インフィニット・ストラトス 迫害されし者達   作:NO!

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第28話

「此所ね……それにしても、薄気味悪いったらありやしないわ」

 

 あれから数時間後、今の時間帯は夜中の八時であり、此所は東京のとある場所に位置する〇〇市の倉庫。そこは長らく換気していないのか、とても黴臭く、吐き気がする程や鼻に突く。

 長い間掃除していないのか埃も溜まっており、何かの摩擦で火事になっても可笑しくなかった。そんな場所に人が居るのが疑問に思うのと同時に、病気になっても可笑しくない場所でもあった。

 それだけでなく、そこは長らく人の手で施されていないのが原因であるのと、それをしなかった市井の者達にも責任があるだろう。が、それが手遅れになっても、後の祭りなのかも知れない。

 そんな場所に一人の少女が居た――楯無である。彼女は、この場所に不快な気分と同時に、怒りが沸いてくるのを感じていた。こんな場所に来たのは、暗部の当主として、暗部の任務を請けたまわれたのである。

 今回の任務は不法入国をした女性達を匿い、マッサージ店に不法に働かせている経営者を捕える事――この倉庫に来たのは、経営者が居るのと、その者が此所を基地にしていると言う情報をも教えられた。

 しかし、こんな場所を基地にするのは自殺行為かつ、流石としか言えない――と言うよりも、何故こんな人が寄りたくもない場所を警察は調べなかったのだろうか?

 楯無は疑問を抱く中、少し離れた場所から女性の声を耳にし、その場所へとゆっくりと近づく。そこは少し明るかった――否、それは人が居る事をも物語っていた。

 楯無はその場所をこっそりと窺うように顔を出す――楯無は戦慄した。

 

「オ、オ願イ、薬ヲ打ッテ……」

「駄目よ? 貴女にはもっともっと稼いでもらわなくちゃね?」

「国二帰シテ!! コンナ国、二度トコナイワ!!」

「うるせえ! お前が金を欲しがっているから雇っているんだろうが!? ありがたく思えよ!?」

「モウ嫌! 身体ヲ触ラレルノハ嫌!!」

「黙れ雌豚が!」

 

 そこには一人の三十代の女性と、数人の武装した男性達と、二十代の東南アジア系の女性達が何かを話している。しかし、その内容は酷く、女性達は苦痛に暮れている。

 女性達は主に東南アジア系で構成されているが十人弱は居り、武装集団は主に五、六人は居た――中には女性が居るがその女性はスーツを纏っているが恐らくリーダーなのだろうか?

 それに経営者は彼女なのだろうか? ――それに東南アジア系の女性達の中には薬を欲しがっている者も居た――恐らく、気持ち良く仕事する為に薬漬けにされたのだろうか?

 楯無は色々と直感するが何処か怒りが沸いて来る――許せない、と。しかし、相手は武装集団であり、東南アジア系の女性達を人質に取られたら勝ち目はない上、迂闊に手を出せない。

 自分にはISがあるが水を纏ってもどうなるかも判らない。ならば女性達を奴等から離れさせ、一人ずつ倒すしか方法はない。と言っても、女性達は逃げるかどうかも判らない。

 

「アンタ達、最低ヨ!? ニホンジン、皆サイテイヨ!」

 

 そんな中、女性達の一人のアジア系がスーツの女性に文句を言う。が、スーツの女は鼻で笑うと、その女性を蹴る。女性は悲鳴を上げるがスーツの女性はある事を口にする。

 

「そんなのは貴女達の勘違いでしょ? それに日本は危険な国と言っても、貴女達がいる国よりも経済が発展してるし、貴女達がいる発展途上国……いえ、貧乏な国とは違って発展してるし、お金もあるからよ? それで日本に来たんでしょ?」

「ソンナノハチガウネ!? 私達ハオカネガホシイノハ、家族二仕送リスル為ナノヨ!?」

「そう……それは立派な親孝行ね? ――でも不法入国は良くないし、貴女達を国に送り帰すくらい、容易いのよ?」

「グッ……日本人、サイテイヨ!?」

「ソウヨ! ソレニ私達ハ日本デ、オカネホシイノハ家族ノ為ヨ!」

 

 他の女性達がスーツの女性に文句を言い始める。それは家族の為であるのと同時に、彼女達はしては行けない事をしていたのである――不法入国という罪を犯たのである。

 しかし、理由がどうであれ、彼女達がした事は決して許される事ではなかった――それに、そんな女性達を匿い、送り帰すと言う言葉で制しているスーツの女性に、楯無は怒りを感じる。

 逆にまた、どっちが悪なのだろうか? 不法入国した女性達か? それともその女性達を匿い、脅しているスーツの女性と武装集団の男性達なのだろうか?

