「な、が、合体ですって?」
セシリアは今、目の前にいて、尚且つ対戦相手でもあるマイクを見て驚きを隠せない。何故ならマイクは今、左肩に止まっていた鷲と合体したのである。
それは驚きと、ISに新たなる旋風を巻き起こす様な物であり、技術を発展させる事も出来るだろう。否、それ以上にセシリアは畏怖した。
あの男のISはパワーアップした――セシリアは、彼女はそう感じた。刹那、マイクは翼を羽ばたかせる。
――っ!? ――。セシリアはレーザーライフルをマイクに向けながら構える。刹那、マイクは素早く横に移動しし、横から持っている狙撃銃でセシリアを攻撃する。
――ああっ!? ――。セシリアは攻撃され、怯む。が、マイクは攻撃の手を休めない――その証拠にセシリアは的になっているかの様に何度も狙撃銃の銃弾を喰らっていた。
『おおっと!? オルコット選手、クライバー選手の攻撃に手も足も出ない! やはり、クライバー選手が鷲と合体し、それでパワーアップした事が原因なのか――っ!?」
薫子の実況が流れる。その言葉には驚愕が見え見えだったがアリーナ席にいる女子生徒達や教師達は更に驚きを隠せない――何故なら、マイクのISが凄いのと、彼の実力に驚愕と畏怖を隠せないでいた。
彼は強い――そして自分達の立場を脅かすのではないのかと彼女らは思った。
そんな中、セシリアは何とかレーザーライフルで反撃を試みようとしたがマイクは攻撃の手を休めなかった。それどころか、彼は翼を羽ばたかせながら移動している為、隙を見せないでいた。
否、彼は隙を見せる訳でもない――彼はセシリアを獲物かつ標的の様に狙いを定めている。動いているのは獲物が逃げない様にのと、獲物に逃げ道が無い様に移動していたのだった。
最早セシリアには勝機は無い――逆に彼女は只々敗北の二文字しかないだろう――そんなセシリアとは違い、マイクは表情を険しくしていた。
理由としては彼女が女尊男卑主義者であるのと、それを天秤にかける様に女性が偉いと威張っていたのだ。男性でもあるマイクから見れば怒りしか沸かない。
逆にまた、マイクはセシリアに攻撃の手を休めないのもそれが証拠でもあった。そんな中、セシリアの機体から煙が出始める。銃弾を喰らう内に発生し、機体が既に限界を超えているのだろう。
後何回か攻撃したら彼女の負け――そう物語っていた。
『おおっと!? オルコット選手の機体から煙が出ているぞ!? これは危険だぁぁっ!?』
薫子の実況が流れる――それと同時にアリーナ席から大声援とブーイングが送られる。マイクへの応援と、マイクへの批判だろう。それでも、マイクは気にもせず、こう呟いた。
――喰らえ……――。マイクはそう言うと、止めの一発と言う意味でセシリアに銃口を向ける。この一発で全てが終わり、自分が勝者となる。
逆にまたセシリアは敗者となり、彼女のプライドは屈辱的かつ砕かれた様にも思えるだろう。それに自分はセシリアに怒りや怨みを……。
『覚えとくんだよ……マイ……ク……絶対に人を……怨んじゃ、いけないよ?』
――っ!? ――。刹那、マイクの脳裏のある人物の遺言が過る。それはマイクにとって、彼自身が心に決めた言葉であり、それを彼自身が絶対に破ってはいけない言葉だった。
マイクはある人物の言葉を思い出し、下唇を噛むと、銃を下ろし、止まった。
「っ……い、今ですわ!」
セシリアはチャンスと思い、マイクにレーザーライフルを向けるが機体が煙だけでなく、バチバチと青い火花を飛ばし始める。それは機体が限界を超え、もう戦えない事を意味していた。
――こ、こんな時に!? ――。セシリアは機体の様子に気付くが彼女はそれでも一泡吹かせようと、マイクに攻撃しょうとしていた。
マイクは今、的の様に動いては居なく、空中で羽ばたいている。たとえ勝てなくても、一回ぐらいの攻撃は出来る――セシリアはそう思っていた。
しかし、彼女の思いは、機体が彼女の期待を裏切るようにそれを止めてしまった。バチバチと火花を飛ばしていた。
もう止めて、これ以上、自分を傷付けないで、と切に願う様に火花を飛ばしていた。
