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それでは今回もよろしくお願いします。
「……アメリカ?」
「はい……」
「何でまた……」
「スクールアイドルの飛躍のためです……」
「お、おう……ところで海未さん……」
「何でしょう?」
「どうしてこんなにくっついているのでしょうか」
卒業式が終わり、迎えた春休みの朝のひととき。俺はベッドの上で壁にもたれて、足をだらりと伸ばしている。
海未は俺の開いた足の間に座り、俺に身体を預け、少し暗い顔で読書をしている。そんなわけで俺は何もできない。せいぜい海未の髪の匂いを嗅ぐくらいだ。
俺のツッコミに対し、海未はさらに体を押しつけてきた。
「はあ……海外なんて……」
どうやら俺の言葉はスルーされたらしい。
海未の表情が暗い理由は、海外という見知らぬ広大な土地への不安らしい。
「別にずっと住むわけじゃないだろ」
「うぅ……」
髪を優しく撫でてみるが、やはりそれだけで不安が拭えるわけもなく、彼女は読んでいた本も閉じ、こちらに向き直った。
至近距離で見る潤んだ瞳には、普段の強い意志の灯火は消え、悲壮感に溢れ、口元は何かを懇願するように開いていた。
……この距離でこれは非常にまずい。
おそらく、海未にそういった意図はないだろうが、ひどく扇情的な姿だ。海外行きたくないだけでこんな姿になるとか……少しだけラブライブの運営に礼を言いたくなる。
海未はしばらく俺の瞳を覗き込んだ後、頼りない声を吐き出す。
「八幡……一緒に行きましょう」
「……そ、それはさすがに」
「……はちまぁん……」
「落ち着け。その、あれだ……帰ってきたら、ほむまん奢ってやるから」
「…………」
「遊園地でも水族館でも連れてくから」
「…………」
「今からでも……」
「……わかりました。頑張ります」
それにしてもアメリカか……すげえな。
自分の彼女がまた一つ高みに登ろうとしているのを目の当たりにし、トレーニングの量を増やそう、と密かに決心した。
すると、海未が急に立ち上がる。その表情には、覇気とほんの少しの空元気が見てとれて、微笑ましいものだった。
「ふぅぅ……よし!行きますよ八幡!!」
「おう、何処に?」
「アメリカに負けないようにランニング25キロです!どうですか?物足りないですか?」
「……い、いや、十分、です」
……何と戦うんだよ。
地獄のランニングが終わり、先に海未がシャワーを浴び終わるのを待っていると、スマホが着信を告げた。
確認すると、海未の自宅の電話番号だ。
……何故だろう。スマホから威圧感を感じてしまう。
とはいえ、無視するわけにもいかないので、通話ボタンを押す。
「ひ、比企谷君か……」
「はい……」
「今、海未は近くにいるかね」
「いえ、ちょっと外してます」
「そうか、丁度良かった」
まさか本当にかかってくるとは……いや、まだ海未には指一本触れ……てない事はないけど!
海未の父親は、ごほんと一つ咳払いし、真剣な面持ちが伝わって来るような声のトーンで話し始めた。
「比企谷君、折り入って話があるのだが……」
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