インフィニット・ストラトス 迫害されし者達   作:NO!

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第10話

「ふぅ……」

 

 あれから一時間後、一夏は手提げ鞄を持ちながら一年が寝泊まりする学生寮の、とある部屋の前にいた。その部屋には『1052』と言う番号が書かれていた。

 それは部屋番号であり、一夏とマイクが、これから住む部屋でもあった。本来ならば入学式から一週間の間は帰宅を許されるが自分とマイクは男性操縦者であり狙われる危険が伴う為、今日からは寮で生活しなければならないのが理由だった。

 その為、本来はIS学園は女子校であり、学生寮も女子しか使えないが自分とマイクは男性――それは女子だけの学生寮が一時的な男女共同の寮と化す。

 もう一つ、もしも一夏とマイク、何方かが居なかったら女子と共同生活をする羽目になっていたのだろう。

 だが一夏は部屋を見て、扉の向こう側――部屋にはマイクがいるのかを気にしていた。マイクとは返りのHRで別れたがその前に千冬から自分とマイク様用の鍵を渡された。

 その鍵は寮の部屋の鍵だが番号札が付いており、札には『1052』と言う番号が書かれていた。勿論、自分は千冬に放課後残る様に言われた為に彼――マイクは一足先に寮へと向かった。

 寮と言っても学園とは大して離れてはいないがこれで遅刻したら変だろう、と一夏は思った。が、彼の表情は何処か影がある。

 理由は少し前、千冬とのほんの一時の姉弟のやり取りをしたが穏やかな物ではなかった。一言で言えば千冬を傷付け、千冬を慰めるだけで終わってしまった。

 あの後、千冬は何とか落ち着きを取り戻した物の、千冬は自分に対して少し後悔しながらもこう言った。

 ――今は時間をくれ――そして完全に落ち着いたら少しでも私に罪滅ぼしをさせてくれ――。千冬はそう言った。

 その言葉は千冬なりの謝罪とこれからの姉弟の溝を埋めるのと、絆を取り戻したいとも捉える事が出来た。千冬はそう思っているが彼、一夏は悩んだ。

 彼は千冬との仲を取り戻したいがそれ以上に問題があった。――刀奈――彼女の事も気になっており、彼女との問題を先に片付けたかった。

 と言っても、彼は女性の心が判らない――本当ならあの人達に訊きたかったがややこしくなる上、千冬に話すとなれば更にややこしくなる――彼、一夏はそう思っていた。

 どんなに考えても判らないが彼は辺りを見渡す――周りには数人の女子がいて、彼女達は自分を見ている――好奇と敵意が混じっている様にも思えるが教室よりも別の意味で、目立っている様にも思えた。

 一夏は少し困惑すると、ポケットから鍵を取り出し、扉の鍵穴に挿すと軽く捻り、鍵を抜き、扉を開けた。

 最初に目に入ったのが玄関と赤い床が特徴的な通路だった――と言っても、直ぐに奥の窓が見えるくらいに短かく、テレビが置かれ、キッチンが設けられており、向かい側には二つのベッドが少しだけ見えた。

 が、一夏は部屋に入る前に違和感を覚える。それは玄関の土間床に、二足の靴があったのだ。

 片方は男性用の靴であるがマイクの物である事は判断出来た――しかし、もう一足は女性の物――それは誰かが部屋にいるのと、それが来客である事をも物語っていた。

 ――これって……――。一夏は靴を見て疑問に思う中、彼は部屋に足を踏み入れ後ろ手で扉を閉めた。

 刹那、通路の少し先から誰かがひょっこりと顔を出し、それを見た一夏は瞠目した。

 ――か、刀奈、さん? ――。一夏は顔を出した人物を知っていた。その人はマイクではなく刀奈だった。

 一夏が驚いているのを他所に刀奈は「テヘッ」と意地悪かつからかう様な笑いを浮かべると顔だけでなく身体も出すと、一夏の元へとパタパタと走り出し、一夏の前に立ち止まる。

 

「お帰りなさい、一夏君、織斑先生との話はどうだったの?」

 

 刀奈は元気良くも、何処か心配そうに訊ねる。

 

「か、刀奈さん? ど、どうして此所に? それに何故俺が千冬――否、織斑先生と話しをしていたのを知ってるの?」

「それはね……」

「その人が生徒会長であり、一夏が織斑先生と話しをしているの俺が教えた」

 

 刀奈がそれを答えようとしたのを遮る様に、今度は別の人物が奥からでて来た――マイクだった。マイクは表情を険しくしていたが手にはある少し厚めの本を持っていた。

 その本の背表紙にはナチスのマークがあり、題名は黒文字で『ドイツが生んだ独裁国家ナチス――誕生とユダヤ人大量虐殺、そして崩壊の日』と書かれていた。

 

「マイク? そ、それに生徒会長って、刀奈さんが!?」

 

