インフィニット・ストラトス 迫害されし者達   作:NO!

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第23話

 あれから少し経った後、今の時間帯は夕方だったが此所は学生寮の、一夏とマイクが共同生活している部屋――そこには制服を着たマイクが一人、部屋のベッドの上で座りながら読書していた。

 勿論、部屋に居るのは彼だけだが一夏は今、とある理由で部屋に居らず、マイクはお留守番と言う名で一人で部屋に居た。

 刹那、部屋の扉が開く――マイクは視線を扉の方へとやるつもりだったが壁が少し邪魔している為に無駄だった。誰が来たのかはマイクには判らなかったが声で直ぐに気付く。

 ――ただいま――その声は男性だが青年らしい声でもあった。言わなくても直ぐに気付く――彼のルームメイトであり、相棒でもある一夏だった。

 一夏も制服を着ていたがマイクは視線を彼の方にやりながらある事を訊ねる。

 

「お帰りだな一夏――何処行ってたんだ?」

「あっ――否、楯無さんの所でちょっとね?」

 

 一夏はそう言うと、自分が使っている机の傍にある椅子に座ると、不意にマイクを見てある事を訊ねる。

 

「そう言えばマイク、クラス代表戦の事なんだけど……」

「それよりも、お前は大丈夫なのか?」

 

 マイクの言葉に一夏は「えっ?」と惚けてしまうがマイクは少し溜め息を吐くと、ある事を話し始める。それは彼が風神烈風波と言う必殺技を使った事である。

 それは彼の体力を奪い、彼自身に大きな疲労を伴わせる技でもあった。マイクは一夏がそれを使った事で疲れていないのかを心配していた。

 と言うよりも、彼の表情は何処かジト目であり、心配よりも怒っているようにも思えた。一夏はマイクを見て苦笑いするが彼は少し脚色しながら答えた。

 

「ま、まあ大丈夫だぜ? 千冬ね……織斑先生とか……楯無さんに看てもらったから少しな?」

 

 一夏は困惑しながらも答えた。勿論、楯無――刀奈に膝枕された事や、からかわれた事は黙る。そんな一夏にマイクは「ふ〜ん」と素っ気無く答えたが一夏はある事を思い出し、逆に問う。

 

「それよりもマイク、お前は大丈夫なのか? 俺の必殺技を受けたけど」

「俺は平気だ、山田先生が介抱してくれたからな」

「そうなんだ……あっ」

 

 一夏は何かに気付き、マイクにある事を訊ねる。それは彼が何故、必殺技を受けたかを気にしていた。あの時攻撃すれば彼は勝てた筈――にも拘らず、彼は必殺技を受けたのだ。

 一夏から見れば勝利よりも、その事を疑問に思っていた。そうなれば戦局は変わり、彼が勝っていた筈である。

 一夏はその事を問うと彼は、マイクは不意に目を逸らす。

 

「別に良いだろ? それにお前がクラス代表なら文句は無いだろう?」

 

 マイクは一夏とは目を合わさずに答えた。その行動は失礼とも言えるが何処か隠し事をしている様にも思えた。勿論、一夏はそれを見逃さなかった。

 

「どうしたんだマイク? 何故目を逸らすんだ?」

 

 一夏が訊ねるとマイクは無言で一夏から目を逸らし続ける。そんなマイクに一夏は再び訊ねるが彼は何故か何も言わない。

 

 ――……あっまさか!? ――。一夏はある事に気付き瞠目すると同時に立ち上がり、マイクを指しながら叫ぶ様に訊ねる。

 

「ひょっとしてお前、あの時動かなかったのはワザと必殺技受けてワザと負けて、俺をクラス代表にさせようとしたんだな!?」

 

 一夏の言葉にマイクは一夏から目を逸らしながらも身体を一瞬だけ震わせる。その行動は如何にもアタリとも言えた。

 そうである――マイクは動かなかったのは、単に彼がクラス代表をやりたくなかっただけであった。

 自分が負ければ自動的に、勝者は一夏になる。彼は自分に勝ったとは言え、セシリアとは戦っていないが不戦勝である為、彼は全戦全勝である。

 自分は一勝一敗、セシリアはゼロ勝二敗、逆に彼は全勝だが結果的にクラス代表は彼になる。勿論、彼の、一夏の実力はマイクも判っていた。

 彼は専用気持ちかつ、実力も国家代表かつ、それ以上の実力を持っている――それに彼はカリスマ性もあり、自分よりも他人を優先し、優しいだけでなく、強い。

 クラス代表にはうってつけであり、彼なら上手くやるだろうとマイクは思った。が、もう一つ、マイクは単にクラス代表をやりたくないだけだった。

 

「別にいいだろ……俺はやりたくないし、俺は目立つのは嫌いだからな?」

「だからって俺に押し付けるなよ!? それに反撃しろよ!? あん時の俺隙だらけだったろ!?」

 

