インフィニット・ストラトス 迫害されし者達   作:NO!

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第25話

 その日の夜、此所は学園内の学生食堂――そこには一年一組の生徒達と、教師でもある織斑千冬と山田真耶、そしてとある生徒が居た。

 彼等がそこに居るのは、とある理由の為に集まったのである――手には、ジュースの入ったコップを手にしている。

 

「それでは、クライバー君のクラス代表になった事と、織斑君の副会長に就いた事を祝い、乾杯――っ!」

「「「乾杯――――っ!」」」

 

 一人の生徒、清香の言葉と共に一部を除いた生徒達はそう叫ぶと生徒達は手に持っていたコップを、近くにいる者が持ってるコップを当てる。

 そう――彼女等が集まったのは、一夏の生徒会副会長、マイクのクラス代表になった事を祝う意味でも歓迎会を行う為に集まったのである。

 周りから見ればそれはイベントにしか過ぎないだろう。が、彼女達から見れば男性操縦者達が自分達を纏める立場になった事は喜びでしかないのと、祝いない訳にはいかなかった。

 勿論、歓迎会らしく、学生食堂にある殆どのテーブルには、何処で用意したか、或いは生徒の中の誰かの手作りのお菓子があり、オレンジジュースやリンゴジュース等の飲み物が置かれていた。

 それだけでなく、彼女達は談話していた――主に一夏やマイクの事だろう。中には全く別の意味でも世間話をしている者達もいる。

 ――何か盛大ですね……――。そんな彼女達を少し離れた場所で見ていた者達が居た――教師である千冬と真耶である。

 彼女達を見た真耶は不意に呟くと、千冬は「ああ」と言った後、頷いた。彼女達は蚊帳の外だが一応、一名を除き、この歓迎会に出ている生徒達の担任と副担任であるのと、本来は参加するつもりは無かったが一夏の強い押しと、マイクの呆れながらの押しで参加する事になったのだ。

 勿論、とうの本人達である一夏とマイクは……。

 

「一夏君、副会長頑張ってね!」

「クライバー君、一週間後にやるクラス代表対抗戦、絶対に負けないでね!」

「二人は私達の希望だから!」

 

 彼等は女子達に囲まれて質問攻めされていた。何れも二人に関係する物であったがその光景は珍しく、何処か嬉しそうである。

 勿論、そんな彼女達に一夏は苦笑いしながら答え、マイクは少し顔を引き攣っていた。一夏は兎も角、マイクは人と触れ合うと言う事は苦手であった。

 彼は少ない者達にしか心を開かない――そうなったのは彼には辛い過去があった為にそうなってしまったのだ。が、今は一夏が居て、彼がクラス代表にさせたのも、一夏自身の優しさがある事を彼は知らない。

 マイクは慣れず、クラスの生徒達から質問攻めに遭う中、一人の少女がマイクに訊ねる――美しい金色の長い髪に青い瞳が特徴的な少女、セシリアであった。

 

「クライバーさん、クラス代表になったからには気を引き締めなければなりませんわよ?」

 

 セシリアは嬉しそうに話しかけて来る。彼女の表情には邪な雰囲気は無い――彼女が本当に嬉しそうである事を意味していた。

 それに彼女は、セシリアは今朝、マイクの助言かつ勇気を与えられ、周りに謝罪した。日本を侮辱した事、一夏とマイクを馬鹿にした事をセシリアは心から謝罪した。

 結果、周りは許してくれた――否、彼女等は少しだけセシリアを許してくれたと言い換えれば良いだろう。未だセシリアには快く思わない者達も居るが、それは彼女が信頼を取り戻す為に行動すれば問題ないだろう。

 

「それにしても、クライバーと言う男は凄いな……」

 

 遠くから見ていた千冬は不意に呟くと、真耶が「えっ?」と惚ける。

 

「ああ否、クライバーは何か、一夏……織斑とは違って何かを感じる」

「と言いますと?」

 

 真耶は千冬の言葉を待つ。が、千冬は「すまぬ、私の気のせいかも知れない」と片付ける。刹那、ある生徒が一夏とマイクに近づく。それは、とある生徒であった。

 一夏はその生徒を見て驚くが、その生徒は自分の名を名乗る。

 

「は――い、私は新聞副部長の黛薫子よ〜〜」

 

 その生徒は薫子であった。薫子は新聞部の副部長だが彼女はネタが欲しいだけで来たのだった。男性操縦者達の記事――それは恰好の記事かつ最高のネタにもなるだろう。

 それだけでなく、あの事も質問したかった――それを、その鍵を握る人物は彼、一夏である。――が、その事はまだ良いだろう――薫子はそう思って一夏の隣に居る彼、マイクに訊ねる。

 

「クライバー君だよね? クラス代表になった感想を聞かせてくれないかな?」

 

 薫子は右手にペン、左手にはメモ帳を手にしながら、マイクに訊ねる。マイクは露骨に嫌な顔をする。が、そんなマイクに一夏は言う。

 

「大丈夫だよマイク、普通に答えれば良いから」

「…………」

「そんなに警戒するなよ? 別に黛先輩は変な事を書かないから」

「……ハァ……判ったよ、答えれば良いんだろ?」

 

