捻くれた少年と真っ直ぐな少女   作:ローリング・ビートル

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第93話

 

 ライブはこれまでとは違った煌びやかなものとなっていた。会場そのものの音響や照明の力もあるかもしれないが、やはり決勝まで勝ち上がってきたグループの洗練されたパフォーマンスによるものが大きいだろう。スクールアイドル達の気迫がこちらに伝わってくるようだった。

 やがてμ'sの出番になり、メンバーがステージに登場すると、俺は拍手はしたものの、何を言えばいいのかわからず、ステージにいる9人に……そして、海未に視線を集中した。

 すると、彼女の視線がこちらを向いた気がした。

 いや、別におかしな事ではない。

 俺の席の周りには、μ'sメンバーの関係者が固まっているし、それを彼女も知っているだろう。

 ただ、あんなに真っ直ぐにこちらを見据えられたことに、居心地の良さというか、何とも言い難い不思議な心地良さを感じた。

 ……こっちが励まされてどうするんだか。

 俺は大声で彼女の名を叫んだ。

 

「八幡!」

 終演後、指定された会場近くの公園で待っていると、晴れやかな笑顔に少し涙の跡を残した海未が駆け寄ってきた。

「おう」

「見てくれましたか!」

「ああ……おめでとう。なんつーか、自分のことみたいに嬉しい」

 μ'sは優勝した。

 言葉にするとこれだけになるが、その結果の裏で積み重ねてきたものが、どれだけ大きいかは、ステージで見せた彼女達の笑顔や涙を見れば一目瞭然だろう。心から祝ってやりたい気持ちでいっぱいだ。

 しかし、海未は何故か不満顔だった。 

「……30点です」

「り、理由は?」

「こういう時は、思いきり抱きしめてください。そして、熱い接吻が欲しいです。このままでは私は不満です」

 海未は上目遣いで、火照った顔を月明かりに晒した。いつもの微かに漂う甘い香りは、ライブで汗をかいたからか、海未自身の甘い匂いになり、鼻腔をくすぐってきた。

「……いや、さすがにここじゃ……」

 会場近くの為、決して無人ではない。それに、うっかり海未の父親に見られてしまったら、俺はどんな目に遭わされるか……想像したくもない。

「そ、そうですね、確かにここでは……私が破廉恥な女だと思われてしまいます。やはり慎みは大事ですね」

「…………」

 今さらな気もするが……まあ、何も言うまい。

 ちょうど手頃な大きい木を見つけたので、海未の手を引き、暗がりに連れ込む。

「はちま……ん……」

「……ん……っ」

 2、3秒で唇を離し、そのまま海未の手を引き、暗がりから出る。

 余韻に浸る時間がないのが少し惜しい。

 しかし、俺達にはまだ先がある。

「……そろそろ、皆のとこに戻るか。心配するかもしれないから……」

「ええ……そうですね」

 やわらかく微笑んだ海未が隣に並んで歩き出す。

 通り過ぎた夜風には、春の匂いが混じっていた。

「……本当に、おめでとう」

「……ありがとうございます」

 

 





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