「ブルー・ティアーズ……っ」
セシリアは自分の機体の様子に気付き、下唇を噛むと、レーザーライフルを下ろす。それは戦意喪失を意味していた。アリーナ席からは沢山の声援やブーイングが飛び交う。
マイク、止めを刺せ――オルコット、戦え――と。それはまるで戦いの催促をし、彼等の何方かが倒れるのを、期待していた。
『えっ……はい、判りました……此方の判断により、クライバー選手の勝利です!』
刹那、薫子の実況が流れる――それはマイクの勝利と共に、オルコットの敗北を宣言した。それを聞いたアリーナ席にいた者達からは賞賛とブーイングや怒号が飛び交う。
しかし、後者はマイクやセシリアへのブーイングだった。マイクが男のクセに女に勝った事への怒りと、セシリアが男に負けた事への怒りと失望を込めて、それを吐き出す意味でのフーイングや怒りだった。
そんな精神も追い込む様な仕打ちの罵声があるにも関わらず、マイクは無言で指を鳴らすと、翼が――ウィングスラスターが引っ込み、背中にくっ付いていた鷲みたいな物が離れ、それは変形し始めると、鷲へと戻った。
鷲はマイクの左肩に止まると、マイクは無言でピットに戻る。一方のセシリアも何も言わず、ボロボロになった機体と共に自分のピットへと戻っていった。
しかし、罵声は消えなかった……。
「な、何でだよ……二人は互いの力を持って戦ったのに、何で皆そう怒るんだよ!?」
ピットにいる一夏はモニターを観ながら怒りを隠せないでいた。理由は勿論、彼女らがマイクやセシリアを罵倒している事にだった。
二人は戦ったのに彼女らは応援していた。それなのに、彼女らは試合が終わると手の平返しで罵倒している。これでは二人が可哀想であるのと同時に、彼等の戦いを無駄にしている様にも思えた。
「一夏君……」
そんな一夏に隣にいた刀奈は宥める――が、一夏は今だ憤りを隠せないでいた。その証拠に一夏は下唇を噛みながら俯き、身体を震わせる。
「一夏君、私が言うのもあれだけど、仕方ない事なのよ」
刀奈の言葉に一夏は驚き顔を上げると、刀奈を見る。刀奈は哀しそうに笑うが、不意に哀しそうにモニターを観ながら口を開く。
「一夏君、これは私の助言だけど、彼女達は皆――いいえ、大半は昔の自分達を失っているのよ……」
刀奈は寂しそうに言葉を述べ始めた。何故なら刀奈は彼女達を怒りや哀れみの目で見ていた。しかし、逆に彼女達は救い様の無い事を言っている。
それは彼女達が加害者でもあり被害者でもあったからだ。彼女達を変えたのはISと言う兵器――それは女性にしか扱えないのと、それが原因で女尊男卑が生まれたのだ。
それは女性達を変え、人を思いやる気持ちをも殺してしまった――最早、彼女達には何れツケが回るのだろう――それは当たり前の、女性にしか扱えないISが男性が扱えると言うイレギュラーが現れ、その均衡が崩れ去る事をも恐れていた。
このままでは自分達の地位は失う事をも恐れ、セシリアが負けた事は、セシリアを恥としか見ていないのだろう――だからこそ、平気で罵倒し、平気でそう言いきれるのだった。
「彼女達は皆、最早誰かに手を差し伸べると言う優しさを失っているわ……こんな事は言いたくはないけど、全てはISが誕生した事で変わってしまったのよ……残酷かも知れないけど、最早これは、誰にも止められないわ……」
「そ、そんな……」
刀奈の言葉に一夏は目を見開くが直ぐに悔しそうに俯いた。そんな一夏に刀奈は優しく擦り寄る。彼女は一夏の気持ちを理解していた。
一夏は優しいがこんな残酷を突きつけられたら悔しいとしか思えないのだろう。
それだけではない――モニターからは未だに彼女らの罵倒が聴こえる。しかし、中には罵倒しない者達もいるが彼女達から見れば胸糞悪い出来事だったのかも知れない――。
だが、モニターから流れる声に一夏は悔しい思い出でいっぱいなのか、こう呟いた。
――何でだよ……何で、平気でいられるんだよ……何で平気で罵倒出来るんだよ……!? ――と。
次回、白と黒、東洋の鎧武者と西洋の騎士。