インフィニット・ストラトス 迫害されし者達   作:NO!

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 この話での注意。
 この話はインフィニット・ストラトスですが、救い様の無い人達が沢山出てきます。それ嫌な方はバックして下さい。


第1話

『覚えていてね? ――旅行から帰ってきたら、此所に来て、また遊ぼうって』

『うん、約束する――俺はまた、此所で君を待ち、君と一緒に遊ぶって』

 

 夕日が沈み掛かる前の公園には、二人の十代前半の少年少女がいた。少年は何処か幼さが残る物の爽やかな顔立ち、黒の短い髪に黒い目。

 着ている服は白の半袖のテイシャツに上には青の上着、紺碧色の半ズボンと言う、ラフな服装である。

 少女は幼さが残る顔立ちでありながら、少し長めの清んだ水色の髪に、ルビーのように綺麗な紅い瞳。

 服装は白のシャツに青いスカートと言う少女らしいラフな服装であった。

 どちらも、互いの相手と向き合い、愛しそうかつ哀しそうに見つめあっていた。

 

『それと……』

 

 少女は懐から、ある物を取り出し、それを少年に見せた。手作りの水色の御守りだった。

 

『これは、御守り?』

『うん、貴方が無事で帰ってこれるようにと、私の作ったの』

『貴女が?』

 

 少年は目を見開くと、少女は少し笑う。

 

『ええ、あっちは異国でしょ? この国とは違って未知の場所が多いし、観光スポットが有っても、あっちにはどんな危険な場所があるかも判らないわよ?』

『そうだね……あっちには歴史の授業で知ったけど、今は破壊されたから、一部しか残っていないベルリンの壁があるし、ナチスと言う独裁国家が有ったからね……』

 

 少年は辛そうに哀しそうに俯き、少女も俯いた。

 

『ええ、ドイツ人は……いいえ、全てのドイツ人がそんな人じゃない、それは過去の遺物だけど、今は居ないかもしれない』

『そうで有って欲しいよ……でも過去の威光を忘れていない人もいるかも知れない』

『そうよね……でも今はそれを忘れてはならない、私は、いえ、私達はそれを――ね?』

『うん――俺は人を差別しない……差別する人は、最低な人がやる事だから』

『そうかもしれない……だけど口で言うのは簡単、だけど行動では、そんな簡単に出来ない上、迫害される危険が……あっ、ごめんなさい』

 

 少女は顔を上げると、少年を見て思わず謝罪する。一方、少年は少女の言葉に顔を上げるがうっすらと哀しい笑みを浮かべる。

 

『良いんだ、俺はそう言うのは馴れているから……ハハハ』

『……一夏君』

 

 少年は、一夏は軽く笑い、少女は哀しそうに顔を上げ、一夏を見て何も言えなくなる。

 少女は気付いていた。一夏が迫害されている者だと言う事に。何故なら、一夏には姉が居る。

 その姉は日本、嫌、世界中では知らない人は居ないともされている、凄く有名な人であった。

 しかし、一方の一夏を周りは『附属品』としか見なされず、姉は多忙の身であり彼とは向き合う機会は余りなかった。

 嫌、彼が優しいからだろう――彼は姉に迷惑を掛けたくない一心で自分の本音を、姉には言わなかった。

 言えば姉は激怒し、何をするかは判らないのと、彼自身、姉の七光りを使う気もなかった。

 一夏は姉にも、周りにも助けを求めなかった。中には一夏を心配する者も居たが、彼は少なからず感謝していたし、彼等自身がどうこう出来る訳でもなかった。

 少女も彼の力になりたかったが、生憎、少女も多少の力はあってもそれを使う事は出来なかった。

 そんな事をしても一夏は喜ばず、誰も得する訳でもない。少女は自分の無力さに後悔し、怒りをも感じた。

 だが、その怒りを誰にも吐く事は出来ない。だからこそ、少女は一夏に言う。

 

『一夏君……貴方は一人じゃない、貴方には貴方を思う人がいる――私もその一人だから、私は貴方を迫害する理由はないわ』

 

 少女は一夏に言った。少女自身の本音とも言えた。そんな少女の言葉に一夏は瞠目するが直ぐに哀しい笑みを浮かべながら頷いた。

 

『ありがとう……貴女が言うと、何か元気が出る』

『一夏君……私は貴女じゃない、刀奈と言う名前が有るわ』

『そうだったね……刀奈さん』

『そうよ一夏君……』

 

 一夏と少女――刀奈は互いの相手を見つめ合う。お互い、恋愛感情は無かったがお互いを心配していた。

 一夏は刀奈を心配し、刀奈は迫害されている一夏を心配していた。だが、今は二人にとって短いやり取りだった。

 もうすぐ夕日が沈むかも知れない――だから今は、やり取りを早く済まさなければならない。

 刀奈は短い時間に悔しい思いをしながらもさっきから手に持ってる御守りを一夏を差し出し続けていた。

 

