銀河HP伝説   作:アレグレット

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地球を○○にする方法

 

ルビンスキーは汗を拭きながら、私邸の奥の秘密の部屋に入った。これから起こるであろう会話を想像しただけで汗が出てくる。一瞬、通信ボタンを押すのをためらったのは彼らしくなかったが、嫌なことを済ませてしまうに限る、彼は意を決してボタンを押した。

「私です、お応えください。」

平素とは違うこの上なく恭しい調子で思念波を送る。

「私とはどの私だ?」

この上なく尊大な声が返ってくる。

「フェザーンの自治領主、ルビンスキーです。総大主教猊下にはご機嫌麗しくあられましょうか。」

「機嫌のよい理由はあるまい・・・・。わが地球は未だ正当な地位を回復しておらぬ。ルビンスキーよ・・・・。」

ルビンスキーはこれから起こるであろう叱責を想像して身を引き締めた。

「いつになれば我がWGE(地球をわが手に)48はオリコン1位を獲得し、銀河の頂点に君臨するのか?」

「はっ。わが方のセンターの最新シングルは自由惑星同盟のFPA(自由惑星同盟)48には1万238枚と僅差で敗れましたが、まだ総選挙では逆転の余地はございます。この度新たに13期生の粒ぞろいを編成しましたゆえ。」

「汝がたった今申したのとほぼ同じ言葉をこれまで幾度となく耳にしたが、此度は大丈夫であろうな?」

「無論のこと。」

「地球のアイドルは800年の長期間にわたり不当に貶められてきた。だが、屈辱の晴れる機会は近い。地球のアイドルこそが、オリコン一位に君臨し、全宇宙のプロダクションを支配する中心なのだ、と地球のアイドルを捨て去った愚かなプロデューサー共が思い知る時節が年内にはこよう。」

「そのように早くでございますか?」

「疑うか、フェザーンの自治領主(プロデューサー)よ。」

思考波が自信満々の笑いを奏でた。

「し好の流れとは時に回帰するもの。ことに銀河帝国と自由惑星同盟の両アイドル陣営において、ファンの基盤の収斂化が進んでおる。それに間もなく、あらたな民衆のうねりがくわわろう。両陣営のプロデューサー共の間に潜んでいた、元祖アイドル回帰の精神運動が地上に現れる。それに必要なプロモーション活動は汝らフェザーンの者どもに任せておったはずだが、手ぬかりはあるまいな。」

「もちろんでございます。」

ルビンスキーは深々と頭を下げる。

「ルビンスキー!!」

声が鋭い調子になった。

「(オリコン順位を)落とすなよ。」

そう陰惨な声は叫ぶように言い、通信は途絶えた。

 

 

1か月後――。

「私です、お応えください。」

ルビンスキーの思念波が地球に送信される。

「私とはどの私だ?」

この上なく尊大な声が返ってくる。

「フェザーンの自治領主、ルビンスキーです。総大主教猊下にはご機嫌麗しくあられましょうか。」

「機嫌のよい理由はあるまい・・・・。わが地球は未だ正当な地位を回復しておらぬ。ルビンスキーよ・・・・。」

相手の思念波はそこでいったん途切れた。

「どうなっておるのだ?FPA48のセンターと我がWGE48のセンターのファン投票で、3万9027票も差を付けられておるではないか。」

「御意・・・。ですが、総大主教猊下、投票はまだ終わっておりません。全銀河の人口に比して3万428票の差など、たかが知れたものとお考えになりませんか?」

「貴様、今サバを読んだな。儂の眼はごまかせぬぞ。」

すかさず総大主教猊下の思念波が飛ぶ。

「よいか、ルビンスキー。此度の投票はのちにある総選挙における前哨戦となろう。必ずやこれに勝ち、地球のアイドルこそが銀河の中心たることを認識させよ。」

「ははっ!!」

ルビンスキーは深々と頭を下げたが、内心では絶望感で一杯だった。刻一刻と届けられる報告では差は開く一方だったのである。

「ルビンスキー!!」

声が鋭い調子になった。

「(票の取り込みを)漏らすなよ。」

そう陰惨な声は叫ぶように言い、通信は途絶えた。

 

