「何れにしょうか……」
「おい、一夏?」
「うわっ!」
一夏は未だどの服を買おうか悩んでいると誰かに後ろから声を掛けられ、驚き後ろを見ると、そこには一夏を無愛想に見ているマイクがいた――手には、小さな紙袋を持っている。
「ま、マイクか……脅かすなよ?」
「脅かしてはいない、お前が単に服選びに集中していたから、俺の存在に気が付かなかっただけだろ?」
マイクは呆れ溜め息を吐くと、一夏は頬を掻きながら「ゴメン」と軽く謝ると、ふと、マイクが手に持っている小さな紙袋に気付く。
「それよりもそれは何だ?」
マイクは一夏に訊ねられ、視線を紙袋の方へと移す。
「ああこれか? あの人達へのプレゼントだ」
「プレゼント?」
「ああ――あの人達に似合うかどうかは判らないがな?」
マイクの言葉に、一夏は哀しそうに笑う。
「似合うよ、きっと――マイクの選んだ物には間違いはないから」
一夏の言葉に、マイクは目を附せながら「そうか?」と疑問を抱くように、一夏に訊ねる。
「ああそう言うよ、それに、あの人達なら絶対に喜ぶぜ?」
「…………それよりも、お前は決まったのかよ?」
「何だよ今の間? まぁ、俺はまだだけどな?」
マイクの言葉に一夏は哀しそうに笑うと、再び服を一つ一つ見落とさないように見始める。
しかし、何れもパッとしない物ばかりだった。否、パッとしないと言うよりも、中々似合う服が見付からないと、言い換えれば良いだろう。
が、単に良い服が無いだけどなのだろうか? ――彼、一夏はそう思うと時間の無駄と思ったのか、手を止め、マイクを見る。
「行こうぜ、此所には、あの人達に似合う服は無かったみたい」
一夏はそう言うと、踵を返し、その場を離れるように歩き出す。
「…………」
そんな一夏を、マイクは何も言わず眺めていた。が、マイクは一夏を見て何かに気付く。
一夏の後ろ姿がとても寂しいようにも思えた。何となく声を掛けたかったが今はそっとしとこうと、マイクは思った。
(……全く――まぁ、彼奴は何でも一人で背負うとしているからな……)
マイクは一夏を見て何も言わず溜め息を吐く。と言うよりも、マイクは相棒、一夏を見て、ある事を思い出す。
三年前のあの日、自分と一夏の出逢いは最悪な物だった。あの日はドイツでは珍しい程の豪雨であり、更には雷も降っていた。
が、あの時の自分は……。
――マイク? ――。刹那、一人の人物の声でマイクは我に返り、声がした方を見る――声を掛けてきたのは一夏だった。
一夏は少し離れた場所にいるが近くにマイクがいない事に気付き、マイクを呼んだのである。
一夏はマイクの様子に疑問を抱き困惑するが、マイクは一夏を見て口を開いた。
――大丈夫だ――。マイクはその一言だけを発すると、そのまま歩き出す。
が、何故か一夏の横を通り過ぎた。しかし、マイクは一夏が歩いていない事に気付き、一旦立ち止まり、彼を見た。
「どうした?」
マイクは一夏に訊ねると、一夏は何も言わず首を左右に振り、マイクの元へと歩くとマイクの横を通り過ぎ、ある場所へと歩き続けた。
そこはエレベーターだった。それも左右に並ぶように二つあった。
一夏は左側のエレベーターの前に止まり、ボタンを押した。その間にマイクは一夏の後を追うように歩いていた為に、一夏の近くにいた。
刹那、エレベーターから音が鳴り、同時にエレベーターの扉が開いた。あの音はエレベーターが、この階に止まった事を警告し、意味している物でもあった。
そして、エレベーターの扉が開く。中には誰も乗っていなかった。が、二人はお構い無しにエレベーターの中に足を踏み入れた。
刹那、隣のエレベーターがこの階に止まるかのように軽く音が鳴ると、エレベーターの扉が左右に開き、そこから一人の少女が、この階に足を踏み入れた。
その少女は刀奈であった。偶然にも彼女は、このデパートに来たのだ。
しかし、彼女は知らなかった――ついさっきまで、一夏は隣のエレベーターに乗っていたのだ。
不幸にも、彼はマイクと共に隣のエレベーターに乗り、一階へと行ってしまったのだ。
まだ向かえば間に合うだろう。が、刀奈は、彼女は一夏がさっきまで居た事を知らず、そんな事を思っていなかった。
彼女が悪い訳ではないが彼女は単に気付かなかった、一夏が日本に戻ってきた事を知らなかったのだ。
