捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第96話

 飛行機が飛び立ち、あとは眠ってる間にアメリカに着いちゃう!という段階になったが、神様はどうもイタズラ好きらしい。

「全然気が抜けないんですが……」

「仕方あるまい。ここしか空いてなかったんだ……」

 よりにもよって海未達の真後ろの座席になるとか……。

 変装しているとはいえ、極力顔を見られないよう、窓の外の景色に目をやりながら、前の席にも意識を向けていると、東條さんの楽しげな声が聞こえてきた。

「ねえねえ、海未ちゃん♪」

「はい?何でしょうか……」

「愛しの彼と離れ離れが寂しい?」

「ちょっ……い、いきなり何を言い出すのですか!」

「ん~?」

「……もう……否定はしませんけど」

 恋人としては嬉しい反応だが、隣から殺気をビシバシ感じるので、早々にこの話題は打ち切って欲しい。てか、東條さんはわざとやってんだろ?そうなんだろ?

「ふふっ、素直でよろしい♪そういえば、二人って初対面の頃はどうだったの?」

 おいおい、マジで勘弁してくれ。海未の父親が眠ったふりして前のめりになり、頭を前の座席の背もたれに近づけているから。この人、一言一句聞き逃さないつもりだ。しかも、俺と海未の初対面は……

「そうですね……初対面の時は……」

 海未は躊躇うように話し始める。いや、さすがにそのまま言ったりは……

「……実は、股間に顔を埋められました」

「……へ、へえ~。まあ……あるよね」

 ねえよ。てか、そのまま言っちゃうのかよ。

「それで言い争いになり、ついには頭突きをしてしまったんですけどね。ふふっ、今となってはいい思い出です」

「あはは……」

「それからというもの、会う度に胸を触られたり、着替えを覗かれましたね。もちろん、全て事故なんですが」

「…………」

 止めて!本当に止めて!隣からの覇気で死んじゃうから!

 体を起こした海未の父親は、小声だが妙に重い声で話しかけてきた。

「比企谷君」

「は、はい……」

「アメリカに着いたらゆっくり話し合おう」

「はい……」

 

 アメリカに到着してからは、駆け足で先にタクシーに乗り、ホテルに到着した。チェックインを済ませ、すぐに動けるようにするためだ。

 しかし、ここで思わぬトラブルに直面した。

「ふむ、海未達はやけに遅いな。他の子達は到着しているというのに……」

「……渋滞に巻き込まれたんですかね」

 サングラスに帽子というありふれた変装をして、ロビーにいるのだが……うん、最早ストーカーじみてますね、これは。今さらながら、何しに来たんだ感ハンパない。

 いや、それより今は海未が……

「穂乃果。場所はちゃんと伝えた?」

「うん」

「もしかして、綴り間違えたんと違う?確か……」

 東條さんが綴りを書き、高坂さんが確認する。

「……あ」

「「なにぃっ!?」」

 高坂さんの反応に、俺達は慌てて立ち上がる。

 もちろん、周りの注目を集めた。

「え?え?」

「「…………」」

 μ'sメンバーも何事かとこちらを見ていたが、俺達は黙ってホテルを飛び出した。

 

 5分後……。

「あ、海未……ちゃん」

「ううっ……ぐすっ……はちまぁん……」

「あはは……凛ちゃんがホテルの名前覚えてくれてたからよかったよ……」

「あらら……二人共、入れ違いになっちゃった」

「希、どうかしたの?」

「ううん、何でもないよ」

 

 数時間後……。

「あの……」

「どうした、比企谷君?」

「俺達はどこにいるんですかね……」

「奇遇だね。私も同じ事を考えていた」

 俺達は異国の知らない街を当てもなく5時間以上彷徨い続けた。




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