 

1か月後――。

「私です、お応えください。」

ルビンスキーのややかすれた思念波が地球に送信される。

「私とはどの私だ?」

この上なく尊大な声が返ってくる。

「フェザーンの自治領主、ルビンスキーです。総大主教猊下にはご機嫌麗しくあられましょうか。」

「機嫌のよい理由はあるまい・・・・。わが地球は未だ正当な地位を回復しておらぬ。ルビンスキーよ・・・・。」

相手の思念波はそこでいったん途切れた。

「どうなっておるのだ?センター同士の投票でわが方は敗北した。それどころか、あれから発売されたニューシングルにおいて、FPA48はいざ知らず、帝国のローエングラムとかいう若造がプロモートしたAIL48のシングルにも差を開けられておるではないか。」

「御意・・・。ですがご安心のほどを総大主教猊下。ローエングラムなる者がいかに覇気に富もうとも、その基盤は未だに未熟で有り、ファンの層も大きくはありません。」

実際にはAIL(アンネローゼ姉上大好き!!)48が出したニューシングル「すべては私の手の中で」は15000万枚を飛ばすヒットとなり、WGE48が出した「あったか地球(ホーム)に帰りましょ」を軽く抜き去ってしまっていたのであるが、フェザーンの自治領主(プロデューサー)は、あえてそれを言おうとはしなかった。

「近く行われます総選挙において、我が方の粒ぞろいが必ずや決勝に残り、地球のアイドルこそが銀河随一であるという事を全国放送で示すこととなりましょう。」

「ルビンスキー!!」

声が甲高い調子になった。

「頼むから、負けるなよ。」

そう陰惨な声は、切々と祈るように言い、通信は途絶えた。

 

 

1か月後――。

「わ・・私です、お応えください。」

ルビンスキーの、憔悴しきった思念波が地球に送信される。

「私とはどの私だ?」

この上なくイラついた声が返ってくる。

「フェザーンの自治領主、ルビンスキーです。総大主教猊下にはご機嫌麗しく・・・あられませんでしょうか。」

「機嫌のよい理由はあるまい・・・・。わが地球は未だ正当な地位を回復しておらぬ。ルビンスキーよ・・・・。」

相手の思念波はそこでいったん途切れた。

「どうなっておるのだッ!!!」

巨大な大津波の怒りの思念波が打ち寄せてきた。

「昨日の総選挙の結果はなんだ!?見ていたぞ!!決勝に残るどころか、予選会で半数が落選したではないか!!じゃんけん大会で残る半数が落選し、ファン投票でも残ったのは5人に満たなかったではないか!!」

「し、しかし、その5人が我が方が誇る粒選りでございまして――。」

「その粒選りがAIL48とFPA48に負けたのであろうが!!」

「いや、それは・・・・総大主教猊下。やはり地球というコンセプトがまずかったのではないでしょうか。いっそFIS(やっぱりフェザーンがセンターでしょ!!)48を立ち上げてはいかがかと――。」

自暴自棄になったルビンスキーがやけくその調子で思念波を送る。

「貴様独立を企てるか!!!」

「流石にド辺境のアイドルではいささか時代遅れではないかと――。」

「ド辺境言うな!!」

今や尊大さを完全に失った総大主教猊下の声がルビンスキーに押し寄せる。それをただ受け止めながら、ルビンスキーの思考は別の方角を向いていた。

「総大主教猊下・・・・。」

恭しくルビンスキーが思念波を送る。流石にルビンスキーも疲れていた。もう二度と自治領主(プロデューサー)をやるのは御免だ!!言いたいことをはっきりと言って自治領主(プロデューサー)をやめることにしよう。この会見が終われば辞表を提出する用意はできている。彼は最後の一言を言うべく気力を奮い立たせた。

「やはり・・・地球が全銀河の中心となるにはアイドルではなく宗教に頼るべきでございましょう。」

 


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