「どれも悪くないな、流石、世界に誇るだけあって、日本の作る物は一つ一つ細かい」
此所は日本の東京に某デパートの四階。そこはアクセサリーやストラップ等の小物が販売されているショップ。
そこにはマイクが一人いた。と言っても、マイク一人ではない――周りには少なからず、人はいた。
大抵は買うか悩むのと、ただ見てるだけで済ます者に別れているだろう。勿論、マイクはそのどちらかと言えば――嫌、どちらとも言えない。
「綺麗だ――それしか言えない」
マイクは店にある何点、何百点もあるアクセサリーを見て、褒める。どのアクセサリーも、一流の職人が作ったように細かい。
美を追及し、数あるデザインから一つだけを選び、それを具現化するように作った。それはどのくらい掛かるかは判らない――判るとすれば、作った者達の気持ちが籠っているのだろう。
マイクはそう思いながらも笑わなかった。彼は人の気持ちが判らない訳ではない――彼は迫害され続けたせいで、人を信じる事を余りせず、心を開かなくなっていた。
心を開くのは一夏や、とある人達と、今は亡くなったが一番信頼していた身内だけ。
マイクは彼等としか接しなかったが彼が心を開くのは、彼が自ら閉じた心を開かせ、周りの人達が彼と接して心を開かせるしかない。
マイクはアクセサリーを見続けていたが、ある事を思い出す。
「そう言えば、一夏は何を考えてるんだ?」
マイクは一夏の事を思い出す。一夏とはさっきまで観光目的で街の中を歩いていた。
日本の街はドイツとは違い人が多く、高層ビルが幾つも見受けられた。マイクから見れば違った国を、風景を、日常を見たようにも思えた。
それに別行動と言う意味で別れた――と言うよりも、このデパートで、あの人達への土産でも買ってこう、と一夏が言った。
それも一方的と言う意味でそう言ったのだ。これには、マイクは驚きと呆れさえも感じたが一夏はその場を走り去って行った。
彼がどの階に居て、どのコーナーに居るのかは判らない。電話すれば問題ないが直ぐ近くに居る為に電話するのも馬鹿らしい、と、マイクは思い、電話をしなかった。
電話するよりも、自ら話せば問題ない――マイクはそう思いながら、アクセサリーを見続ける。
彼が何時まで其所にいるかは判らない。彼が土産にする物を決めるまでか、何も決められず他の物を見付ける意味で離れるまでは、彼は此所に居続けるだろう。
「……これも良いな、でも、これも良いかも知れない」
その頃、一夏は五階の洋服コーナーに居て、そこで色んな服を見ていた。
一夏が見ている物は女性用の服であり、マフラーやワンピース、ブラウス等があるが一つ一つデザインが違う。
在庫が有る物もあれば、無い物もある。だが、彼が見ているのは只の女性服ではない――彼は、あの人達が似合うような服を探していた。
サイズ、色、デザイン等、一つ一つ細かく見ていた。サイズが合わなければ申し訳ないのと、あの人達に合う色が無ければ話にもならず金の無駄使いである。
一夏はそう思いながらもある事を思い出し、寂しそうに呟いた。
「……刀奈さん……」
一夏は刀奈の事を思い出す。彼女は今何をしているのだろうか? 学校――嫌、今は九時を過ぎてるから学校に居るだろう。
それに彼女は今何処に居るのだろうか――嫌、判らない、彼女は他県に引っ越しか、自分の事を忘れているのだろうか。
一夏はそう思うと、胸が苦しくなるのを感じた。彼女を思い出すにも拘らず、忘れないように御守りを持ち続けても彼女に逢いたい気持ちで一杯だった。
しかし、それは過去の事であり今は現在だ。彼女が何処に居ても、彼女が青春を謳歌しても、自分には関係ない。
一夏は刀奈に罪悪感を覚えていながら後悔していた。すると、一夏は刀奈を思い出したせいか、ある事をも思い出す。
「逢えるかは判らないけど、刀奈さんの分の服も買ってあげよう……」
一夏は不意に彼女の分の服も買おうかと思った。金銭的には問題はなかった。なのに、そんな事をしても彼女は喜ばない。
服を買ってあげたとしても、彼女は服よりも自分が何処に居たのかを問い詰めるだろう。
