「もう少ししたらだけど、マイク、もうそろそろ準備運動をしたら?」
あれから六日後、此処は学園近くにあるアリーナにあるピット。そこには一夏と刀奈、マイクの三人がいた。
が、一夏とマイクはISスーツを纏っているがマイクは肩を動かすと、軽く準備運動をした。
因みにだが一夏の手首には全体が白で赤いラインが一本だけある腕輪を付けていて、マイクは手首に赤いリストバンドを付けており、首にはナチスかドイツの象徴でもある黒十字架の首飾りを付けている。
彼等は、一夏とマイクは何故ISスーツを着ているのかと言うと、今日はクラス代表戦であったからだ。
それは一夏、マイク、セシリアの三人が誰がクラス代表に相応しいかを決めるのと、それ相応の実力がるのかを知る為でもあった。
そして六日後なのは、昨日、つまり一週間前に千冬が決めたのと、アリーナが開くのは一週間後――つまり今日だけであったのだ。
そしてマイクが準備運動をしているのは最初はマイクとセシリアからであり、次は一夏とセシリア、最後は一夏とマイクの順で試合が行われる予定であるからだ。
「それにしても凄い――只のクラス代表戦だけなのに、あんなにも人がいっぱいいるな……」
一夏は両手を腰に当てながら不意にピットに設けられているモニターを観る。モニターにはアリーナが映っているが席は満員御礼とも言えるくらい、女子生徒達と女教師達で溢れている。
彼女達は単に面白がっている訳ではない――彼女達の目的は、これから起きる決戦にドキドキしているからであった。
そんな中、彼女達の気持ちを代弁する様に一夏の隣にいる刀奈が口を開いた。
「それはそうよ、だって今日は一夏君とクライバー君の晴れ姿であり、実力を知る日でもあるからよ?」
刀奈の言葉に一夏は「えっ?」と言いながら刀奈を見ると、刀奈は頷いた。そうである――彼女達の目的は一夏とマイクの実力を知る為であると同時にある思惑も渦巻いていた。
好奇、嫉妬、憎悪、嫌悪、それぞれの思惑があった。男がISを使うのは愚の骨頂とでしかない――それだけでなく、彼等がセシリアに倒される事を期待しているのだ。
彼女達から見れば男達を迫害するような視線としか思えないだろう。しかし中には、純粋に応援したいのと、彼等の実力を純粋に知りたい者達がいるのも事実だった。
たとえ周りが敵でも、少しばかりは味方がいるのも事実だった。刹那、刀奈は不意に微笑みながら一夏の手を優しく包む。
刀奈の行動に一夏は再び驚くが刀奈は一夏の手を掴みながら両手を自分の胸の所まで上げる。
「でも一夏君、私は純粋に貴方やクライバー君を応援するつもりよ?」
刀奈はそう言った。その言葉には刀奈自身の正直な気持ちが表れている様にも思われ、彼女自身の本当の想いがある様にも捉える事が出来た。
しかし、一夏はそれに気付いてなく、逆に顔を紅くしていた。刀奈の言葉を聞いたのか、それとも刀奈に手を掴まれた事が恥ずかしいのかは判らない。否、前者が正しいのかも知れない。
そんな一夏を見たマイクは「フン」と不敵に笑う。
『それでは、クライバー選手、オルコット選手の両選手、スタンバイして下さい』
刹那、放送が鳴る。それはマイクに警告し、戦いに赴かせる事をも意味していた――それを聴いたマイクは表情を険しくし、一夏と刀奈は放送を訊いた後、マイクを見やる。
「マイク、そろそろだぜ?」
一夏が訊ねると、マイクは深く頷き、そして首飾りを優しく掴みながら目を閉じる。
――バルム――。マイクは微かに呟いた刹那、彼の包んでいる十字架が黒く光り、そして光は彼を包み始める。
「えっ、何っ!?」
それを見た刀奈は驚く物の、隣にいた一夏は彼女を後ろへと下がらしながら自身も後ろへ下がる。
一方のマイクは黒い光で全体を覆われる様に隠される。
――フン! ――。マイクは勢い良く身体に纏わり付いている黒い光を腕で軽く振り払う。
刹那、マイクの身体を纏っている機体が、ISが今、一夏と刀奈の前に晒される。
そのISは黒を基準としている物の、西洋の騎士をモチーフかつナチスの軍服を組み合わさった様な機体であり、何故か所々、鎖が彼の身体を縛る様に絡まっている。
右肩にはナチスの象徴でもある逆卍が描かれており、左胸には黒十字架が刻まれていた。そして、ウィングスラスターは無い物の、左肩には美しくも何処か迫力がある黒い鷲のロボットが止まっている。
なのに何故か何処か恐ろしくも、ナチスのイメージマークのせいか、悪と言うイメージが着いている様にも思えた。
