インフィニット・ストラトス 迫害されし者達   作:NO!

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第11話

「それでね一夏君」

 

 あれから少し経った後、一夏と刀奈は一夏とマイクが共同生活している部屋にある二つのベッドの内、片方のベッドで隣同士で腰掛けながら談話していた。

 談話と言っても刀奈が主役であるように彼女に関連する話しばかりであり、それを聞いた一夏は驚きながらも悲しそうに微笑んでいた。

 驚きと言ったら、刀奈が楯無を名乗っているのは、刀奈が更識家前当主――つまり、彼女の父親の命により襲名されたのと、楯無は更識家当主になる者が必ず名乗らなければならない。

 つまり刀奈は楯無として名前を変えているが彼女は一夏に更識家は何を生業としているのかは判らないのと、彼女がそれを一夏には教えてていなかった。

 もう一つ、彼女が生徒会長であるのは、生徒会長は学園で一番の強者――すなわち学園最強の者にしか与えられないのである。それは刀奈が学園一の強者である事を意味していた。

 最後にもう一つ、今朝、刀奈を慰め、優しくクラスへと返してくれた女子生徒は、 (まゆずみ) 薫子(かおるこ)――刀奈とは同じクラスの同級生で渾名で呼び合う仲と、新聞部の副部長である事も教えてくれた。

 これには一夏は驚きの連続だった。それに長めの休憩時間――すなわち昼休みは生徒会関係で忙しかった為に一夏に逢えなかったのだ。

 

「…………」

 

 一方、マイクは二人がいるベッドとは別に、もう一つのベッドに座りながら本を読んでいた。

 どう見ても興味無しとしか言いようが無いが彼は二人の話しよりも、読書を好んでいた。彼は基本一人で居る事が好きであるのと読書が趣味でもあった。

 

「それじゃあ楯無さんは――」

 

 ――刀奈で良いわ――。刹那、一夏が楯無と言った後、刀奈が一夏が何かを言い掛けたのを遮る。一夏は少し驚くが楯無――否、刀奈が一夏に楯無の名を口にして欲しくなかったのだ。

 別に彼女は一夏が嫌いだからではない、刀奈はその理由を教えてくれた。

 

「一夏君、私は楯無と言う名前を与えられているけど、本当は刀奈――本来の名前で呼ばれたいの……それに一夏君、貴方だけ、いえ、親しい人達だけには私の本来の名前、刀奈として呼ばれて欲しいの……」

 

 刀奈は哀しそうに微笑みながら俯いた。刀奈は、否、今の彼女の名前は楯無だが刀奈は本来の名である『刀奈』で呼ばれたかった。

 それは刀奈の切なる願いであるが刀奈自身の強い気持ちをも表していた。

 そんな刀奈を見た一夏は寂しそうに見つめていた。だが、刀奈は顔を上げ、にっこりと笑う。

 

「勿論、別の意味でも私は楯無の名を重く受け止めているわ! 気にしないで!」

 

 刀奈は一夏にそう言った。なのに彼女の表情は何処か寂しそうで何処か哀しそうにも思えた。

 一夏はそれに気付きながらも敢えて言わなかった――言えば刀奈を傷付けるだけであり、彼女を苦しませるだけであった。

 

「刀奈さん――あっ」

 

 が、彼は、一夏はある事を思い出して、懐に手を入れ、ある物を取り出し始める。

 それを見た刀奈は首を傾げるが一夏は懐からある物を取り出し、それを刀奈に見せた。

 

「あっ……これって……!」

 

 刀奈は瞠目し、口元を押さえた。彼、一夏が見せてくれた物は一つの水色のお守り――それは三年前、刀奈がドイツへ行く一夏の為に作ってくれた物であった。

 

「刀奈さん、これは貴女が作ってくれたお守りです――俺はこれを、いえ、俺はこれをずっと持っていました――俺がこれを持ってる理由は一つ――俺は刀奈さん、貴女に再び逢える事を願い、このお守りを大切に持っていました」

「い、一夏君……」

 

 刀奈は一夏の言葉を聞いて目に涙を浮かべる――彼、一夏が自分が作ったお守りをずっと持っていたのだ。

 しかし、お守りは危難を逃れる意味でもあるのと、刀奈が一夏の無事を願ってと言う意味でも作ったのだ。

 それを一夏は、彼は再び自分に逢える事をも切に願っていたのだ。

 刀奈から見れば喜び、嬉しいとしか言いようが無かった――涙もそれを物語っていた。

 

「刀奈さん、俺は三年前のあの日、俺は再び貴女と逢える事を願い、指切り拳万もしました……ですが俺はそれを破ってしまった――申し訳ありませんでした!」

 

 一夏は頭を下げる。それは一夏なりの謝罪だったが彼はそれだけでは許されないと判っていた。

 だが彼はどんな罵声も受け、罵倒をも覚悟していた。約束を破ったのは自分であり、自分が言い訳する理由等は無い――彼は潔く刀奈の言葉を待ち、それを覚悟していた。

 

「どんな言葉も受けます――俺は反論しません! ごめんなさい!」

 

 一夏は頭を下げながら言葉を述べた。一方、一夏の言葉に刀奈は少し驚いていたが何故か哀しそうに微笑むと、彼、一夏のてを優しく包む。

 

「もう良いわよ、一夏君」

 

 刀奈の言葉に一夏は「えっ?」と驚き顔を上げるが刀奈は微笑んでいた。

 

「一夏君――貴方は確かに約束を破ってしまった――でもそれは三年前の事よ?」

「ですが刀奈さん!」

「聞いて!」

 

 刀奈の言葉に一夏は少し驚くが刀奈は言葉を続ける。

 

