それでは今回もよろしくお願いします。
「マラソン大会、ですか?」
「ああ、なんか休む方法……すいません」
「よろしい」
少し気まずい思いをしながらファミレスを出た後は、お互いに近い予定の話をしながら、街をぶらぶらと歩いていた。冬の青空は雲もまばらで、陽の光を浴びるのがやけに気持ち良く感じた。
海未はマラソンという言葉にうんうんと頷いていた。
「日頃の鍛錬の結果がだせますね!」
「やけに嬉しそうだな……そういや、ラブライブの方はどうだ?」
「皆、士気も高まって、すごく調子がいいですよ。今度の校内ライブには是非!」
「いや……それはさすがに……」
あの一件以来、音ノ木坂学院には近寄っていないが、ほとぼりが冷めたとはとても思えない。
しかし、海未は俺の正面に立ち、至近距離で上目遣いなんて反則技を使ってきた。
「……八幡……」
今日は威力抑えめだが、これでも胸の高まりが止まない。
「……行く」
あっさり意見を翻した自分に苦笑してしまう。海未の必殺技に抗える日は来るのだろうか。いや、きっと来ないのだろう。
俺が了承すると、海未は笑顔になった。
「じゃあ、チケットは用意しておきますね♪」
「ああ、つーか俺が行って大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫ですよ。ある意味有名人ですし。理事長もイベントの時なら許してくれますよ」
「そうか……まだ有名、なのか」
「ふふっ、それにヒデコもフミコもミカも会いたがっていましたよ」
「……嫌な予感しかしないんだが」
「貴方をからかうのが楽しいみたいですよ。だから仲良くしてください……密着しないように」
「おい、恐い。恐いから……」
密着したらえらい目にあいそうだ、俺が。
恐れおののいていると、見覚えのある金髪の小柄な少女がこちらに駆け寄ってくるのが見えた。
「海未さ~ん!」
「亜里沙、こんにちは」
「こんにちは!」
この子は確か絢瀬さんの妹だったよな……。
屈託のない笑顔を見せていた彼女は、こちらを見ると、急速に顔を赤くした。
「はっ、あ、あなたは……!」
「?」
「ハラショー……」
「あ、亜里沙?どうしたのですか?」
絢瀬妹は何故か距離を詰め、俺の顔を覗き込んでくる。姉とお揃いの宝石のような碧眼が、俺の両眼を捉えた。
「やっぱりかっこいい目……」
「亜里沙?」
「はっ、ごめんなさい海未さん!失礼します!」
「……どうしたんだ?」
「いえ、八幡。貴方は意外ともてるのですね」
「……な、何の話だ?」
「何でもありません。行きましょう」
次は割と顔見知りの金髪ポニーテールと遭遇した。
「あ、比企谷君!……いえ、いけないわ!私はかしこい、かわいい、エリーチカ!そんな未練がましい真似をしていては……でも、あと少し」
「絵里?どうかしたのですか?何故やたら八幡と距離を詰めているのですか?」
「う、海未?顔恐いわよ?」
「失礼。さっき亜里沙を見ましたよ」
「そう?あ、ありがとう!それじゃ!」
「どした?」
「いえ、何でも……」
「っと!」
「きゃっ!」
曲がり角で誰かにぶつかり、相手が持っていた大量の荷物が散らばる。
よく見ると明らかに年下の小柄な女子で、その足元には黒い羽が散らばっていた……羽?
「わ、悪い……大丈夫か?」
とりあえず足元の鞄を拾う。鞄にはこれまた黒い名札が付いていた。
「えーと……津島、善子?」
つい名札を読み上げると、彼女はそれを俺の手からばっと奪い取った。
「善子じゃなくてヨハネ!」
「わ、悪い……」
「うぅ、やっぱりかっこいい……」
「は?」
「はっ……くくく、私は堕天使ヨハネ。我が名を覚えておくがいい。いつか闇の世界で相まみえようぞ」
変わったポーズと変わった台詞を残し、少女はダッシュで俺達の視界から姿を消した。
「今のは……」
「俺が聞きたいくらいだ」
「ふ~ん。そうですか」
「海未さん?」
「ちょ、ちょっと待って!」
今度はまったく知らない小柄な女子から呼び止められる。
その女子はゴスロリっぽいファッションに、猫耳を装着した特徴的な出で立ちをしていた。
「はわわわ……その目は……」
「?」
目がどうしたのだろうか。目つきの悪さがお気に召さなかったのだろうか。
少女は頭を抱え、ぶんぶんと振った。
「くっ、いけないわ!我が名は闇猫!!全てのリア充を否定せし者!!さ、さ、さよなら!!」
「…………」
何だったんだ?今の……材木座以外の中二病を立て続けに見るとは。まあ、俺も中学時代は……いや、忘れよう。
隣から邪悪なオーラを感じ、目を向けると、俺の袖を掴み、海未がプルプルと震えていた。
「うふふ……八幡、随分ともてるのですね?」
「……いや、待て。多分違う。絶対に違う」
「私というものがありながら……ちぇりおーーーーー!!!!!」
そういや、この前俺の家に来た時、全巻読んでたな……。
このあと海未の機嫌を直すのに、しばらくの時間を要した。
読んでくれた方々、ありがとうございます!