捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第97話

「ひどい目にあったな……」

「ええ、まったく……」

 東條さんからの連絡で、ようやく無駄足だったことに気づき、ホテルに戻った。ちなみに、何があったかは割愛させていただく。男二人のしょうもない冒険譚など、ラブコメには不要なのだ。

 回転扉をくぐり、ロビーの高級感あるシャンデリアの明かりにほっとすると、背後から人の気配を感じた。

「おかえりなさい」

「ああ、ただい……ま……」

「…………」

 振り向くと、そこにはにっこり笑顔の美空さんがいた。笑顔は笑顔なのだが、威圧感がハンパなく、気圧されてしまう。

「あなた。わざわざ八幡君を連れて、何をしているのかしら?」

「あ、いや、これは……」

 さすがは海未の母親、身に纏う覇気も覇王色ときた。てゆーか、俺も逃げ出したいんですけど。

 すると、優しげに細められた目がこちらを向き、声をかけられた。

「八幡君」

「は、はい……」

「私はこの人と夜通し話がありますから、悪いけど私が取った部屋に泊まってもらえるかしら?」

 そう言いながら、鍵を渡してくる。

 俺はそれをしっかりと受け取った。

「はい」

「待ってくれ比企谷君!私を置いていかないでくれ!苦楽を共にした仲だろう?友よ!」

「……すいません」

 美空さんに首根っこを掴まれた海未の父親に背を向け、先にエレベーターへと向かった。

 

「ふぅ……」

 想像していたものとは遥かに違う海外旅行の日程に疲れたが、これも貴重な経験なのだろう。

 荷物を置き、ベッドに寝転がると、このホテルのどこかにいる海未の顔が浮かんできた。

 あいつの事だから、今頃どっかスタジオを借りて、皆をレッスンに引っ張り出しているんじゃないだろうか。

 ……会いたい。

 ものすごく会いたい。

 つまらない理由付けなどする必要もないくらいシンプルな気持ち。単純明快な答え。

 どこに行けば会えるのだろうか。

 もし会いに行ったら、どんな顔をされるだろうか。

 ふわふわした妄想や不安が頭の中を漂い、一分一秒たりともじっとしていられない気持ちになる。

 正直になりすぎた心は、自然と体を動かし、俺は当てもなく部屋を飛び出した。

「「え?」」

 偶然にも同時に開いた向かいの扉。

 出てきたのは、なんと海未だった。

 見間違うはずもない。

 さっきまでずっとその顔が見たかったのだから。

「……お、おう」

「…………」

 片手を上げ、挨拶をしてみたが、返事がない。

 彼女の顔は固まったままだ。

「……う、海未……」

 呼びかけてみると、やがて彼女は震えだし……

「きゃあああああ~~~~~っ!」

 

  





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