ライブはこれまでとは違った煌びやかなものとなっていた。会場そのものの音響や照明の力もあるかもしれないが、やはり決勝まで勝ち上がってきたグループの洗練されたパフォーマンスによるものが大きいだろう。スクールアイドル達の気迫がこちらに伝わってくるようだった。
やがてμ'sの出番になり、メンバーがステージに登場すると、俺は拍手はしたものの、何を言えばいいのかわからず、ステージにいる9人に……そして、海未に視線を集中した。
すると、彼女の視線がこちらを向いた気がした。
いや、別におかしな事ではない。
俺の席の周りには、μ'sメンバーの関係者が固まっているし、それを彼女も知っているだろう。
ただ、あんなに真っ直ぐにこちらを見据えられたことに、居心地の良さというか、何とも言い難い不思議な心地良さを感じた。
……こっちが励まされてどうするんだか。
俺は大声で彼女の名を叫んだ。
「八幡!」
終演後、指定された会場近くの公園で待っていると、晴れやかな笑顔に少し涙の跡を残した海未が駆け寄ってきた。
「おう」
「見てくれましたか!」
「ああ……おめでとう。なんつーか、自分のことみたいに嬉しい」
μ'sは優勝した。
言葉にするとこれだけになるが、その結果の裏で積み重ねてきたものが、どれだけ大きいかは、ステージで見せた彼女達の笑顔や涙を見れば一目瞭然だろう。心から祝ってやりたい気持ちでいっぱいだ。
しかし、海未は何故か不満顔だった。
「……30点です」
「り、理由は?」
「こういう時は、思いきり抱きしめてください。そして、熱い接吻が欲しいです。このままでは私は不満です」
海未は上目遣いで、火照った顔を月明かりに晒した。いつもの微かに漂う甘い香りは、ライブで汗をかいたからか、海未自身の甘い匂いになり、鼻腔をくすぐってきた。
「……いや、さすがにここじゃ……」
会場近くの為、決して無人ではない。それに、うっかり海未の父親に見られてしまったら、俺はどんな目に遭わされるか……想像したくもない。
「そ、そうですね、確かにここでは……私が破廉恥な女だと思われてしまいます。やはり慎みは大事ですね」
「…………」
今さらな気もするが……まあ、何も言うまい。
ちょうど手頃な大きい木を見つけたので、海未の手を引き、暗がりに連れ込む。
「はちま……ん……」
「……ん……っ」
2、3秒で唇を離し、そのまま海未の手を引き、暗がりから出る。
余韻に浸る時間がないのが少し惜しい。
しかし、俺達にはまだ先がある。
「……そろそろ、皆のとこに戻るか。心配するかもしれないから……」
「ええ……そうですね」
やわらかく微笑んだ海未が隣に並んで歩き出す。
通り過ぎた夜風には、春の匂いが混じっていた。
「……本当に、おめでとう」
「……ありがとうございます」
読んでくれた方々、ありがとうございます!