そう――それこそが、その機体こそが彼の一夏の次の相棒でもあるIS、バルムだった。
しかし、バルムはそのままの意味ではない――バルムはマイクがある言葉――『バルムヘルツィヒカイト』からバルムの三文字だけを取った物であるのと、その三文字をISにつけたのである。
そして、バルムヘルツィヒカイトの意味は、ドイツ語で『慈悲』とも意味していた。
名前の割には機体その物が何処か悪と言うイメージが付着しており、似つかわしくないだろう。
しかし、マイクがバルムと名付けたのは、機体がナチスの軍服の様にもしたのは、彼自身がドイツ人としての汚れた誇りを持ち、そしてドイツ人が犯した罪を彼自身が無駄と判りながらもそれを償う意味でも、ある人物と共に試行錯誤の末に造った機体でもあった。
マイクはドイツ人としての誇りはあった――が、逆に彼はドイツ人で生まれた事に後悔しながらも、このISを造ったのだ。
彼なりの、とある者達への謝罪と、自分の一族が犯した罪を償う為に。
「あれが、クライバー君の――彼のIS?」
そんなマイクのISを見た刀奈は驚きながら指摘した。否、隣にいる一夏はマイクのISを見て何も思わなかったが最初は驚いていたし、何よりマイクが学園で使ったのは二度目と、それを初めて目撃したのは刀奈であるからだろう。
否、彼は隠すつもりは無いのと、もうすぐ人前に姿をさらさなければならない為、別にどうだっていいだろう。
マイクのISは何処か悪のイメージがあるがそれは彼の性格上、そう思われても仕方ないだろう――。それにもう一つ、一夏は気がかりな事があった。
「(マイク……出来る事なら、その鎖は絶対に外すなよ……)」
一夏は切に願う。何故なら一夏は、マイクの纏っている機体に縛る形で絡まっている鎖に気付いていた。あの鎖は、否、あの鎖はマイクがいざと言う時にしか外さないのと、それは危険をも意味していた。
その鎖は、とある必殺技を封じ込め、マイク自身を守る形で、とある人物が付けた物だった。それにさっきの黒い光はマイクのISから流れでた物であり、その光はマイクの抱えている闇をも意味していた。
が、逆にマイクはその鎖を外さないかで心配しているのも事実だが、マイクはどんな思いをしているのかは一夏には判らなかった。
「俺は行くぜ一夏、あの女、オルコットに俺を怒らせた事、後悔させてやるからな」
マイクはそう言うと、一夏は無言で深く頷く。刹那、マイクは、このピットから、アリーナまで続く通路へと進んだ。
それを見た一夏は何も言わず、モニターも観る。刀奈もモニターを観るが二人はマイクとセシリアの何方に軍配が上がるのかを気にしていた。
勿論、アリーナにいる大半は、女尊男卑に染まっている者達はセシリアに軍配が上がるの期待し、逆にマイクが勝つのを期待し、何方が勝っても別に問題は無いのと、単に見に来た者達がいるのも事実だろう……。
その頃、アリーナの中央上空には、機体を纏い、手には大型の狙撃銃を持っているセシリアがいた。セシリアの纏っている機体は青を基準としながらも何処か女性らしく軽装備なかつ、背中には四基の青いウイングスラスターがあるのが特徴的な機体だった。
それはセシリアのIS――否、セシリアの相棒であるブルー・ティアーズ――青い雫であった。
が、セシリアの表情は何処か険しいが彼女はマイクが来ない事に怒っていた。刹那、ピットから一機のISが飛び出て来くる――マイクであった。
「なっ!? 何ですのそのISは!?」
マイクはセシリアの前にまで来たが、セシリアはマイクのISを見ながら驚きを隠せない。それだけではない――彼のISはセシリアから見れば嫌な印象としか見られないだろう。
それだけでなく、アリーナにいる女子生徒達は驚きを隠せなかった。が、中にはある生徒達もいた。
その生徒達はマイクと同じドイツ人であった。が、マイクのISを見て何処か不機嫌な生徒達もいた。彼女等はナチスの事を知っていた。
大抵は歴史の授業か、ナチス関連の仕事をしていた身内を持っている者達もいたからである。
ナチス――それはドイツが生んだ独裁国家であり、ユダヤ人を大量虐殺した国家でもあった。
今は既に解体されたが今もなお、ユダヤ人達は心に傷を負っていた。それだけではない、今はユダヤ人の団体があるが今は、試合が先であった。
そしてそれを意味する様に、アナウンスが鳴った。
――そ、それではクラス代表戦第一試合、マイク・クライバー選手対セシリア・オルコットの試合を始めます――と。
次回、合体