 マイクはそう言うと、薫子は表情を明るくした。特ダネの予感――薫子の記者魂に火が点き、副部長としての魂にも火が点く。

 刹那、マイクは嫌々ながらも答えた。

 

「俺は別にクラス代表になりたかった訳ではない――」

 

 マイクの言葉に周りは何も言わず、驚きを隠せない。が、マイクは言葉を続ける。

 

「自分はクラス代表になっても、何も変わらない――それに今朝も言った様に、この前も言った様に俺は迫害する奴は嫌いだ……ソイツ等は自分が可愛いだけで、他人を傷付ける」

 

 マイクはそう言うと、歯軋りする。

 

「それだけじゃねぇ……ソイツ等は他人を不幸にするのも好きで、自分勝手――俺はそんな奴を多く見て来た――ソイツ等は、否、ソイツ等は俺を迫害したが俺は何も出来なかった……何故なら俺は……否、熱くなりすぎたのかも知れねえな?」

 

 マイクはそう言うと、手に持ってるコップに注げられているジュースを飲み干すと、再び、本題と言う形でクラス代表の事を話す。

 

「俺がクラス代表になっても何も変わらない――だが、これだけは言える――俺は負けるわけにはいかない……迫害に負けるわけにはいかない――俺は、俺は自分の一族が犯した罪を一生背負う――それは俺が決めた、俺自身の償いでもあるからな……!」

 

 マイクは淡々と言葉を述べた。その表情には怒りが籠っており彼なりの本心でもあった。しかし、そんなマイクの言葉に周りは驚き、困惑していた。

 否、彼女等は知らないからだろう――彼の、彼が犯した罪は彼女等には判らないだろう。それだけではない、マイクの一族が犯した事は彼が、彼の祖父が非道かつ冷酷な人であるからだった。

 それを知ってるのは一夏とあの人達だけである。一夏はマイクを見て哀しそうに見つめいる。

 そんな中、マイクの言葉に薫子はメモ帳には何も記入しなかった――否、記入するよりも彼の犯した罪を知りたいのと、それをする勇気がなく困惑と恐怖していた。

 

「そ、そうなんだ……そ、それよりも、もう良いかな?」

 

 薫子は困惑しながら笑うと、一時的に顔面蒼白する。知りたい――否、彼に何をされるのかは判らない。薫子はそう思っていた。

 刹那、薫子は気を取り直して、一夏を見る。まだ顔面蒼白であったが何とか落ち着きを取り戻すと、一夏にある事を訊ねる。

 

「じゃ、織斑君、逢うのは何回目かは判らないけど、こんばんわ」

「こんばんわ薫子さん――それに貴女の事は刀奈さんから聞きました」

「そう……でも織斑君、副会長になった感想は? それに……」

 

 薫子は俯く。そんな薫子に一夏は不思議そうに訊ねるが彼女は顔を上げる――その表情は何処かニヤニヤしている。

 まるで恰好のネタが見つかった事を喜んでいる様にも思えた。

 

「副会長はたっちゃんの推されたんだって? たっちゃんに聞いたよ?」

 

 薫子の言葉に一夏は「えっ?」と瞠目した。薫子の言葉に周りは「えっ!?」と驚きを隠せない。マイクは最初から知っていたのか何も言わず呆れていた。

 が、薫子の言葉に一夏は何も言えないでいた。そうだろう、刀奈の推薦とは言え、その事をマイク以外、誰にも言ってない。言えば言えばでめんどくさくはないが何か嫌な予感しか無かった。

 否、既に予感は当たり、それを薫子は別の意味で、そして副会長の件とは関係ない意味で一夏に指摘する形で訊ねた。

 

「織斑君、たっちゃんの事をどう思うの? それにたっちゃんの事は好き?」

「えっ?」

「キャ――――――っ!!!」

 

 薫子の言葉に一夏は驚き、千冬とマイクを覗き、真耶や周りの女子達は驚きのあまり叫ぶ。マイクは周りに驚きはしなかったが少し呆れていた。

 しかし、周りは一夏が刀奈に恋愛対象としてみて居るかどうかを気にしていた。女子であるからではない――そう言った関係の話は女子から見れば嬉しいのと恥ずかしいとしか言いようが無いだろう。

 だが、そんな薫子の言葉に箒は少し表情を曇らせていた。出来る事なら一夏と刀奈の関係を知りたかった、否、知りたくもない気持ちがあったが……。

 当の本人である一夏はまだ驚いていた。自分は刀奈とは別に何も無い――が、そういった恋愛対象としては見たいたかも判らない――なのに何故か不意に刀奈の顔を思い出す。

 刀奈は何故か嬉しそうに自分に笑いかけている。その笑顔は本来の彼女だろう――否、自分の前では隠したくない思いがあったのだろう。

 一夏は刀奈の事を思い出すが不意に微笑む……そして、こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――好きかもしれません、俺は彼女が、刀奈さんが――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回、中国の幼なじみ、マイクの中国人への悪印象。

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