 一夏はマイクに文句を言うが、マイクはカチンときたのか本を閉じ、ベッドの上に置くと、立ち上がり静かにかつ怒りを孕む口調で問い質す。

 

「じゃあ逆に訊くがお前は何故風神烈風波と言う隙だらけの必殺技を使った? 何故あの時、雷神暴雷斬と言う技を使わなかった?」

 

 マイクの指摘に一夏は「うっ!?」と言葉を詰まらせる。何故なら一夏は風神烈風波だけでなく、雷神暴雷斬と言う技もあった。その技は隙だらけと言うよりも、隙がないかつ必殺技といては申し分ない技でもあった。

 風神烈風波とは違い、一夏の得意技かつ大抵はその技を使う事が多い。その為、風神烈風波と言う技は自殺行為かつ、まだ未完成の技でもあった。

 マイクはその事を問い質す中、一夏は視線をマイクから逸らす中、マイクは両手を腰に当てながら彼をジト目で見る。

 

「まさかお前、あんな隙だらけの必殺技を使ったのは俺に止めを刺される事を狙って選んだのか?」

 

 マイクの言葉に一夏は何故か瞠目した。理由としては彼は単に賭けているだけだった。彼が、一夏が風神烈風波を使ったのはあの時の状況で、尚且つ身体を動かさないで使える技はあれしか無かった。

 一夏は別にそんな事を考えてはいない――逆にマイクから見ればそう思われてしまったのだろう――マイクの言葉に一夏は否定した。

 

「ち、ちげぇよ!? そんな事を考えていないぜ!? そんな八百長みたいな事は絶対したくもないし、戦いを汚す事はしたくもないぜ!?」

 

 一夏の言葉にマイクは「……」と無言で見据えている。その瞳には疑惑が籠っている様にも思えたが一夏は否定の言葉を続ける。

 

「マイク、俺は別に勝負に私情を挟むつもりも無いし、ズルするつもりもない――俺は真剣に、純粋にお前と戦いたいだけなんだよ――それに」

 

 一夏はマイクの右手首にあるリストバンドを見るとそれを指差す。

 

「そのリストバンドに刻まれている卍――否、本来は逆卍だけど、お前はその卍をドイツ人としての汚れた誇りを、重荷を受け止めている事や、俺は判っているんだ」

 

 一夏はマイクが付けているリストバンドを指しながら言った。何故なら一夏はマイクの気持ちを理解していた。そのリストバンドはかなり前に発売されたが、卍と言うだけで、とある団体に抗議され、販売中止かつ回収されたのである。

 周りから見れば、とくにとあるコレクター達から見ればプレミアム物だが卍だけでも、その団体から見れば嫌な気分と嫌な事を思い出させるには充分すぎるくらいだった。

 そして、その団体とは、ユダヤ人の団体――彼等はナチスに迫害され虐殺された事でナチスを忌み嫌い、ナチス関連の物やイベントがあると抗議する団体である。

 いくらなんでもやり過ぎだと言うが彼等にはナチスには良い思い出は無く、仕方ないだろう。それにリストバンドに刻まれている卍が逆ではないのは制作者が単にナチスが好きであるが、ユダヤ団体が煩いと思い、あえてそのままにしたのである。

 もし指摘されても著作権で煩いし、ナチスを連想させるつもりは無いと言ったが結果、販売中止かつ多額の損失を出してしまったのは別の話である。

 一夏の指摘にマイクは何も言わずに哀しそうに目を逸らす。しかし、彼がそのリストバンドを付けているのが彼なりの断罪と、彼の一族が犯した罪を彼なりに背負うと言う意味でもあった。

 が、一夏は言葉を続ける。

 

「それにマイク、俺はお前の気持ちは判る――お前は誰よりも……それにお前は」

「それ以上言うな――それ以上言ったらお前でも俺は怒る」

 

 一夏の言いかけを遮る様にマイクは静かに怒る。が、マイクも無理な思いでは嫌であるのと、それを思い出したくないのだろう。

 そんなマイクに一夏は哀しそうに俯くがマイクに謝る

 

「ごめんマイク――変な事を言って」

「別に良い……それよりもクラス代表はどうなった? 勿論お前か?」

 

 マイクはさっきの本題に戻る――勿論、一夏を気遣う意味でも話題を変えたのだった。しかし、一夏は何故か俯いたまま何も言わない。

 ――一夏? ――。マイクは一夏の様子に疑問を抱き、彼の顔を覗こうとと下から見る。刹那、彼は一夏は顔を上げる――何故か苦笑いしていた。

 マイクは一夏を見て首を傾げるが、一夏は不意にある事を言い、それを聞いたマイクは瞠目した。そして彼、一夏はマイクにこう言ったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――実はクラス代表者は……マイク、お前になったんだ――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回、セシリアの謝罪と二人の男性操縦者の切なる願い。

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