インフィニット・ストラトス 迫害されし者達   作:NO!

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第16話

「それにしても、赤ん坊を捨てるなんて最低な人よね……」

 

 あれから数時間後、此所は学生寮の一夏とマイクの部屋。そこには一夏とマイクが居た――が、何故か楯無――否、刀奈がいた。刀奈は一夏のベットで俯せに寝転がりながら足をパタパタとゆっくりと動かしていた。

 刀奈はの言葉には赤ん坊と言う名前があったがそれは少し前、マイクが赤ん坊を連れて来た事から始まった。

 少しあったが赤ん坊はセシリアの切なる願いと、千冬が自ら願い出たのと十蔵に頼み、十蔵に放課後までは見ても良いと言われたのだ。

 勿論、赤ん坊は女子生徒達に可愛く見られ優しくされながらも放課後を迎えた。

 

 放課後には学園からの連絡で二人の警察官と一人の女性――すなわち、児童相談所の所員が学園へと来て、女性所員は赤ん坊を責任もって施設に預けるとクラスの生徒達に言い、そして感謝の言葉も述べたのである。

 一方、警察はマイクを事情聴取していたが本来なら警察に届き出るべきなのを注意すると共に、誘拐罪で逮捕するべきだったが今回は赤ん坊を助けたから不問にするが次は無いと言ったのと同時に、彼に壊したコインロッカーを弁償する様に言ったのである。

 因みにマイクがコインロッカーに預けた荷物はコインロッカーに入ったままであり、購入した粉ミルクや哺乳瓶は女性所員が持って行き、そして赤ん坊は生後五ヶ月の女の子であった。

 

「全く、本当に最低よね? そう思わない、一夏君?」

「ハハハ……」

 

 そんな刀奈に一夏は自分が使っている机近くの椅子に座りながら、ベッドに寝転がっている刀奈を見て苦笑いを浮かべていた。

 因みにマイクは自分のベッドに座りながら読書しており、彼女の事は眼中にはなかった。

 

「それはそうだけど、刀奈さん?」

「うん、何、一夏君?」

「どうして、俺とマイクの部屋にいるの?」

「どうしてって……一夏君、私が部屋に居たら悪いの?」

 

 刀奈は目を潤ませながら一夏を見詰める。

 

「あっ、否、そう言った訳ではありません――俺は只、此所は一年の寮ですし、それに寮長は千冬ね……いえ、織斑先生だから何か遭ったら困ると思ったからです」

 

 一夏は困惑しながら答えた。勿論、それは一夏なりの刀奈への気遣いの言葉を述べている。一夏は刀奈を心配していると共に、彼女が千冬に何かをされた困るのと、それをあえて言う事で刀奈を心配している事を教えていた。

 そんな一夏の言葉に刀奈は何も言わずベッドから降りると、一夏に歩み寄る。

 彼女は一夏の前にまで来たが彼は椅子に座っており、彼を見下ろす形に生なっていた。

 ――か、刀奈さん? ――。そんな刀奈を見た一夏は何故か冷や汗が流れるのを感じた。自分を見上げる刀奈は無言だがその表情は何処か険しい。

 まるで怒っている様にも捉える事が出来る、別に怒らせたつもりは無いのだが一夏は何故か一瞬だけ身震いした。

 刹那、刀奈は微笑むと顔を一夏へと近づける。

 ――っ!? ――。一夏は刀奈の顔が近い事に驚きと共に、頬を紅くした。自分の鼻が刀奈との鼻が微かに触れるくらいの距離で近づけられていたのだ。

 これには彼も頬を紅くする筈である。彼だって健全な男性であるのと、異性が近くにいたら恥ずかしいに決まってる。そんな一夏に刀奈はクスッ、と笑う。

 

「フフッ……一夏君、私を心配してくれているの?」

「まっ、は、はい……」

 

 一夏は頷くと、刀奈は一夏から離れ、身を翻すと微笑んだまま小さく呟いた。

 ――やっぱり、一夏君は優しい……。刀奈は一夏に対してそう印象づけていた。言い方は悪いかもしれないが彼女は一夏の事は評価していた。

 彼は誰よりも優しく、誰よりも強い――自らが迫害されながらもそれに屈しはしないダイヤの様に固い精神と、諦めないかつ燃え盛る炎の様に熱い心を持っている。

 刀奈は彼を見てそう印象付けると共に彼に惹かれていた。出来る事なら彼と一緒に居たい――刀奈はそう願っていた。部屋にいるのも、彼と一緒に寝たのも、更識刀奈の少女らしい純粋なる願いでもあった。

 自分は今、更識楯無と言う名を与えられているが今は刀奈として彼に接している――生徒会長と言う立場にいるが彼女はそれを権力としても振り翳してはいない。

 彼女は純粋に本来の自分として接しているのだった。そんな刀奈に一夏は首を傾げる。

 

