「バレンタイン?」
「海未ちゃん、バレンタイン知らないの!?」
「そんなわけないでしょう!これまでに何度も交換したじゃありませんか!」
「あ、そうだった」
「それより、バレンタインがどうかしたのですか?」
「比企谷君にはあげないの?」
「……え~と……」
二月に入り一週間が経った頃、穂乃果の言葉でバレンタインというイベントを思い出す。いえ、完全に忘れていたというより、練習やライブで考える暇があまりなかったのですが……。
「ラ、ラブライブの前にそのような浮かれたイベントに熱を上げている暇など……」
「でも他の女の子が上げちゃうかも」
「っ!」
思い当たる節がありすぎて、ついペットボトルを握った手に力が入る。おっと蓋が飛んでいってしまいましたね。
「ど、どうしたの海未ちゃん……」
「恐いよぅ……」
「いえ、何でもありません♪」
私は全身全霊のスマイリウム溢れる笑顔を作り、何とか誤魔化した。
よし、まずは不安要素を取り除かなくては……。
「絵里」
「あら、どうかしたの?」
「二月十四日は亜里沙と三人で朝から夜までトレーニングをしましょう」
「何でっ!?」
「しましょう」
「だ、だから何で……」
「バレンタインデーだからです」
「まあまあ、海未ちゃん。エリチもそこまで野暮じゃないから」
「そうよ!私、野暮じゃ……ないチカ……」
「……信じましょう」
そもそも絵里が八幡を好きになった経緯がわからないのですが……それは私も似たようなものですね。
「じゃあ、あとはチョコを買いに行くだけですね」
どんな物がいいでしょうか。一度考え始めれば、選択肢がいくらでもあるように感じられます。ヘンですね、クラリと困ってしまいます。
「海未ちゃん?」
「いえ、もう休憩も終わりなので練習に集中します」
「そうだね!今日中に振りを完成させよう!」
私は頭の片隅に、大好きな彼の顔を思い浮かべながら、練習に戻った。
珍しく台所を使っているところで、小町が帰ってきた。
「あれ?お兄ちゃん、何してんの?」
「もうじきバレンタインデーだからな」
「お兄ちゃん、今年は海未さんから本命チョコ貰えるんだから、自分で豪華な手作りチョコ作って誤魔化さなくてもいいんだよ?」
「どこの東大目指す浪人生だよ……つーか、んな事した覚えがねえよ」
「海未さんに作ってんの?」
「ああ、そんなとこだ」
ラブライブに向け、日々精進している海未に負担はかけたくないので、自作チョコを手渡す。我ながら素晴らしいアイディア。あとはコングルGood!なものを作ればいいだけだ。
小町は台所を見て、少しだけ表情に不安の色を滲ませた。
「わかんないとこあったらいつでも聞いてね」
「大丈夫だよ。お前は受験勉強に集中してろ」
「ありがと♪じゃ、頑張ってね~」
「おう」
今までと違いあっさり引き下がる姿に、小町の兄離れへの寂しさと頼もしさを感じた。きっとこうして、色んな事が変わっていくのだろう。
俺は、小町の姿が見えなくなってから、試作品を口に放り込んでみた。
「…………不味い」
読んでくれた方々、ありがとうございます!