『それよりも一夏君、これを貴方に上げる――これを私だと思って――貴方は一人じゃない事を忘れないで……お願い』

『刀奈さん……判りました、これを見て貴女を思い出します――俺は、迫害には負けない、一人じゃない事を忘れない』

 

 一夏は刀奈が差し出してきてくれた御守りを手に取る。刹那、一夏の手と刀奈の手が触れた。

 一瞬だけだったが二人はそれを気にもしなかった。また逢える――二人はそう思っていた。

 証拠に刀奈は、一夏に対して自身の手を小指だけを立たせる。

 

『約束、また来る事を意味して』

『うん……約束する』

 

 一夏は微笑みながら、小指だけを立たせた腕を前に出すと、小指を刀奈の小指に絡ませながらお互い言った。

 

『『指切り拳万、嘘付いたら針千本飲――ます、指切った!!』』

 

 二人はそう言うと小指と小指が離れた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 ここはドイツの、とある廃墟にある個室。そこは何年も誰にも手を付けられていないのか埃が溜まっており、空気も悪く、カビ臭い。

 しかし、そこには一夏がいた。だが、顔の顔には殴られた痕が痛々しく残っており、瞳には絶望の表れとも言えるように黒く濁っており、両手足を縄で縛られ、横向けに寝転がっていた。

 何故なら、彼は今、誘拐されている身だった。彼は姉の応援に向かう時に誘拐されたのだ。

 誘拐犯の目的は身代金は勿論、ドイツで開催されているモンド・グロッソ大会に出場している姉に棄権をして貰う為でもあった。

 

 しかし、それも失敗に終わり、彼は誘拐犯に失敗の腹いせに八つ当たりと言う形で暴力を振るわれたのだ。

 暴力だけでなく、暴言も聞こえた。出来損ない、クソの役にも立たない、と。

 その言葉は彼の精神をも追い込むには充分だった。が、彼の精神は完全に壊れてはいなかった。

 刀奈の存在。彼女が彼に一人じゃない事を教え、味方は僅かながらに居る事を教えてくれた。

 彼が壊れなかっただけでも奇跡だろうが彼女の存在が大きい方が強いのかも知れない。

 一夏はさっき、彼女との約束を思い出していた。が、この状況が変わる訳ではない――さっきの思い出は彼女との約束に過ぎないが彼自身が、彼女を哀しませたくない気持ちを強くしていた。

 

 彼は血が騒ぐのを感じた。決して挫けない大和魂があったのだ。屈するくらいなら生きてやる、と。

 一夏は体を起き上がらす。身体中には殴られた後だったのかまだ痛む。それでも彼は事態を変えようと身体を動かす。

 縄が解く訳がなかったが彼は生きたいと言う強い気持ちがあるからだろう。

 現に誘拐犯達は居ない。それに個室と言っても、出入り出来る扉はあり、空気を入れ換える窓ぐらい有る。

 彼は扉から逃げるよりも、窓から逃げようと考えていた。扉の向こうには誘拐犯達がいるが、窓の外には居ない。

 一夏はそう思っていた。刹那、扉が開き、一夏は瞠目した。扉を開けたのは勿論、誘拐犯の一味。

 数は三人だが全て男性であり、全員が三十代後半の全身黒ずくめである。

 

「小僧、何をしている?」

 

 誘拐犯の一人が怪訝そうに訊ねると、一夏は怨みが籠った眼差しを向けながら口を開いた。

 

「逃げるんだよ……あんた等から」

 

 一夏の言葉に近くにいる誘拐犯の二人は笑う。勿論、声を掛けた男は鼻で笑う。

 

「そんなのは無駄だ――お前は縛られているのは愚か、扉からでは逃げる事は出来ないんだぜ?」

「それは判ってる……だけど……窓から逃げる事は……出来る」

 

 一夏の言葉に男は眉間に皺を寄せるが無言で懐から、ある物を取り出す。

 銃だった。彼は銃口を一夏に向ける。一夏は目を見開くが直ぐに睨む。が、震えは無かった。逆に彼は死を恐れながらも生きたいと言う気持ちは変わらなかったのだ。

 

「此処でゲームオーバーだ小僧、あの世で後悔するんだな」

 

 男はそう言いながら、銃の引き金を引く。その間に一夏は、もう逢えないであろう刀奈の顔を思い出し『ごめん』と言いたかったがそれは無理に等しく、それも一瞬だけだった。

 そして、一発の銃声が響き、一夏の身体から血が流れ出た……。

 


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