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それでは今回もよろしくお願いします。
「…………は?」
一瞬、海未が何を言ったのか理解できなかった。
海未も俺の反応に首を傾げている。
だが、お互いにその理由に気づき、顔が真っ赤になった。
「も、もう!……馬鹿。動き回ったせいか、少し汗をかきましたので……」
「……いや、その……悪い」
「…………」
「…………」
お互いに視線をあちこちに彷徨わせ、気まずい空気をかき混ぜ、何とかごまかそうとする。
やがて海未は耐えきれなくなったのか、こちらに背を向けた。
「で、では、シャワーお借りしますね!」
「……どうぞ」
海未がリビングのドアを閉めたと同時に、自分の頬を軽く叩き、気持ちを落ち着ける。淡いふわふわした感情に包まれたまま、二人分のコーヒーを飲み下した。
これまでより近くなった分、これまでより気をつけなければいけない。自分で自分に言い聞かせないと、流れで最後までいってしまいそうな気がする。
コーヒーの苦みを噛みしめながら、そんな事を考えている内に異変が起きた。
「きゃっ!」
「海未っ!?」
何かが倒れたような音と海未の悲鳴に、全速力で駆け出し、ドアを開ける。
「え?」
「っ!」
海未はバスタオルを巻いただけの無防備な姿で跪いていた。
「今……悲鳴が……」
「この子が……」
海未の足元でカマクラが首を傾げたり、尻尾を振ったりしている。周りには洗濯物が散らばっている事から、多分こいつが床に降りる際に、棚の上に置いてある洗濯物かごを落としたんだろう。
そして、落ちた物を確認していると、海未の太股がぎりぎりの部分まで見えているのに気づく。
さらに、俺の顔を見た海未が、そのことに気づいた。
「あ、あまりこっちを見ないでください!」
「わ、悪い」
急いで出て行こうとすると、よりによってこんな時に例の法則が発動した。
「っ!」
「えっ?」
足元にあった靴下か何かを踏んづけて滑った俺は、そのまま倒れ、海未を押し倒してしまう。
「悪い……大丈夫……か……」
俺はあまりの光景に、息が詰まるような感覚を覚えた。
「…………」
「あっ……」
そう、全てが見えてしまっていた。
今、俺の下で肩を震わせているのは、生まれたままの姿の海未だ。彼女は顔が真っ赤に染まり、それでも中々言葉を紡げずにいる。俺は自然と全体を眺めた。
控え目な胸は、それでもしっかりと女性らしい丸みを主張していて、腰のくびれは海未らしい健康的な魅力に満ちていた。そして……
「あの、八幡……」
「…………」
理性をあっさりねじ伏せ、剥き出しになろうとする本能のまま、海未の肩に手を触れる。滑らかな肌が掌に吸いつき、いつもあんなに鍛えているのが嘘みたいな柔らかさだ。
カマクラが洗面所を去っていく足音が遠のいていく中、二人でしばらく見つめ合う。
彼女の感情の波が手に取るようにわかる気がしたが、これ以上は動けない。
足音が完全に聞こえなくなってから、彼女はまた口を開いた。
「八幡……八幡……」
「…………」
うわごとのように名前を呼ばれるのに、俺は何も返せなかった。ただ見つめ合うだけだった。
それでも、彼女は俺の頬を白い掌で優しく包み込んだ。
「八幡、全て貴方の望み通りに……そのかわり……」
海未は儚げに潤んだ瞳のまま、唇に微笑みを添えて告げた。
「ずっと……大事にしてくださいね」
「…………」
海未の言葉を、脳をとろけさせるような甘い囁きを聞いた俺は……
「…………ふぅ」
震える手つきで海未に大きなバスタオルをかけ、親指で彼女の目元を拭った。彼女は上半身だけ起こし、ポカンとした表情を見せている。
「……八幡?」
「……約束する。一生、大事にする。だから、今日はやめとく」
「そう、ですか……ん」
「…………」
海未に数秒間だけキスをした後、俺はすぐに洗面所を出て、ドアを閉めた。廊下は甘ったるい空間ときっぱり隔てられていた。
「……さらに好きになってしまったじゃありませんか……意気地なし」
そんな彼女の独り言を背に、俺はリビングへと駆け足で戻った。
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