 刹那、扉の方から音が聴こえ、一夏と刀奈は扉を見やり、マイクは視線を扉の方へと見やる。

 ――済まない、一夏は居るか? ――扉の外から女性の声が聴こえた。一夏はその声に違和感と覚えながらも共に立ち上がり、扉の方へと

歩く。

 しかし、自分を名前で呼ぶ人は他にいたのだろうか? 刀奈やマイクは兎も角として当てはまる者は千冬くらいしか居ない。

 が生徒の手前、名前で呼ぶのは珍しく、私情的な事しかない。

 一夏はそう考えながらも、扉を開けると、そこには一人の、長い黒髪をリボンでポニーテールにして纏めた女子生徒がいた。

 一夏は彼女を見て驚くがその生徒は――否、篠ノ之箒は一夏を見て哀しそうに笑いながら言った。

 

「一夏……昨日逢ったばかりだが、久しぶりだな」

 

 箒は一夏に対してそう言った。その表情は少しだけ明るく見えた。

 

「取り敢えず立ち話もあれだから部屋に入ろう」

「あっ……う、うむ」

 

 一夏は箒を気遣い、部屋に招き入れようとした。一夏の言葉に箒は心無しか頬を紅潮させながら頷くと、部屋に入る。

 ――あっ……――。刹那、箒は部屋に刀奈がいる事に気付いた。一夏ばかり見ていた為に気付かなかったが箒は刀奈を見て瞠目すると、直ぐに俯いた。

 そんな箒に一夏は不思議に思い声をかけ、刀奈は箒を見て首を傾げる。しかし、箒は刀奈に対してはある事を思い出す。それは前日の一夏に抱き着いた件であった。

 あれは誰から見ても付き合っている様にも思えた――否、あれは三年ぶりの再会であるのと同時に、刀奈に対して嫉妬や羨ましいと言った感情が出来てしまった。

 しかし、箒は一夏に想いを寄せている反面、一夏に振られる恐怖が未だあり、箒はそれを思い声を賭ける事も出来なかった。

 それに今声をかける事が出来たのも、箒なりの微かな勇気を振り絞っての行動であった。

 刀奈がいた――それは箒にとって知りたくもない事だった。

 

「箒どうしたんだ?」

「あっ……否、何でもない」

 

 箒は顔を上げ、一夏を見て微笑む。何処か影がある様にも思えたが一夏はそれに気付かず、箒に対して話題を変える様な事を訊ねる。

 

「それよりも、剣道大会で優勝したんだろ?」

「えっ……何故それを?」

「まぁ色々とね……それよりも箒、六年振りだな?」

 

 一夏は微笑むと、それを見た箒は目を見開くが直ぐに微笑えみながら頷いた。二人は六年振りに再会したのだった――それは短い間だったが二人は剣道で二人だけで練習した事も遭った。

 だが箒は転校してしまった――同時に、一夏はある人達と出逢う――その内の一人は更識刀奈であった。が、今は箒と会話をしたかった。

 

「それにしても、箒、綺麗になったな?」

「なっ!? な、何を言うんだお前は!?」

「否、俺は只感想を言っただけだよ?」

 

 箒は顔を紅くしながら否定するが一夏は首を傾げる。その光景はどう見ても再会したと言うよりも、何処か懐かしいやり取りをしている様にも思えた。

 が、そんな一夏と箒のやり取りを見た刀奈は何処か嫉妬を感じたが直ぐに目を逸らした。見たくない――と言うよりも、一夏が他の女性と一緒にいるのが刀奈には辛いとしか言いようが無かった。

 出来る事なら割って入りたい――刀奈はそう願った。

 

 ――……ふん――。そんな三人を見て、蚊帳の外でもあるマイクは呆れていた。マイクは一夏の鈍感さと、彼女達が自分に想いを寄せている事に気付いていない。

 マイクは一夏に呆れを通り越して何も言えなかった――が、マイクは敢えて助け舟を出す。

 刀奈の為でもなく、一夏の為でもなく、箒の為でもあり、彼女が部屋に来た理由を知る為に箒を訊ねた。

 

「それよりも篠ノ之、貴様、何しに来た?」

「えっ……あっ、そうだ!」

 

 マイクの言葉に箒は用件を思い出し叫ぶ。それを聞いた一夏は驚くが箒は一夏に、こう訊ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――一夏、六日後のクラス代表戦は大丈夫なのか!? ――と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして余談だが、コインロッカーに赤ん坊を捨てた者は後日、警察に逮捕された――逮捕の切っ掛けは室内に設置された防犯カメラが証拠となった。

 だが、調べによると捨てた理由としては誰にも頼れず、家事育児で疲れているのと、泣き声が煩いが為に捨てたと、供述していた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 次回、クラス代表戦第一試合――そして、マイクのドイツ人としての誇り。

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