 一言で言えば、女性達は訳ありと、スーツの女性達はそれを利用しているとしか思えない。

 

「どうすれば良いのよ……!」

 

 楯無は少し悩む。東南アジア系の女性達は家族の為に危ない橋を渡る覚悟で不法入国して来た。同情はする物の、結局は許される事ではない。

 

「同情はするけど……仕方ない!」

 

 楯無は暗部の人間として、当主として使命を貫く決意をした。刹那、後ろから気配を感じ、振り返る。

 ――カチャッ――。刹那、何かの音が聴こえた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は……俺は……」

 

 その頃、此所は学園近くの学生寮にある一夏とマイクの寮室。そこでは一夏がベッドの上で仰向けに寝転がりながら何かを呟いていた。

 それは、そうなった理由は昼間、鈴の一言から始まった。

 

『一夏はさ、生徒会長が好きなの?』

 

 その言葉を聞いて一夏は瞠目と共にある感受が湧き出て来る――楯無、否、刀奈への感情だった。自分は恋愛感情と言う物を持っていない。

 それ所か、刀奈には何の感情を抱いているのかも判らないでいた――。恋愛感情と言うよりも、否、それ以上は判らなかった。

 その指摘には一夏は「好き」と答えたが鈴はそれを聞いて何処か寂しそうに俯いたのも思い出した。

 鈴は何故寂しそうだったのかは判らないがその後、鈴とは少し会話した後に別れ、鈴は部活を見たいと言う理由で此所には居ない――と言うよりも、居た方が珍しいのと、誤解を招く危険があるからだ。

 しかし、一夏はある事に気付き「そう言えば……」と言うと、起き上がり、辺りを見渡す。

 

「刀……楯無さんはどうしたんだろう?」

 

 一夏は楯無――刀奈が居ない事に気付く――そう、誤解を招くと言うのは刀奈が居る事であった。彼女は何時もなら遊びに来る筈であり、時には悪戯をしてくる――否、それは別に良かったがほぼ毎日であり、手を焼く事が多かった。

 一夏は別に刀奈が来ない事を気にしながらも珍しい事ではないと思っていた。が、何故か気になっていた。

 そんな一夏を、隣のベッドに座りながら本を読んでいたマイクが声をかける。

 

「どうした? まさか更識先輩が来ない事を気にしているのか?」

「あっ……否、別にそうじゃないけど、何か気になるんだ」

 

 一夏はそう言うと頬を掻く――その仕草は可愛いと言うよりも何処か恥ずかしそうにも感じられる。

 

「……あのなぁ」

 

 マイクは一夏を見て溜め息を吐く。彼は何処まで鈍感なのだろうか? マイクはそう思っていた。理由としては一夏は刀奈に感情はある物の、彼はそれを周りにあらぬ誤解を与えている。

 ここは本来は女子校であるのと、女子寮である。そんな誤解は、否、恋愛面は噂と同時に気にもなるからだった。彼はそんな事を気にもしないどころか知りもしない。

 彼は何処まで鈍感かは判らないが彼を好いているのは他にもいる。

 候補としては箒と鈴だろう――彼女等は一夏の幼馴染みであり彼に想いを寄せている。にも拘らず彼はそれを知りもしない。

 マイクは一夏の鈍感さに呆れと、ドロドロとも思える四角関係にも呆れていた。

 刹那、扉の叩く音が聴こえた。この寮室を出入り出来る扉であったが二人は扉の方を見やる。

 

 ――すみません、織斑君は居ますか? ――。

 

 扉の外から女性の声が聴こえた。その声に一夏は「俺に用かな?」と思い、ベッドから離れる形で立ち上がると、扉の方へと歩き、扉を開けた――外には、一人の女子生徒が居た。

 少し長い茶髪を後ろに束ね、黄色いカチューシャを付け、黄色い瞳が特徴的かつ何処か凛としている。それだけでなく、一夏は彼女を知っていた。

 ――虚さん? ――。一夏はその者を虚と呼んだ。

 そして彼女の名は布仏(のほとけ) (うつほ)――三年であり、一夏が所属している生徒会の会計を任され、刀奈の側近。

 彼女とは生徒会で知り合ったのと同時に、刀奈に副会長を推された事も教えられた。しかし、彼女は何故か元気がないかつ、何処か辛そうであった。

 生徒会での用事なら仕方ないがどうしたのだろうか? 一夏は虚の様子に疑問を抱くのと同時に、心配そうに訊いた。

 

「どうしたんですか虚さん? 何処か悪いんですか? それに何しにきたんですか?」

 

 一夏は心配そうに訊ねると、虚は俯く。――虚さん? ――。一夏は彼女の様子に益々気にし始める。

 刹那、虚は顔を上げる――それはとても辛そうであったが彼女は、一夏にこう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――一夏さん、会長を、お嬢様を助けて下さい……! ――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回、囚われの刀奈、そして頼もしき援軍。

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