び、彼女が気に病まないように説き伏せるのを開始する。

 

「大丈夫、気にしてないよ」

 

 好きなものから許していきたい。それじゃ駄目かな、と、ライは心の中で問うてみた。

 

 ゼファーの返答は、返っては来なかった。

 

 

 




 物語を終えた大人から、まだ一つの物語を終えたばかりの少年へ

『feat.ワイルドアームズのゼファー君』→力を貸す側
『マシュマロ』→大人から子供に与えるもの
『vivid strike!』→大人から一つ、大切なことを教わった子供

 リンネちゃんの笑顔は、ゼファー君が守るものではないのです

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