それでは今回もよろしくお願いします。
「ここか……」
「わあ……」
俺と小町は木造の大きな門の前で、その厳格な雰囲気に萎縮していた。何度も住所を確認し、やはり間違いないと落ち込む。何だよ。本人だけじゃなく家まで威圧感があるのかよ。
ここからは家屋ははっきりとは窺えないが、塀の長さから察するに、結構大きいだろう。本当に武家屋敷というかなんと言うか……どこかに隠し回転扉とかついてたりしないだろうか。
俺は意を決して、さり気なく取り付けられている呼び鈴を押した。
「おはようございます。さ、どうぞ入ってください」
「おじゃましま~す!」
「…………」
元気な小町とは真逆に軽い会釈だけで挨拶をすませる。本当によく来たな、俺。
ちなみに最初は行くつもりはなく、寝過ごして逃げようとはしたのだが、あの鋭い声で小町の携帯越しに叩き起こされた。
『おはようございます。起きなさい』
今思い出しても寒気がする。人生初の女子から起こされるシチュエーションがこんな殺伐としたものになるとは思わなかった。悲しすぎる。やはりぼっちの方がいいんじゃなかろうか。
「小町さん、ごめんなさい。休日にわざわざ……」
「いえいえ、お気になさらず!……未来のお義姉さん候補の家を視察するチャンスですし」
「どうかしましたか?」
「何でもないですよ♪」
「俺はいいのかよ……」
「安心してください。来週は私がそちらへ行きますから」
「安心する要素が皆無なんだが」
まだ何をやるかもわからないのに、既に来週の予定が決まっているとかマジかよ。
「ら、来週は予定が……」
「あなたの予定は既に小町さんに確認済みです」
小町の背中を睨むと、もちろん恨みがましい視線など察するはずもなく、軽快に家の扉の前までスキップしていた。
「さ、貴方もはやく」
「へいへい……」
家に上がるなり、早速目の前に黒い何かを突きつけられ、仰け反ってしまう。恐い、恐いよ。何か言えよ。
「何だ、これ?」
「見ればわかるでしょう、ジャージです。これに着替えてください」
「わざわざこんなもんまで用意したのかよ。俺の為に……」
「なっ……そ、そんなわけがないでしょう!貴方なんかの為に!父のいらなくなったジャージです!」
「……ここに値札が」
「未使用だからです。いいからさっさと着替えなさい!」
「はいはい……」
有名なスポーツメーカーの黒いジャージは、腕や脚の部分に白いラインが入った至ってシンプルなもので、かなり着心地がよかった。
着替えに借りた部屋を出ると、和服姿の女性と鉢合わせた。黒のショートカットの美人だ。
「あら……あなたは」
「え、いや、あの……」
そのキョトンとした顔に少し緊張してしまう。疚しい事は何もないのだが、やはり美人相手だとね……。頬に手を当てるその仕草もしなやかで、大人の女性という感じがする。既視感があり、よく見れば顔に園田の面影がある。もしかしたら園田の姉だろうか。
俺がまごついていると、その美人は何か閃いたように手をポンと合わせ、笑顔になった。
「あなたね。海未が言ってたお友達って」
「……はい」
果たして俺と園田の関係は友達と言うのだろうか……まあ、ここで否定しても仕方ない。
「あの子が男の子を連れてくるなんて……」
しみじみ呟いているが、性根を叩き直す為に無理矢理来させられたと聞いたらどんな顔をするだろう。なんか申し訳ない。
ひとまずこの場を離れる為、適当な口実を口にする。
「あの、お手洗いを借りたいんですが……」
「ああ、そこを曲がって、奥へ行って右よ」
「ありがとうございます」
確か奥行って右か。てか左は縁側じゃねーか。
二つある扉の内、奥の方をガラリと開け放つ。
「…………」
「…………」
そこには今からジャージを着ようとしている下着姿の園田がいた。
まず薄い青色の下着が目に入る。
そして、先日俺を締め落とそうとした細い二の腕。腹筋がうっすら割れているが、くびれもあり、女性らしいウエスト。鍛えられてしなやかな脚。
最後にポカンとした表情から、羞恥と怒りで次第に赤く染まる顔。
「ふう……いきなりですか。そうですか」
「いや、待て……話し合おう」
素早くジャージを着た園田は、ゆらりと傍にある竹刀を手に取った。
「問答無用!」
園田邸へ来て、早10分。
はやくも竹刀を持った園田に追いかけ回された。
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