これは単なる偶然か、それとも神の悪戯かは判らないが、今の二人には再会する資格はない事を意味しているようにも思えた……。
「良い服は無いかしらね?」
刀奈は服を見る為に歩き出す。一夏が居なくなった事を紛らわすようにも思えた。
が、それでも刀奈は服を見る為に歩き続けたのだった……。
その頃、一夏とマイクはエレベーターで一階へと降り、エレベーターを出た。そこはホールだった。
ホールには沢山の人が行き交い、少しばかり店もあった。それに、ある物もあり、あるイベントもあった。
が、二人は周りの店にも興味はなく、イベントにも参加する事も考えず、歩き出す。
「……やはり、もうそろそろの季節みたいだな」
二人が少し歩いた後、マイクは不意に立ち止まり、視線をあるイベントが行われている場所を見て呟いた。
――えっ? ――。マイクの言葉に一夏も立ち止まるが彼はマイクの少し離れた場所にいた。彼はマイクが立ち止まっている事に気付かず、歩いていたのだ。
一夏はマイクが向けている視線の方を見ると、少し表情を曇らせる。
そのイベントとは、IS関連のイベントであった。この時期は学校の入学する四月の一ヶ月前でもあり、何処のも学校も入学式とかの記念と称してグッズや親御さん達の為のスーツや着物が展示されていた。が、それらは単なる飾りでもあり、IS学園となると色々と大変だった。
IS学園はISを扱うだけでなく将来を期待される人材も欲しいのだ。その為、IS学園となると世界各国から入学希望者を定めるのと、それに見合うような少女達が必要である。
現にそのイベントはIS学園の入学試験と言うよりも、軽い適性検査であり、入学希望する者達や単に遊び半分やお試し半分でやる者達で溢れていた。
勿論、全員が少女か女性であり、適性検査に必要なISが二機と隣には適性検査の結果が伝わる画面がある機械が置かれており、その近くにはIS委員会らしき者達が数人はいた――半分女性であり半分は男性である。
「……まあ、俺等には関係ないがな」
マイクはそのイベント場所を見てそう呟く。一方、一夏はその場所を複雑そうに見ていた。
あれが全ての元凶であり、あれが全ての始まりだった。その言葉は過去に等しいが遠い未来、最悪な結末になるのかもしれない。
だが、それは何れ歯車を直す意味で回避させなければならない。一夏はISと言う物を間違った物にする事は出来ない。
何故なら一夏は、自分と相棒であるマイクは男性でありながらISを扱える事が出来ると言う、衝撃の事実があるのだ。
しかし、その事を公表する事は出来なかった。全ては今夜、あの人物が全世界に伝えてくれる。
それが全世界がどうなるかは、どう動くかは判らない。判るとすれば、衝撃の事実に胸を打たれるだろう。
女尊男卑主義の女性達は自分達の立場を脅かされるようにも思われ、男性達は歓喜するだろう。
それは正しき事か間違った事かは判らない。だが、それ以上にあるのが人種差別や領土問題、拉致問題等の、女尊男卑社会よりももっと重い問題が幾つもある。
自分等はそれらを解決する訳ではないが自分達が出来る事は精々、女尊男卑社会を打ち破る事だ。
それに今は、あの人が男性の為のISを造り、研究している。どう動くかは、神のみぞ知る。
一夏はISのイベントを見て複雑な思いを抱く中、彼、マイクは一夏の元へと歩み寄り、肩に手を置く。
「どうした一夏?」
マイクは怪訝そうに訊ねると、一夏は哀しそうに首を左右に振る。
「何でもない、それよりも行こう」
一夏はそう言うと、再び歩き出した。そんな彼を見たマイクは呆れて溜め息を吐くと、一夏の後を追うように歩き出した。
そしてその夜、一人の女性が全世界に、二人の男性操縦者の存在を伝えた。
これには全世界も驚く中、彼女は二人は此方で預かり、男性操縦者達はIS学園に行くように説得すると伝えた。
その後、全世界にいる人々の反応は様々だった。女性達は恐れ、男性達は歓喜し、経済の方は何かと忙しくなり、政府やマスコミも男性操縦者達の情報を得ようと奮起した。
しかし、それはあの人の影響で無駄になり、そして、時は経つのは早いのか、IS学園は入学式を迎えた。
次回、IS学園編に突入します。