しかし、一夏はそれでも真剣に向き合おうとしていた。過去の事は話せないが彼女への謝罪は出来る。
ゆっくりでも良い、彼女に破った約束をちゃんと果たし、彼女に服をプレゼントし、彼女の言う事を聞こうと。
後者は矛盾になるかも知れないが過去の事を聞かれたら黙るしかない。例えそれが、彼女を哀しませる要因の一つにもなろうと……。
一夏は服を探し続ける。渡す人達は全員で三人。一人はメルヘンチックな服を纏う人、一人はゴロスリを纏う人、もう一人は刀奈である。
二人は判るとして、彼女はどんな服が好みで、どんな色が好きなのかは判らない。一夏はそれに気付き、今度はサイズまでも思い出してしまう。
女性からサイズを聞くのは無礼だ。一夏は刀奈とは三年も逢ってない為、サイズまでは判る筈もない。
「どうすれば良いんだろう……」
一夏は困る。ふと、一夏はマイクを思い出す。
「そう言えばマイクだったらどうするんだろ……マイクだったら何を選ぶのかな? ――嫌、マイクは自分で決めろと言うな」
一夏は哀しそうに笑う。相棒だって自分で選ぶ権利はあり、それが女性の者だとすれば更に困惑するだろう。
「でも……男性用の服が少ないな」
一夏は辺りを見渡す。一夏の言う通り、確かに男性用の服は少なかった。
それも仕方のない事だった。そうなったのもISと言う兵器が誕生し、それが女性にしか扱えず、女尊男卑なる風潮が生まれたのだ。
その為、女性が偉いだとか絶対だとか、そう言う女性も沢山出てきた。それも全て、ISのせいだ――全ての男性と、女尊男卑主義じゃない女性がそう言うだろう。
否――ISは元々、宇宙進出を目指す為の物だった。なのに世間は兵器としか見ていなかった。
彼等は私欲や利益しか選ばなかった。自分達の国が一番としか考えていなかった。
彼等は既に力に溺れていた。彼等は力があれば何でも出来ると思っていた。なのに彼等は国が抱えている問題をそっちのけにもしていたのだ。
これには、ISを造ったあの人も怒りや哀しみをも感じた。
あの人は、彼女は宇宙進出を夢見て造ったISを、世間はISを兵器としか思っていなかった。
一夏はあの人の気持ちが痛い程判った。あの人だけじゃない、ISのせいで何の罪もない人達もいる。
一夏は彼等の気持ちを理解していた。迫害された者達の気持ちは痛い程理解していた。
自分は有名過ぎる姉を持ち、それで姉を慕う者や尊敬する者達から姉と比べられた事が何度もあった。
それでも一夏は、迫害には負けなかった。自分には幼馴染み達がおり、友人もいた――そして、刀奈もいた。
「皆……勝手に居なくなった俺に怒ってるかな?」
一夏は数少ない友人達を思い出す。が、今更逢っても三年何処に行ったのかを訊かされる。
それだけは嫌だった。自分には未だやる事がある。それも、あの人は今、ある目的の為に動いている。
自分や、マイクが三年間世間から姿を現さなかったのは、その目的の為に動いていたからだ。
三年間はとても辛かったが彼は迫害された者達の為に動いた。何の利益も無いと判りながら他人の為に動いた。
そして、今日は偶々、外に出られるだけであり、何の意味も無かった。お金は問題なく、何か遭った時の連絡手段でもあるスマートフォンもある。
一夏は貴重品を持っているが二つではない――三つあるのだ。財布とスマートフォンと……。
「お前は俺のパートナーで良かったのか?」
一夏はふと、服の腕の裾を捲る。そこには一つの全体が白で赤いラインが一つだけあるのが特徴的な腕輪が填められた。
一夏はそれを寂しそうに見つめていた。それは一夏にとって、マイクとは違う第二のパートナー。
それは人ではなく、生涯のパートナーでもない――何れ来る別れまでの間のパートナーだった。
馬鹿らしいと思いながらも一夏はそれを、パートナーと思いながら訊いた。
「お前ならどうする? ……大和」
一夏はその腕輪を、パートナーを大和と言った。只の腕輪ではない――その腕輪は一夏のIS、大和であった。
大和とは戦時中の日本が戦艦を造った――それが大和であり、それから名を取った物であった……。
一夏は大和に聞くが、大和はISであり人ではない。が、彼のパートナーである事に変わりはないだろう。