「一夏君、貴方は確かに約束を破った――私がお守りを作ったのは貴方が死なない事を願ったからよ……それに約束は破ってはいないわ」

「えっ……?」

「一夏君――貴方は今朝約束を果たした――それは三年前の私が言った事、それはまた私と逢う事を、ね?」

 

 刀奈は優しく言った。それは刀奈自身の優しさがあり、彼女が一夏が無事である事を願い、生きている事をも願っていたからだ。

 あの時から今日までの三年間、彼は、一夏は死んでいると刀奈は思っていた。しかし彼は生きていた。それは三年腰だが彼は約束を果たしたのだ。

 

「一夏君、貴方はあの時の約束は果たしたわ――それにこれだけは覚えていて」

「刀奈さん?」

 

 一夏は刀奈の言葉を待つ。刹那、刀奈は涙を流しながらにっこりと笑った。

 

「これからの二年間、宜しくね!」

 

 刀奈はそう言った。それを聞いた一夏は瞠目した。二年間とは、刀奈が二年生である事を教え、刀奈自身がこれからの二年間を一夏と過ごしたい事を切に願っていた。

 それは刀奈の、一人の少女の約束でもあった。それを聞いた一夏は瞠目したが直ぐに微笑むと、深く頷いた。

 三年前の約束は半分破ったが半分は果たした。しかし、彼等は新たなる約束を作った。

 それは刀奈は兎も角、一夏としては二人の学校生活がこれから始まる約束と捉える事も出来た。

 どんな困難が来るかは判らない――だがこれだけは言える、一夏は、これから始まる学校生活を頑張ろうと決意した。

 

「なあ……」

 

 そんな二人を他所に、蚊帳の外の立場にあったマイクが不意に口を開く。二人はマイクを見るがマイクはジト目で二人を見ていた。

 

「ど、どうしたんだマイク?」

 

 一夏がマイクに訊ねると、マイクはある事を口にした。

 

「実は明日……」

 

 マイクはある事を話し始めた。それを聞いた一夏は驚くが刀奈は一夏同様聞いていたが、一夏はマイクの言葉を聞いて頷いた。

 何故なら、マイクは、一夏にあるお願いをしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、此所は島国である学園を行き来出来る三つの交通機関の内の一つであるモノレールがある駅構内のコインロッカー。それは電子型であったが駅構内では珍しく室内であった。が、そこには一人の青年が居た。

 その青年とはマイクであった。彼は昨晩、一夏に駅でロッカーに預けた物を取りにいくと言ったのだ。一夏にはもしもの時に遅れると言ったが一夏は納得し、それを聞いたマイクは頷き返すとそのまま寝た。

 そして彼は早起きしてモノレールからこの駅へと来た後、コインロッカーに預けている荷物を取りに来たのだ。

 だが彼は今、コインロッカーに預けている荷物を取っている最中だった。荷物と言っても難しい本等の書物であり、それらを預けた理由としては単に邪魔だったからである。。

 しかし、彼の表情は険しいものだった――理由はコインロッカーの値段にだった。

 ――高い……――。彼はコインロッカーにある画面に映っている値段を見てそう呟く。その値段は『1000円』――どう見てもぼったくりとしか言いようが無い――。

 まあ昨日預けたのとそのまま取りに来なかったマイクが悪いとしか言いようが無い――無論、ペナルティと言う意味での延滞料金が発生したがマイクは渋々と言った感じで財布を取り出し野口の紙を取り、差込み口に入れた。

 無情にも野口は吸い込まれる様に差し込み口の中へと消えていった――それを見たマイクは悔しさとぼったくりレベルの値段を出すコインロッカーに怒りを覚えながらも、財布をポケットに入れると、次はコインロッカーの鍵を取り出し、それを鍵穴に挿そうとした。

 ――ん? ――刹那、マイクは声がした事に気付き、辺りを見渡す。そこには誰も居ない――こんな早い時間帯に人がいるのは珍しいくらいだった。

 マイクは辺りを見渡すが気のせいだと思い、鍵穴に鍵を差込もうとした。

 ――オギャァァ!! オギャァァ!! ――。刹那、今度は赤ん坊の泣き声がした。それを聴いたマイクは驚くがその声には違和感があった。

 室内と言うよりも、何処か小さい――マイクはそう気付いた。マイクは疑問に思い辺りを見渡し、室内を移動する――人は自分以外居ない――なのに、人の気配はする。

 マイクは霊感は無いが幽霊を信じてはいない――だが泣き声は聴こえる。マイクは泣き声がする場所を捜した――それは直ぐに見つかった。

 そのコインロッカーの画面には『1000円』と値段が表示されているがマイクはそれを見て戦慄する。

 ――まさか……――。マイクの脳裏に嫌な予感が過る。まさかと思うが、マイクはコインロッカーから未だに赤ん坊の泣き声がしている事に下唇を噛むと、右手を高らかに上げ、叫んだ。

 

 ――バルム!! ――。

 

 マイクはそう叫ぶと同時に、彼の右手が黒く光り、そして彼はコインロッカーを右手で力強く開けた。

 ――ガチャン!! ――コインロッカーの扉の壊れる音がした。しかし、その中にはある物――否、ある者が居た。

 ――っ!? ――。それを見たマイクは戦慄したが彼の右手にある黒い光は消え、彼はコインロッカーの中にいる者を取り出した。と言うよりも、彼はそれを優しく包む様に取り出し、それを見た。

 それは、否、その者は生後五ヶ月の赤ん坊だった。未だ生きているが赤ん坊はマイクを見ていないが泣き続けていた。

 

 




 次回、マイク、赤ん坊誘拐!?

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