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それでは今回もよろしくお願いします。
「あなた……起きてください。あなた……」
「…………海未?」
海未が優しく体を揺すりながら起こしてくる。
しかし、冬の布団の誘惑に打ち勝つのは容易なことではない。ナチュラルがコーディネーターに勝てないのと同じだ。違うか?違うな。
そういや今、貴方って呼び方のニュアンスがいつもと違ったような……。
「そろそろ起きないと、仕事に遅れてしまいますよ?」
仕事?新年早々、何の冗談だろうか。
「いや、俺は専業主夫のはずじゃ……」
冗談には冗談で返すと、海未は心底呆れたような溜息を吐いた。
「ふぅ……社会人三年目で何を言っているのですか。早く起きないと、この子に笑われますよ?」
社会人三年目?いや、それより……
「あぶっ、あばっ、ぱ、ぱ~」
「え?」
よく見ると、海未はおんぶ紐を装着しており、背中には…………赤ちゃんがいた。しかも、こっちに向かって、小さな手を伸ばしている。
…………か、可愛い!
なんだこれ、天使か。このくりくりした目といい、無邪気な笑顔といい、可愛すぎて罪なくらいだ。喜んで無罪放免にしちゃうけど!
そして、気づいたことがもう一つ。
なんというか……海未が色々と成長している。
控え目な胸だったはずなのに、ぶっちゃけ大きくなっているし、腰回りのラインも女性らしさを増して、無駄に色気がある。
彼女は俺の視線に気づくと、そっぽを向いた。
「も、もう!朝から何を考えているのですか?」
「いや、あれだ……何でもない」
「あ、あなたがこんなにしたんですよ?」
海未は恥ずかしがっていたかと思えば、今度は妖艶な笑みを浮かべ、顔を近づけてきた。一体どうしたとか、何が起こった、なんて疑問は思考の隅っこにずらされた。
そんな濃厚な甘さ漂う空気の中、なんとか口を開く。
「どうやって?」
「こうやって、ですよ?」
海未は俺の両手を自分の胸へと……
「っ!?」
「…………夢?」
目の前には海未の顔がある、がその顔は紅潮していき、わなわなと震えだした。
理由を確かめようと、寝ぼけまなこで現状を確認すると、俺の両手はしっかりと彼女の控え目な胸を掴んでいた。
なんだ夢か。それでも少しほっとする。やはり大事な課程をすっ飛ばしてはいけない。それに、俺は巨乳好きでもない。ハチマン、ウソ、ツカナイ。なので、この控え目なサイズでも…………あ。
と、とりあえず……新年の挨拶はしないとね!
「……あけましておめでとう」
「っ~~~~きゃあーーーーっ!!!」
新年は海未の必殺・空手チョップから始まった。
「……悪かった……ごめん」
態勢はそのままで海未に謝る。ていうか顔以外動かせない。
「いえ、私も決して嫌ではないのです。ただ……私も女子の端くれとして、もう少しこう……雰囲気というか……」
そう言われると、昨晩の事を思い出す。
あの後、交代でシャワーを浴び、そして寝た。無論、別々の部屋で。
実にあっさりしていると思われるかもしれないが、お互いに気恥ずかしさから、目を合わせただけでゆでだこ状態なのだ。同じ部屋で眠るのは無理がある。
まあ、昨晩のことはさておき、確かに雰囲気づくりは大事かもしれないが……。
「そう、だよな。つーか……」
「?」
「何で俺の上で馬乗り態勢なのか、教えてくれ……」
「え?あ、それは……」
海未は一瞬だけしどろもどろになりかけたが、すぐにいつものキリッとした表情になり、ベッドから下りて、取り繕った微笑みを向けてきた。
「……さぁ、八幡。起きてください。穂乃果の家でお餅を配るそうですよ」
「お、おう……ごまかしたな」
一、富士。二、鷹。三、茄子。といった縁起のいいといわれる初夢ではないが、新年のスタートとしては悪くない出だしだと、つい頬が緩んでしまった。
……よく考えりゃ、さっきの夢って……。
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