 一夏は刀奈を見て驚くが刀奈は微笑みながら頷くと自分の胸に手を当てながら口を開いた。

 

「私は更識楯無――更識家当主にして、この学園の現生徒会長を務めているわ」

「えっ……生徒会長って……それに楯無って」

「それは良いわ――でも、私と二人っきりの時は刀奈って呼んで」

 

 一夏が指摘しょうとしたが刀奈がそれを遮る。しかし、刀奈の表情は何処か哀しそうであり、それを見た一夏は少し戸惑う。

 彼は知らなかった――彼女、刀奈は更識家当主であり、楯無を名乗っているのには理由があるが刀奈から見れば、その話は一夏にはしたくなかった。

 自分の家の事は彼には話したくない――が、何れ話さなければならない為、それを隠す事には限界がある。

 刀奈はそれを知っていたが別の意味でも自分が生徒会長である事も話さなければならない。

 それは話すのは簡単だが彼女は彼、一夏を見て微笑むと言葉を続ける。

 

「それは今は良いわ――でも……」

 

 刹那、刀奈は一夏に抱き着く。これには一夏は驚いたが刀奈は小さく言った。

 ――今は、こうさせて――。少女、刀奈は切に願った。刀奈の言葉に一夏は刀奈の名を呟くが彼は彼女の気持ちに答える様に何もしなかった。

 何故なら彼女、刀奈は一夏に抱き着いたのは彼と再会した喜びを意味する様な行動でもあった、今朝抱き着いたのは喜びその物だったのともうちょっと長く抱き締めたかった。が、あの時は短い休憩時間だった為に出来なかったのだ。

 それに休憩時間では何度も出来ず、長い休憩時間も出来たかも知れないがそれは生徒会関係で出来ず、放課後も待つ事も出来たが彼女は寮で逢おうと、この寮で一夏がいる部屋へと来たのだ。

 勿論、彼の部屋番号は生徒会の力で知り、部屋に来た物の彼は居ない事や千冬とのやり取りをする為に居ないと言ったが少し待つと言って此所で待っていたのだ。

 

「一夏君、また言うね……逢いたかった」

 

 刀奈の目から一筋の涙が伝う。彼女の喜びを意味している様にも思えるが彼女は顔を一夏の胸に埋めていた。これには一夏は困惑するよりも刀奈を寂しそうに見つめると、瞑目し、片手を刀奈の後頭部に回し、撫でた。

 一夏なりの謝罪だがそれは朝やったが今は違う――今は長い時間出来るのと、二人が抱き合っているのを邪魔する物は居ない。

 しかし、そんな二人を蚊帳の外かつ、ただ見ていた物が居た――マイクである。

 マイクは二人を無言で見ていたが不意に二人に背を向けると、不意に微笑んだ。

 ――良かったな、一夏……――。彼は相棒、一夏にそう小さく呟いたが一夏には聞こえないのと、一夏は刀奈に抱き締められながらも寂しく慰め続けていた。

 

 

 

 

 

 

 ――一夏……――。

 一方その頃、別のとある部屋では一人の女性がシャワーを浴びていた。シャワーと言っても彼女は何故か寂しそうに俯いていた。

 その人物は窓際に座っていた少女――ポニーテールではないのかリボンを外しており、長い髪は下ろされていた。

 しかし、その少女は一夏とは知り合いだった――が、彼から話しかける事は無かった――否、自分から話し掛ける事も出来たが勇気がなかった。

 一夏は話しかけてくる事は無かった――否、彼は刀奈の事を気にしており、彼女の事を忘れていた。

 一夏が悪い様にも思えるが少女から見れば、一夏は自分よりも、刀奈の方を気にしている――少女、否、篠ノ之箒はそう思っていた。

 箒は一夏が自分よりも刀奈を気にしているのではないか? ――箒はそう思うと目に涙を浮かべ、両手で自分の顔を覆い隠す。

 

「うぐっ、えぐっ」

 

 箒は泣いた――自分は失恋したのか、と。が、それは二人が付き合っているのではないかと勘違いしている為、何とも言えず、酷な話しでもあった。

 しかし、箒から見ればそう思えざるを得なかった。勘違いとは言え、箒は失恋したと思い、泣き続けた。

 一夏、刀奈、箒――この三人の三角関係は間違った方向へと進んでいた――が、一夏は刀奈に告白しては居らず、刀奈は一夏に未だ恋愛感情はなく、箒は一夏に恋愛感情を抱いている。

 だが、それはどうなるのかは神のみぞ知るのと、彼等が行動を起こすしか無いだろう――だが今は、箒はシャワーヘッドからでるお湯の雨に打たれながら泣きながら言い続けた。

 

 

 

 

 ――一夏、一夏……!!――と。

 

 

 




 次回、一夏と刀奈、三年ぶりに約束と新たなる約束。

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